レビュー
「祟りじゃ~!」 「figma 多治見要蔵」レビュー
松竹映画「八つ墓村」から、“32人殺し”の多治見要蔵がfigmaに!
2020年8月20日 00:00
ジャンル:アクションフィギュア
開発元:FREEing、monolith
発売元:グッドスマイルカンパニー
価格:12,000円(税別)
発売日:7月11日
「テーブル美術館」や「シューティングゲームヒストリカ」など、「figma」ブランドで一風変わった着眼点のアクションフィギュアをリリースしているFREEing企画・開発の「figma 多治見要蔵」がグッドスマイルカンパニーより発売となった。
1977年公開の松竹映画「八つ墓村」で、狂気に憑かれた“32人殺し”の多治見家先代当主「多治見要蔵」のまさかのアクションフィギュア化であり、「ワンダーフェスティバル2017冬」の同社ブースにて初めて披露され、来場者を驚愕させたことは記憶に新しい。
あれから3年の歳月が流れ、ついにこのフィギュアが発売となった。松竹版「八つ墓村」がトラウマ的に記憶に残っている筆者にとっても非常に気になっていたアイテムであり、今回本稿にてレビューしていきたい。
映画公開は今から43年前。観た人にトラウマを植え付けた怪人物、多治見要蔵
この多治見要蔵が登場する「八つ墓村」は、1977年に松竹系で公開された、野村芳太郎監督による劇場用映画だ。横溝正史氏原作の同名小説の映画化ではあるものの、その内容は大胆に脚色されていて、ミステリーというよりはオカルトやホラーに近い脚本と演出のもとに制作されていた。
筆者は学生時代にこの松竹版「八つ墓村」がテレビ放映されたときに初めて見て、インパクトのあるシーンの連続に衝撃を受けるとともに、この内容が「八つ墓村」のスタンダードだと認識してしまい、後に別の形で制作された映画やドラマの「八つ墓村」を見て違和感を覚えたという思い出がある。本作の金田一耕助役は、なんと「男はつらいよ」シリーズでおなじみの渥美清さん。麦わら帽子に白シャツ姿で、飄々とした様子で事件を調査するキャラクターは、陰湿でドロドロとした物語の清涼剤のような存在でもあった。
そして今回フィギュア化された多治見(原作では田治見)要蔵は、村に財をなす多治見家の先代当主であり、主人公の寺田辰弥の母親、井川鶴子を力尽くで監禁し妾とするが、後に生まれた辰弥とともに鶴子が逃亡したことを発端に狂気に取り憑かれ、村人32人を日本刀や猟銃で惨殺するという凶行に及んだ。
この事件が400年前に村人に惨殺された尼子家の落ち武者の祟りが関連しているのではないかという憶測を呼び、後の展開も本当の祟りを思わせる展開があり、ホラーテイストの強い作品となっている。
寝間着に猟師が着るようなチョッキ、弾帯と自転車用のランプを身に付け、頭に2本のL型懐中電灯を手ぬぐいで巻き、幽鬼のような白い顔で村人を次々と殺めていく様子は、本作を象徴するトラウマシーンとなった。演じているのは山崎努さんで、要蔵の息子の久弥と2役。要蔵としてのセリフは一言もないが、その表情や目ぢからのインパクトは凄まじいものがあった。
狂気の表情や着物の模様など、こだわりの塗装は見どころあり
この「figma 多治見要蔵」は、凶行に及ぶシーンの要蔵の姿を再現している。手に取って最初に感じるのはそのボリュームだ。和服のフィギュアも昨今は珍しくないが、アクションフィギュアとしての動きを意識した着物の造形はかなりボリューミーで、なおかつ弾帯やライトなどの装備品が組み付けてあり、ずっしりと重さを感じられる。
着物なので可動範囲はそれほど広くないが、素立ちでも袖やハチマキが風になびいているような動きを演出した造形で、ヒジを曲げたときの袖に違和感がないように、2つのパーツが独自の形でかみ合わせてあるなど工夫も見られる。
もうひとつの見どころは塗装だ。着物にはストライプの柄がプリントされているのだが、フリーハンドで描かれたような線が全体にプリントされていて、和の趣が強調されている。ハチマキのように巻かれた手ぬぐいには、藍染めの桜らしき花が描かれていて、これはこのフィギュアを手に取るまで気がつかなかった事実だった。
顔は造形とともに、劇中で要蔵が見せた形相を見事に再現している。こけた頬と真っ赤な唇のメイクは歌舞伎の隈取りのようで、眼にはクリア塗装が施してあり、角度によってぎらぎらと光って見える。ライトのレンズのグラデーション塗装や、1つ1つ丁寧に塗装された弾帯の薬莢など、塗装に関する注目点はたくさんあり、個人的にも満足度は非常に高いものとなった。
何より、今から43年も前の映画の登場人物がアクションフィギュアとして企画されたことが、実に革新的だと思った。この8月末には1976年公開の「犬神家の一族」より「犬神佐清」の発売が控えていて、こちらも楽しみなわけだが、個人的には同作とそのシリーズで石坂浩二さんが演じた金田一耕助が欲しいと思っているのだが、どうだろうか。
本来ならこの夏には、要蔵や佐清に続くような、フィギュアファンがあっと驚くようなラインナップがイベントなどで披露されていたはずだ。この2人ほどのインパクトのあるキャラクターが出てくるのかどうかはわからないが、ファンの予想の斜め上を行くアイテムに今後も期待したいと思っている。
(C)1977 松竹株式会社
(C)KADOKAWA 1976