レビュー
「HG 1/144 RX-78-2 ガンダム [BEYOND GLOBAL]」レビュー
40年を超えるガンプラの歴史の集大成がここに結実! なめるなよ……[BEYOND GLOBAL]版がただのガンプラじゃないところを見せてやる!
2020年6月10日 00:00
開発・発売元:BANDAI SPIRITSホビー事業部
発売日:6月6日
価格:2,000円(税別)
ジャンル:プラモデル
全高:約13cm
ガンプラ40周年となる2020年、BANDAI SPIRITSホビー事業部はこの年だけでHGシリーズの「ガンダム」を3体発売している。工業デザイナーがデザインした「ガンダムG40」、「ガンダム(GUNDAM THE ORIGIN版)」、そして今回紹介する「HG 1/144 RX-78-2 ガンダム [BEYOND GLOBAL](以下、BEYOND版)」である。6月6日に発売されたばかりの本商品を早速レビューしていきたい。
2020年2月にこのBEYOND版が発表されたとき、筆者はそのスタイリングとポージングに”これがHGシリーズなの?”とくぎ付けになった。それまでのHGシリーズでは難しかった……いや無理をすればできたかもしれないポージングを難なく、破綻することなく実現していたからだ。
発表された開発用データを使用したCG画像で解説はされているものの、どのような構造で構成されているのかを実際のキットを組んで確認したくてこの4カ月ウズウズしていた。この記事を読んでいる皆さんも同じではなかっただろうか。
ガンプラ40周年を記念するこのガンプラは想像するまでもなく凄いものであることは間違いない。全ガンプラファンがその超絶可動とプロポーションに騒然となったあの機構はいかにして実現されたのか? 今回組み立てることで感じたのは従来にない関節設計による新しい可動。そしてそのアイディアは今後のガンプラにどう活かされていくか、その期待だ。たっぷりの画像とともに紹介していきたい。
一段上を行く作りやすさと超可動範囲を実現!この40年の集大成となるニュースタンダードキット!
まずこのキットがいかにすごいかという説明の前に「HG(ハイグレード)」とは何か、というところを軽く触れておきたい。ガンプラにはいくつかブランドがあり、「HG」とは全高約13cm、1/144スケールの最も標準的なグレードだ。「MG(マスターグレード)」は内部機構まで再現した1/100スケールのもので、さらにすごい1/60の「PG(パーフェクトグレード)」、1/144サイズで内部フレームを組み込むことで可動とポージングを追求した「RG(リアルグレード)」というブランドもある。
HGは最も標準的なガンプラと言える。手で持ちやすく、価格も抑えめで、遊びやすい。一方で構造は比較的簡素で、初心者向きとも言える。その"標準的なガンプラ"としてBEYOND版が登場した。これは"新しいスタンダード"を提示するという意味を持つのだ。
早速パッケージとその中を確認していこう。パッケージはとてもクールなデザインでガンダム40周年のテーマでもある「BEYOND=超えていく」を体現している。2020東京オリンピック応援のため実際に宇宙(そら)にあがっているガンダムとシャアザクのプラモデルやハリウッドでの映画化など今後の展開を見据えたかのようなデザインはガンプラ売り場でこのパッケージを見たユーザーにも直感的に届くことだろう。
ランナーパーツを袋から出して積み上げてみた。ビームサーベル以外はBEYOND版専用品となっており、各パーツ配置もうまくまとめられてランナー数も少ない。これは作りやすく、初心者にもうれしい配慮だ。両腕・両脚はほぼ同じパーツで構成されているのでほぼ同じランナーが2枚あるものが多いしフルサイズのランナーではないので同時に切り出すことで時短作業につながるだろう。
BANDAI SPIRITSおなじみ「いろプラ」のAランナーをはじめ、効率よくまとめられたランナー群。同一ランナー上に最大4つ(BEYOND版は3色)の材料を成形できる多色成型技術「いろプラ」はガンプラの歴史を語るうえで欠かせない技術だ。
「RX78-2ガンダム」を作りなれた方なら組立説明書を見なくても外装を切り出せる構成に見える。今回のBEYOND版は可動優先もあるだろうがそれほどフレーム構造を採用していない。同じHGシリーズのガンダムG40でもフレームは考慮されていなかったがHGシリーズであること、可動優先であればフレームレスでも商品として立派に成り立つ、ということだろう。
組み立てることで実感、パーツ数を抑えた組みやすい構成なのに最大限の可動範囲!
