レビュー
ウッディジョー、「1/150安土城(改良版)」レビュー
精密な木製パーツで組み立てる、織田信長の天下布武への想いを込めた城
2025年4月30日 00:00
- 【1/150安土城(改良版)】
- 開発・発売元:ウッディジョー
- 発売日:2025年2月4日
- 価格:44,000円
- ジャンル:木製模型
- サイズ:全高約350mm
ウッディジョーが2月に発売した木製モデル「1/150安土城(改良版)」は、全幅390mm、奥行360mm、全高350mmで織田信長の城「安土城」を再現した商品だ。
安土城は織田信長の居城であり、彼を象徴する城だ。高層の天主、高石垣、瓦葺き建物がセットとなった、近代城郭の起源と言える構造の城で、大阪城をはじめその後の城郭に強い影響を与えたという。その絢爛豪華な城は大いに名をとどろかしたが、本能寺の変の後火災で焼失、築城からわずか10年で姿を消してしまうという“幻の名城”といえる存在だ。「1/150安土城(改良版)」はこの失われた城を自分の手で作り上げることができる。
今回、評価用のサンプルを組み立てた。部品数が多く、大スケールな上に構造も複雑だが、レーザー加工による精密なパーツ、練られた部品設計、型紙を使用した丁寧な部品加工ガイドや、取り付け位置の指示など、非常に作りやすく、楽しく組み立てることができた。
「1/150安土城(改良版)」はその名の通り以前発売されていた「1/150安土城」から天守台、破風(はふ)、四・五層の構造を再設計、位置決めの型紙の追加などより組み立てやすくなっている。「1/150安土城(改良版)」の魅力を紹介していきたい。
信長の天下布武を体現する城を木製モデルで表現
本商品の詳細の前に安土城についてもう少しだけ掘り下げよう。安土城は琵琶湖東岸、JR安土駅の北東、標高198mの安土山一帯に築城された。1568年に岐阜城で尾張を統一、1573年に室町幕府を打倒し勢力を拡大させた。織田信長はこの時期に家督を嫡男・織田信忠に譲り、自身は安土城に拠点を移すこととなる。
安土城築城の総奉行には丹羽長秀が任命された。築城から約3年の1579年に天主が完成し、城郭全体が完成したのは1581年となる。岐阜城より京都に近く、琵琶湖の水運が活用でき、北陸からの守りも意識した場所に建てられた安土城は、信長の「天下布武」の思想が色濃く出た城となっている。
城の構造としては5層7階(地上6階、地下1階)。石垣の上に天主が乗った初めての城となる。この城の技術がその後江戸時代初期までの様々な城の基礎となる。その後の城の上にある「天守閣」は安土城の場合「天主」と呼ぶ。特に安土城の天主は「望楼(ぼうろう)型」と呼ばれ、入母屋造(いりもやづくり)の上に、小型の建物を乗せた形になる。安土城の場合、八角形の望楼という独特のシルエットになっている。
この望楼部分は現在、安土城跡近くにある「安土城天主信長の館」で復元展示が行われている。金箔が貼られ、天井に天人の飛びかう絵が描かれているなど、安土城が当時いかに豪華な建物だったか、その一部を見ることができる。安土城はその後の「武将の力を誇示する」という性格が強く出た最初の城となった。その豪華絢爛さは宣教師ルイス・フロイスの著書「日本史」や、信長の家臣であった太田牛一が残した記録の写本の1つ「安土日記」などによって記録されている。
信長の威光をアピールする城として完成した安土城だが、城郭が完成した1年後の1582年には本能寺の変で主を失い、その後すぐに原因不明の火事で焼失してしまう。廃城になり、現在は石垣など一部が残るのみとなった。1989年から2009年まで発掘調査・整備計画が進められ、現在は城跡や前述の「安土城天主信長の館」といった周辺施設で安土城の歴史を学ぶことができる。
高精度のレーザー加工、しっかり袋分けされたパーツ構成
