特別企画
現代美少女フィギュアのトレンド。透ける髪の毛、しなやかな布、こだわりの表現を突き詰める高級路線とお手軽グッズ化路線
2025年2月1日 00:00
2023年~2024年のホビー/玩具業界は特に“フィギュア”の動向に注目が集まった。日本玩具業界が2024年7月に発表した 「2023年度玩具市場規模調査結果データ」の分析によれば、「プラモデルはガンプラがプラモデル市場を牽引する一方で、今回大きく伸びたのがフィギュアだ」と触れている。このフィギュアにはインバウンドのお土産でのミニフィギュアも含まれているが、ロボットやヒーローなどのアクションフィギュアや、キャラクターフィギュアの存在感も大きい。
また「世界市場」でもフィギュアは注目が集まっている。ビジネスリサーチの「アクション フィギュアおよび彫像市場レポートの概要」では、映画やゲーム、アニメの高品質なキャラクターフィギュアの存在感が増していると分析している。
バンダイ(BANDAI SPIRITS)やタカラトミー、コトブキヤ、海洋堂、メディコムトイなども「世界で競争力を持つキャラクター」として、マーベルやDC.ヒーローのフィギュア化、「ドラゴンボール」や「僕のヒーローアカデミア」、「ポケットモンスター」などの海外で人気の高いキャラクターフィギュアの展開を行っている。ホットトイズやthreezeroといった香港メーカーも北米市場、中国市場で人気だ。昨今では中国メーカーもこの市場に参入が目立ち始めた。
こういった「好評なフィギュア市場」の中で、本稿では「美少女フィギュアのトレンド」に注目していきたい。技法の進化、モチーフの複雑化、さらには価格帯に合わせたフィギュア展開など様々なポイントがある。その中で目立っているのが「高コストならではの凝った表現の高級フィギュア」と、「コストを抑え、キャラクターファンが手軽に買える低価格フィギュア」という2つの路線である。
2月9日には「ワンダーフェスティバル 2025冬」が開催され、ここでは様々な美少女フィギュアの新作が発表される。その前に現代の美少女フィギュアのトレンドを見ていこう。
ホビーとしては新ジャンルだが、急速に進化していく美少女フィギュア
まずは少しだけ「美少女フィギュアの歴史」を語ってみたい。「魅力的な女の子の立体物が欲しい」というファンの心理は1980年代後半からあったと思う。少年マンガに恋愛要素が強められた“ラブコメもの”が増えてきて、特に「うる星やつら」、「めぞん一刻」、「らんま1/2」などの高橋留美子氏のマンガはヒロインの魅力に注目が集まった。
1980年代は「ワンダーフェスティバル」が始まったことも日本のホビーの歴史では大きいだろう。そのワンダーフェスティバルで「美少女フィギュア」の大きな潮流となったのが「セーラームーン」だ。ワンダーフェスティバルは企業が商品化しないキャラクターを立体化する「ガレージキット」の展示即売会で、怪獣やロボットなどのオリジナルフィギュアが多かったが、「セーラームーン」の登場で多くの原型師たちが美少女キャラクターをモチーフとしたガレージキットを手がけるようになった。
さらに当時のPC向け「美少女ゲーム」の流行が拍車をかける。そして1990年代の一大イベントが「新世紀エヴァンゲリオン」である。多くの作家たちがヒロインのガレージキットを製作していった。
ただ、当時は“立体物”というのはハードルが高かった。1990年代は美少女キャラクターに限らず、キャラクターフィギュアの立体物といえば「ガレージキット」が中心で、造形としてポーズなどは原型と同じものが手に入っても、塗装はユーザーの手に委ねられていた。繊細な瞳の描写や肌の質感、服の塗り分けなど、イメージ通りのフィギュアを手にするには高い模型スキルが求められた。
そこに「プライズフィギュア」が大きな変化をもたらす。カプセルフィギュアのハイクオリティな表現がそのスタートだった。ガレージキットの手法を活かした繊細な表現、小さなフィギュアだからこそできる簡易な塗装で、コレクションしやすいカプセルフィギュアとして美少女フィギュアの量産化がスタートし、続いてクレーンゲームの景品として大きなフィギュアでも繊細な造形が生まれ始める。2000年代にはハイクオリティなカプセルフィギュアが多数登場し、現在のフィギュアブームの土台が築かれた。
フィギュア文化のマイルストーンとしては2004年にマックスファクトリーが発売した「霞 C2ver.」があるだろう。格闘ゲーム「DEAD OR ALIVE」のヒロイン・霞を独特の画風と繊細な表現で立体化したフィギュアは、「美少女フィギュアとはどんな魅力を持っているか?」を提示した。女の子のかわいらしさ、柔らかさ、セクシーさを立体物で、量産品でここまで表現できるのか! という衝撃はこのフィギュアがもたらしたと言える。