まずは上半身から組み立てる。筆者は78ガンダムを組み立てるときに肩まわりの構造を体験することが毎回の楽しみのひとつ。コア・ファイターが入る/入らない、前後上下にどれだけ動かせるのかなど注目するポイントだ。
BEYOND版はこれまでに見たことのない構造だった。胸部後部にギミックが集中する構造になっていて後部だけで両肩の3軸構造を無理なく実現していて40年の積み重ねを実感できる部位だ。
写真の肩の青いパーツ、差し込み用の軸に凹みのモールドが見えるだろうか? BEYOND版は軸にこの凹みが刻まれた軸パーツが随所にある。この凹みのある軸パーツははめ込むパーツ側に凸のモールドがあり、決められた位置まで押し込むと”パチン”とはめ込まれて絶妙なパーツの接続感覚を実現していてこれが実に気持ちいい。過去のいくつかのガンプラでも見られた工夫とのことだが筆者は初体験で、その気持ちよさに筆者はおもわず”おっ!”と声を漏らしてしまった。実際に組まれるときに確認しながら組み進めてみてもらいたい。
これまでの78ガンダムよりスリムな印象の腹部。最初情報が出た時には「細いなぁ」と思っていたが実際に組んで全身を動かしてみるとまったく感じなくなった。デザインとはバランスが重要だったりもするのでトータルバランスが素晴らしいということだろう。今回のBEYOND版は総じて例えるなら”アスリート体型”ともいうべきだろうか。
今回はコア・ファイターが入らないので持てる容積を可動に回せるという割り切った構造になっているのだが、左右へのロール機構を持ちコクピットハッチ上部での接続部を持つことで胸部を前傾させることができる。のけぞることは腰でしかできないのでそこは少々残念ではあるが可動軸が増えるとぐにゃぐにゃの動きになることがあるので固定されているとポーズが取りやすいという利点もある。
胸部と腹部を接続して稼働させてみると胸部後部が前方へ回転可動することで人間でいうところの「肩甲骨」の動きを再現しているようだ。動かしながら”うわ、すごいなぁ”と感心してしまう。動かしたときのラインが素晴らしいのでやわらかい動きのアニメ版78ガンダムを無理なく表現できそうだ。
ランドセルも新機軸のデザインと構造。貼り合わせる構造だがバーニアがベースにモールドされている。過去のHGシリーズの78ガンダムではサーベルラックでの保持が弱いことがあり結構ポロリが発生するポイントだが、前述の凸凹システムによってビーム・サーベルを押し込むと”カチッ”っと固定されるのだ。
頭部はスライド金型で成形。美しくもかっこいい頭部ができあがる。
ランナーチェックをしているときに心躍ったのがこの頭部ヘルメットのパーツだった。ときおりこの方法で成形されることがあるガンダムの頭部。これならパーツ点数と組み立て工程数を減らせるとともに美しいパーツになるという効果もあって筆者は出会うたびに感動してしまう。スライド金型だと費用がかかるそうだが実にありがたい。
一体成型となったヘルメットのおかげで構造が簡素になって組み立てやすくなった頭部。ツインアイのシールを貼り、組み込んでいく。ツインアイは縁取りの黒が塗装しやすい構造にもなっているのでシールは使わずガンダムマーカーなどで縁取り部の塗装にチャレンジしてもいいと思う。
そうきたか!と思わせてくれた腕部。注目の機構とは……?
