特別企画
ワンフェスディーラー「大村ジュリエットカメラ」レポート【#ワンフェス】
プロとして商品を作るのとは異なる、"作りたいもの"を仲間と共に極める楽しさ
2025年3月5日 00:00
- 【ワンダーフェスティバル2025[冬]】
- 開催日時:2月9日 10時~17時
- 開催場所:幕張メッセ 国際展示場 1~8ホール
- (千葉県千葉市美浜区中瀬2-1)
- 入場料:当日券 4,000円
- ※小学生以下無料・要、保護者同伴
2月9日、幕張メッセで開催された「ワンダーフェスティバル2025[冬]」。弊誌では様々な企業ブースの新製品を取材しただけでなく、一般ブースの出展作品も取り上げた。一般ブースに出展しているディーラーは2,200以上、「自分が作った立体物を見せたい、売りたい」というディーラー達のエネルギーには圧倒されるものがある。
今回、一般ディーラーの1つである「大村ジュリエットカメラ」のメンバーの1人、杉本大地氏に話を聞くことができた。杉本氏は普段はフィギュアメーカーに勤務する原型師で、ワンフェスにはディーラーとして参加、「自分が作りたい作品」を製作、販売している。
一般ディーラーはどんなきっかけで、どういう想いでワンフェスに参加しているだろうか? ワンフェスだからこその楽しさを聞いてみた。
自分で企画してとことん好きを極められる楽しさ
杉本氏は「大村ジュリエットカメラ」の一員としてワンフェスで“自分の好きなもの”の立体物を製作、ガレージキットとしてレジンで複製を行い、販売を行っている。ワンフェス参加は2019年夏から、フィギュアメーカーに入社する前から活動を行っているという。
杉本氏がディーラーになったきっかけは仲間に声をかけられて。そのときは造形を始めたばかりだった。杉本氏は大学在学中から「大村ジュリエットカメラ」に所属しているが、集まりは大学ではなくディーラー仲間で職業もメンバーもバラバラ。現在は10人を超えるメンバーがいるとのこと。ワンフェスに参加するディーラーとしては人数が多い方で、メンバーがそれぞれ色々な作品を製作、販売している。
会社での仕事のやりがい、楽しさはもちろんある。杉本氏は仕事ではヒーロー系のフィギュアの原型などを手がけているが、企画とのやりとりや、作品でのキャラクター設定、版元の考えているキャラクター表現との調整、ユーザーが求める方向性などを考えてチームで製作していく。
一方、ワンフェスで販売するガレージキット、手がける原型はコンセプトから1から作るので、「自分の作りたい作品」をとことんまで突き詰める楽しさがあるという。「自分の実力でどこまで勝負できるのか、どういったものが作れるか」という挑戦する想いも込めて、原型を作っていくとのこと。
今回杉本氏が手がけたのが「呉爾羅之逆襲(ごじらのぎゃくしゅう)」と「髑髏(どくろ)怪獣レッドキング」。「呉爾羅之逆襲」は映画「ゴジラの逆襲」に登場したゴジラがベースだが、“人間のようにも見える”という自分なりのイメージでのアレンジを加え、特に顔の雰囲気や、歪さのあるシルエットにこだわりを持たせている。顔の表情には人間くささを意識して造形している。
全体的なディテールの流れはしわの感じや、目を近づけると見えてくる細かい凹凸に生物らしさを感じさせる表現を込めている。移動しているときに岩などで皮膚がこすれる感じなども考えてのディテールだ。ゴジラは海底に棲む生物なので、背びれの根元などにはフジツボがついているような造形も加えている。
製作はデジタルで原型を作った後、出力したものに対し、アナログで調整を行うという形でディテールをさらに作り込んでいる。「デジタルとアナログのいいとこ取り」を考えての原型製作を行っているとのこと。モニター上では立体物としての感触をつかみきれないところもあり、実際に立体物として出力し、目の前にすることで、気がつく点も多い。また、レジンキャストで複製することで、ガレージキットとしての組みやすさ、レジンの重さ、触感なども重要だという。
ディーラーとしての楽しさはやはり「自由度」。プロの仕事は様々な要望に応えるために造形を行う。そこには満足度もあるが「自分の思うままには作れない」という葛藤もある。その葛藤を解放するように、「では自由に作るとしたら、何を作るのか?」という想いで、ワンフェスの出展品を作り込んでいると杉本氏は語った。
