レビュー
「トミカプレミアム SORA-Q & SLIM」レビュー
玩具技術が宇宙で活躍、NASA提供の写真と合わせて活躍シーンを再現!
2025年1月27日 12:00
- 【トミカプレミアム SORA-Q & SLIM】
- 開発・発売元:タカラトミー
- 1月20日発売
- 価格:2,750円
- 全長:
- 約5cm(SORA-Q)
- 約6.5cm(SLIM)
- 重量:
- 約56.4g(SORA-Q)
- 約122.7g(SLIM)
タカラトミーはフィギュア「トミカプレミアム SORA-Q & SLIM」を1月20日に発売した。本商品はJAXAによる日本の無人月面探査機・着陸機「SLIM(スリム:Smart Lander for Investigating Moon)」とそれに搭載されていた小型の変形型月面探査ロボット「SORA-Q」をモチーフとしたフィギュアだ。
SLIMは2024年1月20日に計画通り月面に着陸、しかし予定していた太陽電池が作動せず、予想と異なる着陸をしたことが確認された。その後太陽の向きが変わることで電力は得られ、月面の画像を送信、公開されるものの数度の電力回復と通信を試みるものの応答を得られず、2024年8月に運用が終了された。
SORA-Qはタカラトミー、ソニーグループ、同志社大学とJAXAが開発した小型の変形型月面探査ロボット。その機能や変形メカニズムにはタカラトミーの玩具技術が生かされている。運用上の名前は「LEV-2(レブツー:Lunar Excursion Vehicle 2」であり、SLIMから着陸時に月面に射出された2つめのロボットだ。このSORA-Qが撮影した画像からSLIMが予定とは異なる着陸をしたということが確認できた。トラブルにおいて、大活躍したロボットと言えるだろう。
SORA-Qの大きさは直径80mmのボール状から幅123mm、高さ90mmに変形する。SLIMは全長2.7m、本来大きさが全く異なるこの2台を、トミカとしてどちらも手のひらサイズで表現している。月面を模した台座に飾ることで、着陸したSLIMと、それを撮影するSORA-Qをイメージしたジオラマにできる。
今回はートPC で写真を表示し背景にして、SORA-QとSLIMの活躍シーンをイメージした撮影も行ってみた。商品の魅力を紹介したい。
タカラトミーの技術が宇宙に! SLIMに運ばれた小型ロボSORA-Q
まずはモチーフとなるSLIMとSORA-Qを掘り下げてみよう。SLIMは日本初となる月面への軟着陸を実現するために設計された。しかも世界で最初である「ピンポイント着陸」、指定した座標から誤差100mという極めて高い精度の着陸を目標としていた。
「目指したところにきちんと着陸させる技術」は、今後の宇宙開発において強く求められる技術だ。SLIMのメインミッションは月への「ピンポイント着陸」である。さらに「着陸に必要な装置の軽量化」、「月の起源を探る」といった目的も持たされている。
SLIMは胴体は燃料と酸化剤を一体としたタンク。背中側に薄膜太陽電池を広く広げ、反対の腹と言える部分は着陸脚。尾部のスラスタはメインスラスタ2本の周りに補助スラスタを12本配している。航法カメラを2つ搭載、分光カメラや着陸用のレーダーアンテナなどを駆使して月面に着陸し、その月面を撮影するという機能のみに特化した構造となっている。
月への着陸シーケンスはまず地球の周りを周回しながらタイミングを見計らい、月の重力を利用して楕円軌道、地球に引かれる重力を活用したスイングバイによって月にたどり着く。カメラで月面を撮影することでSLIMが自分で月面のどこにいるか認識、月の「神酒の海」と呼ばれる場所に着陸する。月の高度15kmから姿勢制御を行い、高度7kmで月面にスラスタを向けて噴射減速を行い月面に近づく、腹側の着陸脚が地面に接地するように倒れ込むように着陸し、背中の太陽電池を上面に向ける予定だった。
SLIMは2023年9月7日にH-IIAロケット47号機で打ち上げられ、予定通りロケットからの分離、地球周回軌道に乗った。2023年10月4日スイングバイで月面に向かって進み、2023年12月25日月周回軌道に乗ったことが発表された。SLIMが着陸シーケンスに入ったのは、2024年1月14日だ。2度の着陸マヌーバを行い、1月20日午前2時、JAXAはSLIMが月面着陸を成功させたことを発表した。着地地点は目標地点から東に55mほど。SLIMはメインミッションである月のピンポイント着陸を成功させたのだ。
