レビュー
接着剤「ボークス フローセメント(流し込みタイプ)」レビュー
2つの異なるプラスチック樹脂を採用したキットに対応した接着剤
2025年9月11日 00:00
- 【ボークス フローセメント (流し込みタイプ) スタンダードタイプ】
- 【ボークス フローセメント (流し込みタイプ) ウェルネスタイプ】
- メーカー：ボークス
- 2025年6月21日発売
- 価格：
- 440円(スタンダードタイプ)
- 550円(ウェルネスタイプ)
- 容量：
- 40ml
- 成分：
- 有機溶剤（100％）、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン(スタンダードタイプ)
- 有機溶剤（100％）、プロピオン酸エチル(ウェルネスタイプ)
ボークスが6月21日より発売している「ボークス フローセメント (流し込みタイプ) スタンダードタイプ」と、「ボークス フローセメント (流し込みタイプ) ウェルネスタイプ」は、プラモデルで使用されるABS樹脂とPS樹脂という2つのプラスチック樹脂を接着できるように調整された接着剤である。
ABS樹脂とは、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンという3種類の化合物による生まれるプラスチック樹脂で3つの化合物の頭文字をとって呼ばれる。耐久性に優れているのが特徴だ。アクションフィギュアなどに使用され、ポーズをつけるために曲げても簡単には折れない。
PS樹脂はポリスチレンの略称。スチロール樹脂とも呼ばれ、他のプラスチック樹脂と比べ軽く、プラモデルで多く採用される樹脂だ。金型の繊細な表現にも対応でき、細かいパーツも成形しやすい。一方で強く力を入れると折れてしまう。店舗で販売されるプラモデル用接着剤はPS向けに調整されている製品が多く、ABSを接着するにはABS用の接着剤を別途用意する必要があった。
ボークスでは永野護氏の「ファイブスター物語(F.S.S.)」に登場するゴティックメードを表現するインジェクションプラキットシリーズ「VSMS(ボークス スーパー モデリング シリーズ)」で2つの樹脂を積極的に組み合わせて使用している。また、同じくF.S.S.のモーターヘッドのインジェクションプラキット「IMS(インジェクション アセンブリー モーターヘッド シリーズ)」や、メカアクションブロックトイ「ブロッカーズ/ブロッカーズFIORE」でも組み方によっては「ボークス フローセメント」ならではの特性が求められる。
今回はVSMSシリーズ第1弾である「VSMS 1/100 ダッカス・ザ・ブラックナイト」を2種の「ボークス フローセメント」を使って組み立ててみた。インジェクションプラキット(プラモデル)メーカーであるボークスが自社の製品に合わせて調整した接着剤の使用感を紹介したい。
ABSとPS、異なる樹脂を接着するために最適化された接着剤
実際の組み立ての前にもう少し「ボークス フローセメント」の特性を紹介したい。本商品はボークスのインジェクションプラキットに使用されるABSとPSという性質の異なるプラスチック樹脂を接着させるための接着剤である。
今回取り上げる「VSMS」は、フレーム部分に強度が高く、関節での“渋み”が出せるABSを採用し、半透明で表面に美しく繊細なディテール表現を施した装甲にPSを使用している。このため「VSMS 1/100 ダッカス・ザ・ブラックナイト」ではPS用、ABS用の2種類の接着剤を使用することを推奨していた。
前回組み立てたときはPS同士の接着はPS用の接着剤、ABS同士はABS用、PSとABS用にはABS用の接着剤を使い分けていた。さらに「流し込みタイプ」と「通常タイプ」もそれぞれ用意していたので、4つの接着剤で組み立てたのだ。
PS樹脂だけのプラモデルでは動かすと手足の重さに負けポーズがしっかり決められなかったり、遊んでいるうちに関節がへたったりしてしまうことがあった。ABSは強度は確保できる一方で昨今の製品に求められる繊細で詳細なディテール、造形表現が苦手だ。
「VSMS」は2つの性質の異なる樹脂を使うことで、永野護氏のデザインするゴティックメードの魅力を引き出すことを狙っている。背骨のように見える細い腰のフレームだけで大きな上半身を支えたり、複雑な動きをする「ツインスイング関節」の設定に近い動きを実現させるためには強度の高いABSの特性が必要だった。そして、目を近づけると透けて見えるゴティックメードの半透明装甲や、繊細で美しいシルエットやディテールを再現するにはPSを使う、という設計となった。「ボークス フローセメント」はこの「VSMS」を支えるために開発された接着剤といえる製品なのだ。
