特別企画

模型製作には欠かせないプラモデル用ニッパー入門編。模型とともに進化してきたニッパーの神髄とは【春特集】

【プラモデル入門 ニッパー編】
紹介工具:
・タミヤ クラフトツールシリーズ No.35 薄刃ニッパー(ゲートカット用)
・タミヤ クラフトツールシリーズ No.123 先細薄刃ニッパー (ゲートカット用)
・グッドスマイルカンパニー MSS-41 匠TOOLS 極薄刃ニッパー
・BANDAI SPIRITS エントリーニッパー(ホワイト)
・ゴッドハンド アルティメットニッパー5.0
・ツノダ エッジニッパー115mm

 プラモデルを作るときには欠かせない「ニッパー」。ランナーからパーツを切り出すことに使うツールであり、プラモデルを趣味として始めるときも最初に入手するものと考えていいかもしれない。

 近年の模型需要の拡大により、ニッパーも模型専用のものが各社から発売されていて、量販店や大型の模型店には専用のコーナーまで用意されているほどだ。その性能や用途、価格は様々で、それぞれに長所短所がある。

筆者自前のニッパーの一部。塗装や改造をしない、素組み(パチ組み)がほとんどなので、綺麗かつ楽に作るためにニッパーだけは色々と入手してきた

 本稿では「プラモデル入門」という特集テーマのもと、これから模型を始める人に向けて、筆者が実際に使っている、あるいは使ったことがある現行商品のニッパーを、その基本的な使い方や性能などを紹介していきたい。購入の参考になれば幸いだ。

模型製作には「模型用」を選ぶのが基本。用途に応じて複数持っているとさらに便利に

 近年のプラモデルは、未塗装・無改造の素組みでも完成度の高い立体物に仕上がる商品も多く、“ランナーからパーツを切り出す”という唯一の加工を行うためのニッパーはその使い方で次第で、仕上がりがさらに美しくなる。

プラモデル作りには最低限ニッパーは必要な道具だ

 そのために自身が使うニッパーが一体どのような性質を持っているか、そしてどう使えばいいかを知ることは、道具を使う上での最低限の常識となる。つい最近も使い方を間違えてニッパーを壊してしまった旨がSNSに投稿され、それが拡散されたことで模型ファンの間で大きな議論に発展したことがあった。基本的にはメーカーの公式サイトやパッケージにその使用方法や使用上の注意が書いてあるので、入手前にはそれをしっかり読んで、自分が作るプラモデルの性質や製作スタイルなどを考慮して入手するのが望ましい。

 基本的にはパッケージに「模型用」や「プラスチック用」と書かれているものを選べば間違いないが、その次に注目すべきポイントは「両刃」か「片刃」の違いだ。模型用に限らず一般的なニッパーの多くは、先端の刃が両方についているの両刃タイプのものが多いが、近年は模型専用の片刃タイプのニッパーが増えている。これは先端の一方が刃のない「まな板刃(または「受け刃」)」になっていて、切る力が一方のみとなることで、切り終わりの部分がゲートの端にになって目立たなくなる。切り終わりがゲートの中央付近になる両刃よりも切った跡が目立たず綺麗に仕上がるというわけである。ゴッドハンドの公式サイトにその詳細が書かれているのでそちらも参照いただきたい。

商品のパッケージや商品説明を見れば用途や性質が分かる
左から両刃の「薄刃ニッパー」(タミヤ)と片刃の「アルティメットニッパー」(ゴッドハンド)

 片刃タイプのニッパーは近年のプラモデル用ニッパーのトレンドでもあり、各社から発売されるようになったことで、入手が比較的容易になった。どちらかというと両刃のものよりも高額な傾向にあるが、仕上がりにはそれなりの差があるので、個人的には片刃のものを薦めたい。

片刃の勇、アルティメットニッパー。しばらく入手困難だったが、現在は供給の安定と競合商品の登場により入手がしやすくなった

パーツを切り出すときは「二度切り」がマスト。手間はかかっても仕上がりが違う!

 ニッパーを使ってパーツをランナーから切り離すときは、「二度切り」をするのが基本だ。パーツがランナーと繋がったゲートの付け根をいきない切ってしまうと、他に繋がっているゲートに負荷がかかってパーツが白化したり、切った部分を深くえぐってしまったりすることがある。

 ゲートを2~3ミリ残した場所でパーツを切り離して、残ったゲートを改めて切ることで、パーツに余計な負荷がかからず、綺麗にゲートを切り取ることができる。二度手間となってしまうが、塗装や表面処理をせず可能な限り綺麗に仕上げるには、この手段で行うのが望ましい。

二度切りの基本。最初にゲートから2~3ミリ空けたところに刃を入れて切る
パーツを切り離したら、残ったゲートを切っていく
仕上がりは矢印のような感じ。よく切れるニッパーなら、表面処理をしなくても気にならない程度には仕上げられる

