レビュー

ガンプラ「HG 1/144 シャア専用ザクII」レビュー

「素材の違いによる圧倒的な表現力の差を……教えてやる!」劇中の表現を可能とした素材とは!?

「HG 1/144 シャア専用ザクII」

開発・発売元:
BANDAI SPIRITS
発売日:
2020年7月31日
価格:
1,600円(税抜き)
ジャンル:
プラモデル
サイズ:
全高約13cm、1/144スケール

 筆者はここ最近「機動戦士ガンダム劇場版」3部作を見返すことがあったのですが、“モビルスーツアクション”という観点から作品を見ていると“なんと魅力的に動くもんだなぁ……”という感想を、もう何度も何度も作品を見ているにもかかわらず改めてそういう見方をすることがありました。

 アニメーション作品「機動戦士ガンダム」は初回放送から40周年を超えているわけですが、確かにその作画は昨今のレベルと比べると……比べることすらナンセンスなことではありますが、その迫力といいますか力強さやスピード感あふれる動きや描写は「ガンダムORIGIN」のフルCGでカッチリと描かれた映像とはやはり質感が違うなと思いました。

【シャア専用ザクII】
「赤い彗星」の異名を持つ、ジオン軍の赤いモビルスーツ

 「シャア専用ザク」はアニメーション作品「機動戦士ガンダム」劇中に登場する「ジオン公国軍」が開発した全高17.5mのロボット兵器(通称、モビルスーツ)です。“ザク”はジオン軍が初めて実戦で運用した機体であり、開戦直後の“ルウム戦役”において敵対勢力となる地球連邦軍に対して圧勝した機体でもあります。「シャア専用ザク」はその名の通り、ジオン軍パイロット“シャア・アズナブル”によって運用され、そのルウム戦役において地球連邦軍の戦艦5隻を瞬く間に撃沈したとして語られている機体です。赤く塗装されたその機体は通常の3倍とも言われる機動スピードの速さから“赤い彗星のシャア”という異名までつけられており、後に“1年戦争”と呼ばれる大戦において地球連邦軍やその所属部隊「ホワイトベース隊」を恐怖に陥れることになります。

【シャア専用ザクII】
ガルマへの復讐後、この機体はどこへ……?

 そして先日、BANDAI SPIRITSから「HG 1/144 シャア専用ザクII」が発売されたのですが、このガンプラの注目ポイントは腰アーマーを柔らかい素材で再現することによってアニメ劇中のような”脚の動きに追従して可動する装甲”を再現するパーツが付属することです。

 もちろん、これまで同様のプラ製のパーツも付属していますから改造派や塗装派の方も満足できる最新の“HGシリーズのMS-06ザク”を堪能できる商品構成となっています。今回この新しいザクのレビューをさせていただき、この軟質素材によってどのようなアクションが取れるのかなどをレポートしていきたいと思います。

これまでのHGシリーズを踏襲しながら、進化した作りやすさと可動域を追及!

 ザクほどファンに愛されている“敵メカ”はないのではないでしょうか。デザイナーの大河原邦男氏によると「1話限りのやられメカとしてデザインした」ということで左右非対称のデザインとなっているのが面白いポイントです。意に反してガンダム劇中では最初から最後まで登場して、その後のガンダム作品やサンライズ作品に多大なる影響を与えたデザインということも知られています。

【シャア専用ザクIIの特徴的なプロポーション】
何度見ても素晴らしいデザイン!

 “ガンプラ”視点から見たザクといえばやはり初期の「1/144スケール ザク」が衝撃的でした。これは覚えてらっしゃる方も多いのではないでしょうか。色は1色だし、肩を接着しすぎちゃって回らなくなったり、足首はスネと一体成型で動かない、そもそも売り切れてて買えない……などなど今となってはいい思い出です。その後はMSVシリーズや1/100スケール・1/60スケール、HG・MG・PG・RGといったブランドに展開されていって我が家にも多数のザク部隊がそろっています。

HG以前の懐かしのガンプラ「1/60 スケール シャア専用ザク」
ザク、勢揃い

 それでは商品構成を見ていきましょう。ざっとランナーを見ていくと全部で7枚と、枚数も少なく作りやすそうです。両腕・両脚など同様のパーツがあるものは同じランナーが2枚あるので同時に切り出していけば時短作業も可能となります。

【商品構成:パッケージ】
スカート部に軟質素材を使用したこのザクを映えさせるポーズといえばやっぱりキック!
【商品構成:ランナー群】
軟質素材の腰アーマーパーツは持つだけでぶらぶらです。武器類のEランナーは「HGUC 1/144 MS-06R+ザクII」とあるのでこれは他のプラモデルと共用ランナーです
【商品構成:組立説明書他】
とてもよく考えられているパーツ構成で作りやすそうです