今回発売されたのは「ボークス フローセメント (流し込みタイプ) スタンダードタイプ」と、「ボークス フローセメント (流し込みタイプ) ウェルネスタイプ」の2種類。スタンダードタイプは従来の有機溶剤を使用したものだ。ウェルネスタイプは接着能力はスタンダードタイプ同様でありながら、食品添加物にも使用されている「低毒性溶剤」成分を主としており、従来の有機溶剤と比べ刺激臭を低減している。
両製品とも「流し込みタイプ」という粘度の低いさらさらのタイプで、合わせたパーツの隙間に接着剤を流し込むことで使う。速乾性で付属の刷毛で合わせ目に流し込むことでピタリとくっつく。一方であらかじめ接着面に接着剤を塗りつけてから部品を貼り合わせる使い方は苦手だ。
「ボークス フローセメント」の最大の魅力は「VSMS」をはじめ、「IMS」、「ブロッカーズ/ブロッカーズFIORE」といったボークスの製品に向けて成分が調整されていることだ。この接着剤の使用を前提にプラキットの設計が行われることになっていくのではないだろうか。
何より、「VSMS」は第2弾である「VSMS 1/100 ゲートシオンマーク3 リッタージェット・破烈の人形 (ホークヘッド)」の発売が11月に控えている。この製品でもPSとABSを接着する箇所があり、「ボークス フローセメント」の使用を推奨している。今後もシリーズが充実していくことを考えれば、この接着剤の導入は考えておきたいところだ。
ダッカスを「ボークス フローセメント」で組み立てる
ここからは実際に組み立てていこう。「VSMS 1/100 ダッカス・ザ・ブラックナイト」のキットそのもののレビューは弊誌ではすでに行っている。今回は「ボークス フローセメント」の使用感にフォーカスしていきたい。
「VSMS 1/100 ダッカス・ザ・ブラックナイト」で最初に組み立てる頭部はABSの基部にPSの装甲をつけていく。このキットでは装甲はまるでガラスのような美しいつやと、目を近づけるとうっすらと向こうが透けて見える半透明、黒に近い緑で表現されており、ダッカスの独特のキャラクター性を大きく増している。
半透明装甲と、ABSの金属のような光沢を放つフレームと相まって、無塗装でも雰囲気たっぷりに組み上げることができるが、目の部分だけは塗装しておきたいところだ。目は丸く造形されているところを赤く塗ると、その後組み立てていくと装甲の奥から赤い目が覗くような見え方になる。これは簡単な手間で効果的に見せる、デザインと立体化の見事な表現と言える。
「ボークス フローセメント」は流し込み式の接着剤で、使用する場合はパーツを合わせた上で合わせ目から流し込んで接着していく。比較的大きなパーツの接着、頭部では目より上のパーツを接着する場合に、あらかじめ接着面に接着剤を塗るという通常の接着剤のような使い方をした。「VSMS 1/100 ダッカス・ザ・ブラックナイト」でも粘度の高い接着剤を使用したい箇所はあった。「ボークス フローセメント」は現在は流し込みタイプのみだが、粘度の高いタイプも発売してほしいと感じた。
「ボークス フローセメント」は「スタンダード」と、「ウェルネスタイプ」が発売されている。ウェルネスタイプは食品添加物にも使用されている「低毒性溶剤」成分を主としており、成分が異なる。匂いも異なる。匂いに関してはどちらも鼻を近づけると刺激臭がする。作業する場所の近くに他の人がいたりする環境ではウェルネスタイプを使う方が良さそうだが、その場合でも換気も気をつけたいところだ。知識のない子供などは匂いに気がついても警戒心が動かない場合があるので、注意したい。
胸部はフレームを装甲で覆っていくイメージで組み立てていく。ABSとPSを接着していく工程はVSMSでは多用される。「ボークス フローセメント」を用意することでしっかりと接着できるのが確認できる。腰部分の装甲の取り付けなども同様だ。
背骨そのままのように細いダッカスの腹部はABSパーツで形成されているが、「VSMS 1/100 ゲートシオンマーク3 リッタージェット・破烈の人形 (ホークヘッド)」はこの部分にも透明度の高い装甲が使用される。接着箇所は少ないとのことだが、「ボークス フローセメント」の特性が活かされる場所となるだろう。
足部分には「ツインスイング関節」という本キットの注目ポイントがある。ツインスイング関節は半円形状のパーツが重なるゴティックメードならではの関節構造で、関節が半円の縁に沿って滑り膝を曲げられるだけでなく、ひねることも可能で自由度の高い動きが表現できる。
