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アニプレックス傘下のフィギュア会社リボルブ、業界注目のメーカーの成立ちと内側を聞いてきた

トップ原型師のぶた氏独特の手法や未経験の美大卒を採用し育てていくわけ

 「エヴァ」の最新作にして最先端のフィギュアとして紹介した「式波・アスカ・ラングレー [ラストミッション]」。このフィギュアにはまた違う側面が存在します。それは発売元となっているリボルブというフィギュア会社の存在。フィギュアが好きであれば、リボルブという会社名は知っているという人も多いはず。原型担当として「のぶた(リボルブ)」というちょっと目をひく表記はいろいろなメーカーで見かけているはずです。ただ、自社製品は多くなく、原型請負を始めとしたOEM中心なのでどんな会社かは良く分からないかもしれません。

 ですが、リボルブという会社のちょっと特殊な立ち位置とリボルブ自社商品であることの意味は、いろいろとフィギュア業界全体とも関連する注目点が多いのです。こちらの記事ではそのあたりをざっくりとまとめてみましょう。

リボルブから2022年1月発売予定の1/7スケールフィギュア「式波・アスカ・ラングレー [ラストミッション]」

リボルブという会社:成り立ちから現状の規模

 リボルブが設立されたのは、2010年10月。ホビーメーカーでオモチャの企画などを手掛けていた柴崎元一氏がフリーランスの原型師として活動していくために必要に応じて法人化したもので、当初は会社組織にするつもりもなかったそうです。

 ですが仕事が多くなってアルバイトを雇うことに。その後アルバイトの学校卒業時にそのまま社員として雇用、本格的な会社になっています。そのアルバイトから社員になったのが原型師ののぶた氏などで、その後中核をなすスタッフになります。

 その後は仕事の幅を広げる方向に転換、原型師やフィニッシャーなどを積極的に入れていく方針になりました。基本的に新入社員は美術大学などから新卒採用、入社後に研修を行い育てていくというやり方です。現在スタッフは20名ほどで、造形4人、フィニッシャー4人、デカール3人などのチームがあります。

リボルブの現状:アニプレックスと資本提携のわけは?

 最初は他社商品の原型や彩色を手掛けていたのですが、後に中国の工場とのコネクションもできて自社製品を作るようになり、そのノウハウがたまったところで生産まで含めたOEMも行なうようになったリボルブ。現在はアニプレックスの子会社となっています。

 アニプレックスといえば、「鬼滅の刃」や「Fate」シリーズなど大ヒット作を連発しているアニメ制作会社。通販サイトのアニプレックス+でフィギュアやグッズも多数展開していることでも知られています。2017年にリボルブがアニプレックスと資本提携し子会社になることが発表されたとき、フィギュア業界では大きな話題となりました。リボルブはクオリティの高いOEMを請け負う会社として業界内では非常に知られた存在だったので。

 経営よりも現場にいたいという柴崎氏の意向を受けて、数社から買収話等があったそうですが、その中でもこれまでのリボルブのやり方を継続して良いという条件だったアニプレックス傘下に。アニプレックスに限らない他社の原型や彩色、生産まで含めたOEM、自社商品の開発製造はそのままできるという条件だったからこそ、今回のアスカも出せたわけです。

のぶた氏の原型:エポキシパテからリューターで削り出し!

 原型担当として、のぶた氏の名前を見たことがあるという人はかなり多いはず。インパクトのある覚えやすい名前ですし。

 リボルブ最初期から参加し、他社の原型を数多く手掛けていて、リボルブの造形部門を引っ張ってきているのですが、その造形のやり方はかなり独特。最近業界的にはデジタル造形が中心になっていますが、のぶた氏はアナログの手作業です。それもなんと、エポキシパテの塊からリューターで削り出すという他では聞いたことがないような方法なのです。美術大学で彫刻を学んでいたという、のぶた氏ならではの技法で、まるで無垢の木から一刀彫りで仏像を削り出すような……。

実際ののぶた氏の原型製作風景。まるで彫刻のようにエポキシパテの塊からリューターでフィギュア原型を削り出しています

 最初の頃はポリパテを使っていたそうですが、仕上げの際に気泡が出てくる、分割でノコギリを入れたらその厚みの分削れてしまうなどがストレスとなり、性分に合わなかったため今の技法になりました。

 エポパテは気泡も入らず削ればその形になるから仕上げも楽。途中でも盛り足しは行なわず、塊の中に埋まっている原型を掘り出すイメージで造形を行なっているのだそうです。

 欠点としては、大量に削りカスが出て素材が無駄になること。エポキシは高いので、もったいないような気も(笑)。

彩色:フィニッシャーの採用と実践

 リボルブは彩色のOEMも数多く請け負っています。むしろ原型の年間5~6体に対して月間4体くらいと、よりハイペース。彩色は、もとになったイラストを見て色を考えることになりますが、発売元のメーカーによって色の好みもけっこう違うので、そこをディスカッションで聞いて反映させるという作業になります。

リボルブがこれまで手掛けてきたフィギュアが壁一面に!作品もキャラクターも非常に幅広いラインナップになっています。自社製品含めて、さまざまなメーカーに関わってきたことが一目瞭然!
自社販売を行なった「刀剣乱舞-花丸-」題材のフィギュア(左上)や「ニセコイ:」題材のフィギュア(右上)の姿もありました