BEYOND版発表時「そこを曲げるのか?」と、この構造に目が釘付けになったガンプラファンも多いと思う。その前腕の前部の可動はどのように実現されているのかを確認していこう。
その答えはボールジョイントだった。フレームにこだわらず可動のための仕組みを突き詰めたらこうなるということなのだろう。頭がカチコチになっている筆者は開発陣の既成概念にとらわれない発想力と開発力に改めて驚かされっぱなし。
これがHGシリーズでの肩の構造なのか!?と驚かせてくれる上半身との接続方法はシリーズ違いを感じるほどだ。通常のHGシリーズであれば単なる軸かボールジョイントを差し込むくらいだがBEYOND版は上半身から出ているボールジョイントを腕部で”封印”するかのごとく肩パーツを乗せていく形で封印されると外れにくくなる。これはMGやPGではないのか…?。
前腕の前部を動かしてみる。前部を引き出し、回転、角度を付けるとこの表情が付けられる。
肩部の可動を確認する。腕を横に振り上げ、そのまま上に持っていくと肩アーマーごと90度回転し頭部に密着するほどの可動を見せた。頭部を避けさせることなく、難なくこのポーズが取れるのは驚きでしかなかい。もちろん両腕が同様の可動域を持っているので頭部の横まで両腕を持ってきて顔をうずめるようなポーズも取れる。
HGシリーズということを忘れさせる可動範囲と密度で構成された腰部。
腰部を組み立てる。ここも少ないパーツ数で構成されているが、その構造はとても割り切られていて、前後アーマーの黄色のヘリウム・コアが接続部となっている。連邦軍のマークも別パーツ化されていて組むだけで色分けが行なわれる。HGシリーズでこの処理が行なわれるといつも感動する。前後左右のアーマーは全て跳ね上げ式で可動するのでポージングも表情がつけやすい。
小気味好い組み上げ感と密度感たっぷりの腰部が完成。脚接続部が腰部本体の外側に出ているにもかかわらず剛性感も申し分なく、グラグラすることもない。外側に出ていることでさらに前方へ振り出せるという利点も垣間見える。そして各アーマーを跳ね上げてみると可動範囲の広さを想像できてワクワクしてくる。
鍛えたアスリートを彷彿とさせる脚部のデザイン。ここもシリーズ感を超える可動範囲を実現!
脚部のパーツを切り出してみると、さすがに腕部よりその数は多い。しかしながら巧みなパーツ分割で合わせ目も気にならない。関節部は少々きつめの印象でちょっとやそっとじゃへたらないと思われる。PS素材でここまでできるのかとこの40年の積み重ねを実感できる。
足首の関節は強度確保のためか少々きつい印象だった。パチンというまでじわっと押し込んでいく。破損しないかとヒヤヒヤするがじっくりやれば大丈夫だ。軽く体重をかけながらのほうがいいかもしれない。
BEYOND版のトピックとなる大腿部の関節機構はこのとおり。この1軸の回転があることで広げたり、内側に曲げたりこれまで見たことのないポージングを可能にしてくれる。強度的に心配になるが必要十分で申し分なかった。
準備が終わった脚部をくみ上げていく。組付けながら関節を曲げてみると180度曲がった。大腿部と脛部のデザインの調整によってここまでぴったり合わさるのは見ていて気持ちがいい。
こんなにきれいな立膝はなかなかみられないと思う。足首を前方に曲げた時に、ソール後部がそのまま残ってスリッパ状態になってしまうのでパーツ分割で後部が追従すると尚素晴らしいスタイルになると思われるので次回に期待したい。
下半身のポージングをいくつか。ここまで躍動感のあるHGシリーズの脚部は見たことがないのではないだろうか。踏ん張り感や力の入り具合の表現はやはりアスリートのようなラインが垣間見える。大腿部の回転軸を使えば脚部を内側に向けることができるので歩行や、いわゆる”安彦ガンダム”的なマニューバも美しいラインで表現できる。
あくまでもシンプルな武器類が付属。
武器はビーム・ライフルとシールド、2本のビーム・サーベルとなる。ビーム・ライフルはこれまでのキットとさほど変わらないがシールドの構造が面白かった。シールド自体はBEYOND版のスタイルに合わせたかのような幅が抑えられた形状だ。シールド裏側はこれまた割り切りの美学が詰まっている。持ち手は90度ずつ回転させられる四角いジョイント部を2カ所設けてある。そして前腕前部との接続を担う回転式のアームで構成されていてこれも必要十分だ。
組み上げるたびに感じる40年の進化。これからの新たな10年をBEYOND(超越)するためのガンプラだった!
