特別企画

【ちょい組み】「ディーゼル機関車 DD51 貨物A更新機」

おまえたち、砂箱だったのか!! 組み立てることで知識が深まる楽しさ

 この先も発見と感動の連続だ。台車の組み立てはバネを組み込んだ。きちんとサスペンションの働きをする。上から指で押して遊んでみる。飽きない(笑)。可動部が多いから接着しない部品が多い。これも「プラモデル=接着」だと思っていた筆者には驚きだ。

 そしてなによりも長年の謎が解けた。台車の両側に付いている箱だ。実物の写真を見ると片側に8個の箱がズラリと並ぶ。望遠で圧縮した写真だとかなり迫力がある。これはなんだろうと思っていた。車輪に関係するとしても、軸受けにしては大きすぎるし、位置も数も合わない。

 組み立て説明書を見たら「砂箱」だった。登坂や雨天時などで車輪が空転しそうなときに、レール踏面に砂を撒く装置だ。なるほど、確かにパーツにはパイプのような部分があり、組み立てると車輪の前に延びていた。そうか、おまえたちは砂箱だったのか。だから中間台車には付いていないんだ。中間台車は動力がつながっていない。大きな車体を支えて、車輪当たりの重量を分散させるためにある。だから砂箱は不要というわけだ。

【砂箱だったのか!】
小さな箱を16個、なにかと思ったら台車に取り付ける「砂箱」だった
【組み立てを進める】
台車、エンジン、変速機。動力系ユニットが揃った
運転室の屋根は接着しない。外すと運転席を観察できる。取り付け時に前後を間違えないように取り付け位置が少しズレている。台枠なども矢印が刻印されて間違いを防いでいる
連結器は強固な台枠に取り付けられる。上下左右に動かせる。「走らせる鉄道模型」では走行安定のため台車に取り付けるけれど、プラモデルでは正規の位置になる

 ちなみに、DD51形という名は、1つめの「D」がディーゼルエンジン、2つめの「D」が動軸数を表す。ABCDEFの順で、Dは4番目、つまり動軸が4。しかしDD51形は6軸ある。中間台車は動軸ではないから、FではなくDとなるわけだ。

 運転室も興味深い。博物館で展示されている鉄道車両は運転室内部に立ち入れる機会が少ない。座席の配置、メーターパネル、運転室全体の広さもわかる。運転室は客車に暖房用の蒸気を供給するためのSG(スチームジェネレーター)があるタイプとないタイプがあり、作り手が選べる。SGはここにあるのか、無いと広いな、などと実感する。

 同じDD51形でも、赴任地や用途によって仕様が異なる。筆者は寒冷地用と暖地用の2種類だと思っていたけれど、このキットでは「1146号機」「1147号機」「1801号機」「1802号機」「1805号機」のデカールが付属しており、それぞれの仕様によって使う部品が異なる。筆者はパッケージ写真と同じ「1801号機」の部品を選んだ。

 外観上は左右対称、前後対称だ。DD51形はどこまでも対称に作られていると思っていた。エンジンフードの左右に張りだした細長い箱の部分について、外観は重量配分を考えて同じ形になっている。しかし、内部は違った。片側は巨大なエアータンクが2本、反対側はバッテリーを搭載する。内部はカタチではなく、重量が対称になるように、あえて異なる機器を配置している。そうか、そうか……。この機関車を設計した人はすごいな。それをプラモデルで再現したアオシマもすごい。

【冷却室を作り、これまでの部品を台車に】
エッチングパーツは冷却室の形状に合わせて丸みを作る。説明書に直径7.5cmの缶に当てて整形するよう指示される。コーヒー缶や小型ペットボトルは細い。ちょうど良いサイズがコーヒークリーム粉末の瓶だった
完成した冷却室、機関車の両端部にあたる
冷却室屋根部の取っ手は米粒より小さい。左が平面部用、右が傾斜部用
左から運転室、流体変速機、エンジン、冷却室。台枠に取り付けたところ
裏返した。台車と流体変速機は自在継手でつながっている。自在継ぎ手の上の四角い板はATS車上子。赤信号を通過したときなどに、地上からの緊急停止信号を受け取り、非常ブレーキを発動させる
【完成!】
完成。エンジンカバーは取り外し可能。組み付けに失敗して少し浮いてしまった。こちらは「公式側」と行って、設計図面のうち左方向が前になる側。蒸気機関車と違って凸型、箱形は前後方向がわかりにくい。
こちらは公式側の反対側で「非公式側」と呼ばれている。
運転士の人形は「夏服」と「冬服」が一体ずつある。こちらは「夏服」で、運転席の窓から肘を出すポーズ。運転席窓のこの部分は透明パーツの引き戸で開閉可能。運転室扉、バッテリー室の蓋も開閉できる

 他の連載記事の合間に組み続けて、約30日で完成した。頑丈なラダーフレームに運転室、液体変速機、エンジンを積む。エンジンから台車まで、動力が伝達される様子がわかる。デカールや車体番号プレートは省略。いつか塗装したら貼ろうと思う。

 雑な仕上げだけれども、組み上がった車体を眺めて、筆者なりの満足感、達成感はある。そしてなによりも、自分の心の中に「DD51形ディーゼル機関車」の実像が結ばれた。これが何よりも嬉しい。観察、動画、写真、文献だけでは身につかなかった知識が積み上がる。「なんとなくカッコいい」だった機関車の輪郭がクッキリした。

 おまえはこんな仕組みだったのか。こんなふうに動いていたのか。こんな機器も積んでいたのか。組み立てという行為を通じて、大好きな機関車と対話していた。組み立てを楽しむことは、対話することなんだ。好きな鉄道車両を「もっと知る」に「もっと好きになる」。そのためにプラモデルはある。走らない鉄道模型、いいじゃないか。

【色々なアングルで】
完成品を色々なアングルで撮ってみた。運転席の屋根やエンジンカバーが外せるので、完成後も内部も楽しむことができる