特別企画

「ボークス F.S.S.シリーズ展」、インジェクションキット「1/100 ダッカス」のディテールに迫る! GTMならではの関節"ツインスイング機構"はどう動くのか?

【ボークス F.S.S.シリーズ展 in 秋葉原ホビー天国2 2023夏】

8月12日~9月3日開催

会場:ボークス 秋葉原ホビー天国2 6F

入場料:550円

 ボークスは、展示イベント「ボークス F.S.S.シリーズ展 in 秋葉原ホビー天国2 2023夏」を、ボークス秋葉原ホビー天国2にて8月12日から9月3日まで開催している。このイベントではこれまでの商品に加え、様々な新商品も展示、会場での初発表の情報もあった。これらはレポートしているので、併せて読んで欲しい。

 本稿ではその中から、「1/100 ダッカス」にフォーカスしたい。「1/100 ダッカス」の注目ポイントはボークス初のGTM(ゴティックメード)をモチーフとしたインジェクションプラキット(プラモデル)ということ。GTMはマンガ「ファイブスター物語(F.S.S.)」の作者・永野護氏による全く新しいロボット。従来の関節機構とは異なる「ツインスイング機構」を持ち、大胆な動き、人間のような自由度の高いポージングを可能にする。

 これまでボークスではGTMの立体物は、半完成品のフィギュア「ABSOMEC nonスケール GTMカイゼリン」や、ガレージキット「HSGK(HIGH-SPEC GARAGE KIT)」と言った比較的高価な商品展開でGTMの魅力を表現していたが、「1/100 ダッカス」を皮切りに入手しやすく組み立てやすいインジェクションプラキットでも展開していく。GTMの立体物がより身近になるのだ。会場で本商品を企画しているボークスの担当者に話を聞くことができた。「1/100 ダッカス」の誕生の経緯や注目ポイントを紹介したい。

インジェクションプラキット「1/100 ダッカス」。発売日、価格未定。会場では3体の試作品が展示されている

GTMとしてのデザインと、ツインスイングという新しい可動を体験できるプラモデル

 ダッカスは、「ダッカス・ザ・ブラックナイト(黒騎士)」呼ばれ、作中でもGTMを象徴する騎体の1つとして様々なエピソードで活躍する。GTMは常人を遙かに越える戦闘能力を持つ騎士が操ることで、既存の兵器を寄せ付けない力を発揮する。23.5mを越える巨体で音速を超える動きで戦場を駆け、振るう剣は敵を切り裂くだけでなく、その衝撃波だけでも絶大な威力を持つ。GTMは騎士の戦闘力をそのまま表現できるロボット兵器であるが、コントロールをするためには生体コンピューター「ファティマ」のサポートが必要となる。

 ダッカスは非常に特殊なGTMで、ファティマ・エストとの「シンクロナイズド・フラッター」というシステムにより、他のGTMとは比較にならない力を発揮する。通常、騎士がファティマを選び、騎乗するGTMを選ぶのだが、ダッカスはエストが認めた騎士だけが乗ることができる。シンクロナイズド・フラッターが成功したのはエストとダッカスのみ。このためエストに選ばれ、ダッカスを駆る騎士は「黒騎士」と呼ばれ、星団中にその名をとどろかすこととなる……。

会場での目玉の1つが「1/24 ダッカス」。全高900mmという商品化検討用に作られたモデル。全身に関節が仕込まれたフル可動モデルだ

 ボークス初のGTMをモチーフとしたインジェクションプラキットにこのダッカスが選ばれた。これまでボークスはガレージキット「HSGK」でダッカスを立体化している。この時の原型・データが「1/100 ダッカス」に活かされているという。「HSGK」は「HSGK 1/72 ダッカス・ザ・ブラックナイト」と、「HSGK 1/100 ダッカス・ザ・ブラックナイト」という2つの商品があり、会場でも両方を見ることができる。

 「HSGK 1/72 ダッカス・ザ・ブラックナイト」は完成時に全高約350mmとなる大型のレジン製組み立てキット。コンピューターデータで原型を作るのではなく、原型師が実際に立体を作成した「手造型」の商品である。「GTMを立体物で表現するにはどうするか」を原作者である永野氏と共に練り込み、レジンキットならではの繊細な表現によりダッカスを立体化した。ボークスのこれからのGTM像を提示した商品であるという。

レジン製ガレージキットとして商品化された「HSGK 1/72 ダッカス・ザ・ブラックナイト」。価格は55,000円。会場で再販品が限定販売されている

 「HSGK 1/100 ダッカス・ザ・ブラックナイト」は1/72のデータをスキャナーで取り込んだ後、プラモデル化を視野に入れてのアレンジを加えている。1/100スケールでは全高約244mmとなり、全体的にパーツは小さくなる。1/72とは大きさが異なるため、永野氏と打ち合わせをしこのサイズでの見栄えの良さ、各部のメリハリを強調したバランスに調整しているとのことだ。1/100にすることで改めて「GTMとして特徴を活かすシルエット」を考えたバランスになっているとのこと。

