レビュー

エンスカイ、「ペーパーシアター-ウッドスタイル/-BONSAI - 松」レビュー

日本画の技法と重層的な表現が生み出す、独特の世界観

【ペーパーシアター-ウッドスタイル/-BONSAI - 松】
発売元:エンスカイ
ジャンル:ペーパークラフト
発売日:2025年4月22日
価格:3,740円
サイズ:H100 X W152 X D42mm

 エンスカイのペーパークラフトシリーズ「ペーパーシアター」はレーザーで精密にカットした紙や木のパーツを組み合わせ、キャラクターの名シーンやイラストなどを立体的に表現するクラフトキットで、現在は300種類以上も展開している。ポップなイラストから、重厚さを感じさせる風景まで表現の幅も非常に広い。

 今回、パーツを組み合わせ立体的な表現を行う「ペーパーシアター」の魅力を紹介するため、「ペーパーシアター-ウッドスタイル/-BONSAI - 松(以下、BONSAI - 松)」を組み立ててみた。ペーパーシアターのシリーズの中でも“和”の雰囲気を前面に押し出した商品で、金色のパーツを効果的に使い、日本画風の表現を取り入れた魅力的なアイテムだ。

 エンスカイによれば、現在、「ペーパーシアター」は特にインバウンドでの外国人客に人気が高く、彼らが多く訪れたMEGAドン・キホーテ渋谷本店では、5月の「キャラクターグッズ人気ランキング」部門で売り上げ1位になったという。「ペーパーシアター」は海外への出荷も加速しており、2022年に比べ2年間で、3倍以上の出荷となっている。

 また、ヨドバシカメラの「ペーパークラフト ランキング」にも複数の商品がランクインしているなど、国内の人気も高い。「ペーパーシアター」の魅力はどのようなものか、組み立てて紹介していきたい。

ヨドバシカメラのペーパークラフト部門のランキング

レーザーカットされた部品を組み合わせて作る立体オブジェクト

 エンスカイの「ペーパーシアター」はレーザー加工で精密にカットされたパーツを台紙から切り離し、貼り付けていって作成する。「BONSAI - 松」の場合、19の台紙にパーツが振り分けられている。これらを組み合わせ、立体感のある"絵"を作っていくこととなる。

木製パーツ。外枠などに使用される
茶色は松のレイヤーの土台となる
黒は格子部分などに使用
松葉は2色となっている

 台紙は茶色、黒、灰色、2色の緑色、金色で構成されており、木のパーツをフレームに立体的に組み合わせていくことで平面では表現できない重層的な表現を可能にする。パーツ状態でも非常に繊細なカットがなされていて、数カ所だけ台紙との接続部分が残されている。この接続部分を切り離して組み立てていくのだが、台紙から切り離すため、細かい作業が可能な「デザインナイフ」を使うことをオススメしたい。

精密ピンセットと接着剤のセットとなった「ペーパーシアター 専用キット」

 さらに「ペーパーシアター」には専用の精密ピンセットと接着剤がセットになった「ペーパーシアター 専用キット」が用意されている。接着剤はノズルが細く少量を出すことができ、ピンセットは細かい部品をしっかりつかむ。「ペーパーシアター」を組み立てるのに非常に有用なアイテムだ。次章から組み立てていこう。

4つのレイヤー、シルエットや色合いを効果的に使って生み出す構図

 「BONSAI - 松」は大きく分けて4つのレイヤーに分かれており、それぞれを組み立て、重ね合わせることで完成する。最初のレイヤーは黒い格子と金の下地がある最前列のレイヤー。ここでは木の板の上に金の台紙を貼り、その上に黒のパーツを重ねていく。

 黒のパーツの穴や縁から金色が漏れるような設計で、効果的に金色が輝くようになっている。左右には格子があり、金色の灯籠も配置され、シックな雰囲気に組み上がる。接着剤はノズルから出した後、ノズルの先で伸ばすように広げていく。

第1レイヤーは木の枠に金の下地を重ねていく
接着剤を伸ばしていく。「ペーパーシアター 専用キット」は細かく接着剤を出すことができる
金色に黒を重ねる。このコントラストがとても美しい
灯籠部分を配置し、格子を重ねていく
灯籠部分に金色を重ねて、第1レイヤーの完成

 2つめのレイヤーは最も複雑な松の部分だ。茶色のパーツをベースに、盆栽鉢や、木の根、松の葉などのパーツをくっつけていく。4つのレイヤーのうち最もパーツが多く、組み立てで手間がかかる箇所だ。葉の部分は濃い緑と明るい緑の2色があり、茶色の部分でも幹や枝を重ねて厚みを出していく。

 この松のパーツは裏表を間違えやすいし、取り付ける場所もガイドが少なく、最初は戸惑うことがあった。接着剤をつけずに重ねて、場所をある程度決めてから接着するなど慎重に組み立てていったのだが、作業を続けるうちに、少し取り付け場所がずれても、構図そのものは崩れないのがわかった。また接着剤ははみ出るくらいの量を使っても、乾くと透明になる。最初に考えたほど繊細で慎重な作業ではなく、結構アバウトに組み立てられると感じた。