 筆者はシャアザクの胴体部分の色……初期のプラモデルシリーズで“あずき色”と表現されているのがとても好きで、今でもパッケージや組立説明書の塗装見本を見るとワクワクしてきます。今回のシャアザクはいわゆる“シャアピン(シャア専用機のピンク色)”よりも若干濃いめの印象を受けます。「ORIGIN版」のシャアザクは“深紅”ともいうべき濃い赤色でしたので今回は初期の“シャアザク”に近い色というところでしょうか。とてもいい色だと思います。

 ランナーのタグ部分を見てみると「HG 1/144 ザク」とありましたので、量産型ザクや他バリエーションの展開が考えられているようです。ザクにはものすごい数のバリエーションがありますから、これは至極当然のことですね。やはり緑色のザクと部隊を組んで飾りたいものです。

 シールはモノアイのピンク1つのみ、ということでこれも組みやすそうです。モノアイ自体も頭部の底面から操作することで左右に動かせ、HGシリーズ“ザク”での定番のギミックではありますが、すでにロートルの筆者からするともうこれだけでテンションが上がるというものです。これまでも様々なアプローチで“モノアイを動かす”ということをメーカーが考えてくれまして、過去にはシールを移動させたりするものもありましたっけ。“ガンプラ”ですのでガンダムタイプの進化がクローズアップされがちではありますが、モノアイの表現もずっと進化しているということですね。

それではシャア中尉がお待ちなのでさっそく組み立てていきます

 基本的に、本誌での組み立てレビューでは説明書通りに組み立てていくことにしています。まずはボディからです。なにやら新機軸の構造を持っているようで可動方法・範囲にも設計のチャレンジがそこかしこに見られます。ザク系の特徴である“動力パイプ”は軟質系の素材でできており、曲げることができます。BANDAI SPIRITSおなじみ「いろプラ」のAランナーに異素材ミックスで成形されていますのでお持ちの方はパーツごとに硬さが違うのを確認してみてください。

【組み立て:ボディ】
胴体部に左右スイング機構を持っていて、首の基部もだいぶ動かせそうです

 組みながら肩の構造に驚きました。左右ともに肩部自体を大きく動かせます。それだけなら、これまでのHGシリーズの進化を見ていれば想定の範囲内ではあるのですが、肩部自体を上下方向に“回す”ことができるようになっていました。これは肩部基部をボディ本体にボールジョイントで接続することで実現しています。この方法だと若干へたりが早いんじゃないかと危惧されますが、そこはHGシリーズですし腕部の重量も軽いので気にせず楽しむことにしましょう。

【組み立て:ボディ】
肩部の上下回転機構はこれも劇中の表現をするための機構にも感じます。この回転機構はぜひMGクラスの大きさでパワーアップした機構として見てみたいです

モビルスーツのキャラクター性を表現する頭部を組み立てます

 前述したとおり、シールを使ってモノアイを再現しますが、パーツ数も少なくてとても組みやすく、パーツの接合部も目立たないように工夫された設計がされています。形状はとてもバランスよくまとまっていると思いました。初期HG版では動力パイプが細くて頭でっかちに見えていたので、今回はいいバランスに調整されたようです。

【組み立て:頭部】
モノアイを動かしてみたらカッコイイ“睨み”をきかせられます。“モノアイ”って一発でキャラクター性が一段上がる優れたデザインだと思います

腕部を組み立てます。ちょっと気づいたことがありました

 腕部はだいぶパーツ数が多いのですが、そのおかげか可動範囲や表情がとても豊かになります。いったん切り出してみて並べれば“何がどこに使われ、どのように動くか”がわかってきますので、部品をなくさないようにしながら並べてみてください。

【組み立て:腕部・パーツ群】
内部フレームにアーマーパーツを貼り付ける方式ではありませんが細かい関節が少々気を使いそうです

 このHGザクでもスライド金型で成形されているパーツがありました。前腕手首と左肩のスパイクアーマーです。両方ともスライド金型のためとても豊かな密度と形状をしています。一方、この成型方法では成型時に金型同士の隙間によってどうしても”パーティングライン”ができてしまうので気になる方はやすり掛けと塗装が必要になります。

 ここで、組み立て始めからちょっと感じていたことがなんだったのかがわかりました。組み始め最初のときからパーツが手からするする落ちていくなぁ……とは思っていたのですが、あまり気にしていませんでした。各パーツをよく見ると結構ツルツルでして“グロスインジェクション”に近い素材と製法で成形されていると思われます。画像を加工してみるとだいぶツルツルなのが分かっていただけると思います。

