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「ZOIDS40周年記念プロジェクト」&「T-SPARK」の作り手たちの想いとストーリーに迫るインタビューが公開

【「ZOIDS(ゾイド)」インタビュー】
12月18日 公開

 合同会社MONJU市は、タカラトミーの組み立て玩具「ZOIDS(ゾイド)」にフォーカスしたインタビューを公開した。

 「ZOIDS」は1983年に発売され、2023年に誕生40周年を迎えた。この40周年を機に往年のファンにさらなる興奮を巻き起こすとともに、若い世代のファンも獲得した。

 その成功を大きく後押ししたキーパーソンともいわれるのが、タカラトミーの内藤 豪氏と片山 周氏。そして、2人が絶大な信頼を寄せるグラフィックアーティスト、マサヤ・イチ氏。3氏がどのようにして、ZOIDSに新しい風をもたらしたのか。そして、その後に誕生したホビーレーベル「T-SPARK」をどう展開していったのか。

 インタビューでは3氏による対談形式で「ZOIDS40周年記念プロジェクト」、「T-SPARK」のお話を軸に展開されている。

今回対談を行ったメンバーのご紹介

内藤 豪(NAITOU GO)氏

株式会社タカラトミー
キャラクタービジネス本部
ホビーキャラクター事業室
コレクター事業部
マーケティング課
スペシャリスト

 ZOIDSのマーケティングを統括。加えて、T-SPARK全体のプロモーションも担当する。

片山 周(KATAYAMA SHU)氏

株式会社タカラトミー
キャラクタービジネス本部
ホビーキャラクター事業室
アクションブランド事業部
プロダクトデザイン課
スペシャリスト

 ZOIDSの企画・開発、デザインを担当。ZOIDS商品のクリエイティブをトータルで手がける。

マサヤ・イチ(MASAYA ICHI)氏

グラフィックアーティスト

 一般に「グラフィックデザイン」と呼ばれるものとは一線を画し、ビジュアル表現に特化した独自の作品を生み出すクリエイター。ZOIDS40周年を皮切りに、本格的にZOIDSのビジュアルを手がけるようになる。タカラトミーのホビーレーベル、T-SPARKのビジュアル制作も一手に担う。

不変のコンセプトを受け継ぎ、新たな未来へ導く挑戦

 「ZOIDS(ゾイド)」は、動物や恐竜、昆虫などをモチーフにした組み立て玩具。徹底的に細かく作り込まれたリアルなデザインと、ゼンマイやモーターによる歩行、武器の稼働といったギミックにより、発売以来多くのファンを魅了してきました。

 そんな、不変のブランドコンセプトをもとに築き上げられた長い歴史を持つ、伝説の玩具シリーズに2023年、新たな挑戦を仕掛けたのが「ZOIDS40周年記念プロジェクト」。

 そして、このプロジェクトの幕開けを高らかに世に知らしめたのが、突然ネット上に公開されたマサヤ・イチによるキービジュアルでした。

 従来のZOIDSの世界観を維持しながらも、今までにない姿を提示したファン耽溺のビジュアル。公開直後から、ネット上ではファンから驚嘆と賞賛の嵐が沸き起こり、新たな展開に挑む「ZOIDS40周年記念プロジェクト」を待ち望むファンの期待が瞬く間に高まっていきました。

 「ブランドの想いを、形にするという責任」

 「ZOIDS40周年記念プロジェクト」はマーケティング担当の内藤氏が、このキービジュアルをイチに依頼するところから動き出しました。

内藤氏:「ZOIDS40周年記念のプロジェクト」を立ち上げるにあたって、まずはその全体像を端的に表現した、カッコいい「キービジュアル」を作りたいと考えました。

 そこで、社内の関係者に誰かいい人はいないか聞いて回ったところ、「ZOIDS Field of Rebellion」というゲームのメインビジュアルを担当していたイチさんの名前があがりました。

スマホゲーム「ZOIDS Field of Rebellion」メインビジュアル

内藤氏:その後、商品開発を担当する片山氏が、「商品」に関するグラフィックも依頼。パッケージアートをはじめ、さまざまなビジュアルをトータルで手掛けるようになりました。

片山氏:以前から、ビジュアルをつくる際、『ジオラマ(展示物とその周辺環境・背景を立体的に表現したもの)』を作って、その中にZOIDS(商品)を置いて撮影し、あたかもその世界に実在しているかのような世界を作っていました。

