特別企画
リボルブの「式波・アスカ・ラングレー [ラストミッション]」から見るエヴァとフィギュアの歴史
エヴァがフィギュア文化に与えた影響とホビー文化がエヴァを支えた25年間
2021年6月16日 00:00
- 【式波・アスカ・ラングレー [ラストミッション]】
- ジャンル:1/7スケール塗装済完成品フィギュア
- 発売元:リボルブ
- 発売日:2022年1月
- 価格:16,720円(税込)
- サイズ:全高約270mm
- 原型制作:のぶた(リボルブ)
- 彩色制作:かわも(リボルブ)
3月の公開以後、各方面にさまざまな衝撃を与えている「シン・エヴァンゲリオン劇場版」。最初からリアルタイムで見続けてきた身としては非常に感慨深い映画鑑賞でした。
その「シン・エヴァンゲリオン劇場版」からは、これまでのシリーズ同様に多数のフィギュア、立体物が登場することになるはずですが、そんな中いち早くリボルブから発表されたのが「式波・アスカ・ラングレー [ラストミッション]」。予告編でその姿を見せていた白いプラグスーツに身を包んだアスカのフィギュアです。
ガレキの中に立つ白いプラグスーツのアスカ。フィギュアオリジナルのポーズ&シチュエーションですが、[ラストミッション]の名の通り最終決戦に挑む姿をイメージしたものになっています。
このフィギュアは現時点でのエヴァフィギュアの最新作であると同時に最先端。その意味合いをあらためてまとめつつ、フィギュアの魅力に迫ってみましょう!
エヴァがフィギュアに与えたもの
「新世紀エヴァンゲリオン」はフィギュアというジャンルにおいて特別な作品であり、「エヴァンゲリオン」という作品そのものに対してフィギュアが果たした役割というのも特別なものがあります。
まずフィギュアの歴史という視点からざっくりまとめると、80年代後半からレジンキット製フィギュア、いわゆるガレージキットがブームになり「うる星やつら」、「きまぐれオレンジ☆ロード」、「超音戦士ボーグマン」などがこのジャンルを引っ張る人気作となりました。その次に大きな波となったのは92年の「美少女戦士セーラームーン」。この作品によって、美少女キャラクターを立体で表現する技法が格段に進化し、市場はさらに拡大します。そしてその次に来たのが95年の「新世紀エヴァンゲリオン」。当時この作品が全ての関連ジャンルに与えた衝撃は決定的でしたが、フィギュアジャンルでもその影響はとてつもなく大きなものでした。
例えば造形イベント。当時「セーラームーン」、「ガンダム」等の人気作は競合イベントであるJAF-CON独占になっていたために、かなり厳しい状況だったワンダーフェスティバルは、放送開始後すぐに会場中が「エヴァ」フィギュア一色に。ディーラーもお客さんも熱狂的に造型し販売し、買っていました。これによってワンフェスは一挙に盛り返しイベントとして息を吹き返したのです。
それら多数のフィギュアを原型師が切磋琢磨し作り上げることで、アニメキャラクターを立体で表現する技術はさらに多彩になってさらに磨き上げられ、後のフィギュア文化の基礎を固めることになります。
そしてホビー系の商品としては、各メーカーから続々と新作が登場。最初期のガレージキットだけではなく、その後もカプセルフィギュア、ドール、アクションフィギュア、プラモデル、プライズフィギュア、塗装済み完成品フィギュアと、常にその時々の最新ホビージャンルで「エヴァ」は商品が出続けているのです。フィギュアのみならず、ホビー商品全体の牽引を行なっているタイトルといえるのです。
フィギュアがエヴァに与えたもの
そして、「エヴァ」という作品はその最初期からフィギュアジャンルと浅からぬ関係がありました。まず、「エヴァ」を製作したガイナックスは、もともとガレージキットを含め各種マニアックなホビー商品を生産&販売していたゼネラルプロダクツの関連会社であったということ。そして、このゼネラルプロダクツはワンダーフェスティバルを最初に企画・開催した会社でもあるのです。1985年に始めて、「エヴァ」以前の92年には主催を海洋堂に引き継いでいます。
