レビュー
「デジタルガレージキット Android HB02」レビュー
アンドロイド、そして人体への独自のアプローチを堪能できる造形美
2021年11月19日 00:00
海洋堂が販売する「デジタルガレージキット Android HB02」はかなり強いインパクトを持った商品だ。デジタルガレージキットとは、少数生産のガレージキットを、3Dプリンターで出力したもので、ワンフェスオンラインで先行販売、現在12月発売分を受注販売している。
特に彩色見本としてのレンタリングCG画像は目を引きつけられる。頭部は美しい少女だが、首から下は無機質な人工素材で構成され、胴体内の複雑な構造は彼女が「人ならざる者」であることを強く印象づける。人間そっくりのロボット「アンドロイド」であることが見た瞬間にわかる、実にSFテイストあふれるフィギュアなのだ。
もちろん彩色見本のように美しく仕上げるのは高い模型技術が要求される。しかしその造形やコンセプトも非常に魅力的だ。今回は未塗装のサンプルをレビューしていきたい。その造形のおもしろさ、デザインの優れたところ、女性の体のラインという魅力的なテーマへのアプローチなど様々なポイントを見ていきたい。
アンドロイドとしての生身と機械部分、内部の構造まで考えさせられるパーツ構成
「デジタルガレージキット Android HB02(以下、「HB02」)」は、造形作家K氏の最新作となる。9月に販売された「Android HB01」に続くHB(Hollow body)シリーズの第2弾であり、「デジタル出力の強みを生かした複雑な構造且つ中が空洞の像」、「人体の美しさとメカ的な要素を合わせた造形」といったコンセプトを持っている。
「HB01」は長い髪の少女で少しうつむきがちのポーズをとっていたが、今回の「HB02」は髪をまとめ首を曲げることで、首筋や、背中のうなじにも魅力のあるフィギュアとなった。比べてみることで、首筋のパーツや、構成なども異なり、また違ったアプローチで「人体の美しさ」を表現しているのがわかる。
今回はサンプルのため実際の商品と少し異なるところがある。実際の商品は3Dプリンターで出力されたままで出荷されるので、出力時の「サポート材」が付着しており、こちらを切り離す作業が必要となる。サンプルはこのサポート材を切り離したものとなっている。
「HB02」は、頭部、前髪、後ろ髪、胸部、下半身、ベースに分割されている。これを組み立てることでアンドロイドの少女が現われる。実際の商品は分割されて送付されるが、今回は組み上がった状態で筆者の手に届いた。分割は塗装を前提としており、生身を思わせる頭部と首回り、うなじからからお尻にかけての背骨部分が1パーツとなっている。この部分はなまめかしい肌色で塗りたいところだ。
上半身と下半身は組み合わせた時内部フレームが複雑に絡み合うのが楽しい。ロボットプラモデルのようにぶつ切りで胸パーツ、腰パーツで分かれているのではなく、腹部の凸状のフレームが胸の中に入り、上半身につながった股間部分が下半身パーツの真ん中を通過する。腰から伸びた支柱が上半身パーツの背中、膵臓のあるあたりに接続される。
組み立ての時に特に感心させられたのはこの曲線が絡み合う複雑な造形だ。ボディ部分のパーツは隙間を作ることで曲線の面白さを演出しているのだが、組み合わさることでこの曲線の面白さが倍以上に膨らむ。「HB02」は完成品を眺めて楽しむのでは無く、このパーツ分割から、組み合わさって生まれる変化を楽しむ商品であることが組んでみてわかる。
組み合わせることで生まれるデザインの面白さは塗装することでさらに膨らむだろう。内側を暗い色に塗るのも良いし、あえて単色にしても良いかもしれない、無機質な白につるりとした光沢を加えたり、金や銀などで金属の質感を与えてもいい。無塗装のモデルを前にしていると、想像が楽しい。
組み上げたフィギュアの全長は台座も含めて280mm。1/6フィギュア並みの存在感のある大きさだ。すらりと立った姿はトロフィーのようにも見え、この優れたデザインは、無彩色白一色の姿でも部屋に飾って置けば目を惹く。次章ではディテールに迫っていこう。
人体や機械をどう表現するか? 女体の美しいラインをSF感あふれる空洞とフレームで描く
いよいよ「HB02」のディテールに迫っていこう。やはり最初は頭部だ。髪の毛をまとめた、ちょっと幼い感じもする女性だ。切れ長の目をした東洋系の顔立ちだ。この女の子の顔は特に横顔が美しく感じる。前髪や後ろ髪から垂らされた髪の毛が首筋にかかり、耳から首にかけたラインと、顎の線を印象づけている。