プラモデル用ニッパーを使うときの注意点。デリケートな「薄刃」タイプのニッパーはゲートの形まで考慮したい

 ここではプラモデル用ニッパーを使うときの注意点をいくつか挙げてみよう。プラモデル用と銘打たれていても、全てのニッパーが同じパーツを同じように切れるわけではない。特に繊細な扱いが必要な「薄刃」タイプのニッパーは、太めのゲートや、硬いクリアパーツを切るときは、できるだけ細い部分を切らないとニッパーが破損してしまう可能性がある。

クリアパーツは通常のパーツよりも硬いので、ゲートを切るときも注意が必要だ

 作るプラモデルのゲートの形にも注目。近年のBANDAI SPIRITSやグッドスマイルカンパニーのゲートは、パーツ側に向かって細くなる「くさび型」を採用している。ゲート跡を小さくするための設計なわけだが、ニッパーでの二度切りでは残った三角形のゲートに刃が入れづらく、無理に切ろうとするとゲートが引っ張られて白化してしまう可能性もあるので、筆者は下記のゴッドハンド公式Xのポストのように「三度切り」を実行している。またニッパーの切れ味によっては、最初に刃を入れるときにパーツ側に刃が滑ってしまうことがあるので、刃の表側をパーツと逆側に向けて切る手もある。

BANDAI SPIRITSのプラモデル特有のくさび形ゲート
刃のある表側をパーツの反対側に向けて切る手段。これなら滑らずにパーツから離れた場所を切れる

 ニッパーの刃先にサビが出ると切れ味が落ちるので、二度切りの際に刃に付いた切りくずは、指で取り除かず、ハケなどを用意して払い落とすようにするといい。その他、ニッパーを収納する際には他の工具と干渉して刃がこぼれないよう、別売りのニッパーキャップを用意するのがオススメ。

筆者は刃に付いた切りくずを落とすために、タミヤの「モデルクリーニングブラシ」や100均で買ったハケを使用している
ゴッドハンドの「ニッパー専用メンテナンス油」(1,452円)。刃への油膜と可動部への給油を行うアイテムだ(画像は公式サイトより引用)
ニッパーキャップは各社から販売中。ホック付きのものが使いやすいが、ゴッドハンドの「ニッパーキャップ ホック付き赤色」はグリップの樹脂の先端に色移りしてしまった。不具合というわけではないので特に気にはしていない

実際に使ってみた現行販売中の模型用ニッパー6選。用途によって使い分けるのに、複数持っておくと便利だ

 ここからは筆者が実際に使っている、あるいは使ったことがあるプラモデル用ニッパーを紹介していきたい。それぞれ性能や性質に合わせた使いかがあり、得手不得手もあるので、複数持っておいて使い分けるのも手だ。また自身の技術向上に合わせて新しいものを買い足して、それまで使っていたものを別の形で役立てるのもいいだろう。

タミヤ クラフトツールシリーズ No.35 薄刃ニッパー(ゲートカット用)

  • メーカー:タミヤ
  • 価格:3,960円
  • タイプ:両刃
  • サイズ(実測):約11.5cm、約58g
  • 特徴:ビギナーからベテランまで使いやすい薄刃ニッパーのロングセラー

 タミヤが時代に先駆けて発売した、プラモデル専用の薄刃ニッパー。公式サイトに情報がないため正式な発売日は不明だが、ざっと調べてみたところどうやら1994年頃より販売されている商品のようだ。筆者が購入したのも20年近く前だった気がする。切れ味もまずまずで、薄刃といっても細心の注意が必要なほどデリケートな作りではなく、実勢価格が3,000円前後なので、ビギナーが最初に手にするニッパーとしてもオススメだ。

サイズもちょうどよく、使いやすいニッパー。ツインスターのロゴも嬉しい
筆者所有のものは既に現役を退き、二度切り時の太めのゲートの1段目を切るときなどに使っている

タミヤ クラフトツールシリーズ No.123 先細薄刃ニッパー (ゲートカット用)

  • メーカー:タミヤ
  • 価格:3,960円
  • タイプ:両刃
  • サイズ(実測):約11.5cm、約74g
  • 特徴:小さなパーツや狭い場所のゲートを切るのが得意な先細スタイル

 上記の薄刃ニッパーの刃先を細く薄くしたタイプで、スケールモデルの極小パーツやランナーの隙間など狭いところにあるゲートを切るのに便利なニッパー。もちろん特定のポイントだけでなく、通常のゲートを切ることも可能だ。価格も薄刃ニッパーと同じとなるが、先細のため扱いは少しデリケートかもしれない。また重量がわずかに重いのも選択のポイントとなるだろう。

薄刃ニッパーと比べると先が細く長くなっている
狭い場所にも刃を入れられるのが大きな利点

グッドスマイルカンパニー MSS-41 匠TOOLS 極薄刃ニッパー

  • メーカー:グッドスマイルカンパニー
  • 価格:3,520円
  • タイプ:片刃
  • サイズ(実測):約12cm、約59g
  • 特徴:長時間の作業でも手に負担をかけない設計のビギナーでも扱いやすい片刃ニッパー

