レビュー
フィギュア「新条アカネ」レビュー
かわいらしくてセクシーだけど、“怖い” アカネの内面を表現したフィギュア
2020年12月22日 00:00
ファットカンパニーの「新条アカネ」は筆者が待ち望んだフィギュアだった。新条アカネはアニメ「SSSS.GRIDMAN(グリッドマン)」に登場するキャラクターで、物語の鍵を握る人物。筆者にとって好きな作品のキャラクターではあったけれども、「グッズを買うまではな……」というくらいだった。
しかし、このファットカンパニーのフィギュアの写真にグッと心が掴まれたのだ。こちらを見る無邪気そうな瞳と背中に回した手に握られているもの……新条アカネというキャラクターをとても良く表現している、フィギュアだからこそできるキャラクター性への“働きかけ”、“フィギュアならではの表現”だと感じ、欲しくなったのだ。
新型コロナウィルスでの生産遅延があり、予定よりずっと販売が遅れていたが、今回フィギュア「新条アカネ」のレビューをしていきたい。なお、本稿は新条アカネというキャラクター、そして「SSSS.GRIDMAN」のストーリーに踏み込む、ネタバレとなっている。ネタバレが嫌だ、という人は注意して欲しい。
完璧美少女・新条アカネの秘密とは……
新条アカネは「SSSS.GRIDMAN」において、「才色兼備才貌両全の最強女子」、「クラス全員に好かれるという奇跡みたいな女」と同級生から言われるような“完璧な美少女”である。いつも友達に囲まれていて、スタイルが良く、気さくな女の子だ。
しかしどこかがおかしい。友達に囲まれているはずの彼女は実は1人でいることが多く、優等生だったり、運動が得意な様子は見せない。特別に仲が良い友達、という描写もない。そして物語は彼女の“おかしさ”をクローズアップしていく。
彼女の自宅は家族はいなくて、生活臭は全然ない。アカネの自室はさらに異様だ。ゴミ袋を詰め込んだ部屋に、ギッシリと飾られた怪獣フィギュア、大きなモニターしか乗ってない机。彼女はこの部屋で、割れた眼鏡にヘッドホンをつけ、愛用のカッターナイフで“怪獣フィギュア”を作るのだ。極めつけはモニターに映る、炎を背にした真っ黒な姿の怪人物「アレクシス・ケリヴ」……。
彼女には大きな秘密があり、目的がある。主人公・響裕太とグリッドマン、そして2人の友人・内海将と宝多六花は彼女の秘密に迫っていくこととなる……。
吸い込まれそうな赤い瞳と、明るい笑顔。後ろ手に握られたカッターナイフ
フィギュアを見ていこう。こちらの顔をのぞき込むようなポーズ、無邪気そうな笑顔、複雑な虹彩パターンを持つ赤い瞳、薄紫の髪……新条アカネのかわいらしさを表現しながら、少し不思議な感じもきちんと表現している。
また、セクシーな感じもこのフィギュアに欠かせない魅力だ。羽織ったパーカーからわざと肩を出していることで胸が強調されている。シャツの下のボリューム感が伝わるポーズで、丸い胸の形が強調されている。
そして短いスカートから伸びる足。アカネは小柄だが、プロポーションはかなり良い。ストッキングに包まれた足はグラデーション塗装がなされ目を惹く。ちょっと内股っぽくなっているところも女の子らしさが感じられる。
しかし、“かわいらしいだけじゃない”というのがこのフィギュアの面白さだ。後ろ手に握られているのは“カッターナイフ”である。図画工作や、引っ越しの時などに使われる一般的なカッターナイフだが、女の子であるアカネが持っているというのが不穏な感じがする。しかも正面から見えないように隠し持っているようにも見える。
「SSSS.GRIDMAN」を見た人にはこのカッターナイフはアカネというキャラクターを象徴するアイテムであることを知っているだろう。アカネはこのカッターナイフで怪獣フィギュアを製作する。細かい造形をするのはペン型の「デザインナイフ」であり、アカネ自身もそのナイフを持っているが、メインでこの大型のカッターナイフを使うのは彼女自身のこだわりと、好みなのだろう。
アカネの暗い部分を表現する眼鏡の姿
フィギュア「新条アカネ」は彼女の2面性をより濃く表現するため、頭部と手首を交換できる。頭部はヘッドフォンと眼鏡をつけたパーツ、そして手首はカッターナイフを持った手から、怪獣デバダダンの“フィギュア”が握られている。
デバダダンが灰色一色なのは、針金などの骨組みにパテを盛り、そこから形を削り出していくという“フルスクラッチ”の手法でアカネが1から製作しているからだ。デバダダンのフィギュアは販売されているものではなく、彼女が作ったもの。アカネはかなりの製作技術を持っているのがわかる。
そしてやはり眼鏡をつけたアカネの“怖さ”がいい。眼鏡は劇中を忠実に再現しており、右側のレンズにひびが入っており、フレームも少しへしゃげて、ずり落ちている。薄いオレンジのレンズ越しに見える瞳はレンズの効果で大きく見えており、顔のバランスが変わり彼女の表情に不気味さを加えている。アカネの内面が持つ“怖さ”がより強調された姿となっている。
フィギュアが表現した2面性、そして劇中の新条アカネというキャラクターを考えたうえで、改めてフィギュアの眼鏡をつけていないアカネの表情を見ると、かわいらしさの中に、やはりちょっと無機質な怖さも感じ取れないだろうか?
フィギュアはやはり“お人形”であり、見方を変えると人形だからこその不気味さがある。もちろん本商品も含め昨今の優れたフィギュアはキャラクターの内面や“生気”までもをきちんと表現しており、だからこそ高い評価を得ているのだが、このフィギュア「新条アカネ」に関しては、わざと人形っぽさ、虚ろな感じを味付けとして加えているような気がするのだ。
それは多分、アカネが皆に見せたい「魅力的な新条アカネ」という虚像を表現しているからではないだろうか。誰からも好かれるクラスの人気者、かわいらしさと、セクシーさを持っている“完璧美少女”、しかし彼女自身が持つ“本質”が透けて見えてしまう。そういう劇中の新条アカネ自身が持っているテーマをこのフィギュアはうまく表現していると、筆者は感じたのだ。
「SSSS.GRIDMAN」は大きな人気を博し、新条アカネと宝多六花の2人のヒロインはたくさんのフィギュアも販売された。どれも魅力的ではあるが、筆者の食指は動かなかった。かわいらしく、劇中の雰囲気を再現しているが、本商品のような“虚ろな怖さ”を持つフィギュアはなかったと思う。開発者による様々な解釈がある中、ファットカンパニーのこのフィギュアに強く惹かれたのである
新条アカネというキャラクターのフィギュアだから気に入った、ということも大いにあるが、フィギュアで彼女の怖さ、そして自分が伝えようとするイメージと、内面のギャップという、彼女自身が抱えている葛藤を、このフィギュアはとてもうまく表現していると感じた。フィギュア開発者の想いに、大いに惹かれたのである。
昨今、様々なフィギュアがあり、様々な表現やテーマを込めた商品が販売されている。筆者にとってこのフィギュアは心を強く掴まれた。とてもユニークな表現に踏み込んだフィギュアだったと思う。
(C)円谷プロ (C)2018 TRIGGER・雨宮哲/「GRIDMAN」製作委員会