「髑髏怪獣レッドキング」の方で力を入れたのは「元印象を損なわず生物的解釈を取り入れる事と、キャラクター性を重視したポージング」。力強さ、凶暴さなど、レッドキングが持つ魅力を活かすポーズ、シルエットを重要視している。キャラクター性がどこに出るか? 顔、首の角度、尻尾のうねり、腕の曲げ方……。“所作”や“ディテール”を細かく考えて、造形していくのが楽しい。「キャラクター性をどこまで細部に活かせるか」、というのは杉本氏の造形の目標点だ。
これらの製作期間は原型製作で半年。そこからレジンで複製するのに半年くらいかける。杉本氏の場合、夏のワンフェスでまず原型を発表してから、次の冬のワンフェスでレジンで複製し、ガレージキットとして販売するようなスケジュールで展開している。このスケジュールでの製作でも「ついつい追加で調整してしまいなんだかんだいつも結構ギリギリ」だという。
仲間の作品が創作への刺激に
「ワンフェスは1人で出るというのは不安なこともあるし、特に初めての場合はわからないこともある。ディーラー仲間と一緒に出るというのはとてもいいと思っています」。皆で出ている大きなメリットは、「他の人がすごい作品を出してくると、負けてられないな、と思います。仲間だけでなくて、会場で出展されている様々な作品は本当に刺激になりますし、この刺激が仕事にも⼒モチベーションを与えてくれます」と杉本⽒は語った。
これからディーラーになりたい人へのアドバイスとして杉本氏は「参加のためには細かいルールがあって、これを把握するのが大事になります。ディーラーに参加するときには参加マニュアルを読んでルールを把握する事が重要」とのこと。何より「ワンフェスって何だろう」ということを知るためには、ディーラーとして出展する前に、来場者としてワンフェスを訪れることで、色々知見が得られる、楽しさを知れば自然と出たくなるという。
具体的な作品の出展の流れも聞いてみた。作品の出展の手順としては作品のコンセプト、ガレージキットの企画書を「仮申請」まずワンフェス実行委員会に提出する。ここで実行委員会を通じて版元に申請が出され、版元から許可が得られて、実際の製作に入る。そして次段階として「本申請」がある。監修し問題が無ければ版元からの当日版権の許諾を得て、会場での出展、販売が可能になる。
立体物の監修は版元によってスケジュールはまちまちだ。1カ月前に本申請が通っても、そこからレジンでの複製はスケジュール的に厳しい。監修が下りる前に複製することはできない。申請内容とスケジュールは毎回慎重に考えるポイントだという。
申請に関して「アレンジはどこまで許されるのか?」、「守らなくてはいけないルールはどこか?」など考える点は多い。例えばレッドキングでも羽が生えたりして原作とかけ離れた姿になったり、指の数が違っていれば許可は下りないかもしれない。最も重要なのは「オリジナルに対するリスペクト」。このリスペクトがあるからこそ、お客さんにも伝わり、魅力的な作品になると杉本氏は語った。
今年のワンフェスに関して杉本氏は「全体的に年々レベルが上がっている。そして日本の作家さんだけじゃなく、海外からの参加者も目立っている。以前上海で開催されたワンフェスへ行った際、中国の作家さんのレベルの高さに驚いたんです。今回も中国の方が日本のワンフェスに出展しているし、ほかにも色々な国の方も来ている。これからもどんどん面白い作品が出てくる中で、より一層“自分なりの表現を重視して作品を作る”ということを大事にしたいと思います」と語った。
自分の表現したいものを作り、世界(お客さん)に問う、というのは立体物に限らず、創作者の原動力である。ワンフェスも含め、日本では昔から発表の場が多く、それが日本のクリエイター文化を支えている。昨今はインターネットを通じて作品を発表できるが、「場」としての楽しさはイベントならではの魅力がある。特にワンフェスは非常にカオスで、楽しい空間だ。
今回、一般ブースの会場を回り、杉本氏の話を聞いて“作り手”ならではの熱い想いに触れることができた。自分自身、日々の忙しさで埋没している“創作熱”が刺激された。ワンフェスというこの楽しく熱い空間はより多くの人に訪れてほしい。