レビュー
Nゲージ鉄道模型「京商 リビングトレイン」シリーズレビュー
窓辺に新幹線があるとココロが落ち着く。小さくて大きな存在感
2021年11月18日 00:00
- 【リビングトレイン】
- 10月9日発売
- 価格:3,850円(税込)
- 全長:約400mm
- 重量:約250g
- ラインナップ:
- 東海道新幹線0系
- 東海道新幹線N700S
- 北陸新幹線 E7系
- 東北新幹線 E5系
- 【スイッチバックレールセット】
- 10月9日発売
- 価格:3,278円(税込)
洋画に登場する書斎や居間の雰囲気が好きだ。とくに窓辺の飾りに登場人物の嗜好が現れる。帆船模型やボトルシップがあると高級感があり、この部屋の主は趣味人だなと親しみを感じる。こんな風におしゃれに、さりげなく鉄道模型を飾りたい。そんな私のハートを射止めたアイテムが京商の「リビングトレイン」だ。
「リビングトレイン」は京商のトイモデルを取り扱うブランド「京商エッグ」の商品で、単体だとダイキャスト製のNゲージ鉄道模型。これに別売りの「リビングトレイン スイッチバックレール電動式セット」を使用すると短いレールの上を行ったり来たりする、"走る"光景を見ることが可能だ。鉄道模型はレールを敷き、コントローラから電源を供給しないと走らないが、「リビングトレイン」は、手軽に車両を動かすことができるのだ。
本商品のラインナップは「東海道新幹線0系」、「東海道新幹線N700S」、「北陸新幹線 E7系」、「東北新幹線 E5系」の4種。今回「リビングトレイン スイッチバックレール電動式セット」とともに鉄道ファンの視点からレビューしていきたい。
寂しかった僕の居間にバラ……じゃなくて新幹線が来た
京 急電鉄の赤い電車が見える部屋を引き払い、実家に戻った。将来の老老介護の準備とはいえ、母は元気で食事も洗濯もこなしている。住宅ローンの支払いはなくなったし、駐車場もタダ。良いことずくめだけど、私鉄の駅から遠い我が家の窓から電車が見えない。これがどうしようもなく寂しい。仕事部屋は車窓動画やライブ配信を流しているけれども、居間は寂しい。
そんなとき、知人2人から同時に「京商がリビングトレイン発売」の知らせが届いた。ひとりは本誌の編集者、もう1人は旧知のITライターだ。「2021年3月にファミリーマートで先行発売されます。京商さんに紹介しますよ」と申し出をいただき、ありがたくお願いした。しかし返事を待ちきれなくて、すぐさま近所のファミマへ行き、「0系」と「N700S」を購入した。どちらも4両セットで3,850円と手頃な価格。ちょうどその時、PayPayのキャンペーンもあって背中を押された。
さっそく居間の出窓に並べてみた。ズッシリと重みがあり、先頭車は本物そっくりの造形だ。つややかな塗装に高級感もある。じつはラジコンカーのイメージが強い京商が、なんで鉄道模型を作ったのか不思議だった。しかし京商はラジコンだけではなく、ダイキャスト製高精密ミニカーのファンも多いという。なるほど、そのノウハウで鉄道車両のダイキャストモデルを作ったわけだ。
Nゲージ(1/150)サイズだけど、1車両の長さは短縮され、4両編成で40センチくらいだ。リアルサイズではないけれど、プラレールほどオモチャっぽくない。なんともかわいい姿だ。このデフォルメのおかげで、花瓶や写真立てと共存できているように思う。リアルスケールだと、どうしても駅などを置いてジオラマにしたくなっちゃうから。
それにしても、この上品な姿は洋画の窓辺の帆船模型やボトルシップに通じるではないか。そしてなにより、その居間に飾って母が反対しないからホッとした。ガチガチの鉄道趣味丸出しではなく、さりげない鉄道好き感で、むしろ気に入ってもらえたようだ。
その後、京商から正式販売された新型車両の「0系」、「N700S」、「E5系」、「E7系」と「スイッチバックレールセット」、全シリーズのサンプルを借りることができた。居間の窓辺が車両基地になった。とても良い見栄えだ。しかし、スイッチバックレールセットの作動音は賑やかで、こちらは母のいない日に遊ぼうと思っている(笑)。
精巧で大胆なデフォルメの美しさ、各車両をチェック
ひとつひとつの車両を手に取ってみると、特徴の捉え方、カッコ良さが伝わってくる。東海道新幹線「0系」は東海道新幹線最初の車両だ。運転席窓ガラスには編成番号の「S1」と描かれている。これは近畿車輛という車両メーカーが作った1編成目。東海道新幹線開業時の車両だ。客席窓ガラスは2列にまたがる「大窓」タイプ。1964年から1975年までの作られた車両の特徴だ。1976年以降は飛び石などの破損で交換しやすいように、座席1列分の小窓タイプになり、現在のN700Sまで継承されている。