さらに「エヴァ」のTV放送が始まる前、最初のオフィシャルな商品としてワンダーフェスティバルで発売されたのは、ガレージキットでした。これは作画参考用に作られた初号機の全身および頭部モデルをキット化したもので、現在もエヴァストアで入手することが可能です。ただ当時は放送前だったこともあり作品知名度は非常に低く、正直なところあまり売れてませんでした。ところが放送開始後のワンフェスでは争奪戦となり、200個が一瞬で完売となりました。
また「エヴァ」という作品の人気の拡大にホビー系商品が果たした役割という側面もあります。映像作品としては97年の旧劇場版で「エヴァ」は一段落しましたが、ホビー系、特にフィギュアはまだまだその勢いは衰えませんでした。むしろそこからが本番ともいえる状態で、さまざまなホビー商品、フィギュアが出続けます。2000年代になってもセガからはほぼ毎月新作でハイクオリティなプライズフィギュアが登場していたり、リボルテックで可動フィギュアが出たり、カプセルフィギュアも出ていたりしました。毎月のように新たな「エヴァ」が登場していたのです。2007年に「新劇場版」でリスタートするまで、こういったホビー系商品が、「エヴァ」の知名度と人気の一端を支え続けていたのです。
エヴァフィギュア最新作「式波・アスカ・ラングレー [ラストミッション]」
この25年にわたる「エヴァ」とフィギュアの関わりの歴史に新たに連なる最新作として発表されたのが「式波・アスカ・ラングレー [ラストミッション]」。OEMとして他メーカーの「エヴァ」フィギュアも数多く手掛けていたリボルブが、自社製品として出したフィギュアとなります(“リボルブの自社商品”というポイントも非常に興味深いところなのですが、それはまた別記事で)。
白いプラグスーツというモチーフ
モチーフとなった白いプラグスーツは、昨年10月に発表された予告編でアスカとマリが着ていたもの。ほんの数カットの描写でしたが非常に鮮烈な印象を残しました。アスカのプラグスーツといえば赤というイメージが強かったため、この白いプラグスーツとアスカという組み合わせは新鮮だったのです。
アマチュア版権のガレージキットでは、いち早く12月のエヴァワンフェスで原型師の宮川武氏が発表、行列ができるくらいの人気になっていましたが、一般発売の塗装済み完成品フィギュアとしてはこれが最初の商品となります。
フィギュア企画スタート
リボルブはこれまでOEMで社員原型師ののぶた氏が他社の「エヴァ」フィギュアを手掛けたりしていましたが、自社製品としては初めての「エヴァ」フィギュア。リボルブの柴崎元一氏がディレクションを行い、のぶた氏が原型を担当、彩色はかわも氏とリボルブ社員で固めたスタッフ構成です。いつかは自社で「エヴァ」を手掛けたいと考えていたそうで、ちょうどこれが良いタイミングであり、モチーフであったということ。
このフィギュアの制作は、予告編が発表された直後からスタート。つまりは本編でこのプラグスーツを着たアスカがどのように描かれるのかは分からないままでした。ちょうど瞳を入れて仕上げようというタイミングで公開が始まり、実際に見た映画の空気感を込めたそうです。公開が少し遅れたこともあり、盛り上がっている最中での受注開始となりました。
ポーズ&シチュエーション
ガレキの中に立つアスカ。このポーズはもとになったイラストや劇中描写があるわけではなく、フィギュアオリジナルです。ポーズイラストをのぶた氏が描いて、柴崎氏がディレクションしています。最後の決戦に挑むアスカというイメージで、ベースに配置した瓦礫も「エヴァ」っぽいシチュエーションに。
