特別企画

手塚治虫記念館「マクロス放送40周年記念 超時空要塞マクロス展」レポート

自動変形のマクロス、立体物や資料を展示

【超時空要塞マクロス展】

7月1日~10月24日開催(閉会)

会場:宝塚市立手塚治虫記念館

入館料:
大人700円
中高生300円
小学生100円

 宝塚市教育委員会の主催により宝塚市立手塚治虫記念館で開催されていた「マクロス放送40周年記念 超時空要塞マクロス展」が10月24日に閉会した。同時に、2023年3月に横浜での巡回が決まったことも発表された。詳細は後日公開される。

 最終日には目玉展示である「自動変形マクロス艦」の企画者であるイラストレーターで「マクロスビジュアルアーティスト」の天神英貴氏、内部フレーム設計と制御ソフトウェアを手掛けたアスラテックの吉崎航氏、外装の設計・製作を担当したT-REXの元木博行氏によるトークショーも行われた。平日にもかかわらず多くのファンが集まり、トークとマクロス艦の変形を見届けた。本稿では展示概要を前編、トークショーの内容を後編としてお伝えしていきたい。

目玉の「自動変形マクロス艦」
2023年3月に横浜での巡回展開催が発表された

「超時空要塞マクロス」とは

自動変形マクロス艦「強行型

 最初にアニメ「超時空要塞マクロス」を紹介したい。「超時空要塞マクロス」は1982年~1983年にTBS系列で放送されたアニメ作品。ビックウエストが企画し、宮武一貴、松崎健一らが所属するスタジオぬえが設定・デザイン制作、石黒昇率いるアートランド等を中心に若いスタッフの力を集約して制作されたSFロボットアニメだ。

 有史以前から続く星間戦争に巻き込まれる地球の存亡といった壮大なSF設定と、設定による裏付けによってリアリティを持たせた変形ロボット、そしてそれらと深く関わることになるアイドルと「歌」に代表される人類の文化、主人公をめぐる三角関係などの要素が本筋で絡み合い一体となって描かれることで人気を博し、1984年には劇場版『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』も制作された。

 その後もテーマや演出は変えつつも、基本世界設定や、ラブコメ、可変戦闘機による戦闘と歌などの基本要素を引き継いだ作品群が続編として生み出されており、現在まで一連の「マクロスシリーズ」としてファンからの熱い支持を受けている。なお最初に放送された「超時空要塞マクロス」は便宜上「初代マクロス」とも呼ばれている。

元々は地球に落下して来た異星人の戦艦を改修したものという設定
マクロス艦内で生まれたアイドル歌手リン・ミンメイの歌は重要なファクターに
歌に代表される「文化」の力で星間戦争に巻き込まれた地球文明をかろうじて救う
27話「愛は流れる」のラストシーン、焦土と化した地球に降下してくるマクロス

マクロスの「トランスフォーメーション」

自動変形マクロス艦「強行型

 手塚治虫記念館での「マクロス」シリーズの企画展は、今回が3回目で、ファンには宝塚でのマクロスイベントは既にお馴染みとなっている。また手塚治虫記念館では「マクロス」だけでなく、「エヴァンゲリオン」の展示会も開催されたことがある。理由は担当の手塚プロダクション チーフプロデューサーの新見秀和氏によれば「鉄腕アトムにはじまるテレビアニメシリーズの鉄人28号やマジンガーZ、さらには超時空要塞マクロスと脈々と繋がるロボットアニメの系譜という企画趣旨」があるという。なお1980年に製作されたアニメ第2作の「鉄腕アトム」と「超時空要塞マクロス」には監督がどちらも石黒昇氏であることほか、意外と接点もあるそうだ。

 「マクロス放送40周年記念 超時空要塞マクロス展」はその放送40周年を記念して行われていた展示会で、目玉展示は全長約70cmの「自動変形マクロス艦(SELF-TRANSFORMING SDF-1)」。アニメ作品中の「マクロス」は全長 1,210mという設定なので、おおよそ1/1728サイズといったところだ。

 マクロスの主役メカ「バルキリー」は、実在の戦闘機に似た形態の飛行形態「ファイター」から中間形態の飛行機に手足がついた「ガウォーク」形態、そして人型の歩行ロボット形態の「バトロイド」の3種類に変形する「可変戦闘機」である。そして彼らの母艦であり作品の舞台、そしてシリーズを通したシンボルである巨大宇宙戦艦「SDF-1マクロス」も「要塞型」と「強行型」に変形する。

 その理由は設定では以下のとおり。作品中で「フォールドシステム」と呼ばれる恒星間航行のための超空間跳躍技術(いわゆるワープ航法)の最初の使用時のトラブルによって、フォールドシステムが丸ごと消滅。そのときに艦内でエネルギーを生み出す反応炉と主砲砲身とを繋ぐエネルギー供給路も分断されてしまう。そのため通常形態である「要塞型」ではマクロスのもっとも強力な武器である主砲が撃てなくなってしまった。そこで艦体のブロック構造を入れ替えることで、反応炉と砲身を直結させることで主砲を撃つという奇策が編み出された。これがマクロスの「トランスフォーメーション(変形)」である。

失われたエネルギー供給路を直結させて主砲を撃つために変形するという設定だった

 「トランスフォーメーション」は重力制御系などマクロス艦内にも大きな混乱をもたらすため、艦内(主に脚部)に避難して街を作っていた一般市民たちにも直接の空襲被害と同様に恐れられている。特に最初は大きな犠牲と損害も出し、当時は何も知らなかった主人公たちにも影響を与え、このときに目の当たりにした出来事がきっかけで主人公・一条輝は軍に入隊するという流れになっている。

