特別企画

鉄道ライター・杉山淳一の「鉄道ジオラマ旅情」、第3回:愛媛県西条市「四国鉄道文化館 南館」

溢れる郷土愛の風景を「アンパンマン列車」、「新幹線?」が走る

今回の旅:「四国鉄道文化館 南館」

所在地: 愛媛県西条市大町798番地
開館時間:9:00 ~ 18:00 (最終入館は17:30)
休館日:毎週水曜(水曜が祝日の場合は翌日)
入館料:(北館と共通) 高校生以上 300円 小中学生 100円 就学前児童 無料
アクセス:伊予西条駅徒歩2分

 10月14日は「鉄道の日」。明治5年のこの日(旧暦9月12日)に新橋~横浜間で官営鉄道が開業した。国鉄時代は「鉄道記念日」として祝賀式典や功労者の表彰などが行なわれ、全国規模のダイヤ改正も10月に行なわれた。JRが発足してからは国土交通省が引き取って全国の鉄道を対象とした「鉄道の日」になった。

 東海道新幹線の開業は国鉄時代の1964年の10月だ。この東海道新幹線の建設にもっとも貢献した人物のひとりが「十河信二」だ。国鉄総裁として新幹線建設に奔走し「新幹線の父」と呼ばれた。十河信二は愛媛県の出身で西条高校の卒業生。国鉄総裁に就任する前は西条市の市長を務めていた。十河信二は西条市でもっとも尊敬を集めた人物だ。その縁でJR伊予西条駅に隣接した一帯が「鉄道歴史パーク in SAIJO」になっている。

 「鉄道歴史パーク in SAIJO」は予讃本線の線路を挟んで「四国鉄道文化館」の北館と南館があり、北館に隣接して「十河信二記念館」と「観光交流センター」がある。どれも見どころがあるけれど、今回は南館にある「大型鉄道ジオラマ」の魅力をお伝えしよう。

 加えて今回はジオラマで走っている四国の鉄道各線の現実の車両写真もお伝えしたい。実際の四国の列車を見て、改めてジオラマの表現の面白さを感じて欲しい。

ジオラマ全景 ガラス張りなので撮影すると映り込みやすいところが少し残念
【著者近影】
9月から10月は長野・新潟・富山・秋田・山形と旅取材が続いた。ホテルは「Go To トラベルキャンペーン」で割引、きっぷ代もJR東日本の「お先にトクだ値」で割安だ。次は西日本方面にも行きたい。そういえばこの写真の撮影地は四国鉄道文化館だ。帽子をお借りして館長さんにシャッターを押していただいた

新幹線の父、十河信二ゆかりの地

 四国鉄道文化館(北館)は、JR四国で初の本格的鉄道保存施設として2007年11月に開業した。埼玉県さいたま市の鉄道博物館開業の1カ月後だ。館内には2両の保存車両がある。東海道新幹線の初代車両、0系電車と、DF50形というディーゼル機関車だ。なぜ西条市なんだろう、なぜ四国で走ったことがない新幹線車両があるんだろう、と思ったけれど、前述の通り新幹線の父、十河信二ゆかりの地ということで納得だ。同日、別の建物として「十河信二記念館」も開業している。

 ちなみにDF50形のほうは四国で大活躍した機関車の1号機。四国はもともと大型蒸気機関車が少なく、当時はまだ非力だったディーゼル機関車の置き換えが速やかに進んだ。本州、九州、北海道より早く無煙化(蒸気機関車廃止)を達成した。

 南館は2014年に開業した。こちらも屋内にC57形蒸気機関車、キハ65形ディーゼルカー、DE10形ディーゼル機関車の3台を展示。そして屋外にはフリーゲージトレイン(軌間可変車両)の第2次試験車両「GCT01-201」が展示されている。この中で、C57形蒸気機関車も0系電車と同じく四国で走ったことがない。なぜC57形がここにあるかといえば、国鉄総裁引退後の十河信二が「使わないならこっちにも1台くれ」と言ったから。当初は西条市内の公園に安置されていた。その後、南館の建設を機に当地に移された。