 イチさんのビジュアル作りは、こうした従来のジオラマ撮影をベースにしながら、デジタル技術やご自身の新たな手法を組み合わせて、まったく新しい絵作りをしているんです。ですから、出来上がってくる作品は、従来の手法で作りだされるものをはるかに超える、説得力のあるリアルな世界です。

 そのビジュアルから伝わってくる力は圧倒的。それは、僕らZOIDSの制作チームだけでなく、社内全体から驚きとともに高い評価を受けました。

片山氏:ZOIDSを世に送り出し続けてきたブランドの思い、そして長年、熱狂的に愛情を注いできたファンの思い、そして、このプロジェクトによって、ZOIDSの新しい未来を築こうというブランドの意思を受け止め、プロジェクトはスタートしました。

すべては“理解”から始まる――見た目ではなく、意図を掘る

 内藤氏と片山氏、イチ氏が、実際にビジュアルを共創する過程はどのようなものなのでしょうか。まず、制作の依頼の際には、内藤氏からイチには、必ず一枚のイメージ画が渡されるといいます。

イチ氏:そのイメージ画からどれだけ読み取れるかがカギ。そのイメージ画が唯一の創作の手がかりです。でも、そのイメージ画をどんどん深く掘っていくと、内藤さんの「意図」が鮮明に伝わってくるんですよ。

内藤氏:僕のイメージ画から僕の「意図」を的確にくみ取ってくれるのは、イチさんがそもそも生粋のZOIDSファンだからということもありますね。

 ZOIDSをどう見せたらかっこよくなるか、そして、どうすればファンが喜ぶかということを、言葉でなく、もう体でわかっているという感じ。クリエイター視点とファン視点を併せ持っていて、そのバランスが秀逸なんです。

イチ氏:視点という話でいうと、内藤さんは、敏腕マーケターであると同時に、限りなくクリエイターに近い人。内藤さんも2つの視点を持っているからこそ、ユニークな発想が生まれてくるのだと感じますね。

絶対的な信頼感と、それを越える意外性の連続

一方、片山氏との仕事についてイチは、同じクリエイター同士という感覚だという。

片山氏:イチさんからは、絶対にかっこいいものが出てくるという信頼がありますね。それに加えて、「え!?そう来る!?」みたいな意外性も必ずあるんです。

 仕事を依頼をする際には、 自分がこういう風にしたいという理想があって、それをイチさんに伝えるんですが、イチさんはそれのはるか上、それも、ちょっと斜め上を行くものをあげてくるというのが面白いです。

 「こんな引き出しを持ってるんだ!」と、毎回、新しい引き出しを発見して驚きます。

イチ氏:まずは目の前の人を感動させるということがグラフィック制作の基本だと、僕は思っているんです。 その先に、より多くのファンや消費者がいる。だから、まず、内藤さんと片山さんを驚かせたいし、2人に面白がってもらうことを考えます。

 それがマンネリ化せず、新しいものを創り出すモチベーションを高く保つカギなんだと思います。

片山氏:マンネリ化しないどころか、毎回、必ず前作を越えるクオリティ。クオリティを上げすぎたせいで、もう写真なのか CGなのか、わからなくなっています。

イチ氏:そういえば、一連のビジュアルに登場するZOIDSは、CGで制作されたものだと思っている人も多いですね。でも、ビジュアルに登場するZOIDSはCGではなくて、実際の商品を撮影して使用しています。戦いの後のボディの汚れや傷も本物で、実際に商品を汚したり、傷をつけたりして表現しています。

イチ氏:こうした汚れや傷は、Photoshop(写真加工ソフトウエア)などのデジタル技術を使って、画像上でつけることもできますが、そこはリアルにこだわりたいんです。

 一方、撮影した実物の商品に組み合わせる背景は、Photoshopで制作しています。これは昔、実物をジオラマに置いて撮影していたという手法を、進化させた「デジタルジオラマ」とでもいう表現だと僕は思ってるんです。

 何をリアルで撮り、何をデジタル処理するのか。それを巧みに使い分けることによって唯一無二のビジュアルを作りだす。それは、ZOIDSのこれまでの文脈を理解し、リスペクトしているからこそ可能になる技法かなと思います。

 こうして、3氏を中心に展開されていった「ZOIDS40周年記念プロジェクト」は、40周年の一年間が終わっても、その熱が冷めることはなく、アイデアが次々と沸き起こる長期プロジェクトへと成長。現在も継続中です。3氏は「40周年3年目ですね…」と笑います。