1995年の1/100スケール「マスターグレード」を皮切りに1/60スケール「パーフェクトグレード」、そして1/144スケール「ハイグレードユニバーサルセンチュリー」へと進化しながら展開を続けてきたガンダムのプラモデルシリーズ。
現在の技術の祖はガンダム10周年を記念して発売された「(旧)ハイグレード」といえるだろう。その後も1/144スケール「ファーストグレード」なども展開され、究極の1/144スケール「リアルグレード」にたどり着いたわけだが、そこには必ず「RX-78ガンダム」が存在している。
アニメ「ガンダム」の主人公モビルスーツなので当然といえば当然だが、スタンダードな人型であるため後継機や量産型のガンダムタイプはもちろんのこと他の特徴的なモビルスーツのプラモデル開発のため78ガンダムで技術的なトライアルが行なわれている側面もある。
冒頭でも書いたが、ガンプラ40周年のこの年は執筆時点で3体目となるHGシリーズのガンダムがこのBEYOND版である。これの前にG40版とオリジン版が存在している。各バージョンはプロポーションも構造も思想も全く異なっており、メーカー「BANDAI SPIRITS」として今後のガンプラの方向性を見定めようとしているのではないだろうかと感じられた。
では実際のBEYOND版の感触はどうだったかというと、”いろんな雑味を取り払ったガンプラってこんなに動くし楽しいものだよ!”というメッセージだと感じた。まさにガンプラを組み上げること、構造を理解して動かすこと自体が楽しいという感触といえばいいだろうか。初めてMGを組んだ時に感じたあのときめきを最新HGでふたたび感じることができた。
もう年齢的に徹夜することができない筆者(HGクラスだと3日ほどかかります……)ではあるが、このBEYOND版は一晩で組み上げてしまったほど楽しかったことを付け加えておきたい。若い時は”MGクラスを一晩で”だったなぁ。
そして”この設計思想を次世代のガンプラたちに引き継いでほしい”という想いが沸き立ってきた。単純に考えても量産型のジム系などはすぐに設計できるだろうしG-3ガンダムなどのバリエーション機はもちろんのことザクをはじめとしたジオン系でも見てみたい機構が満載されている。
4対目となる新たな1/144スケールのRX-78ガンダムが2020年9月に登場予定!そしてガンダリウム合金製のガンダムも予約開始が迫る!
先日「NEXT PHASE WEEK」でEG(エントリーグレード)版が登場することが発表された。ガンプラ40年の技術で「簡単組立」と「ハイクオリティ」が共存しており、初めて接する人や久しぶりに組み立てる人、もちろんヘビーユーザーも十分楽しめるクオリティのガンプラが税抜き700円という低価格で発売される。ガンプラヘビーユーザーもザワつかせたこちらは一般的な”RX-78ガンダム”イメージのプロポーションを実現していて楽しみな商品であることは間違いない。
そしてウワサの”ガンダリウム合金製”のガンプラが予約開始(7月予定)が迫ってきている。こちらも含めガンダムの立体化の進化は止まることはなさそうだ。詳細な続報を楽しみに待ちたいと思う。
(C)創通・サンライズ