そしてうなじだ。「HB02」は横を向いているため、前の首筋と後ろのうなじはとても目を惹く。さらに「HB02」は背中までなめらかな生身っぽいデザインになっているため、背中が開いたドレスを着た女性のように、首筋からお尻までなめらかなラインを描いている。このむき出しの背中を思わせるデザインはとてもセクシーだ。
上半身は肋骨のように人体の外観を感じさせるデザインになっていながらも、乳房や、脇の下やおなかなどで女性らしい柔らかい曲線を描いているところが特徴。フレームや内部パーツといった境目は無く、複雑に絡み合っているのが面白い。アンドロイドとはいっても、胸の内部にメカや可動用の骨格、筋肉といった"人造人間"としての考察による機構はなく、あくまで構造材が組み合わさることでメカニカルな雰囲気を出しているのが面白い。
この複雑な素材は柔らかいのだろうか、堅いのだろうか? 金属なのか、それともプラスチックのような合成樹脂なのか? 解釈の仕方で塗装の方向性は変わり全く違ったアンドロイドとなるだろう。金属色を活かした塗料で一気に全身を塗るか、可動部はゴムの様なつや消しのブラックで、体を支えるフレーム部分は白い艶やかなフレームとするというのも面白い。頭部から胸にかけての部分は生身の女の子そのままの柔らかさを感じさせる肌色で塗ることで、他のフレームと違いを際立たせるのも良いだろう。
胸からお腹にかけての複雑なデザインは、骨格と筋肉の組み合わせをアンドロイドとして効率的に、シンプルに表現したのかもしれない。もちろんモデラーが自分の設定でこの中空のボディにメカをぎっしり入れる、というのもありだ。ガレージキットはそういったモデラーのこだわりを活かせる"幅"を持たせてあるのも面白いところだろう。
首から下の部分は、彫刻作品のように、人体をいかにデフォルメし、表現するかにも挑戦しているようにも感じた。この隙間を持たせた人体の表現はとても面白い。特にお尻から太ももにかけては、本当に外側のシルエット部分しかないのに、腰からお尻、太ももの、女性らしい曲線がとても色っぽい。あえて女性の魅力を最小限の線で表現したような、非常にユニークなアプローチを行なっている。
人間の姿そのままの頭、メカニカルな胴体と来て、この必要最小限の要素での太ももの表現は全体としてのコントラストをなし、改めて「人造人間の少女」という雰囲気を際立たせていると思う。このがらんどうでシルエットだけの脚、「機能を満たしていれば要素は少ない方が良い」という技術者の主張のようなデザインは、改めてこの商品のデザインの面白さを教えてくれると感じた。
「HB02」はやはり"アンドロイド"というテーマが良い。人工の、だからこそ人間の理想を突き詰めた「人が造りし人間」。それはまだまだフィクションの存在で、だからこそ憧れを感じさせる未来のテーマである。
手塚治虫氏の「鉄腕アトム」、石ノ森正太郎氏の「人造人間キカイダー」、「ロボット刑事K」などなど「人が作る人のような人造生命体」はロマンあふれる存在である。アンドロイドを扱ったゲーム「Detroit: Become Human」がヒットしたのも、日本人はアンドロイドが好きなんだと思う。「HB02」もロマンと憧れ、そしてどこか哀しさも感じさせるアンドロイドだ。
そしてこの商品のような立像や、フィギュアは、ギリシャ神話のピグマリオンですでに語られるとおり、「自分の理想を実現する存在」である。クリエイターは自分の理想を込めて、より美しい人物の像を造る。「HB02」は製作者であるK氏の"情念"を感じさせられる商品だと思う。
繰り返すがやはりこの商品を手にしたモデラー達がどのような作品を作るかが楽しみだ。素材の解釈でイメージは大きく異なるだろうし、ここからさらに造形に手を入れて自分の理想のアンドロイドを追求する人も多いだろう。ガレージキットはそういった幅を持たせた商品であり、モデラーがこの「HB02」というキャンバスにどのような絵を描くかが楽しみだ。
今回はコンセプトと造形の面白さにフォーカスしたため無塗装のレビューとなった。無塗装でも「HB02」は強い魅力を持った商品だ。人体の解釈、アンドロイドデザインのアプローチを手の中でじっくり見つめ、味わうことで色々なイメージが生まれる。海洋堂ならではのホビーの幅を広げる挑戦であり、ユーザーがどのように受け取るかは自由だ。このユニークな挑戦は今後も応援していきたい。