腰の捻りや腕の振りを意識したそのポーズは、彫刻の裸体像というか人体骨格を思わせるものになっています。のぶた氏は美術大学で彫刻を専攻していたので、こういった方向性は得意。シルエットがきれいに見えるプラグスーツは、その技量が発揮できるピッタリのモチーフでもあるのです。
見た人それぞれに異なる印象を抱かせるアスカの表情
実際の映像を見る前に造形したフィギュアの表情は、物語の中でアスカにどのようなことが起こっているかが分からないため、決めきれずにいたそうです。それゆえに覚悟、怒り、悲しみのいずれに寄るでもない形容しがたい表情に。だからといって無表情というのではなく、見る角度や光の当たり方などによってさまざまな表情を見せるのです。その表情に何を感じるかは、見た人それぞれ違うはず。能の面や人形アニメーションに通じる表現ともいえるかもしれません。
プラグスーツという素材:造形
プラグスーツは「エヴァ」を代表するコスチューム。最も数多く立体化された衣装といえるでしょう。今回のアスカのプラグスーツは「Q」以降で登場したプラグスーツと同系統で、以前のものよりも薄い素材として描写がされているもの。薄い素材だからこそ裸体に近いイメージとして造形デッサンを行なえたそうですが、各所パーツは凹凸がありすぎると分厚く見えてしまうし、1/7というスケールに見合ったディテールが必要。その薄い素材を立体で表現するためのパーツの厚みなど情報量の調整には苦労したそうです。
プラグスーツという素材:彩色
プラグスーツの素材感をどのような捉え方をするか、プラスチックのようにテカテカなのか、ウレタンのようにしっとりしているのかなどはあえて決められておらず、フィニッシャーの裁量に任されている部分。これまでのフィギュアでもさまざまな塗装表現が行われていました。このフィギュアでは基本はマットな質感の中に、胸当てやラインなど一部メタリックな塗装が組み合わされて、同じプラグスーツの中でもまるで違う質感表現が施されています。彩色担当のかわも氏によれば、素体に近い造形だからこそ、彩色によってどこまで情報量を出していくのかという判断は難しかったとのこと。わざとらしくシャドウを吹くとあざとい感じにもなるので、造形にどこまで頼ってどこまで造形を引き立たせるかを意識したものになっているのです。
静と動:髪の毛
基本的にこのフィギュアは静のポーズ。大きな動きの一瞬を切り取ったという方向性ではなく、静かに佇む姿になっています。ただそれとは対照的に大きな動きを見せているのが髪の毛。ダイナミックなうねりを見せ複雑にからみあった迫力ある造形は、立体ならではの鑑賞ポイント。
裸体像に近いポージングはシンプルになりがちですが、この髪の毛の大きな動きが加わることで、静と動、メリハリの効いた造形になっているのです。
最新作&最先端という意味
のぶた氏は2014年にアルターから発売された「式波・アスカ・ラングレー ジャージVer.」の原型を手掛けています。何度も再販されるなど非常に高い人気を得たフィギュアですが、そのアスカから数年経った現在また新たなアスカを手掛けるにあたり、昔はできなかったことを意識した上で現在持つ技術や表現方法を織り込んだ、のぶた氏としての最新であり最先端のアスカになっています。
それと同時に、これは技術発展、商品としての展開など常にフィギュアジャンルの最先端にあり続けた「エヴァ」フィギュアとしても最新であり最先端のもの。このアスカは商品として、モチーフとして最新作であるだけではなく、「エヴァ」フィギュアとして時代を代表する最先端といえる造形、塗装が施されたものになっているのです。もちろんこれが終着点ではなく、これからも技術や表現方法もさらに進化していくはず。しかし、「エヴァンゲリオン」シリーズの完結と併せて登場したこのフィギュアの意味はエポックメイキングなものとして記憶されていくものです。ぜひこの機会を見逃さず手に取ってください。
©カラー