現在は様々なメーカーが美少女フィギュアを販売している。モチーフも非常に多彩な上に価格、表現方法も非常に広がっている。現在のフィギュア文化はカプセルフィギュアから進化した細かい塗装が可能な塗装技術、PVCという繊細な表現と強度が可能な樹脂、美少女キャラクターの凝った目の表情をフィギュアに“印刷”できる技術など、製造に関するノウハウが進化・蓄積されたからだ。現在では柔らかな布の表現、スケールに合わせた頭身のバランス、小物の解像度など各社が様々なノウハウを蓄積している。次章からは様々なメーカーのフィギュア表現を見ていこう。
頭身のバランスや、布の表現など多彩に、緻密になっていくフィギュア
フィギュア文化の進化を語る上で、”アプローチの面白さ”として代表的な表現の一つがフリーイングの「バニーフィギュア」だ。様々なキャラクターがバニーガールのスーツをまとう。時には公式ではバニーガールの衣装をまとったことのないキャラクターもバニーフィギュア化してしまう。
フリーイングの“発明”は「網タイツに包まれた足の見事さ」だ。PVCで作られたつるりとしたフィギュアの足を網タイツで包むことで2.5次元ともいえる“生っぽさ”が生まれる。丸いお尻や、エナメル地のボディスーツとの対比で、網タイツに包まれた太ももや、ふくらはぎ、細い足首などが際立つ。
サイズ感も見逃せないところ。フリーイングのバニーフィギュアは1/4スケールが主流で、全高は約450mm。美少女フィギュアの多くは1/6から1/7スケールで、300mmほど。比較をすると大きい。脇の下のラインなど小さいスケールのフィギュアでは表現できないリアルな肉体表現が可能になっている。
この1/4スケールは高級フィギュアのフォーマットともいえる。デザインココの「ライザのアトリエ2~失われた伝承と秘密の妖精~ ライザリン・シュタウト 水着Ver.」ではメーカーから話を聞いたが、1/4スケールだと肌のグラデーションの細かさや、影の描写など皮膚感の描写、さらには小物の解像度などもより高く詳細な描写が求められるという。フィギュアの試作品を取材で見たが、その説明が納得できる精密さだった。
現在の美少女フィギュア文化の進化が実感できるのが、「高価格、高品質のフィギュア」だ。美しいイラストの精密な筆致をそのまま立体化したような、繊細で美麗なキャラクターの皮膚と表情。服のしわ、質感までしっかり表現した衣装、微細な表情付けまでこだわった髪型、シルエットなど「この価格でも欲しい」という高いクオリティを持った商品が多く登場しており、その表現に驚かされる。
そして、高価格帯商品の特徴の1つが「凝ったオブジェクトやポーズ」といえる。アルターが2025年9月に発売する「アズールレーン『アウグスト・フォン・パーセヴァル 御使い魔女Ver.』」の価格は36,080円。アルターならではの繊細な表現に加え、アウグスト・フォン・パーセヴァルが寝転ぶソファー、豪奢で繊細な髪の毛の表現、広がる服の表現などぱっと見るだけで凝った、高コストならではの豪華な表現が実感できるフィギュアだ。リラックスしているだけでなく、見ている人を誘惑しているかのような色気が感じられ、どこまでもフィギュアのディテールを追求したくなる。
マックスファクトリーの2026年1月発売の「アルクェイド・ブリュンスタッド ~星の内海~」も目を引きつけられる豪華なフィギュアだ。スケールは1/8,全高約220mmと小さめだが、スカートと髪の毛のボリュームがすごく、全長は約290mmだ。髪の毛の陰影、スカートのひだ、本当に1枚の美しい絵のようにこだわりが感じられるフィギュアだ。
ユニオンクリエイティブが2025年6月に発売する「oekakizukiイラスト『ヴィオ』」は大きな椅子が付属。価格は27,500円。大胆に露出した肌と、きわどいところを覆う布の質感の表現が見事だ。髪の毛のシルエット、足をぴっちり覆うストッキングの布の表現、白い革張りに金のフレームの椅子などこちらも高価格が納得できるこだわりようだ。
もちろん、1万円台後半から、2万円前半が現在でも美少女フィギュアのボリュームゾーンである。多くの商品がより微細な表現、凝った製造過程でクオリティは上がっているが、高額フィギュアにはコストをかけたからこその作り手のこだわりが込められており、「現代のフィギュアはここまで表現できるのか!」という驚きがある。ぱっと見るだけで目を引きつけ、欲しいと思わせる、その表現の見事さ、”フィギュア文化の高み”を実感させる商品が日々生み出されている。
キャラクターファンが手軽に手に取ることができるフィギュアを!
