レビュー
プラモデル「IMS 1/144 scale A・トール BS」レビュー
永野護氏の繊細なデザインを立体物で堪能できる楽しさ
2021年3月17日 00:00
- 「IMS 1/144 scale A・トール BS」
- 開発・発売元:ボークス
- 発売:2016年1月
- 価格:7,480円(税込)
- ジャンル:プラモデル
- サイズ:全高約190mm
- パーツ数:308
永野護氏のコミック「ファイブスター物語(以下、「FSS」)」をご存じだろうか? 1986年から「月刊ニュータイプ」で連載を開始し、休載を間に挟みながら現在でも執筆が続いているコミックだ。物語は巨大人型兵器MHや、それを制御する人造人間ファティマなどが登場するSFである。
永野護氏は1984年のアニメ「重戦機エルガイム」でメインデザイナーとして抜擢され、メカデザイン、キャラクターデザイン、世界観の構築までも関わっている。その後も百式やリックディアス、キュベレイなど「機動戦士Zガンダム」に登場するMSのデザインを手がけ、OVA「ブレンパワード」のメカデザインなど様々なデザインを行なっている。彼が手がけるメカは高い人気を得ている。
その永野氏のライフワークが「ファイブスター物語」である。本作は「エルガイム」と同じ「5つの星の物語」であり、登場するメカ「モーターヘッド(以下、MH)」にも類似性が見られる。今回取りあげる「A・トール BS」も、頭部デザインは「エルガイム」の「アトール」の“烏帽子形兜”の形状と同じもので、ファンは「エルガイム」からの流れも含めて楽しんでいる部分だ。
永野氏の緻密で繊細なデザインで描かれる巨大人型兵器MHは特別な魅力がある。今回挑戦したのはボークスのプラモデル「IMS 1/144 scale A・トール BS」は、この美しいデザインを立体物で再現しようというプロダクトだ。
本商品は2016年の商品だが、様々なプラモデルを紹介したいという所と、筆者にとって憧れだったこと、ボークスのオンラインショップで再販分が入手できたことで今回取りあげていく。作例などでは非常に美しく、かなり難易度が高そうなプラモデルだが、スミ入れと、目の部分、本体の黄色部分のみ筆塗りで挑戦してみた。
結果として筆者でも組み立てることができ、永野氏の繊細なデザインをたっぷり堪能することができた。「FSS」をテーマにしたボークスのプラモデルシリーズ「IMS(Injection Assembly Mortar Headd Series)」シリーズにもこれまで以上に大きな期待を持った。商品の魅力を語っていきたい。
メカデザイナー永野護氏が展開する「FSS」のロボット“モーター・ヘッド”
まずはもう少し「IMS 1/144 scale A・トール BS」のモチーフであるA・トールを掘り下げたい。「FSS」におけるロボット・MHは、約20万分の1という割合で生まれる“超人”である騎士が、人造人間・ファティマのサポートで動かす兵器である。
騎士は超古代の遺伝子改造された“戦闘人種”の遺伝子が顕在化した存在であり、時速数百キロでの疾走や、手を振るだけで衝撃波を生じさせる力を持っており、レーザーすら目視で回避できる。その優れた戦闘能力によって操縦されるMHは他の兵器では太刀打ちできず、この世界では戦争は各国の代表たる騎士が操るMHによって決せられる。
A・トールはボォス星での一番大きな国家「ハスハ連合共和国」の騎士団が駆るMH。大型のフレームを採用しており、顔の中央に1つ目のような巨大なセンサーをつけているのが大きな特徴。両肩に可動アームと盾による「ラウンドバインダー」を持っている。第1騎士団の「A・トール BS」は陣羽織のような肩の装甲を備える重装甲のMHだ。A・トールは騎士団で大きく姿を変えるのも特徴で、「A・トール BS」以外にも、様々なバリエーションが存在する。