それではキットの内容を紹介し組み立てていこう。ウッディジョーの製品は木製モデルでありながら、プラモデルのように組み立てやすい。それは「レーザー加工」により精密にパーツをカットしており、ユーザーはこれらを貼り合わせるだけでリアルな木製模型を組み立てることができるのだ。
さらに屋根瓦、望楼部分の装飾、垂木など細かいパーツは袋分けされていて、部品が混ざったり、紛失することを防いでいる。ユーザーは説明書に従い、順番にパーツを取り出していくことで複雑な模型をしっかり組み立てていくことができる。
説明書はカラーで見やすく、組み立てながら城の構造を学ぶことができる。面白いのは「型紙」の存在だ。部品には加工が必要なものがあるが、この型紙を使うことで屋根など複雑な形状のパーツも切り出すことができる。
さらにエッチングパーツが用意されている。エッチングパーツは金色で、門の家紋や、破風板に効果的に使用され、模型を飾り立てる。キラリと輝く金属の輝きは模型を作るモチベーションを大きく上げてくれる。
組み立てに必要な道具としては、枠からパーツを取り外したり、部品を切り出すための「カッター」、石垣材など切るための「ニッパー」、カッターを走らせるための「定規」、細かい部品を扱うための「ピンセット」や、「やすり」といった工具が必要になる。普段プラモデルを作っている人にとってはそろえている工具ばかりだと思う。ただ、ニッパーは木を切ることになるので、薄刃の精密すぎるものでは刃を痛めてしまうので注意したい。
部品の取り付けには「木工用接着剤」、エッチングパーツの取り付けには「多用途接着剤」が必要になる。接着剤に関してはホームセンターだけでなく、コンビニでも簡単に買える。「1/150安土城(改良版)」は特に石垣部分でかなり多くの木製接着剤を使用するが、一方でできるだけ少量の接着剤での接着を心がけることで、乾きやすく、はみ出さなくなり、きれいに仕上げられるので、適量を心がけたい。それでは組み立てていこう。
石垣を1つ1つ貼り付け組み立てていく
「1/150安土城(改良版)」は「石垣」から組み立てていく。最初は石垣を積むための「天守台」、木のパーツを組み合わせていく。「石垣台紙骨組み」というパーツをつけるため、型紙に合わせ木の板をカットし張り付けていく。
安土城の大きな特徴である石垣は、「石垣台紙」を貼り付け、そこをガイドとして木製の薄い板で作られた「石垣石」を貼り付け石垣にしていく。大きな石が複雑に組み合わさった石垣を“表面”だけ木片で演出するのだが、それでもかなりの作業量だ。
石垣石は大小の2種類の袋に入れられている。大パーツは小パーツの2倍以上の大きさがあるが、パーツそのものはそれぞれ形が異なる。これらを組み合わせるためにニッパーで形を整えジグソーパズルのようにはめ込んでいく。切り取った小さな破片は隙間埋め用のパーツに活用できる。
大きさが異なるパーツを組み合わせていくことで、本物の石垣のような雰囲気に仕上がる。面白いのは説明書の注意書きだ。「石垣貼り付けは根気がいりますが、当時大変苦労した石垣職人達のような気持ちになって積み上げてください」と書いてあるのだ。こういう一文からキット設計者の想いが感じられるのも楽しい。
各階層を組み立て、屋根を取り付けていく
土台が完成したら、二層壁、三層壁の組み立てだ。安土城の独特の形が明らかになってくる。壁には屋根の取り付けガイドとなる「受け材」も貼り付けていく。
安土城の三層目ではこの城の特徴である「望楼型」をしっかり確認できる。これまでは上に向かって三角形をなす「入母屋造」の構造だったが、ここから八角形の塔のような望楼が組み合わさるのだ。筆者が実際に見たことがある、姫路城や松本城、小田原城は同じ構造の建物が積み重なる「層塔型天守」だったため、構造がはっきり異なる建造物が接続される望楼型は新鮮だ。