設定ではこの関節は電磁エネルギーで動くうえ、瞬時に止めることができる。この関節機構によりゴティックメードは音速を超える速度で動くことができ(最速では亜光速に達するとも)、剣を振るうことができるという。ツインスイング関節によりゴティックメードは通常の人型とは異なるシルエットを持つ。この関節機構こそ、ゴティックメードを象徴するメカニズムと言えるのだ。
「VSMS 1/100 ダッカス・ザ・ブラックナイト」ではこのツインスイング関節がどう動くか、実際に組み立て、動かすことができる。半円パーツをスライドさせたり、ねじると、これまでのロボットプラモデルの関節とは全く異なった動きを確認できる。本キットの大きな魅力と言える。また、足のハイヒールもゴティックメードならではといえる。接地面積をできるだけ小さくし、高速の地上移動を実現するデザインとしての形状なのだ。
最後に組み立てるのが腕。こちらもABSのフレームにPSの装甲を接着していく構造だ。腕は特にゴティックメードならではのシルエットが色濃く出る部位で、肘のツインスイング、大きな手のひら、横に広がったシルエットと、組み上げていく中で従来のロボットとは異なる独自の世界観が感じられるのがとても楽しい。
キットは足のツインスイングなど可動部を避けて接着剤を流し込むようになっていたり、接着部分を考えてパーツが設計されている。「ボークス フローセメント」が使用しやすくなっており、キットと相性がいいと感じた。また、流し込み接着剤は透明なパーツに流し込むと曇らせてしまう場合があるが、「ボークス フローセメント」はそういった曇りが見られなかった。「VSMS 1/100 ダッカス・ザ・ブラックナイト」を組み立てるのにこの接着剤は非常に向いていると実感できた。
ABSとPS、2つの素材だからこその質感が実感できるダッカス・ザ・ブラックナイト
筆者が「VSMS 1/100 ダッカス・ザ・ブラックナイト」を組み立てるのは今回が2回目。今回再び組み立ててみて、改めて本キットが組みやすく、かっこよく仕上げられることが実感できた。写真でその独特のカッコ良さを見ていこう。
繊細な造形や、他のロボットプラモデルにはない関節構造などで1回目はとても緊張して組み立てたが、今回、パーツのシンプルな構成や、しっかりと合わさる精度の高いパーツ設計が実感できた。完成写真は複雑なデザインに見えるため「なんか難しそう」というイメージを持っている人がいるかもしれないが、ぜひ挑戦してほしい。
ダッカスは“ブラックナイト”の名の通り、全身が黒いため、今回のように眼やガット・ブロウ(武器)の刀身を塗っただけ、という簡単塗装でもかなりかっこよく仕上がる。より設定に近く塗りたければ、胸部の中央や腹部、さらには腰部の装甲の裏を塗ることで設定画に近づけることができる。
これまでの接着剤を使う場合、PS用の接着剤に加え、ABS用の接着剤が必要だったが、「ボークス フローセメント」があれば1つで組み立てられる。「スタンダードタイプ」か、より刺激の少ない「ウェルネスタイプ」を選ぶかは好みの問題だ。
ちなみに、タミヤのF1マシンのダンパー部分や、一時期のBANDAI SPIRITSのガンプラの関節部、グッドスマイルカンパニーのMODEROIDの変形モデルの一部分など、PSだけでなく、ABSを使っているキットがある。ABSとPSを効果的に使用する製品はあるが「くっつきにくい」という声もあった。このためにタミヤでもABS用の接着剤を販売しておりPSとABSの接着剤にはABS用を使う、というのがモデラーの豆知識としてあった。
「ボークス フローセメント」は「PSとABSの接着」の特性を持っている。これまでのモデラーの課題を解決する製品にも思えるが、実は各メーカーで、PSやABSでも成分が異なっており、「ボークス フローセメント」が接着できるかどうかはテストが必要なのだ。ボークスは「ランナーで接着できるかを試してほしい」と事前のテストを推奨している。プラモデルの説明書には、ランナーごとにPSやABSなど成分が明示されている。パーツの枠であるランナーならば、「ボークス フローセメント」をテストするのにぴったりだ。
「ボークス フローセメント」は、ボークスのキットを作るために必携の接着剤であり、モデラーの可能性を広げてくれるツールだ。繰り返すが、「ボークス フローセメント」は「VSMS」を含めたボークスのプラモデルを組み立てるために成分を調整した接着剤であり、ダッカスや、11月に発売する「VSMS 1/100 ゲートシオンマーク3 リッタージェット・破烈の人形 (ホークヘッド)」を組み立てるためにも、ぜひ導入してほしい。
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