一方、低価格……といっても5,000円~1万円台ではあるが、こちらも昨今充実しているジャンルである。価格を下げ、よりユーザーが手に入れやすい「気軽に買えるフィギュア」を前面に出しているブランドがグッドスマイルカンパニーの「POP UP PARADE」である。
「POP UP PARADE」の特徴は5,000円台の低価格。髪の毛の塗り分けや、服の陰影などの表現で塗装コストを抑えながら、しっかりとキャラクター性を追求するポーズや、表情、衣装の追求なども行っているところ。進化したフィギュア製造技術をちゃんと活かしながら、「気軽に買えるフィギュア」というコンセプトを実現するためにバランスをとっているところだ。
2025年9月発売の「POP UP PARADE フリーレン 投げキッスVer.」はブランドのコンセプトがしっかり感じさせられる商品だ。価格は4,800円。アニメ「葬送のフリーレン」の主人公・フリーレンが「投げキッス」をするという、アニメで印象深いシーンをフィギュア化している。
肌の塗り分けや、服装の表現など、高級フィギュアと比べるとシンプルだが、しっかりとアニメのフリーレンの雰囲気を再現。しかも「投げキッスをするフリーレン」というシチュエーションがファンにはぐっとくる。「POP UP PARADE 」では「POP UP PARADE フリーレン」という、ファンが想像する「フリーレント言えばこのイメージ」というスタンダードな姿でも商品化している。手軽に買えて、自分なりのイメージを追求できるファンアイテムとして「POP UP PARADE」というブランドは魅力的だ。
フリューも“手軽に手に取れる”というコンセプトの「TENITOL(てにとる)」というブランドを展開している。アニメ「小市民シリーズ」から「TENITOL 小佐内ゆき」もシンプルな塗装ながらキャラクターの特徴、雰囲気をしっかり表現している。発売は8月、価格は6,600円。ちなみにTENITOLは予約した数だけを生産するという”完全受注生産”なので、入手するには予約が必須となっている。
こういった「低価格で幅広い作品のキャラクターフィギュアを出す」というのはここ数年の新しい流れだ。フリューはプライズフィギュアも高級フィギュアも扱っている。グッドスマイルカンパニーも高級フィギュアやデフォルメ表現の「ねんどろいど」なども展開している。高いフィギュアの造形技術を活かし手軽に買えるフィギュア商品を展開するのは、より幅広いユーザーに応えるためだろう。
標準的なフィギュアは造形も凝っており高い満足感が得られる一方で、学生などお金が自由にできない人にはハードルが高い。またフィギュアメーカーにとってもコストと収益を考えるとフィギュア化するモチーフを慎重に吟味せざるを得ない。コストを抑えたフィギュアがきちんとブランド化することで「より幅広く色々なモチーフのキャラクターフィギュアを企画できる」という訳なのだ。
高級フィギュアが造形やポーズ、表現にこだわった「フィギュアファンのための商品」としてクオリティを高める一方で、低価格フィギュアは「作品ファンの需要を満たすグッズ」として求めるユーザーへ応える商品となっている。こういった幅広い展開が可能になっているのもフィギュア文化の深まりを実感できるところだろう。
「作り手側の進化」を感じさせるのはタイトーの「スピリテイル」というブランドである。これまでタイトーはプライズフィギュアを扱っていたが、「スピリテイル」という一般流通販売ブランドを立ち上げた。「魔女の旅々 イレイナ~休息 ver.~ 1/6スケールフィギュア」は8月発売予定で価格は26,400円。キャラクターを特徴付ける“灰色の髪”はクリアパーツに彩色を行うことで透明感を演出、特に服のしわの表現にこだわりを感じる。コストをかけることで、よりクオリティの高いフィギュア表現ができ、本格的なフィギュアを求めるユーザーに訴求する商品だ。
「プライズから一般販売フィギュア部門を立ち上げる」という動きはセガの方が速い。セガは一般販売フィギュアブランドS-FIREを立ち上げている。デフォルメフィギュアなど扱っている幅は広いが、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」のハイクオリティフィギュア「フィギュア 綾波レイ ロングヘアVer.」は、プラグスーツの質感や、伸びた髪の毛が体を覆う様など、凝った表現がしっかり感じさせられる商品だ。
もう1つ、「低価格フィギュア」というポイントでは、「中国メーカーの本格参入」というところにも注目したい。BearPanda、MOMOROSERといった新規フィギュアメーカーは日本のイラストレーターを起用し、1万以下のフィギュアを販売し始めている。2024年12月に発売されたMOMOROSERの「トレーニング女子 葵」というフィギュアは、価格は6,820円だが、スケールは1/6で全高約280mm。肌の塗り分けや、汗の表現なども凝っている。昨今新規メーカーの1万円以下のフィギュアも増えており、今後注目したいところだ。
言及できなかったところ、取り上げられなかったメーカーもあるが、現在の美少女フィギュアのトレンドを分析してみた。昨今原料や人件費の値上がりがこれまで以上に激しく、フィギュアの価格も上がっているが、一方で手軽さを前面に出した商品も増えており、フィギュア商品は幅広く、そしてより深く進化している。
「このキャラクターのフィギュアが欲しい」、「よりかわいらしく、よりセクシーなフィギュアを手にしたい」、「作品のファングッズとして手軽だけどしっかりしたフィギュアが欲しい」などなど、多彩な要望にメーカーは応えてくれる。こういった幸福な状況になったのは「ここ最近」のことだ。今後さらにフィギュア文化が充実し、様々なフィギュア商品が出てきてほしい。