レビュー

「ARTFX J ラム/うる星やつら」レビュー

1980年代、原作デザインのラムのフィギュアを現代に手にできる幸せ

【ARTFX J ラム】

開発・発売元:コトブキヤ

8月31日発売

価格:18,700円

ジャンル:フィギュア

サイズ:全高約237mm(台座含む)

材質:PVC(非フタル酸)・ABS

原型製作:Salle cato

 コトブキヤの「ARTFX J ラム」は、2022年のアニメ版「うる星やつら」のヒロイン・ラムをモチーフとしたフィギュアであるが、往年の「うる星やつら」ファンにはもう1つ、最新フィギュア技術で表現された「原作デザインのラム」という意味合いがある。

 「うる星やつら」は高橋留美子氏のマンガで1978年から1987年まで長期連載され、特に1981年のアニメ化で一気に人気を爆発させた。6本の劇場アニメも製作され、1980~1990年代を代表するマンガ/アニメ作品と言えるだろう。しかしこの時代はまだフィギュア文化は未成熟で、ヒロイン・ラムのクオリティの高いフィギュアはなかった。ガレージキットなどは存在していたが、一般のユーザーが手軽に購入できるハイクオリティなフィギュアはなかったのである。

 原作デザインのラムのフィギュアが販売されるきっかけになったのがまさに2022年のアニメ版「うる星やつら」である。このアニメは"原作エピソード"を重視する姿勢を最初から発表し、キャラクターデザインもコミックス版に近づけている。そのアニメ版のラムをモチーフにした「ARTFX J ラム」は筆者にとって1980年代に夢見た「あの頃のラムのフィギュア」だと感じた。今回フィギュアを手にし各所をチェックし、その魅力を楽しむことができた。「ARTFX J ラム」をレビューしていきたい。

【ARTFX J ラム】
モチーフは2022年のアニメ版「うる星やつら」であるが、ファンにとって"原作デザインのラムのフィギュア"という意味合いもある。当時手に入らなかった夢のアイテムが目の前にあるという感慨が生まれる

最新フィギュア技術で表現される、1980年代に夢見たラムの立体物

 最初にラムというキャラクターをもう少し掘り下げていきたい。ラムはマンガ「うる星やつら」の第1話に地球侵略を企む鬼族の代表として現れる。主人公・諸星あたるは地球人代表としてラムと地球の命運を賭けた"鬼ごっこ"を繰り広げることとなる。結果、あたるはラムに勝つが、ラムは試合中のあたるの言葉「勝って結婚じゃぁ~」を勘違いし、押しかけ女房としてあたるの家に住んでしまう。

 最初、ラムは"ゲストキャラクターの1人"という立ち位置だった。諸星あたるは不幸を呼び寄せる体質で毎回彼にとんでもない不幸が訪れるというのが初期の展開だったが、ラムの人気は大きく、物語の主人公と言えるまでに存在感を強めていく。

【新装版うる星やつら】
「うる星やつら」は連載中も絵柄が変わっているが、新装版に描かれているラムはかなり洗練されている。白目が大きく、瞳が小さいのも特徴だ。見比べるとフィギュアはかわいらしさに寄せ、瞳が大きい

 ラムはやはりキャラクターとして立った。セクシーな虎縞ビキニで、空を飛び、電撃を出せる。初期のデザインは妖艶な感じだったがどんどんかわいらしく絵柄が変化していった。あたるをダーリンと呼び一途に追いかける。その愛情表現が"電撃"なのがおかしい。愛情たっぷりに作るのは激辛料理で、あたるの好みに合わせるとかそういう媚びるところがない。ひたすら自分の価値観で突っ走るところは、それまでのおとなしいヒロイン像を打ち破る新鮮さがあった。

 あたるは常識を越えた女好きで、拒絶されようが逃げられようが女性に向かって猛烈なアピールをし続けるが、ラムには冷たい。それでいながらラムが他の男に関心を向けるのはイヤなのだ。通常のラブコメはお互いが"好き"を言えずに展開するが、「うる星やつら」では、ラムの好きに対してあたるが逃げ回りながら、時々チラリとラムを振り返るというユニークな関係を中心に、高橋留美子氏の独特なSF要素やユニークな価値観で物語が展開していく。その中で作品の顔として、魅力的なヒロインとしてラムは多くのファンを獲得した。

