インタビュー
「模型が単純に好き」タミヤ代表取締役会長 田宮俊作氏インタビュー【#静岡ホビーショー】
フィリピン新工場は円安の影響はありつつも好調
2024年5月8日 18:18
- 【第62回 静岡ホビーショー】
- 開催期間:5月8日~12日
- 会場:
- ツインメッセ静岡
- (静岡県静岡市駿河区曲金3-1-10)
- 入場料:無料
国内最大規模の模型の展示会「第62回 静岡ホビーショー」(主催:静岡模型教材協同組合)が5月8日開幕した。初日恒例となっている合同記者会見では、組合の理事長を長年務める田宮俊作氏(タミヤ代表取締役会長兼社長)が参加し、入場無料、学生招待日の設定、自衛隊の参加といった静岡ホビーショーならではの特色を挙げながら、65年掛けてこの規模まで成長させたことをアピールした。
記者からの質疑応答では、繰り返し円安の影響について尋ねられ、田宮氏は「馬鹿げた円安」と評しながら、輸出産業にとっては追い風だが、海外でのコスト高や、物価高に伴う消費者の余剰資金への悪影響を懸念。これ以上円安を進めないことが大事だと力説した。
模型業界全体としては、巣ごもり需要に変わるようなトレンドは「特にない」としつつも、巣ごもり需要を境に、お客さん目線での物作りを重視する姿勢に変えたことが、新たな顧客の獲得に繋がっているのではないかとした。今後の展望については、先進国以外の経済力を付けてきた新興国への展開へ期待を寄せる声が挙がっていた。
ほとんどの質疑の回答は、田宮氏が単独で応じ、質問した記者も半ばそれを期待している風で、その後に行なわれたTV向けの記者会見は、最初から田宮氏単独の会見となっており、89歳にして、その存在感はますます高まる一方といった印象だ。本稿では、短時間ながら単独インタビューに応じて頂いたのでその模様をお届けしたい。
フィリピン新工場の稼働状況について
――ご無沙汰しております。朝の合同記者会見でも、まさにご健在といった感じでした。
田宮会長: もう89歳ですが、まだ死ぬわけにはいかない(笑)。体調は良い。頭が悪いのは病院じゃ治らないんだけど。
――足腰や耳もしっかりされている。
田宮会長: いやいや、実は(補聴器を)付けてますよ(笑)。
――静岡ホビーショーも62回を迎えましたが、感想は如何でしょうか?
田宮会長: 毎年大きくなっていて、会場が狭くなっています。海外にも拓いたということも大きくて、全体として成長していると言えると思います。
――フィリピンの新しい工場の稼働状況は如何でしょうか?
田宮会長: 昼500人、夜500人。1000人規模を24時間体制で回しています。多いときで7万ショットぐらい。日本ではこんなフル稼働はできない。目下の問題は円安です。従業員にはドル払いをしているから、人件費がどんどん上がっている。ただ、時給は日本に比べるとかなり安いですから、フィリピンに工場を持つメリットは大きいです。
――東南アジアもホビー市場が成長していて進出も視野に入れているということですが、さらに新たな生産拠点を持つ可能性はありますか?
田宮会長: フィリピンのセブ島はまだ拡張の余地がありますから、東南アジアよりもまずはセブ島ということになるかもしれません。まだ何も決まっていませんが。
――田宮会長はセブ島には何度か行かれましたか?
田宮会長: 何度いったか数え切れないよ。もう工場ができて29年かな。
――ウクライナの紛争が長引いています。これはタミヤにどのような影響をもたらしていますか?
田宮会長: まったくありません。我々は向こうの製品を買う立場でしたから。ただ、モスクワとの商売がなくなったのはありますね。そろそろ億の大台に乗るかなと思っていた矢先でしたからそれは残念です。
――昨年はウクライナ仕様の戦車模型がいくつもリリースされましたが、今後もそのような展開は続くのでしょうか?
田宮会長: あれはドイツが半ば強引にウクライナに送り込んだ戦車をキット化したものです。アメリカ軍やイギリス軍など、そういう展開は各国のもので今後もあるかもしれません。お隣韓国から1,000台も送り込んだみたいですが、あの中身はドイツのレオパルトですからね。韓国政府がOKを出せば、キット化しますよ。そうなったときには、僕が巻き尺持って取材に行ってね(笑)。
――私は今朝の合同記者会見、TVカメラ向けの会見を見ていましたが、田宮会長は繰り返し模型制作の楽しさ、自らの手で作ることの重要さを訴えていました。この想いはどこから来ているのでしょう?
田宮会長: それは単純に僕が好きだから(笑)。それだけ。
――今でも会長は、模型製作をされている?
田宮会長: さすがにもう作らない。売る方で精一杯(笑)。
――戦車やバイクのような大人向けのキットから、アヒルやペンギンのような子ども向けの工作まで、まさにフルラインナップを提供しているのがタミヤの強みですね。
田宮会長: 今は社員も増えて、アヒルなどの工作キットは、それ専門の社員を配置したんです。千葉大学の工学部の大学院を出たスタッフをね。そしたらね、人気があるんだよね、戦車より(笑)。
――工作キットに田宮会長のこだわりはありますか?
田宮会長: いえ、私はできたものを見ただけですが、あれはおもしろい。
――今年の展示アイテムの中でイチオシを教えて下さい。
田宮会長: 色々ありますが、強いて言えばラジコンカーかな。我々は掛川に立派なサーキットを持っています。ああいうことは、東京ではなかなかできないと思いますが、あそこならエンジンカーを自由に走らせることができる。
――昨年もラジコンカーについて語っていただいたと思いますが、模型よりもこだわりが強いのでしょうか?
田宮会長: こだわりはありますよね。まあラジコンカーは金額的に高く、年末などの稼ぎ頭ですから。
――海外のモデラーファンにも愛されている新橋のアンテナショップ「タミヤ プラモデルファクトリー」が5月にリニューアルされますね。
田宮会長: いまのお店は地下と1階、2階にわかれていますが、もともとワンフロアでやりたかったんです。地下にあっても見えないからお客さんが通り過ぎちゃうんです。そしたらお店の目の前に出来たビルがワンフロアでやらせてくれるというんで移転することにしました。
――新しい店舗に田宮会長のこだわりは入っていますか?
田宮会長: 特に入ってないけど、今のお店は先代の社長(田宮昌行氏)が生前に作ったもので、ハッキリ言ってテナント料がとても高いんだけど、新橋なら採算がとれるといってね。東京からも近いしと。そういう意味の思い入れはあります。
――田宮会長の今後の野望を教えて下さい。
田宮会長: ハハハ。教えられない野望があるんですよ。それを喋ったのは上川さん(上川陽子氏、衆議院議員、静岡1区)だけ(笑)。
――今回、川勝知事が不本意な形で退任されることになりましたね。
田宮会長: 僕は川勝知事のファンだったんですよ。大学(早稲田大学)の同門ですからね。残念ですよ。新しい知事にそれほどの力はないでしょうから。ここで県知事が交代するのは、静岡にとって損ですよ。でも、ああいう失言しちゃう人なんですよね。
――模型ファンに対してメッセージをお願いします。
田宮会長: 模型ファンは世界中にいます。タミヤから出る新しい製品をぜひ今後も期待して下さい。たとえば、今回展示している新製品の「ロッキード マーチン F-35B ライトニングII」。このステルス(戦闘機)は日本では取材できません。現地取材の成果をぜひご覧下さい。今後ともタミヤをよろしくお願いします。
――今後もご活躍を期待しております。ありがとうございました。