レビュー
「フレーム アクション マイスター プラレス3四郎 柔王丸」レビュー
柔王丸 セットアップ! 可動ギミックてんこ盛り! 道着もぴったりフィット
2020年8月6日 00:00
ジャンル:アクションフィギュア
開発・発売元:千値練
価格:7,920円(税込)
発売日:2019年8月
全高:約12cm
本商品のモチーフとなった「柔王丸」は、アニメ「プラレス3四郎」の主役ロボットだ。原作であるコミック「プラレス3四郎」は1982年より週刊少年チャンピオン誌上にて連載され、東宝によるアニメ化もされさらに大きな人気を得た。プログラム制御やパソコンによる遠隔操作で動作するロボットフレームが内部に組み込まれたプラモデル「プラレスラー」で肉弾戦のバトルを行なう「プラレス」を舞台に、主人公の素形3四郎とその相棒でもあるプラレスラー「柔王丸」での戦いを描いた作品だ。
筆者はこの設定にしびれた。柔王丸は30cmくらいの肩に乗せられるくらいのサイズのロボットで、手元のパソコンで自在に操作できる。プログラムを主人公が自分で作成する辺りも当時としては非常に斬新でユニークだった。こうしたプラレスラーの組み立てやパソコンによるプログラミングなどの過程についてのディティールもかなり細かく劇中で紹介するため、妙なリアリティがあり、物語に引き込まれた。「自分もいつか柔王丸と一緒に戦いたい」と思ったのだ。
「プラレス」という夢はまだ実現していないが、千値練から非常にカッコイイ柔王丸のフィギュア「フレーム アクション マイスター プラレス3四郎 柔王丸」が発売されている。「フレーム アクション マイスター」とは千値練のアクションに特化した素体を使ったブランドで、柔王丸が第1弾となる。アクションに特化した素体だけに、劇中の様々なアクションが再現できる非常に楽しいフィギュアだ。
本商品の発売はおよそ1年前であるが、どうしても「柔王丸のフィギュアはこんなにいいものなんだ」とあえて語りたい。加えて原作の魅力や、千値練のアニメヒーローへの取り組みも語らせて欲しい。
表情豊かな原作版と、ロボットとしての魅力のあるアニメ版柔王
本商品の魅力を語る前提として、「プラレス3四郎」の魅力をもう一段踏み込んで語っておきたい。主人公の素形3四郎は、いわゆる王道の熱血主人公であり、正義感溢れる中学2年生の少年で、プラモデルの造形やパソコンを操作する電子工学の知識も、ロボットの動作に関わる機械工学についても中学生とは思えないレベルの知識と技術を有しているため、自作のプラレスラー「柔王丸」を使ってプラレスに参加できるのである。
原作版では「柔王丸」の表情が操縦者の3四郎の表情になり、ロボットと主人公が1つになったかのような演出が行なわれるなど、当時の少年マンガらしい作画で、ロボットのカッコよさよりは、わかりやすさを重視していた印象だ。原作ファンの多くはこの表情の付いた柔王丸が好みで、過去の立体化では、原作版をモチーフにした製品も発売されている。
対するアニメーションでは、プラレスラーはあくまでもメカとして表現されているため、前述のような表情の変化などはなく、常に表情が変わらないまま、敵レスラーと戦う。こうした表現方法には賛否両論あると思うが、個人的にはこの無機質な表情のメカが無表情のまま敵を倒したり、敵の攻撃で破壊されるビジュアルが非常に好みだ。無機質だからこそ、その変化のない表情の奥にある、本来ない筈のメカの感情を想像する事ができるからだ。
近未来感溢れるデザインセンスも魅力の1つだ。特に「夢操作P.M.P.1」をバックに流れるオープニング映像では、折り畳み式のノートパソコンが現われ、メタリックなデザインのフロッピーディスクが宙を舞い、そのままパソコンにスロットイン。
そしてノートパソコンのディスプレイの中に入ると、そこには昔のパソコンのCGの代表の1つとしてよく使われていた、レイトレーシング手法による3D CGのうち、映り込みするほど磨かれた球と格子模様の板が滑らかに動いているのである。そしてこの球の上に柔王丸が膝立ちて構えているという映像がイントロで流れる。