三層までの壁を接着すると大分お城らしいシルエットになった。ここから格子模様の「妻壁」をつけていく。妻壁とは三角をなす壁の部分。格子はこの妻壁の飾りだ。この飾りを「1/150安土城(改良版)」は紙で表現しており、貼り付けることで模型のアクセントになる。
ここから屋根の組み立てだ。屋根は段がついた瓦屋根パーツを型紙の形に切断し組み付けるのだが、角度があったり、長さがほんの少し違うなど、つなぎ目を調整する必要があり、これまでのように単にパーツを組み合わせていたのとは一段高い工作スキルを求められる。このためちょっとゆがんでしまったり、ずれてしまったところができた。曲がり角なども調整が必要で、美しく仕上げるには慣れも必要だと感じた。
屋根の縁の下部には「垂木」をつけていく。本来屋根は「屋根板」、「屋根下地」を作り、それを垂木で支え、そこから屋根板に瓦を配置していくが、「1/150安土城(改良版)」は瓦風の装飾がついた瓦屋根パーツを乗せるだけで屋根を表現している。垂木もでこぼこの板を縁にあてがうだけだが、効果的に外観を飾り立ててくれる。
破風を取り付けると一気に城の雰囲気に
次に組み立てるのが「千鳥破風(ちどりはふ)」だ。先ほど作った「妻壁」だけではなく、城のあちこちに三角形の屋根を取り付けていくこととなる。破風はつけることで風や雨を防御する働きがある。千鳥破風は装飾的意味合いも強く、城の外観にアクセントを加えてくれる。組み立て順序としては、三階層まで屋根を貼った上で破風の骨組みを配置、こちらにも屋根板を取り付けていく。
さらに妻壁や千鳥破風には「破風板」という飾りをつける。この飾りにはエッチングパーツを接着する。金色で美しく木と合わさることで独特の風合いが生まれる。破風や妻壁の格子模様と相まって“お城”の雰囲気を強めてくれる。
次に取り付けるのが「窓」だ。お城の壁に小さな板状の窓パーツをくっつけていくのだが、「1/150安土城(改良版)」では窓の位置を決めるガイドとしての型紙が用意されている。型紙を切り取った上で、マスキングテープで仮止めすることで、窓の位置を提示してくれるのだ。これにより目印がない壁にモチーフ通りの窓を取り付けることができる。
城の石垣との間には「下見板」を取り付ける。これは外壁の仕上げに使われる板材だが、漆喰の壁を雨から防ぐ役割がある。安土城は第一層のみに使われている。すすと柿渋の墨を塗り防水性能を高めるという。
ここからさらに破風や妻壁の縁に「掛瓦」、「降り棟」をつけていく。掛瓦は屋根の縁に他の瓦の流れに直角で交わるように配置される瓦で、雨水を屋根の下にスムーズに流す役目がある。屋根の頂上部分にある「主棟(しゅむね)」から屋根の縁に沿って配置されるのが降り棟となる。屋根の強度や防水性を高めるためのものだ。これらを各破風につけることで、三階層までの組み立てが完了する。
絢爛豪華な上層を組み立て、完成
いよいよラストスパート、強い個性を放つ四層、五層の組み立てだ。最上階である五層から組み立てていく。史実の安土城の最上階は金箔で飾り立てられ、内側にも様々な絵が描かれ非常に豪華だったという。金の瓦を使っていたという資料もある。この城の中でも最も豪華絢爛な場所だった。キットでも精緻な飾り板を取り付け、豪華な雰囲気を演出している。
四層は外の柱が朱色、内部には金が使われていた。三層の基部同様八角形で、模型も細かい装飾板で飾り立てられている。この四層、五層は、まるで舞台のような「高欄床」の上に配置する。織田信長は戦国武将の中でも特にドラマチックな人物だが、八角形の床の上に載せられた四層、五層は彼の「ステージ」だったのではないか、そういう想像もしたくなる構造で、ロマンを感じさせる。
最後には金属製のしゃちほこと、八角形の土台にエッチングパーツの竜と鳳凰を飾り立て、「1/150安土城(改良版)」の完成である。次章で完成した安土城を見ていこう。
信長の城、「安土城」完成!
