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【静岡合同展示会】模型を作るのは楽しい。模型文化の“原初”を感じさせる「オート三輪」と“手作りの木製モデル”

11月8日~22日開催

会場:静岡ホビースクエア

入場料:300円(税込)※中学生以下無料

 11月22日までの2週間、静岡ホビースクエアにて開催中の「静岡モデラーズ合同展示会」。展示されている作品約880点はいずれも力作揃いだが、本稿では逆にプリミティブな感動を受け、模型を作る根源的な悦びを感じられた2作品を紹介したい。

思い出が込められているのがよくわかる素朴な作品「ARII 1/32 ミゼット(昭和31年)」

 まず目を引いたのは「オート三輪」。この作品だけ、他の凝った作品のなかでちょっと違うように感じた。とても“素朴”なのだ。塗装はのっぺりしているし、汚し描写もない。しかし塗り分けなどがとても丁寧だ。

 静岡モデラーズ合同展示会の各作品には作品の横にメモがあり、作者と作品のバックストーリーを汲み取ることができる。この作品は「金谷生きがいセンター夢づくり会館」で行われている「夢づくり会館 プラモ塾」から谷津雅弘さん(64歳)の「ARII 1/32 ミゼット(昭和31年)」。コメントでは「64歳での初めての作品です」とある。

添えられたカードから作者の想いが伝わってくる
シンプルだが非常に丁寧に、想いを込めて作られているのがよくわかる

 取材後調べてみたが、金谷生きがいセンター夢づくり会館はカルチャースクールで、カリキュラムの中に陶芸などと並んで「プラモ塾」がある。1/32の小さなオート三輪を、講師の補助を受けながら、説明書に沿って組み立て、想い出に沿って塗り分けたのではないだろうか。その素朴な色合いが、逆に高度経済成長期前夜の復興を地道に支えたオート三輪「ミゼット」にダブって筆者の目を惹いた。

 51歳の筆者にとっても、「ミゼット」などオート三輪は、物心ついた時には既に見かける事が無かった昭和遺産なのだが、64歳の谷津さんにとっては少年期の想い出なのだろう。直接ホンモノを見た人による、想い出の追体験が込められている模型は、技術の高低や膨大な資料を越えた説得力を持ち、純粋な造る楽しさに溢れていると感じた。

バルサ材を削りマジックインキで塗られた飛行機に模型への憧れを実感

 「押し入れモデラーズ倶楽部」の展示ではプラモデルでない、木材を削って色を塗った作例が展示されていた。日本から遙か5,000km、南半球パプアニューギニア・ニューブリテン島ラバウル在住タイキ君(13歳)によるバルサ材からのフルスクラッチ「一式陸攻」と「零戦」だ。

 ラバウルと言えば、第二次世界大戦で旧日本軍南方司令部が置かれ、「ラバウル航空隊」で名を馳せた。数多の戦記物の舞台で、「さらばラバウル」などの映画や「ラバウル小唄」などの歌、故水木しげるが生死を彷徨った激戦の地としても日本ではお馴染み。

 この作品は、そんなラバウルに眠る山本五十六連合艦隊司令長官乗機「一式陸攻」巡礼を「怪鳥の島~一式陸上攻撃機残骸写真集~」という写真集にまとめている「さやぶ~」こと坂井田洋治氏が、タイキ君から託された物だという。

展示ではバックストーリーなどパネルで紹介されていた

 模型店は無く、プラモデルも売っていないニューブリテン島ラバウルで入手可能なバルサ材を削り、マジックインキで塗られている。

 かつてプラモデルが出回る前、模型と言えば大ざっぱに切り出されたバルサ材などの木材に、図面が付いた物だった。今や日本はプラスチック製模型の大国となったが、その「プラモデル」が手に入らない現在のラバウルで、入手可能なバルサ材を削って模型にする姿は、かつての日本の少年の姿そのものでもある。確かにその見た目で言えば、ホンモノを縮尺した模型としての完成度は他の多くの作品に比べれば高いとは言えない。

 しかし本作をタイキ君は写真やイラスト、あるいは島にある「ココポ博物館」や、そこかしこに眠るホンモノの残骸をも目にして製作したものと思われ、今回のイベントでは実機の特徴をよく捉えていると会場でも高評価を得て展示されていた。

シンプルだし、道具もないため荒っぽい模型ではあるが、限られた材料と道具で作ったその作品は、石坂氏を始め来場者の胸に様々な想いを生んでいたようだ

 言わずと知れた「零戦」こと旧海軍の「零式艦上戦闘機」はココボ博物館にも展示されているが、ラバウルは世界で唯一、船上から海中(水深約2m)に沈んだ零戦を見る事ができる場所でもある。

 今回この作品を前に石坂浩二氏が出展者と話をしていたが、「バルサ材のキットは高くてとても買えなくて、かまぼこ板みたいなのを削っていた」と、少年の頃の模型製作の原点を語っていた。

 筆者自身も、近代模型製作の原点でもある、バルサ材から削り出した2機から、模型を造る原初的衝動や悦びを再確認させてもらえたと思う。今回の合同展示会にふさわしい作品の1つだと感じた。