 このツルツル製法を筆者なりに深読みしてみます。商品企画時にこのザクの状態というのを設定してるんじゃないでしょうか。パッケージデザインはザクキックですし、商品としてはそのころのザクの状態……シャア曰く、「モビルスーツ同士の格闘戦を初めてやった」くらいの頃です。ロールアウト直後にルウム戦役を圧勝し、その後のゲリラ掃討作戦でも高みの見物だったでしょうから、シャアが望んだ美しい“赤い”ボディが傷だらけということもないと考えられます。そこから導き出されたのが、このツルツル製法だったのではないか?と想像してみましたがいかがでしょうか。勝手な想像ではありますが、パーツ段階からワクワクの深読みができるところもガンダム・ガンプラ40周年のすごいところですね。

【組み立て:腕部・スライド金型部】
オフィシャルにもパッケージにも“グロスインジェクション”とは書かれていませんが、それに近い製法のようです

 腕部全体を組み上げて可動範囲を確認していきます。ここまで触れてきませんでしたが、関節を含めたすべてのパーツはPS(ポリスチロール)となっており、ガンプラの関節といえば“ポリキャップ”というイメージでしたが先日レビューさせていただいた「HG 1/144 RX-78-2 ガンダム [BEYOND GLOBAL]」などもポリキャップは使用していませんでした。PSでも強度(というより適切な柔軟性という方が正しいでしょうか)があり、十分な摩擦係数と保持力を備えているため、ABS(耐久性のある硬めの樹脂)やKPS(強化ポリスチレン)のパーツも一切使われていません。技術って素晴らしいですね。

【組み立て:腕部・完成】
肩部の引き出し式の関節の効果も合わさって、必殺技への溜めポーズとか腕が組めるんじゃないかと思わせてくれるほどの可動性能です

脚部を組み立てます。そもそものデザイン的にはあまり可動に適しているとは思えませんがどこまでできるか確認します

 腕部とはうってかわってフレームチックな組み立て方となります。内部フレームを組んで装甲を着せていく部分もあり、内部フレームを含めた組み立ては若干細かい作業となります。ただ、装甲自体もそれほど数が多くないため説明書通り組んでいけば難しくはない印象です。脛部の装甲は前後左右で構成されていて、足首とソール部は少々トリッキーな組み方です。PSが昔ほど硬くなく、ある程度のしなりや力を許容してくれますので、無理せずゆっくり押し込んでいけばぴったりはまって気持ちがいいのはさすがBANDAI SPIRITSのガンプラだと思いました。

【組み立て:脚部・完成】
今回のHGザクでは脚部が一番部品数が多い部位となります。パーツをきれいに切り出せばカッチリはまって気持ちがいいです

 可動させてみました。各関節は適度な抵抗をもってぐぅーっと曲がっていきます。曲がりそうにないデザインではありますが、2重関節の働きによってしっかり180度近くまで曲がります。この後の組み立てとなる軟質素材のスカートの性能を確かめるために仮で立膝ポーズをとらせてみたところなんだか期待が持てるようなたたずまいに見えます。

【組み立て:脚部・完成】
だいぶ密度感が高く見えるヒザ折り曲げ状態はザクのむっちりしたデザインを際立たせてくれています。なお、足首は足の甲の装甲を外すとさらに前傾ができました

今回のメインイベント!軟質素材の腰部を組み立てていきます

 腰部はとても単純な構造になっています。特に軟質素材TPE(熱可塑性エラストマー)は合成ゴムのような特徴を持つ素材です。この素材は昔から使われていて、たとえばズゴックやゴッグ、アッガイなどの水陸両用型モビルスーツのプラモデルの関節部分のカバーや、マントなど曲げて表情をつける部分に使われることが多い素材です。実際の自動車にも、ウェザーストリップという水の侵入を防ぐパーツの部材として使われることもあります。ガンダムの世界でも、水陸両用型モビルスーツの関節の防水処理に使われていても不思議ではない素材です。

 腰部の基部は同じなので、TPEかPSのどちらで組むかを選択します。TPEでは柔軟に曲がって表現力が高まりそうで、なによりアニメ劇中の見た目に近くなると想定されますがその代わりヒートホークやマシンガンのマガジンを装着することができません。PSであれば塗装を行うことも容易ですし、前述の武装も装備することができます。このパーツ選択は悩みますね……筆者は新たな表現を感じたいのでTPEの方を選びたいと思いました。これから何機ものザクが発売されると思われますが、今後もこのアーマーの表現は試行錯誤が続くと思われます。どんなアイデアがメーカーから提示されるかとても楽しみです。

【組み立て:腰部】
TPEはぐねぐね曲がってくれます。自然なボディラインや脚部の可動へ追従してくれます。個人的には、腰アーマーの関節をTPEにして、アーマー自体はPSになるとイメージがよくなると思いました
【組み立て:武器類】
武器はザクマシンガンとザクバズーカ、ヒートホークです。この武器ランナーは他のガンプラと共用なのでお持ちの方もいらっしゃるかも?合わせてハンドパーツは6つと豊富です。右手の握りこぶしは2個になってます。

いくつかポーズをとらせてみました。これ1/144スケールですか!?