私が「0系」の模型を見るとき、最初にチェックする場所は屋根上の通風口だ。実はここ、左右で向きが違う。山側は線路と平行、海側は線路に対して垂直。タテとヨコだ。ここがしっかり作られていると「細かいところまでわかっている」と思う。ただし、先頭車両は同じだから、編成を組むと1台だけ通風口が揃わない。そこはちょっと残念だけど、あまり目立つところでもないから許せる範囲だ。
先頭部はずんぐりした「ダンゴ鼻」。当時は斬新な流線型として認知され、この顔を見れば新幹線だった。しかし後発でさらに鋭角な100系が登場すると、丸さに愛嬌を感じる人が多くなって「ダンゴ鼻」と呼ばれた。鼻の部分は連結器カバーで、その真横にヘッドライトがあり、顔に見立てたイラストも広まった。リビングトレインの0系は、ダイキャスト製と塗装で、ぽってりとした顔つきを再現している。かわいいし懐かしい。
「N700S」は東海道新幹線の最新型車両だ。0系に比べると先頭車は鋭角になった。この造形は「デュアル・スプリーム・ウィング」という。N700系、N700Aの「エアロ・ダブルウィング」に似ているけれども、客室の車体断面の肩から先端までを結ぶ直線的なラインがエッジを立てた、という感じで強調されている。正面に当たる空気を左右に切り分けるためだと言われている。
このエッジラインの段差はリビングトレイン版ではやや誇張され、N700Sの特徴がわかりやすい。もし今後リビングトレインで700系「カノモノハシ」やN700Aが登場したら、違いがハッキリわかるだろう。筆者は直線的なデザインが好きだから、このほうがカッコいいと思った。実物もこのくらいやってほしかったと思うほどだ(笑)。先頭車は中間車より屋根が低く、中間車連結面で隣の車両に合わせて少し高くなる。そんな特徴もよく捉えられている。N700Sだけではなく、リビングトレインが目ざしたデザインは「4編成の編成美」なのだろう。
窓下の2本の青いラインはすこし残念で、実車は窓下のラインがもっと太い。しかし、車両の長さを短くしているから、ここだけを太くするとバランスが悪いかもしれない。先頭車のヒゲラインはN700Sの象徴で、しっかり塗装されていた。愛称ロゴ「Supreme」は金色のシールだ。先頭車運転台に表示された「J1」はJR東海所属の1番目の編成を示す。JR西日本所属編成の記号はHだ。
「E5系」はJR東日本が東北新幹線の最速列車「はやぶさ」向けに投入した車両だ。国内最速の時速320キロ運転を実施する。先頭車がN700Sよりも鋭角になっている理由も時速320キロだから。列車がトンネルに突入すると、空気鉄砲と同じ原理によってトンネル出口で破裂音が出る。その音が環境規制値を超えてはいけない。だから先頭車をできるだけ鋭角にして、トンネル突入時に空気の圧力を分散させる。
E5系の先頭車の造形ものっぺりしていて実は複雑な曲線の組み合わせだ。その形状がよくわかる。実物だと、なんとなく鼻が長すぎてアンバランスに見えるけれど、リビングトレインのE5系をみるとカッコ良さを再発見できる。真上から見ればグリーンの部分がスケートボードのようで、見事なくびれになっている。屋根から運転席回り、そして先端にかけては磨き上げられた面が浮かび上がる。
そしてなによりも塗装が美しい。車体上部のメタリックグリーンは実物ソックリ。実物の色名称は「常盤グリーン」という。由来は杉や松などの常緑樹を「常磐木(ときわぎ)」といい、そのみどりを常に変わらぬ色として「常磐色」「常盤色」と呼んだから。そして、緑は東北新幹線のシンボルカラーでもある。国鉄時代に開業したとき、0系にそっくりで緑色にした「200系」が走っていた。
リビングトレインのE5系は、この常盤グリーンを窓辺に並べただけで満足できる。車両下半分は白。防音のため床下機器をカバーしているため面積が大きい。緑と白の間のピンクは先代車両のE2系の帯色で、この帯は先頭車両の運転席回りでカーブを描く。この処理も見事だ。このラインが「玩具ではないな、模型だな」と思わせる。
置いて眺めてよし、手に持って光に当てつつ角度を変えれば、造形とメタリックグリーンの塗装の出来に納得だ。屋根の端の黄色は、洗車や点検作業で屋根上を歩く人に車端部を知らせるため。これも上から眺める人には良いアクセントだ。
塗色の美しさといえば「E7系」だ。リビングトレイン4車種のなかで、最も美しい。深みのあるブルーの屋根、温かみのあるアイボリーの車体、それらを引き締める帯はカッパー(銅色)だ。さらにアクセントラインとしてブルーの細い帯も入る。スピード感だけではなく、落ち着いた高級感を醸し出す。日本の伝統文化を意識した配色だ。金沢、兼六園にある重要文化財、成巽閣の「群青の間」を意識しているという。