 商品には明示されていないが、片刃タイプのニッパー。2011年に発売され、製造は新潟三条市にあるスリーピークス技研が手がけている。同社が販売している「模型プロ 片刃プラニッパ MK-02」と同等の商品のようだ。刃先はやや広めで、他社の片刃ニッパーとは切り刃が逆に付いているのが特徴。刃を閉じたときの外側の部分がフラットで、パーツに密着させてゲートを切ることで切り残しがないように設計されている。刃を開くためのバネはプラ製で、弾力の異なる2本が付属している。片刃ニッパーの入門用としても薦められる1本だ。

片刃ニッパーなのに両刃ニッパーのように外側の面がフラットになる設計
右手でこのポジションで切る場合、切り刃が下に来るのが特徴。アルティメットニッパーとは逆だ
金属スプリングではなく交換可能なプラバネを採用。弾力が弱いほうは刃の開き具合が狭まる

BANDAI SPIRITS エントリーニッパー(ホワイト)

  • メーカー:BANDAI SPIRITS
  • 価格:803円
  • タイプ:両刃
  • サイズ(実測):約10cm、約32g
  • 特徴:子どもにも優しい、入門者向けに特化した安価の小型ニッパー

 その名の通り、入門者向けに特化したニッパー。Amazonでの販売価格が600円前後と非常に安価で小さめのサイズ(約10cm)、対象年齢8才以上という点から、子どもがプラモデルを始めるとき一緒に購入するのにピッタリのニッパーだ。パーツをカットするための最低限の切断能力(φ1mm)はあるものの、太めのランナーの切断には向かず、切った後に多少の切り跡が残ることもある。ミニ四駆や食玩のような完成後に遊ぶための模型にも向いている。

ご覧のように大人の手にはすっぽり入ってしまうほど小型だ
先端の作りは簡素で刃は厚い形状。子どもが多少乱暴に扱っても刃こぼれの心配はなく、万が一壊れても価格的に再購入しやすいのがメリット

ゴッドハンド アルティメットニッパー5.0

  • メーカー:ゴッドハンド
  • 価格:5,940円
  • タイプ:片刃
  • サイズ(実測):約11cm、約54g
  • 特徴:扱い方を間違えなければモデラーの強い味方となる「究極の切り口」をうたうニッパー

 ニッパーへの並々ならぬこだわりを持つゴッドハンドが贈る片刃ニッパー。「究極の切り口への追求」をうたい、あまり力を入れなくても刃がゲートにスッと入っていく切れ味は業界最高峰レベルで、中級者以上のモデラー間では既にスタンダードになりつつある。刃の扱いは特別デリケートで、切断能力(φ3mm、透明・半透明PSはφ1mm)以上のものやプラ以外のものを切ったり、無理な切り方(公式販売サイト参照)をしたりするのは厳禁。実は筆者も過去に不注意と事故で2度も破損してしまったことがあり、現在は3代目を使用している。その一方で、使い方さえ間違えなければビギナーにも扱えるとメーカーは提唱している。今回紹介した中では最も高額な製品だが、公式ショップのアウトレット放出や福袋などを狙うとお得な価格で入手できることもある。

切り刃は非常に薄く切れ味は鋭い。使用時は置く場所などにも注意。筆者は当時虎の子だった1本目をデスクから落として刃を曲げてしまったのだ……(涙)
刃を入れるときは最初だけ力を入れて、刃が入ったら力を抜く「豆腐切り」をメーカーは推奨している
【アルティメットニッパーの基本的な使い方】

ツノダ エッジニッパー115mm

  • メーカー:ツノダ
  • 価格:2,980円
  • タイプ:両刃
  • サイズ(実測):約11cm、約60g
  • 特徴:リード線などのカットに1本は持っておきたい金属用ニッパー

 こちらは番外編。金属線や基板に半田付けした電子部品の足をカットするための金属向けニッパー。リード線を使う模型のために、この手のニッパーは1本は持っておきたいところ。このエッジニッパーは先端が細目で角度が付いているため、平面に刃を押しつけやすく、刃が奥まったところにも届くのもポイント。筆者は3Dプリンタで出力されたガレージキットのサポート材を切り離すために購入したものだが、プラスチックもφ2mmまで対応していて、ランナーのカットにも意外に使いやすかった。

角度が付いた「45°アングル刃」により、平面の突起物をカットしやすい
金属が入ったリード線はプラ用ニッパーで切るのは危険。このニッパーはヨリ線や真鍮線もカットできる

 このように筆者が手持ちのものだけでもこのような種類があり、模型の進歩とともにニッパーも大きく進歩していることが分かる。この5月に開催される静岡ホビーショーでも新しい製品が出てくるのは間違いない。

昨年発表されたゴッドハンドの新アイテム「ライトニングニッパー」。さらに薄刃で、切断面がさらに目立たなくなった。その分取り扱いは繊細で、上級者向けだ。公式通販サイト限定で販売中

 モデラーの身の丈に合ったツールを選べば、使い方次第でプラモ作りの強い味方になってくれるので、模型店に足を運ぶなり、ネットをリサーチするなどして、“相棒”と呼べるようなツールを見つけていただければと思う。