マサヤ・イチ氏がデザインしたゾイド40周ロゴ(左)と、それに従来のロゴを合体させた新ブランドロゴ(右)

T-SPARKとの出会い――「この熱に、自分も関わりたい」

 「ZOIDS40周年記念プロジェクト」と併行し、3人がかかわってきたのがT-SPARK(ティースパーク)と呼ばれる、ハイターゲットレーベルの立ち上げ。15歳以上を対象にした、大人向けホビー商品を展開する新しいホビーレーベルです。

マサヤ・イチ氏がデザインしたT-SPARKロゴ

 子ども向けの「玩具」においては、安全性を考慮する観点から、その形や機能、設計においてさまざまな基準が定められてきますが、こうした「ホビー商品」においては比較的その基準が緩く、自由に設計できるため、大人はより趣向を凝らした造形やギミックを楽しむことができます。

イチ氏:僕に声をかけてもらったのは、T-SPARKが立ち上がる前でした。最初に資料を見せてもらったときに感じたのは、このブランドは、モノではなく「想い」を売ろうとしているということ。

 おもちゃメーカーとしての枠を超え、人の心を動かす「体験」をどう表現するか。その挑戦に携われることに、強く惹かれました。

 クリエイターとして、「熱」を持つブランドと出会えることはそう多くありません。T-SPARKは、僕にとっても特別な挑戦の始まりでした。

 そして、T-SPARKのプロジェクトにおいても、イチ氏はまず「目的」を徹底的に「掘る」といいます。

イチ氏:「掘る」とはつまり、プロジェクトは誰のためにあるのか、ブランドが社会に伝えたいメッセージは何か。こうしたことを、制作にとりかかる前に、ひたすら聞いて、考えて、整理すること。

 そこまでの工程は不要では? と問われることもありますが、僕自身にとって一番大事なのはこの工程です。

 それは、T-SPARKが単なるブランドではないからです。見た目だけでなく、「心の熱」や「挑戦する意志」のような、形のないものを扱っている。だからこそ、表面だけを整えるのではなく、チームが込めた意図を理解し、それを「感じ取れるクリエイティブ」に昇華する必要があるんです。

T-SPARKは2024年5月、第62回静岡ホビーショーで初披露され、現在「ZOIDS」をはじめ、「トランスフォーマー」「ダイアクロン」という3つのIP※と、さまざまなコンセプトの11シリーズで展開されています。

※IP:Intellectual Property/キャラクターなどの知的財産

信頼があるから挑戦できる――社内メンバーとの関係性

 クリエイティブの制作現場では、「発注する側」と「制作する側」という二極化した構図になることが通常です。しかし、T-SPARKはその線引きを曖昧にし、イチはマーケティングや制作のメンバーと、ひとつのチームの一員として率直な意見を交わしています。そして、その対話の積み重ねがブランドをより強く、しなやかにしていったといいます。

イチ氏:マーケティングや制作のメンバーは、僕からの提案ひとつひとつをすごく真摯に受け止めてくれます。

 そして、内藤さん、片山さんからはすごく攻めたアイデアがくるので、楽しいですね。それがなければ、僕もだんだんただの「作業」みたいになってきて、いつのまにか守りの姿勢になっていくと思うんです。 そしてテンプレート化していく。テンプレートって楽なので。

 でも、そうならずに、新しいものを生み出し続けることができているのは、やはり内藤さん、片山さんが、「攻めの姿勢」でいてくれるからだと思います。

 ときには「嘘でしょ?」「そんなのあり得ない」というリクエストがくることもあるんですよ(笑)。でも、僕はそれが楽しいです。 毎回挑戦です。そのオーダーにただ応えるだけでなく、それを「斜め上から超えるもの」を常に目指しています。ここまで一緒にやってきて、一度も衝突したことがないんですよね。これまでの取り組みの中で、強い絆があるからこそ、お互いの考えを完全に理解し合えていると感じています。

 また、こうした「攻めの姿勢」に徹することができるのは、内藤氏、片山氏がメーカーとしてジャッジし、いざというときには方向を修正する機能として働きかけてくれるからだともいいます。