一方、「E7系」の先頭車の造形はあまり凝っていない。鼻も短く、N700SやE5系に比べると素直な流線型だ。シンプルで塗装同様に落ち着いている。これは北陸新幹線が「最高時速260キロ」で設計されているため。国鉄時代に作られた新幹線とは違って、整備新幹線は国が建設してJRに貸し出すという枠組みだ。税金を使って作るわけだから、防音コストは最低限にする。その基準が最高時速260キロだった。
ただし、シンプルな造形だからといって、デザイン性を放棄したわけではない。運転室回りの黒い部分は戦闘機のコクピットのイメージだ。正確には、戦闘機のコクピットをイメージした新幹線電車「500系」のデザインを引き継いでいる。500系は、JR西日本が山陽新幹線に投入した新幹線車両で、日本で初めて営業運転の最高時速300キロを達成した。後に東海道新幹線でも運行し、東京~博多間の「のぞみ」でも走った。鋭い鋭角の先頭車はドイツ人デザイナーによる。現在も山陽新幹線内で現役。根強い人気を持つ。ぜひ、リビングトレインで製品化してほしいと思う。
「E7系」に話を戻せば、やはり塗装の色使いと美しさの点で、手にしたときの満足度が高い仕上がりだ。実車のコンセプト通り、まるで伝統工芸品を手にした喜び。この車両は洋窓だけではなく、和室の障子窓や床の間にも似合いそう。
リビングトレインで違和感を持つとすればパンタグラフがないこと。たとえば「0系」は2両に付き1基のパンダグラフを装備しているから、4両編成であれば本来は2基のパンタグラフが必要。しかし「リビングに置く」というコンセプトなら、むしろパンタグラフはいらない。パンタグラフがあれば、ハンディモップで掃除を売るときに引っかかってしまうではないか。リアルにこだわるなら精巧な鉄道模型を飾ればいい。リビングトレインは、デフォルメの美しさ、楽しさを楽しむアイテムだ。
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リビングトレインは京商のなかでも「トイモデル」を扱う「KYOSHO EGG」ブランドのラインアップだ。「KYOSHO」ブランドは本格派ラジコン、高級ミニカーを扱う「ホビー」で、「KYOSHO EGG」が「トイ(玩具)」ということらしい。ドラえもんが空を飛ぶラジコンや、マリオカートのラジコンカーがある。リビングトレインも「動く」。飾っておくだけで充分満足だけど動く。もちろん動けば嬉しい。
その動かし方がとてもユニークだ。別売りの「スイッチバックレールセット」はプラスチックの筒のような形で、筒の上面にレールが成形されている。この筒の中を動力ユニットが往復する。動力ユニットの上部に磁石があって、先頭車の下にも磁石が組み込まれている。つまり、動力ユニットが動くと、磁石で誘導された車両も走る。こんな仕組みだから曲線はできない。延長レールも販売されており、直線であればかなり長距離も運行できる。「スイッチバックレールセット」には車両を線路に載せやすくするための「リレーラー」という道具が付属している。これは車両セットのほうにも入れてほしかった。
冒頭でも触れたように「走行音」は残念だ。プラスチックの筒の中で、筒の底の凹凸と動力ユニットの歯車を噛み合わせるしくみだから、音は大きいし、筒の中で反響する。プラスチックの筒の震えはバイブレーターのように接地面を響かせる。筒の下にマフラータオルを置いてみたら少しは音を低減できたけど、ふだんの生活の中で常時走らせる用途には向かない。残念ながら音だけはリビングに向かない。これはリビングトレインだけではなく、動く玩具の宿命だろう。でも、もともと窓辺に飾る列車だからこれでいい。リビングに招いた来客を喜ばせるには充分なシステムだ。
この動力システムは鉄道模型ファンも注目しているようだ。線路はNゲージだから、市販のNゲージ鉄道模型を飾れる。しかも、車両の下に磁石を取り付ければ走行可能だ。このシステムなら、高価な動力車両を買わなくても、100円ショップで売っている磁石を取り付けるだけで走行できる。
しかも、動力ユニットは歯車を噛み合わせて進むから急勾配も可能だ。実際の鉄道にも同様な「ラックレール」という方式があり、スイスの山岳鉄道や、日本の大井川鐵道井川線が採用している。直線しかないとはいえ、リビングトレインの「スイッチバックレールセット」はかなり急勾配を運行できる。メーカーとしては水平に設置してほしいだろうから自己責任ではあるけれども「ジオラマの山岳に組み込んでケーブルカーを走らせたい」というtweetもあった。
京商の「リビングトレイン」は「窓辺や書斎の飾り棚に新幹線がある暮らし」を提供する、とても好ましい商品だ。今後も新幹線車両を発売してほしい。特に筆者から500系をリクエストしたい。引退したばかりの2階建て「E4系」もほしい。手頃な価格だから、乗ったことがある車両というテーマで集めたくなる。私鉄特急、在来線など、ミニカーに続く新たなラインアップとして発展することを大いに期待する。