 アニメはまた独自の要素が盛り込まれ、監督の押井守氏や、制作会社のスタジオぴえろ、キャラクターデザインの高田明美氏や、脚本の伊藤和典氏などファンがクリエーターや制作会社に注目していくきっかけとなった。あたるとラムの微妙な関係性や、「うる星やつら」の魅力的なキャラクター達は同人誌の題材としても多く取り上げられ、「うる星やつら」はまさに「日本のアニメ文化」を先導する存在だったと言える。

 ムックやビデオなども抱負に発売されたが、フィギュアはなかった。当時"フィギュア文化"は未成熟だった。クオリティの高い、原作の雰囲気を忠実に再現し、簡単に入手できるラムのフィギュアは存在していなかったのである。フィギュアは当時望んでも得ることはできなかった。現代、当時ではかなわなかった夢が叶ったのだ。原作後半のかわいらしいラムのデザインそのままのフィギュア、それが今回発売された「ARTFX J ラム」である。

ソフトクリーム片手に中を舞うラムの姿を表現したハイクオリティフィギュア

 まずは全身を見ていこう。2022年アニメ版のラムのデザインは、改めてマンガ版「うる星やつら」のラムのデザインを継承していることがわかる。1981年版のアニメではラムの髪の毛は緑一色だったが、マンガ版は頭頂部が黒だったり、毛先に濃い緑が使われていたり、複雑な配色が行われていたのだ。フィギュアはその雰囲気を見事に現している。ちなみにマンガ版では緑とは別に赤い髪で表現されることも多かった。

【フィギュア全景】
ソフトクリームを片手に、軽やかに宙を跳ねるラムの姿を立体化。ラムの気ままな雰囲気を表現しているポーズだ。背景のネオン管も1980年代風だ

 ポーズは空を飛んでいるイメージ。ラムはスーパーマンのように自由に空中を飛翔するのではなく、ポンポンと空中に足場があるかのように跳ねるように飛ぶのだ。現代の目で見ても過激な虎縞のビキニで軽やかに空中を跳ね回るラムはオンリーワンの魅力がある。つり目で、まぶたにはアイシャドウが塗られている"化粧"をきちんと意識したデザインも当時は真新しかった。それでいて顔半分ほどの大きな目、白目が目立つ瞳というのは1980~1990年代風のアニメデザインだ。

大きな目、遠くを見ているような視点、複雑な配色の髪の毛、マンガ版「うる星やつら」をベースにしたデザインなのが嬉しい

 なにより台座のチェッカー柄にネオン管の飾りが良い。わたせせいぞう氏の1980年代のイラストに出てきそうな雰囲気なのだ。2022年版「うる星やつら」は、舞台設定も1980年代で、あたるが家で使うのは黒電話だったり、オブジェクトなども当時の時代のもの。台座のネオン管はそんな"当時の雰囲気"を演出してくれる。次章ではフィギュアのより細かい部分をチェックしていこう。

バブル期を思わせるネオン管の台座。時代を感じさせる小道具だ

薄い生地を感じさせるビキニや、脇の下や膝裏の"血色"を感じさせる生っぽい表現にも注目

 「ARTFX J ラム」の大きな魅力はやはり顔だ。この白目がはっきり目立ち、瞳が小さい目のデザインは現代ではちょっと懐かしさを感じさせる表現だが、やはり魅力的だ。視線はちょっとどこを向いているかわからず、カメラを動かしてもどこか遠くを見ているようになっている。これはフィギュアを手にしているときにフィギュアと目が合ってしまうとなんとなく照れてしまう、というユーザーの意見を反映しているとのことだ。

 この遠くを見ている視線は、ソフトクリームを片手に空を飛ぶポーズにすごく合っていると思う。ラムはどこか猫を思わせるところがある。あたるを追いかけていて他の人は見ないという一途さや、宇宙人という立ち位置、ビキニの姿というセクシーなのにそれを全く意識してない無防備さなど、ラムには独特の"非現実感"があり、表情とポーズはそれを強調しているように思える。近いのにちょっと遠い、不思議な透明感がある。