イチ:すごく守られているなと感じています。そういった信頼があるからこそ、僕は安心して、攻めのビジュアルを作れるのだと思います。

デザイナーというより“伴走者”として――ブランドを育てる仕事

 現在イチ氏はT-SPARKにおいて、ZODISのみならず、T-SPARKのロゴを含めすべてのプロダクトを含めたトータルのブランディングにかかわっています。

内藤氏:イチさんは、T-SPARKの名刺を持っていますし、T-SPARKの一員として活動している人だと思っています。仕事を依頼している外部の人という感覚はないですね。

 そんな関係性を象徴し、両者のつながりをより強固にしたのが、T-SPARK設立1周年を記念して作られ手渡されたという「盾」である。

イチ氏:これはサプライズのプレゼントだったのですが、すごくうれしかったですね。T-SPARKの案件にかかわるうちに、自分の役割は「デザイナー」というより「伴走者」に近いと感じるようになりました。ビジュアルを作るだけでなく、チームの思考を整理し、方向を整え、ブランドの芯を可視化する。

 ブランドというのは、生きもののようなものです。季節や社会の変化とともに、少しずつ姿を変える。

 僕の仕事は、その変化を肯定しながらも「らしさ」の軸を見失わないよう支えること。T-SPARKが拡大していく姿をそばで見られるのはデザインにかかわる者としてこの上ない喜びです。

これからのT-SPARKへ――進化を共にするという覚悟

 斬新な企画と挑戦で、新しいZOIDSの世界を切り開き、T-SPARKという無限の可能性を秘めたブランドを展開する3氏。今後はどのような挑戦を考えているのでしょうか。

片山氏:イチさんが主宰しているグラフィックスクール(GAG:Graphic Artist Guild)で育った、イチさんの右腕みたいな方が何人か誕生しているようなので、 将来的にはその方たちも一緒にプロジェクトをやりたいなと思っています。

内藤氏:実はすでに、ある商品をテーマに、卒業生や生徒の方にT シャツのデザインを作っていただいたことがあるのですが、それがすごくクオリティが高いんです。実際に人気もあって売れています。ですから、今後は、それをさらに大きなプロジェクトに発展させることができれば面白いなと思っています。

 それから、今、ショートアニメをX(旧Twitter)で公開しているんですが、こうしたものを年 1本ぐらいはやっていきたいなと思っています。そして、その中のシーンに出てくるデザイン物などをイチさんにお願いしたら、すごく面白いんじゃないかと思っています。





内藤氏:あとは、お願いするフィールドを増やしていきたいなという思いもあります。 引き続きイベントや、ティーザービジュアルも継続してお願いしながら、さらにそれをアジアほか、海外に向けて発信していきたいです。

片山氏:イチさんは本当に多岐にわたるデザインで活躍されているので、ゼロから一緒にT-SPARKの完全オリジナルラインを立ち上げてみたいんですよね。

イチ氏:僕も同じことを考えていました。ゼロから僕が世界観を創出して、片山さんが開発して、内藤さんがマーケティングをする、というのが僕にとっても夢です。あくまで、夢であって、まだまだ力不足なんですが、いつか叶えたい。そのためにクリエイターとして、まだまだ上を目指して精進していきたいです。

僕としては、お2人と一緒に仕事ができることがとにかくうれしいんですよ。なので、T-SPARK で今まで僕がかかわってきたことは、これからもずっとやっていきたいですね。T-SPARK以外の新しいブランドの立ち上げにも一緒にチャレンジしたいです。そうなると今後、 自分1人の体では物理的に対応しきれないことも出てくるかもしれません。

ですから、片山さんのおっしゃるように、自分のスクール (GAG)の卒業生を右腕にして、今後は僕1人ではなく、チームとしてできるようになるのがベストですね。僕をワクワクさせてくれる、この2人の動きにしっかりついていけるような体制を、僕自身も作っていきたいと思います。

 これからも進化し続けていくであろうT-SPARK。新しい挑戦が生まれるたび、ビジュアルのあり方も変わっていく。しかし、その根っこにあるものはいつも同じ。「熱」と「信頼」だとイチ氏はいいます。

イチ氏:僕にとってビジュアルを作る作業は、ブランドの魂を形にする行為。そしてその魂を守り、磨き続けることこそが、T-SPARKと共に歩む僕の使命だと思っています。これから先、どんな新しい表現が求められても、僕はきっと同じ姿勢で向き合っていくと思います。

 「ブランドの思いを理解すること」から始め、「ビジュアルで信頼に応える」。

 T-SPARKの未来に、自分のビジュアル制作が少しでも力になれるのなら。それが、僕にとって最高の報酬です。