 一方、人型に近い形に変形することで、右腕先端にピンポイントバリアーを張った状態で敵艦にそのまま突っ込んで大量のミサイルを放つことで中から破壊する異色の戦法「ダイダロスアタック」など副産物も生まれた。……という話になっている。

右腕を敵艦に突っ込んで中から破壊する「ダイダロスアタック」も斬新だった

各種設定資料と模型で「マクロス」シリーズを一望できる展示内容

2mサイズ「VF-1S ストライクバルキリー立像」

 さて、いよいよ展示の紹介をしていこう。1Fエントランスホールには、「VF-1S ストライクバルキリー 立像」が展示されている。サイズは2m。映画版のVF-1Sバルキリーのバトロイドが迎えてくれる。

手塚治虫記念館。入口には「火の鳥」像
VF-1S ストライクバルキリー バストショット
VF-1S ストライクバルキリー 側面
「リボンの騎士」の主人公サファイアの像と並べられていた

 企画展示は2階で行われている。階段を上がると、まず「SDF-1マクロス超時空図説」コーナーとして、アニメ作品としての「超時空要塞マクロス」の紹介がパネルで行われていた。ここでは設定資料を中心に「SDF-1 マクロス」艦の性能や武装、機能などの解説展示が行われている。

館内に貼られたポスターには関係者のサイン
「マクロス展」入口

 また、マクロスのメカデザインをおこなったスタジオぬえのメカデザイナー宮武一貴氏によるマクロスについてのインタビュー映像も合わせて上映されている。なかでも宮武氏のインタビューはここでしか見られないもので来館者限定の特典となっている。

マクロスに関する設定資料や本編カットで作品を振り返ることができる
宮武氏のインタビュー映像も上映されている

 そしてすぐにメイン展示の変形マクロス艦「SELF-TRANSFORMING SDF-1」が迎えてくれる。マクロスはテレビ版の映像と音楽に合わせて、20分に一度、1時間に3回、7月1日から10月24日まで変形し続けた。実際に展示を見ていると、ファンにとっては単にマクロスの模型の変形を見るだけではなく、テレビ放送当時の記憶を重ね合わせながら見ることで、何とも言えない感慨を感じられるスペースになっていた。

 詳細については企画・監修の天神英貴氏と、制御システム制作を担ったアスラテック吉崎航氏らのトーク内容を交えて、後編でお伝えする。

自動変形マクロス艦
作中シーンをバックに自動で変形する
第一話の進宙式でマクロスの主砲が自動で発射されたシーン
「強行型」に変形
マクロス放映当時の思い出が蘇る
40年前に見たアニメの記憶が呼び起こされる

 他の「マクロス」シリーズの作品紹介も、もちろん行われている。超時空要塞マクロス、超時空要塞マクロスII、マクロスプラス、マクロス7、マクロスゼロ、マクロスF(フロンティア)、マクロス△(デルタ)と続く「マクロス」シリーズの各タイトル、各種設定、イラストがパネルで紹介されていた。ファンならほぼ知っている内容だし、こじんまりしているが各作品を一覧できる。行ったり来たりしながら、作品間のつながりをおさらいすることもできた。

一連のマクロスシリーズの解説パネル
超時空要塞マクロスII
マクロスF(フロンティア)
マクロスプラス
マクロス7
マクロスゼロ
マクロス△(デルタ)

 最後の展示が、「マクロス」シリーズの主役メカ、可変戦闘機VF(ヴァリアヴルファイター)だ。その一部と変形機構が、1/60スケールの立体を使って解説されている。ここの目玉は、初代マクロスの主役メカの一つ「VF-1J」の変形機構の展示である。ファイターからバトロイドまで変形する一連の変形途中の様子を模型を使って示してくれている。

ずらりと並べられた「VF-1J」変形モデル
ファイター形態からガウォークを経て、バトロイド形態へと変形する過程がわかる
現用の戦闘機のようなスタイルのファイター形態
尾翼を折りたたみ、足を出す
腕を出す
胴体を折りたたむ
間から頭が出てくる
足を機首部分に接続
バトロイド形態へ
バトロイド形態

 壁には、歴代マクロスシリーズのVFシリーズがズラリ約50機も並べられている。こちらも壮観である。アニメだけではなくゲームにしか登場していない機体も展示されているため、一機一機を細かく見ているファンも多かった。

壁に貼られたファイター形態の各種バルキリー
おおよそ50機が標本のようにディスプレイされていた
最新のバルキリーだけではなく、初代マクロスのものも
壁を埋める歴代バルキリー

 また、ミュージアムショップではマクロスグッズだけでなく、手塚治虫キャラとマクロスキャラのコラボグッズも販売されていた。

関係者サインの書き込まれたポスター
各種コラボグッズも売店で販売されていた
マクロスの懐かしいプラモデル・パッケージアート集も2023年2月20日に発売される予定
高荷義之氏による原画の色彩がデジタル技術で蘇る

 後編では閉会式の目玉である「自動変形マクロス艦」の企画者であるイラストレーターで「マクロスビジュアルアーティスト」の天神英貴氏、内部フレーム設計と制御ソフトウェアを手掛けたアスラテックの吉崎航氏、外装の設計・製作を担当したT-REXの元木博行氏によるトークショーの内容をお伝えしていきたい。