ひと目で列車の動きを追えるサイズ

この南館に「大型鉄道ジオラマ」がある。線路の縮尺は1/80のHOゲージで、サイズは幅7.2m、奥行き2.2m。これは4トントラックの荷台くらいの大きさだ。確かに大きいけれど、鉄道博物館のサイズとしては小さい方だ。しかし、この中には四国の名所、魅力がギッシリと詰まっている。どこからでも走行中の車両の位置を把握できるし、運転体験にはこのくらいの方が適しているだろう。見学するにもちょうどいいサイズだ。

【四国の風景】
ジオラマ全景 夜の風景 館内のジオラマ周辺も暗くしている

 ジオラマ全景は、手前中央に伊予西条駅、その左側に西日本最高峰の石鎚山、中央奥に瀬戸内海、右側奥に吉野川の景勝地大歩危・小歩危を配置する。手前には海岸が回り込む。なんとなく四国山地から北側を望むようなレイアウトになっている。線路は予讃本線に見立てた複線を外周におき、予土線に見立てた単線が内周にある。

【四国の風景】
中心に据えられた伊予西条駅。左端は十河信二記念館
線路を挟んだ向こう側に南館 フリーゲージトレイン試験車もある

 予土線は四国の南西部だから、かなりデフォルメされた空間だ。しかしこのサイズに違和感なく収まっているから、芸術的配置と評価したい。西条市の広報誌によると、制作は姫神鉄道模型クラブのメンバーが担当したという。同クラブは鉄道文化館のイベントでも別途模型運転会を実施するなど活躍しているようだ。

【四国の風景】
ジオラマ右手には大歩危小歩危(おおぼけこぼけ)の渓谷がある

 このジオラマでは約10分間のショータイム(演出運転)が行なわれる。平日は10時ちょうどから17時ちょうどまで1時間おき。休日は11:30、12:30、13:30、14:30の臨時運転が行なわれる。演目は共通しており、四国の鉄道の1日を紹介する。早朝の旅立ちと清々しさ、昼間に活躍する特急列車、夕刻の観光列車から夜景まで、背景の壁と照明を使って効果的に見せてくれる。

【四国の風景】
伊予西条駅の朝 クルマで見送る人たち 奥の赤い店舗はパン屋さんで、アンパンマン形のあんパンを売っていた。残念ながら現在は閉店している

 その間に列車たちと、西条市の祭をはじめ四国の名所の紹介がある。瀬戸大橋の上で花火が上がり、そこに満月か浮かぶ。フィナーレにふさわしい夜空だなと思ったら、さらに夜間の保線作業があって、翌朝に終わる。女性の声でナレーションが行なわれ、ゆっくりとした語り口にしては情報量が多く、10分間は濃密な時間になっている。

【四国の風景】
夕刻、街に明かりが灯る
伊予西条駅の夜 左の長い屋根が四国鉄道文化館北館
背景を使って花火の演出
そして満月に 瀬戸大橋の左側の賑やかな彩りは淡路サービスエリアの大観覧車だ

JR四国の代表的な列車が勢揃いする

 走行する列車たちはもちろん四国にゆかりのある車両たちだ。ディーゼルカーとしては世界で初めて振り子式車体傾斜機構を搭載した2000系、国鉄時代の主力急行形ディーゼルカーのキハ65系は往年の懐かしい姿。

 全国で活躍したキハ40系もJR四国オリジナル塗装で走る。ステンレス車体の7000系電車、DE10形機関車が引くアンパンマントロッコ、JR四国で最初に導入された特急電車8000系もアンパンマンラッピング電車だ。来場した子どもたちを喜ばせる車両選びだ。

【四国を走る鉄道】
左側の2本の線路が予讃線、右側の2本の線路が予土線
キハ65系急行「うわじま」
瀬戸大橋を背に走るアンパンマントロッコ
アンパンマントロッコは先頭がディーゼル機関車、次に荒天用のディーゼルカー、最後尾に風通しの良いトロッコ車両という構成。実車のままだ。
普通列車用7000系電車 JR四国の電化区間は瀬戸大橋線と予讃線の高松~伊予市間のみ
8000系電車(左)と2000系ディーゼルカー。新旧特急車両のすれ違い。