1983年当時は、レイトレーシング手法で1枚の3D CGを描くのに数時間を要していた時代だが、この映像ではそれが滑らかにリアルタイムにアニメーションしている。つまり、現在のNVIDIAの「GeForce RTX」シリーズのリアルタイムレイトレーシング機能を実現した世界を1983年に描いているのだ。
その後もコンピュータ内で激しく他のプラレスラーとバトルを繰り広げる柔王丸のアクションを見せつつ、最後にはその柔王丸が現実世界に出現する演出でオープニングは終了する。つまりコンピュータゲームが現実の物になったような演出を1983年の段階で表現している非常に先見の明のある映像なのだ。
サビで歌われる歌詞も「光ファイバー、コミュニケーション、回路全開」など今でこそ当たり前となったが当時ではまだ一般人とは無縁と言える用語の数々は、1983年のアニメーションの歌詞とは思えないチョイスであり、
「ZEONIC TECHNICS」など、パソコンで制御する稼働フレームを組み込んだプラモデルが現実の物となっているこの時代にこそふさわしいタイトルと言える。
千値練の魅力は他社と異なるユニークなラインアップと独特のデザインセンス
筆者は以前から千値練の展開する「FIGHTINGGEAR」というタツノコヒーローを8頭身でフィギュア化したシリーズが大好きで、手元には「とんでも戦士ムテキング」と「宇宙の騎士テッカマン」のフィギュアを所有している。どちらもアニメ以上にスリムな8頭身のボディバランスと、随所にメタリックな部品を使用した高級感、ワンポイントに仕込まれたLEDが点灯する仕掛けが用意されており、それでいて1万円未満で購入可能なコストパフォーマンスの高さもあり、非常にお気に入りのアイテムだ。そのため、同社から柔王丸がリリースされると聞いた瞬間、予約を行なった。
今回紹介する「フレーム アクション マイスター プラレス3四郎 柔王丸」は本製品が1作目となる同社の新たなブランド「フレーム アクション マイスター」シリーズとして2019年8月にリリースされた。第2弾としてこれも立体化される事が少ない「サイコアーマーゴーバリアン」のリリースを2020年9月に控えている。
それではいよいよ商品の魅力に触れていきたい。シンプルなパッケージ内に収納されたブリスターには本体と、付属品となる開いた状態の手のひらの交換用パーツが確認できる。本体には握りこぶしの状態の手が装着されており、手は2種類のみというシンプルな構成だ。
ブリスター背面には柔王丸を支えるスタンドと、柔王丸に着せられる布製の道着が付属する。説明書には手の交換方法や胸部の着脱方法に加えて、道着の帯の締め方まで細かく解説されており、布製道着へのユニークなこだわりが感じられる。
柔王丸はロボットとしては比較的地味目のデザインだ。ボディ全体は丸みを帯び、筋肉質の男性を彷彿とさせる形状で、頭部には特に飾りもなく、丸いヘルメットを装着した、または坊主頭の格闘家のような出で立ちだ。本製品では、そのシンプルながらも力強さを感じさせる造形を見事に再現しており、千値練らしいスタイリッシュなモデリングが際立っている。
外装は全てプラスチックだが、頭部や肩部など白色にはテカリのあるパール調の彩色が施されているため、ちょっとメタリックな雰囲気も醸し出している。色合いは全体的に落ち着いた雰囲気で、派手なおもちゃ感はない。ただし、本体重量はかなり軽く、手に持った時の重厚感が感じられないのはちょっと気になるところだ。
本体のサイズはやや小ぶりで、劇中における柔王丸が中学校2年生の3四郎の頭とほぼ同等のサイズ感だった事を考えると、スケーリング表記はないが、劇中に登場する実物と比べると半分ほどのサイズだ。
筆者は前述の「FIGHTINGGEAR」くらいのサイズ感を想像していたので、初めて本製品を見た時にはちょっと小さめに感じたが、実際に手元で遊んでみると邪魔にならない程度のサイズ感である事がわかる。比較してみると1/12スケールの人型フィギュアより少し小さいくらいのサイズのため、手元で遊ぶフィギュアとしては申し分のないサイズ感とも言える。
コンパクトサイズに詰め込まれたギミックの数々