 アスカの彩色を担当したかわも氏はリボルブ入社以前、美術大学で油絵等やっていたもののフィギュアの彩色などは未経験で、物作りをする仕事に関わりたくて入社。最初は分からないことだらけで、フィギュアそのものの勉強からスタートして、フィギュアの良い彩色とはなにかを学び、それを技術的に再現するにはどうすれば良いかと考えていくというやりかたで、実践の中で覚えていったそうです。

 リボルブの社内フィニッシャーはこれまで全員未経験者の新卒採用。フィニッシャーは技法を努力で学ぶことができるという柴崎氏の考え方からです。また、フィニッシャーはフリーランスとして独立してもやっていきやすいのも特徴として捉えており、元リボルブ社員のフリーランスのフィニッシャーには、現在各メーカーから引っ張りだこになっている人も。

 なお、フィギュアの瞳に関しては基本的にフィニッシャーによる塗装ではなく、デカール班が作成したデータを使用しています。これは柴崎氏が前職で手掛けたオモチャ系のフィギュアの瞳はデカールだったので、そのままのフォーマットを継続しているからとのことでした。

自社製品であるということの意味

 親会社であるアニプレックスを含め、各社のOEMを数多く引き受けているリボルブが自社販売を行なうというのは、いくつか理由があります。

 まず、OEMでは監修のタイミングやOEM先のスケジュールによってはリボルブ内の手が空くことがあるのですが、自社製品はその合間合間に進めることができるということ。つまりスケジュールの効率的な穴埋めですね。

 そしてそれ以上に大きいのは、企画としてやりたいものができるということ。売れ筋にとらわれず、純粋に作りたいという思いを発揮できるということなのです。

 リボルブが自社販売したフィギュアは数多くありませんが、「Re:ゼロから始める異世界生活」、「刀剣乱舞」といったフィギュアとして人気が高いモチーフ以外に、「ニセコイ」、「姉なるもの」、「夏目友人帳」など、他ではあまり立体化されていないような作品もあり、バリエーションに富んだものになっています。このある意味統一性のないラインナップは、担当者がその時々に作りたいと思ったものを手掛けてきたため。そういった意味では他のフィギュアメーカーよりも趣味寄りのラインナップと言えるかもしれません。

【リボルブが自社販売したフィギュアの一例】
1/7スケールフィギュア「刀剣乱舞-花丸- 加州清光 内番ver.」
1/8スケールフィギュア「Re:ゼロから始める異世界生活 ラム&レム 特製台座コンプリートセットver.」
1/7スケールフィギュア「ニセコイ: 橘 万里花」
1/8スケールフィギュア「姉なるもの 千夜」

 造形の進め方も、OEMだとクライアントのメーカーとの調整を行ないつつ途中経過をこまめに報告する形になりますが、自社製品の場合はやりたいことの方向性がハッキリしているために、7~8割作り込んでからものを見せるというやり方。版権元に対してこういうものを作りたいという意志を提示するのです。その結果、大きな版権元修整が起こるかもしれないというのは想定した上での判断。

 自社商品だからこそ、そこまでのリスクを取る覚悟ができるのです。

エヴァンゲリオンであることの意味

 では、その自社商品のラインナップの中にこのアスカが加わったのはなぜか?

 リボルブでは以前から各メーカーの数々の「エヴァ」フィギュアの原型を担当していました。リボルブの名前が出るものもあれば出ないものもあったのですが、エヴァのフィギュア版権担当者からの評価も高くリボルブにやって欲しいというリクエストもされるほどでした。

 「エヴァ」はフィギュアのモチーフとしてやはり特別。リボルブとしてもやはりいつかは自社商品でという思いがあり、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」で完結を迎えるこのタイミングをきっかけにして企画として進める気運が盛り上がったのです。誰のどんなシチュエーションのフィギュアを作るか、検討を重ねた結果、お客さんの傾向やビジネス面なども考えてアスカに決まったというわけです(ちなみにのぶた氏はマリ派で柴崎氏はアスカ推し)。

 通常なら合間合間に進めるという自社製品ですが、このアスカに関しては別格。「エヴァ」フィギュアをついに作ることができるという特別感と、公開時期に近いところで発表したいということもあり割と強引なスケジュールで進行しています。

 このアスカをやったことで、自社商品をもっとやりたいという思いも強くなり、続くフィギュアも企画進行中なので、今後の発表をお楽しみに!

フィギュアジャンルの現状とエヴァ

 現在のフィギュアは、キャラクターグッズとしての側面が強く、かつては強かった作家性という部分は薄まっています。企画者や原型師が作りたいモチーフを比較的自由に選んで、(版権元監修での大直しがありうることも意識した上で)思うままに造形し自社商品として発表するリボルブのスタイルは、そんな状況の中では面白いやり方といえます。

 一方でこのフィギュアを端緒とし、これから「シン・エヴァンゲリオン劇場版」で登場した新しいモチーフの「エヴァ」フィギュアがこれから続々と各メーカーから登場するはず。どんなフィギュアが登場するか、それもまた楽しみなところ。そのフィギュアを見てフィギュアそのものに興味を持つ人、フィギュアを通じて「エヴァ」に興味を持つ人もまた出てくるはず。またそこから新たな流れが生まれ、ファン層が広がることも楽しみにしたいと思います。