【表情と髪の毛】
顔のアップ。目の縁はつり上がっておりアイシャドウもしっかり描かれている。マンガ版は元々はきつい顔立ちだったが、連載が続く中でどんどんかわいらしくなっていった。頬のチークもかわいらしい
左の横顔はより"高橋留美子風"が強まる感じがする。独特の透明感がある
右横顔は幼い感じがする
ボリュームたっぷりな髪の毛。縁の塗り分けがユニークだ
複雑な髪の毛の塗り分けは原作ファンには特に嬉しいところだ

 水着姿のフィギュアは多いが、ラムの場合これが普段着というのが面白い。「ARTFX J ラム」のビキニの表現は凝っていて、きちんと素肌に布を纏っているように布状の樹脂をかぶせて表現している。胸などはのぞき込むとチラリと肌部分が見えて艶めかしいし、大胆に出ているお腹部分なども意識するとセクシーなのだが、全体的に色っぽい感じは薄い。お尻部分も面積は小さく、モモと布部分の境界線はかなりリアルでちょっとドキッとする。

 写真では伝わりにくいが「ARTFX J ラム」の見所は肌の塗装だ。白く艶やかな肌を樹脂の成型色で表現するのはこれまでのフィギュア技術で磨かれた部分だが、「ARTFX J ラム」では脇の下や膝、おへそを中心としたラインアドに薄くピンクの"スミ入れ"がされていて、これがとても艶めかしいのだ。真っ白なフィギュアの肌に血が通っているかのような、独特のリアリティを加えてくれる。

【ボディ】
セクシーさとかわいらしさを併せ持つボディ。プロポーションは昨今のフィギュアに比べ凹凸は少ないボリュームだが、逆に年頃の女の子っぽい生っぽさがある
胸のアップ。ブラ部分は薄い樹脂で体を覆っているのがしっかりわかる造型だ。チラリと見える下乳が色っぽい
ブラの紐もしっかり表現
パンツ部分。こちらもこぼれる太ももとお尻の境界線が良い
柔らかい曲線を描くボディは健康的でかわいらしい
太もも、膝と、細かいところをじっくりチェックしたくなる
ブーツも薄い布製なのがわかる

 「ARTFX J ラム」の肌表現で一番見事なのは、やはり左腕の脇の下だろう。素肌であるためかなり力の入った造型がされていて、人体としてのリアルさ、フィギュアとしての色っぽさ、ラムのかわいらしさの上で、重要なポイントになっている。フェティッシュなところでもあるが、こういった"部分"を細かくチェックすることで、キャラクターをマンガやアニメでは表現できない近さと、感じられない実在感をしっかり体験できるのだ。こういった隅々までキャラクターを"味わう"ことができるのは、フィギュアならではだろう。

【ディテール】
指先は爪もきちんと造型され、艶やかなパール塗装がされている
左脇の部分はこのフィギュアの注目ポイントだろう。照明でわかりにくいが、薄くピンクの塗装がされている
膝裏の造型や塗装もしっかりしている

 最後は背景を入れて写真を撮ってみた。「ARTFX J ラム」は台座がしっかりと世界観を主張しているので世界観としては完成しているのだが、花を背負わせたり、背景紙を加えることでイメージを加えることができる。画像加工ソフトで壁紙を加えてみるのも面白いかもしれない。今回はわざと絞りを開放してソフトフォーカスも狙ってみた。顔意外の背景をぼかすテクニックはもっと工夫することでキャラクターをより引き立たせられそうだ。

【背景を配置】
造花の百合の花を配置してみる
背景紙を変えると雰囲気が変わる
絞りを開放し、周囲をボケさせてみた

 「ARTFX J ラム」は、筆者がかつて夢見た「あの頃のラムのハイクオリティフィギュアが欲しい」という願いを叶えてくれたアイテムだ。今回はアニメ化がきっかけではあるが、「当時のキャラクターを現代の技術でフィギュアに!」という流れは現代間違いなく来ており、コトブキヤにはこれからもっともっと1980~90年代キャラクターのフィギュア化に挑戦して欲しい。

 「うる星やつら」で言えばやはり制服姿のラムも欲しいところだ。ビキニが普段着のラムの制服姿は独特のかわいらしさがある。高橋留美子作品では「めぞん一刻」の管理人さんも熱望したいところ。「ARTFX J ラム」といった商品をきっかけに、あの頃のキャラクターをフィギュアに! という波はどんどん大きくなって欲しい。