 変わり種車両として、一般用気動車キハ32形の車体に新幹線0系電車ふうの外装を施した「鉄道ホビートレイン」もある。これは「新幹線のない四国で新幹線が走っている」とかなり話題になったのでご存じの方も多かろう。

 もちろんこの列車の誕生も「十河信二出身地の四国に新幹線を」という主旨で、東海道新幹線開業50周年、予土線全通40周年などを記念して仕立てられた。それがジオラマの中を走る姿は実物同様、とてもコミカルだ。

【四国を走る鉄道】
JR四国の新幹線ことキハ32形「鉄道ホビートレイン」

 演出時間は列車の走りを眺めて、幕間は風景のディテールを丹念に観ていきたい。どこを切り取ってもコネタの宝庫。文章で説明するより、写真を見ていただこう。まだまだ私が気づかなかったところがあるかもしれないから、ぜひ現地で楽しんでほしい。

【ジオラマで描かれる四国の風俗】
香川県名物と言えばうどん店
岩場では映画撮影、那須与一かな。
浦島太郎が竜宮城へ向かう。香川県に浦島伝説がある
洗濯物を干す母とキャッチボールをする父と子
土佐のかつお一本釣り
室戸岬沖のクジラ漁
西条市には石鎚スキー場がある
ビーチで遊ぶ人々。左下にカブトガニ。瀬戸内の海岸で見られる
西条市で10月に行なわれるだんじり祭 このだんじりは動く
ジオラマの背後には四国で走った車両たちの模型を展示している

余裕があれば松山、しまんとを巡ろう

 JR予讃線の伊予西条駅は山陽新幹線の岡山駅から特急「しおかぜ」で1時間50分前後。高松から約1時間半。東京駅22時ちょうど発の夜行特急「サンライズ瀬戸」に乗れば、坂出駅で特急「いしづち」に乗り換えて9時8分に着く。ちょうど開館時刻の頃合いだ。1日を「鉄道歴史パーク in SAIJO」の各施設の見学で過ごしたら、特急「しおかぜ」で約1時間の乗車で松山に着く。伊予鉄道の路面電車に坊っちゃん列車など魅力の多い街だ。

 JR四国の人気観光列車「伊予灘ものがたり」も松山駅発着となっている。そのまま南下していけば、宇和島から予土線に乗り継げる。本物の鉄道ホビートレインが待っている。そうそう、本誌はフィギュア愛好家も多いだろうから「海洋堂ホビートレイン」もオススメ。

 車内にフィギュアを飾った列車だ。予土線の打井川駅から約6kmの場所に「海洋堂ホビー館四万十」があり、日曜祝日は路線バスが運行されている。海洋堂の創業者、宮脇修氏が高知県出身であることにちなんで作られた。

 なお、JR四国の旅なら「バースデイきっぷ」がオススメ。誕生月の3日間、JR四国全線と土佐くろしお鉄道が、特急列車も含めて乗り放題。普通車自由席用が9,680円、グリーン車用が13,240円。誕生月ではなくても、「四国フリーきっぷ」、「四国グリーン紀行」などの魅力的なフリーきっぷがある。

【四国を走る車両写真】
JR四国の特急電車8000系
フリーゲージトレイン試作車「GCT01-201」
JR四国の一般形電車7000系
南館に展示されているキハ65形
北館に展示されている0系電車
南館に展示されているC57形蒸気機関車
北館に展示されているDF50形ディーゼル機関車
北館にもNゲージのジオラマがある。観光列車「伊予灘ものがたり」が走っていた
予土線の鉄道ホビートレイン
予土線の海洋堂ホビートレイン
海洋堂ホビートレイン車内展示
海洋堂ホビートレイン車内展示
伊予鉄道「坊っちゃん列車」
JR四国の2000系ディーゼルカー
伊予西条駅
JR四国の2000系ディーゼルカー「アンパンマン列車」