……しかし、太陽電池からの給電が確認できなかった。JAXAは「障害物を避けるために移動し、さらにメインスラスタが1機作動しなかったため、予定した姿勢で着陸できなかった」と発表した。
このとき活躍したのが月面探査ロボット「LEV-2」こそSORA-Qなのである。SLIMには「LEV-1」と「LEV-2」という2つの探査ロボットを搭載しており、月面着陸直前に切り離され、月面を探査する。「LEV-1」は内蔵されたバネで月面を跳びはね2つの広角カメラで月面を撮影、直接撮影データを地球に送信する能力を持っていた。
そして「LEV-2」、SORA-Qは野球のボールのような形で月面に着地した後、左右の外殻がスライドし内部からカメラを装備した胴体が出るという変形機能を持っている。外殻をローラーとして回転させることで凹凸のある月面を移動できる。左右のローラーは重心が偏っており、両方同時に動かすとローラー内部の本体が上下に揺れる「バタフライ走行」、別々に動くことで本体が傾く「クロール走行」が行える。これは月面を覆う砂「レゴリス」の上をスムーズに移動するためだ。
このSORA-Qが撮影したSLIMの姿こそがJAXAをはじめとした多くの人が待ち望んでいるものだった。SORA-Qが撮影した映像により、SLIMが当初の予定した姿ではなく、頭を月面にめり込ませた"逆立ち”のような姿勢で着陸したことが明らかになった。SORA-Qという“外部の目”を持ち、その機能が期待通りに動いたからこそ映し出せた映像だった。SORA-Q自身には発電能力はないため、内蔵バッテリーでの2時間ほどの活動で機能は停止したが、見事に求められていた映像を地球に届けたのである。
タカラトミーは変形し、本体を移動させながらローラーを回して移動する月面でのSORA-Qに玩具として遊べる要素をプラスしたモデル「SORA-Q Flagship Model」も商品化している。スマホで操縦とカメラからの映像を見たり、ARで月面探査気分も味わえる「月でSORA-Qがどのように活動したか、目の前で見てみたい」という願いを叶える商品だ。
そして今回発売されたのが、「トミカプレミアム SORA-Q & SLIM」。ダイキャストフィギュア「トミカ」のフォーマットでSORA-Qを1/2.5スケール、SLIMを1/40スケールで再現することで、手のひらサイズで2つを並べて楽しめる。次章からいよいよ商品の魅力に迫っていこう。
SORA-QとSLIMを目の前に、宇宙のロマンに思いをはせる
「トミカプレミアム SORA-Q & SLIM」は、その名の通りSORA-Qのみならず、SLIMも同梱されている。月面探査気分を満喫できるセットだ。ダイキャストのずしりとした重さと、金属ならではの触感が楽しい。
「トミカプレミアム SORA-Q」は本物のようにボール状に変形はしないが、カメラを収納、さらにスタビライザーを動かすことができ、外殻を展開した直後の姿にできる。外側の外殻だったローラーは軸回転するので、押して走らせる“コロ走行”ができる。
この「トミカプレミアム SORA-Q」は本物同様ローラーに対して軸が傾いて取り付けられているので、コロ走行をさせるとカメラのついた本体が上下に動く「クロール走行」をきちんと楽しめる。月面を進むSORA-Qの姿を想像するのが非常に楽しい。外殻が金属製なのも“本物感”を高めてくれる。
背部に伸びるスタビライザーもまるでカタツムリの頭のようでユニークだ。軽量化と剛性を両立した外殻と、カメラやバッテリーなど機能が集約された本体、「低重力で砂だらけの場所でどう移動するか」を考えた機能がそのまま形になったその姿はSFデザインとしても楽しい。
そして本商品の大きな魅力がSORA-Qの“母艦”であるSLIMが同梱されていること。他の商品ではできない、SORA-QとSLIMを並べること、月面での両者の関係を再現できるディスプレイが楽しめるのだ。
太陽パネルを持ち、全身が金色になっているSLIMは人工衛星のようにも見える。人工衛星との大きな違いは月着陸のための大きなスラスタと着陸脚を持っているところだ。