第2レイヤーは松の組み立て。松をかたどった大枠に松葉や木の模様を重ねていく
細かいパーツはパーツ側に接着剤をつけた方がくっつけやすい
松葉は2色、地面部分や、植木鉢パーツなど、パーツを貼り付けることで表現が緻密になっていく
取り付け部分のアップ。接着剤は乾くと透明になるので、はみ出しても気にならない
重なり合わせることで独特の雰囲気が生まれていく

 2枚目のレイヤーだけ、裏側にも葉を取り付ける。こうすることで松の雰囲気がより立体的になるのだ。細かい部品の場合、ピンセットでパーツを持ち、接着剤をくっつけてから重ねる、という方法が作業としてやりやすかった。

 「BONSAI - 松」では、松をかたどったレイヤーは2枚用意されている。3枚目のレイヤーは2枚目よりずっと簡単だが、こちらにも松の葉をつけていく。2枚目のレイヤーより一回り大きく松の葉が配置され、幹にも厚みが出るなど、重ねることで立体感がさらに強められる。こういった表現の面白さは、シリーズの積み重ねによる演出方法の蓄積を感じた。

3枚目のレイヤーは奥の松葉を貼り付けるだけだが、これを重ねることで独特の奥行きが生まれるのだ

 4枚目は盆栽の背景となる部分。大きな満月に雲がかかった構図になっており、幻想的な雰囲気だ。これで4つのレイヤーが完成する。

 この4つのレイヤーを木枠で固定していく。1枚目と4枚目のレイヤーは木の板で補強されており、ここに松を描いた2つのレイヤーを挟み込むように配置し、木の外枠で固定していく。さらに1枚目と2枚目のレイヤーの間に、“扉”を挟み込む。この扉はふすまのようにスライドする構造になっている。枠を固定して、完成である。

4枚目のレイヤーは雲がかかった月となる
4つのレイヤーの完成
4つのレイヤーを木枠でまとめていく
完成。ディテールは次章で掘り下げていく

格子のギミック、細かいところを見ることでさらに膨らむ魅力

 完成した「BONSAI - 松」を見ていこう。大きく左右に広がった枝が生むシルエット、幹や松葉の繊細かつ大胆な描写、黒い背景に金色の対比、落ち着いた雰囲気の中に、独特の迫力がある、インパクトのある構図となっている。

 目を近づけてみるとレイヤー構成が非常に効果的で、重層的で厚みのある松の表現、バックの金色に輝く月と、「ペーパーシアター」ならではの表現に感心させられる。ここから重なった松葉や、2つのレイヤーで表現されているからこその松の実在感に感心させられる。

格子がスライドするギミック。開け閉めで雰囲気が変わる

 格子を閉めるというギミックも楽しい。日本の建物風のスライド形式で格子が開いていく感じ、その奥から現れる松と月、という表現がいいのだ。ピンポイントの演出として外枠の黒の部分に金色が散っているところにも注目したい。膠を下地に塗ってから、金粉を散らして定着させる「砂子」と呼ばれる技法を思わせる表現を、「BONSAI - 松」では金の下地に、黒の紙を重ね、穴を開けることで行っているのだ。

【ディテール】
パーツが重なっていることで生まれる独特の実在感。平面のイラストではできない表現だ
灯籠、松葉、細かく見ていくと面白さが深まる
散らばった金色の表現は、金粉を散らす「砂子」という技法を意識したデザインだと感じる
外側から斜めに見るのも楽しい

 エンスカイの「ペーパーシアター」は、キャラクターの表情やアニメの名場面をその技法で立体的に表現するノウハウを蓄積しているが、「BONSAI - 松」では日本画の雰囲気を取り入れつつ、「ペーパーシアター」ならではの独特の世界観を実現している。立体と平面の中間的な独自の表現を楽しめ、日本画や、日本の芸術、文化の歴史にも興味がわく商品になっていると感じた。


 エンスカイではこのほかにもポケモモンの世界を表現した「ポケットモンスター PAPER THEATER / ピチュー・ピカチュウ・ライチュウ」。アニメの世界観をうまく取り入れている「PAPER THEATER / ドラゴンボールDAIMA」など、「ペーパーシアター」で様々な商品を展開している。

 「ペーパーシアター」は一見複雑で繊細そうに見えるが、実際に作ってみると細かいパーツもしっかり切り出せ、少しずれてもそれが味に繋がったり、初心者でも気軽に楽しめる商品であることが実感できた。“重ね合わせ”だからこそできる奥行き、シンプルな描線で生まれるキャラクターの雰囲気など、イラストとはひと味違う表現が楽しい。ぜひ挑戦してほしい。

【多彩なペーパーシアターの世界】
「ポケットモンスター PAPER THEATER / ピチュー・ピカチュウ・ライチュウ」
「PAPER THEATER / ドラゴンボールDAIMA」