「1/150安土城(改良版)」を組み立てることができた。大ボリュームなために結構時間がかかった。本商品の組み立て時間の目安はおよそ80時間ということだが、余裕を持って組み立てることをオススメしたい。筆者も比較的ゆっくり組み立て、1カ月近くかけて組み立てた。
組み立ててみるとちょっと反省点もある。特に屋根部分の切り出しと接着に少し手間取るところがあった。このため屋根がちょっとゆがんでいる部分がある。もっと取り回しのいい小さい定規や、木工専用の加工道具があればよりスムーズにできたかもしれない。とはいえ部品の精度は非常に高く、ほとんどの部品はプラモデル感覚で組み立てられるので筆者のようにウッディジョーの商品に憧れを持っている人、お城や寺院などの手応えのある模型を組み立てたい人はぜひ挑戦してほしい。
なにより「安土城を組み立てることができた」という満足感は非常に大きい。信長の天下布武の思想を"形"で現し、当時の人々に威容と豪華絢爛さで力を誇示した安土城はどのような城だったか? 組み立てることで思い入れが生まれる。では全体を見ていこう。
城はどのように運用されたのか、どのような機能を持つのか? 組み立てたからこそ興味がわく。南面に窓が多いのは陽光を中に入れやすくするためなのかとか、西面の屋根の形状はどうしてこのような形なのかと、調べてみたいことが次々に生まれてくる。
ウッディジョーの優れた部品成型技術にも改めて感心させられる。屋根の瓦の感じ、垂木を貼り付けることでより緻密になる情報量。そしてエッチングパーツの存在が模型の雰囲気をより豪華にしてくれる。八角形の柱の基部の鳳凰や竜など、その後の城には見られない華美な装飾が楽しい。
今回全体を見てどうしても反省点が出てきてしまうのが、「屋根のゆがみ」だ。屋根パーツを型紙に従って成型し、はめ合わせていくところでパーツの細部の調整が不十分で、結果としてゆがんだ場所が出てしまった。
ウッディジョーの広報の方から、「東面、北面など型紙に従ってまとめてパーツを成型した上で、組み立てることで調整しやすくきれいに仕上がる」とアドバイスをいただいた。筆者は1パーツごとに貼り付けていたためゆがみが大きくなってしまったようだ。今後ウッディジョーの商品を挑戦するときには気をつけたいし、本記事をきっかけに木製モデルに興味を持った方は、「一面の屋根パーツをまとめて切り出すことで調整がしやすくなる」というアドバイスを送りたい。
そして最後に「塗装」についても触れておきたい。今回筆者は素組みの状態で完成としたが、「1/150安土城(改良版)」は塗装することでさらに完成度を上げることができ、塗装ガイドも用意されている。
アクリル絵の具「リキテックス」の「ニュートラルグレー」、「チタニウムホワイト」、「ピロールレッド」を使用して城の屋根や城壁、四層目の朱塗りの部分などを塗装し、タミヤの「X-12 ゴールド」で金色部分、下見板を「墨汁」での塗装を推奨している。
安土城は第四層に朱色がふんだんに使われ、五層は金で飾られていたという。信長が実現した安土城の豪華絢爛さを再現するには塗装もしたいところだ。
「1/150安土城(改良版)」は本格木製モデル初挑戦でもしっかり組み立てられる優れた商品である。織田信長など武将や城に思い入れがある人はもちろん、手応えのある模型を組み立ててみたい人にもオススメしたい。木製パーツを組み立てるだけでなく、石垣パーツをひたすら貼り合わせるなど、独特の組み立て感覚を楽しむことができる。
「木製模型に興味がある」という人には、ウッディジョーは初心者向けの商品や、帆船模型、寺や仏閣、ヨーロッパの町並みを表現した「ヨーロッパの街並みシリーズ」など様々なモチーフがあるので、ウッディジョーのページを見てほしい。
繰り返すがやはり全高350mmの精密な城の模型を自分の手でしっかり組み立てることができた満足感、完成した城を眺める充足感はほかでは得られない。プラモデルとはひと味違う木製模型の世界に、ぜひ足を踏み入れてほしい。