「FSS」の楽しみの1つは、「重戦機エルガイム」との関わりである。「FSS」は数万年の事柄が設定されており、コミックで描かれる物語はその中の数行の記述にすぎない。「エルガイム」の物語も大きくアレンジを加えられながらこの年表に織り込まれている。MHやキャラクターにも関連性を匂わせるものがあり、A・トールは「エルガイム」に登場した「アトール」という機体の頭部や足のデザインに関連性がある。
実は「FSS」のMHや世界設定そのものはその後大きな“変革”がもたらされるが……このことは後で語ろう。
これまでMHはボークスを始め、ウェーブや海洋堂などで様々な立体物が販売された。ボークスのプラモデルシリーズ「IMS」は、インジェクション(射出成形)によるパーツにより、MHの造形を再現しようというシリーズ。様々なMHを非常に細かく表現しているシリーズでファンの評価も高い一方で、作例からも難易度が高いイメージがあった。このキットがどんなものか、以前から体験してみたかったのだ。A・トールはマッシブでカッコ良く、挑戦するならこの機体だと思っていた。ではいよいよ組み立てていきたい。
繊細なデザインを組み立てて堪能できる楽しさ
パッケージを開けて感じたのは、「パーツが多い!」と言うところだった。12枚のランナー(パーツのミスを修正したランナーが2枚付属し実際には14枚)が箱にギッシリ入っており、かなりのボリューム感だ。
本商品のスケールは1/144、「ガンプラ」では1/144はHGシリーズという「プラモデル入門」のイメージがあるが、HGシリーズの標準的なキットでは6から8枚程度、10枚を越えるとなると1/100スケールのMG並みという所だ。実際パーツ分割も細かく、MG相当のプラモデルを作っている印象だった。
今回敢えて“塗装”を加えたのは、A・トールの最大の特徴である顔の中央のセンサーがキットの状態だと塗り分けられてないためだ。センサーの色は鮮やかな黄色であり、タミヤカラーの「フラットイエロー」を使った。A・トールは盾も含めいくつかの場所に黄色が差し色として使われている、今回はこれらもこのフラットイエローで塗装した。
本商品では大きな魅力である“顔”から組み立てる。この“目”の部分の塗装が最初の作業となった。実はA・トールは顔中央の“モノアイ”の様に見えるセンサーだけでなく、その左右に他のMHと同じように目があるのだ。このため基部を黒に、瞳部分を赤で塗装した。この瞳のあるロボットというのは、永野氏がデザインした「エルガイムMk-II」を思わせる。カバーで隠されて見えない場合もあるが、MHは瞳(目玉)を持っており、ここを塗装で再現できるのは楽しかった。
いくつかのパーツを組み合わせて顔が出来、この周囲に様々なパーツをつけ頭部が完成する。MHはとても顔が小さく、逆に頭パーツは大きい。これは首部分に騎士のコクピットがあるのに加え、頭にファティマのコクピットがあるからだ。A・トールは加藤清正が使っていた烏帽子型兜に似た上に長い頭部を持っている。いくつものパーツを組み合わせて頭部ができた時には結構満足感が得られた。
本商品は接着剤を使用する。粘度の高い通常のものを使う場面が多いが、流し込みタイプがあると便利だ。細かいパーツを接着する場合通常のものだと塗布する接着剤が多くはみ出してしまう。少量で流し込みしっかり接着できる流し込みタイプは、モールドの細かい本商品に特に向いていると感じた。
「IMS 1/144 scale A・トール BS」の大きな特徴は細かいパーツ構成である。いくつもの細かいパーツを組み合わせて、MHの各部を組み立てていく。パーツはかなり細かいモールドが描かれており、これらを組み合わせると、「FSS」で永野氏が描くMHそのままの、情報密度が濃いメカが組み上がっていく。今回はこのモールドを際立たせるため、各部にスミ入れをしながら組み立てていった。
スミ入れは「ヘタ仙人の「プラモデルを楽しもう!」、失敗したら指で消せ! 簡単にプラモデルの魅力を倍増させる「スミ入れ」の世界」で紹介されていた、「ガンダムマーカー流し込みスミ入れペン」を使った。押しつけるだけでモールドに塗料が流れ込み、失敗しても「消しペン」で消せる。線状のモールドだけでなく、穴状の装飾部分の上から雑にペンでなぞるなど、積極的にモールドを塗っていった。