ちなみに人工衛星などが金の膜に覆われているのは「サーマルブランケット」と言われるもので、外部からの熱を防ぐ効果がある。宇宙空間では太陽光が当たる部分は100度を超え、日陰部分はマイナス100度以上になる。こういった過酷な外部環境から内部のメカニズムを守るため、薄いフィルムとネット上のスペーサを多層に重ねたサーマルブランケットで全身を覆っている。金色に見えるのは一番外側にあるポリイミドフィルムの色。このフィルムを銀やアルミニウムに蒸着させるためだという。
「トミカプレミアム SLIM」は全長2.7mの月着陸・探査機を手のひらサイズで再現。太陽パネルも塗装で細かく表現されており、その姿をしっかり再現している。スラスタもダイキャストで表現されている。金属は細かい表現が苦手なのだが、12基の補助スラスタもしっかり造形、サーマルブランケットならではのしわの表現も見事だ。
太陽パネルを上に、着陸脚をきちんと使った想定通りの姿勢でSLIMを置いて眺められるのも模型ならではの楽しさだ。さらにSLIMの資料を見ることで「ここがカメラなのか」、「これが着陸時に地上と距離を測るレーダーか」といった、各部の機能を確認できるのも楽しい。こういった“模型”要素はトミカの精密な表現力あってこそだ。
「トミカプレミアム SORA-Q & SLIM」はトミカとともに台座のこだわりもチェックしておきたい。レゴリスと呼ばれる月の砂地を再現し細かいモールドがびっしり入った台座には、「宇宙飛行士の足跡」のようにSORA-Qのローラーが食い込んでいる造形がなされていて、「トミカプレミアム SORA-Q」をしっかり配置できる。
さらに「トミカプレミアム SLIM」用に頭頂部を地面にめり込ませた姿を再現できる凹凸がある。これにより「SLIMを撮影するSORA-Q」のディスプレイが可能になるのだ。台座までセットで「トミカプレミアム SORA-Q」は完成するのである。
最後は背景に写真を使って、より臨場感のある「トミカプレミアム SORA-Q & SLIM」の撮影をしてみたい。
ノートPCの液晶ディスプレイを組み合わせて雰囲気のある写真を撮ろう!
今回挑戦してみたのが、「液晶ディスプレイを背景にした撮影」である。フィギュアの撮影に背景紙を使ったり、布を配置することでキャラクターを引き立てることができるが、今回はノートPCの液晶ディスプレイで写真を写しだしてみた。
今回使用した写真のうち1枚は「NASA提供の写真」である。「NASA Image and Video Library」は著作権フリーで写真を使用できる。歴史的なものなども数多く、見ているだけで楽しい。今回はここから地球の写真を引用して背景にした。月面から地球を見た雰囲気が出たと思う。
撮影方法は簡単でノートPCで写真を写しだし、ノートPCの上に台を置いて撮影しただけだ。液晶にライトが映り込まないように調整する必要があるが、こうするだけで写真が背景に使える。
もう2枚、「月の写真」と「星空の写真」も使用してみた。こちらは筆者の自宅から星空を撮影したものだ。月には18-200mmの取材で使うレンズ、星空はフィギュアなどの撮影に使う単焦点レンズを広角レンズとして使用している。月は明るいため、望遠機能があるレンズならばしっかり撮影できるし、星空も地方ならばISO感度を上げることで肉眼では見ることができない小さな星も撮影できる。
月はSLIMが月に向かうイメージで。星空は月面から見たイメージで重ねてみた。こういった背景を選んで撮影するのも楽しい。
「トミカプレミアム SORA-Q & SLIM」は、タカラトミーの玩具技術が宇宙で活躍したそのロマンをしっかり体験できる商品だ。逆さまに着陸してしまった月探査機をカメラで捉えたSORA-Qというストーリーをしっかり再現できるのも楽しい。宇宙史、玩具史の記念アイテムと言える。
本商品は受注販売のため現在タカラトミーでの受注/販売は行っていない。一方で「SORA-Q Flagship Model」はまだ購入できるので、今回興味を持った人は購入を検討してはいかがだろうか?
そして夢はまだこれに終わらないだろう。今回の技術は今後も発展するだろうし、宇宙開発にタカラトミーだけでなく様々なメーカーが参加し、未知の世界を切り開いてほしい。
(C)TOMY