可動ポイントは多く、関節各部にボールジョイントを多用することで、広範囲な可動を実現している。頭部は首の付け根部分が回転し、前後左右の可動も行なえる。首は前後に可動し、不自然のない範囲で左右の振りも行なえるが、頭部と肩部の外装が当たるため、あまり広範囲の可動は行なえない。
肩部はボールジョイントによる柔軟な可動に加えて、ジョイントの受け皿の部分も可動する仕掛けで、前後にも動かせるため、力強いポージングが行ないやすい。一方で肩アーマーの作りの都合上、真横に腕を広げるようなアクションが行なえないため、そうしたポーズを取らせるには若干斜めになってしまう傾向がある。腕は上腕部が回転するので、これを利用してフォローする事で多彩な表現が行なえる。
胸部と腹部とはボールジョイントで接続されており、体のひねりやそらしが再現できるほか、胸部の外装パーツのみ着脱可能になっており、中には内蔵メカの様子が再現されている。胸部と同様に腰部も腰のひねりや前後可動が行なえる。
足回りの表現は股関節と太腿を繋ぐボールジョイントで行なう。股関節は外装があまりないため、足回りの可動はかなり柔軟だ。ユニークなギミックは臀部の外装パーツで、太腿の可動に合わせて連動して動作し、背面から股関節の内部が露出しないように保護する働きをする一方、手動でこのパーツを前面側に持っていく事もできるため、これにより可動範囲を更に拡大したり、腰回りのビジュアルに変化をつける事ができる。
膝は曲げる途中からスライド機構が備わり、中腰の状態でロックすることが可能。これにより中腰の状態でも安定した自立が行なえる作りになっている。足首周りは脛側にボールジョイントが仕込まれ、足首自体は脛の外装部品に引っかかるため、前後の可動以外はあまり動かないため、足の裏全体を接地させにくい場合などがある。
これだけ動けば、本作の躍動感のあるアニメーションの様々なシーンが再現できる。付属スタンドについては、1対の爪により柔王丸を挟み込んで固定するためのアームが付属し、自立が難しいシーンの再現も行なえる。
道着の装着は正に着せ替え人形のような感覚で着脱する。パッケージ写真では若干ダブついているような印象を受けたが、実際に着せてみるとかなり本体にフィットしており、帯をキッチリ締めるとかなり引き締まった感じになるのには驚いた。プラレス3四郎と言うと、内容を殆ど覚えていない人でも、柔道着を着たロボットというのが印象に残っている人も多く、柔王丸のトレードマークであるだけに、これがキッチリしているのは嬉しい限り。
内部メカ再現がもっとほしい! パーフェクト柔王丸に期待?
本製品は可動に関しては申し分ないし、本体のバランスもほどよく手元で遊ぶのに適したサイズ感だが、一方で「FIGHTINGGEAR」シリーズなどを見ていると、全パーツがプラスチック製である点がちょっと気になった。内部にICや可動メカなどのロボットが仕込まれている柔王丸をモデルにした事を考えると、重みのあるメタリックなパーツを外装に採用するなどすれば、高級感と重量感が増すため、もっとリアリティが増し、気持ちのいいアイテムに仕上がったように感じる。
また、胸部パーツのみ着脱可能になっており、内部のメカが表現されているが、これが胸部だけという点もちょっと気になった。原作やアニメのプラレスの試合において、柔王丸は本体が破壊された時、ラウンドの合間のインターバルで修理などを行なうシーンがよく見られたが、その際に外装を外して内部パーツが露出する演出が多かった。こうしたシーンの再現を狙うのであれば、より多くの部位の外装が外れてほしかった。このサイズ感と可動を考えれば、外装と内部メカの構成は無理があるのはわかるが、どうせやるならサイズが大きくなってでもとことんやってほしかったところだ。
ちょっと気になる事も書いたが、柔王丸のシンプルな造形とクールな表情、さりげなくそれでいて主張の強い額のJマークなど、アニメで見たあの柔王丸が手元でしかも小気味よく可動で遊べるアクションフィギュアとして発売されたことは非常にありがたい。千値練には今後もこういうユニークな路線で新しい製品を発売していってほしい。第2弾として近日リリースされる、「サイコアーマー ゴーバリアン」のフィギュアも機会があったら手に取ってみたい。
(C)1983 牛次郎・神矢みのる/秋田書店・東宝・ADK