【HG 1/144 シャア専用ザクII:ポーズ集(TPE)】
TPE素材だと脚がとても上がります!シャアザクのキックもやりすぎなくらい決まりますし、スパイクアーマーアタックも喰らったら痛そうです。ええいっ連邦のモビルスーツは化け物か!
【HG 1/144 シャア専用ザクII:ポーズ集(PS)】
PS素材でもTPE素材に負けないくらい脚が上げられました。その分フロントアーマーはポロリしやすいので注意が必要です。素材でパーツのツヤが違うので気になる人は水性のつや消しクリアで整えると一段とカッコよくなりそうです

新旧HGシリーズと比較させてみました

 HGシリーズでシャア専用ザクが発売されたのは2002年でした。今回のリニューアルには実に18年ほどの時間がたっていますが、筆者宅のガンプラ棚の中に初期HG版がまだあったことにも驚きました。もちろん、ここまでの間には「MS-06R 高機動型ザク(2013年頃)」などのある意味リニューアルともいえるザク・バリエーションがあるわけですが、ここは素の「シャア専用ザク」ということで「ORIGIN」版と共に持ち出してみました。

 初期HG版は「032」、新HGは「234」というナンバーが付けられています。その差202と、この20年ほどでとてつもない数のHGシリーズのガンプラが発売されていることがわかります。その年月は、技術を格段に向上させ、特に各パーツの分割にその進歩が見られます。初期HGでは腕部や脚部は単純に左右から挟み込む、いわゆる「モナカ」でした。新HGでは、例えば脚部は内部フレームに前後左右からパーツを装着していくようになっています。パーツの接合部を目立たなくし、塗装もマスキングなどせず簡単に行える設計がされていて“作る”ことに関してユーザーの負担軽減にもつながっています。

 「ORIGIN」版は2015年発売と、もうそんなに経つの?という気分もありますが、当時作った時に可動に関して「極まってる……」と感じることがありました。それぐらい充実した内容だったのですが、そのとき構築された各部の設計技術が今回の「シャア専用ザク」にもフィードバックされているように感じます。CGベースで作られる「ORIGIN」版のハードなディテール表現をもとにオリジナルのTV版「ザク」を作りやすさと可動性能も考慮して再設計したらこうなる、ということではないでしょうか。この先どういう進化をするかワクワクしてきますね。

【新旧HGシリーズと比較】
中央が今回の「HG 1/144 シャア専用ザクII」、向かって右が初期HG版、向かって左が「THE ORIGIN」版です。新HGは初期HGよりプロポーションバランスが調整されて頭部も小さくなっているようです。ORIGIN版はまた別のアプローチでイマドキな感じですね。※ORIGIN版はスミ入れしてつや消しクリアーでコーティングされています

「HG 1/144 シャア専用ザクII」を作ってみて

 今回ガンプラの目玉は軟質素材TPEによるスカートアーマーの劇中表現の再現、ということになります。実際柔らかい素材で足の動きに追従するわけですが、少々違うな……と思うところでもあります。劇中ではスカートアーマーをふくめ装甲が“伸びて”いるからです。設定上ザクの装甲は“超鋼スチール”とされていて、その名前から“伸びる”とはとても思えないような金属となっています。プラモデルですし今回のような表現もとても面白いと思うのでぐねぐね“曲がる”という表現においてTPEは最適な素材だと思いました。

【高い可動性能と適材適所の素材】
広い可動域を持たそうとすると装甲が邪魔をする場合がありますが、今回は素材の勝利ですね

 “伸びる”ということを実現させるとすると、素材はどういうものになるでしょうか。まず、間違いなく“ゴム”系にはなると思われます。もはや“ガンプラ”ではなくなってしまう気もしますが先日“ガンダリウム合金”を再現した、20万円もするガンプラも発売されました。チタン合金を使ったそのガンプラは、とてつもない存在感とプレミアム感をもって私たちの目の前に現れました。単なるプラスチックで成形されていたガンプラが希少金属をまとうことになるなんて、ガンダム・ガンプラがまさに“文化”にまで成熟したんだなぁと単なるファンでしかない筆者も感慨深くなりました。

 今回の「HG 1/144 シャア専用ザクII」には目新しい素材は使われていませんが、ガンプラのこの40年の技術が惜しみなく投入されていて、作っていてとても楽しかったです。特に未だに手元にある初期HGのシャアザクと比べることができて、パーツの割り方や組み上げ方、広範囲な可動を実現するためのギミックや構造などその進化をまざまざと体感することができました。新しい素材でまた新たな“ガンプラ”というものも見てみたいです。楽しかった!