こちらも会場で販売されている「HSGK 1/100 ダッカス・ザ・ブラックナイト」。価格は26,400円。サイズに合わせたアレンジが加えられている上に、プラモデル化を視野に入れた設計も盛り込まれている
会場ではサイズ差を見比べることも可能

 レジンキットとプラモデルでは量産用の型が異なる。レジンの型はシリコンを使用するため大量生産には向かないが、制約にとらわれない詳細な表現が可能となる。プラモデルの場合はその名の通り金属を使った金型のため、コストもかかるし、金型に流し込むための樹脂の注入方向を考えたり、硬化した際の造型などを予想した上で、レジンキットに匹敵するディテール表現をするために力を入れている。

 そしてインジェクションキットではデザインに加え"可動"がテーマとなる。GTMは永野氏がデザインした「ツインスイング機構」というZ型に配置される独特の関節を持っている。従来の球体関節や、機械の回転運動とは異なり、レール状の関節部に沿ってスライド可動に加え、「ねじれ」方向にもスイング可動が可能となっている。

 ボークスではまずこの関節を半完成品のフィギュア「ABSOMEC nonスケール GTMカイゼリン」によって金属と樹脂パーツを複合した立体物で表現している。永野氏が考えた新しい関節機構を立体物として体感ができる。それが「ABSOMEC nonスケール GTMカイゼリン」での大きな魅力だが、「1/100 ダッカス」ではプラモデルとしてこの構造や動きを確認できるようになる。ボークスはこれまでのノウハウを活かしながら、1/72と言うより小さな大きさ、組み立てキットというユーザーが組み立て、動かすことができる構造を実現させるため設計をさらに練り込んでいる。

ボークスではじめてGTMを立体化した「ABSOMEC nonスケール GTMカイゼリン」。デザイン、ツインスイングや装甲の可動などGTMの魅力を実感できる半完成品のフィギュアだ。価格は88,000円。再販品の予約を受付中だ

 「機構を表現するアイディアとしては実現できても、サイズや組み立てキットとして強度をどう確保するかも課題でした。ハードルは高かったですが、トライ&エラーで実現方法が見えました」と企画者は語った。GTMとしてのデザインと、ツインスイングという新しい可動方法を1人でも多くの人に体験して欲しい。その想いがダッカスをインジェクションキットとする最大の理由だという。

 フレームがそのまま外装になり、要所に装甲を取り付けた様なデザインのGTMは、ムーバブルフレームを装甲で覆うMH(モーターヘッド)や、これまでのアニメロボットデザインと大きく異なる。その姿そのものが"どう動くか"ということを考えた永野氏の新しいアイディアを「1/100 ダッカス」は組み立て、動かして体験できる。

「1/100 ダッカス」はデザインだけでなく可動関節も仕込まれ、GTMの魅力をたっぷり実感できるプラモデルとなる
スライド可動だけでなく、ねじれ方向までスイング可能という「ツインスイング機構」を組立、動かすことができる。腹部の蛇腹など可動箇所は多いという

 余談ではあるが、現在横浜で展示されている「動く実物大ガンダム」の製作プロジェクトが発表された時、プロジェクトリーダーを務めた早稲田大学名誉教授の橋本周司氏は、「18mのガンダムがアニメのように動くと手の先は音速を超える計算になる。そのための加速度を出すことに加え、思ったところでどう止めるか、関節の負荷をどうするかも大きな課題となる」といった発言をした。

 ましてやGTMは騎士の動きを20m超の巨体で再現する。超音速で戦場を駆け、剣を振るう存在である。そのためにはどんな関節を持ち、どんな姿になるか? 従来のロボットデザインに囚われない、GTMという存在を実在たらしめる機構……。GTMには永野氏の"動く巨大ロボットのデザイン"という想いが詰まっていると感じる。

 ボークスの開発チームはGTMの立体化にあたり、永野氏が発表しているGTMのデザインやフレームモデルのイラスト、関節機構の解説など様々な資料や劇場アニメ「花の詩女 ゴティックメード」でのGTMの動きなどから立体化のための設計を考えていったという。

 「1/100 ダッカス」ではGTMとしての構造とデザインに加え、「ダッカスならではのデザイン」も注目ポイントだ。縁がくるりと円を描く独特の曲線が取り入れられたデザイン。鬼瓦や勾玉をモチーフとしたという有機的な3次元曲面をいかにプラモデル化するか、カーブや面取り、パーツの厚みなど、金型の設計に苦労したという。

 GTMが振るう剣「ガットブロウ」もそのバランスが難しかったとのこと。大きな剣の刃の表現は、2枚のパーツを貼り合わせるというパーツ設計をする商品も多いが、その方法だとエッジのシャープさが出なかったり、剣として不自然な面取りが出てしまったりと思った通りにならない。このため「1/100 ダッカス」では1パーツできちんとした厚み、シャープさ、厚ぼったくも薄過ぎでもないギリギリのバランスを求めた造形になっているとのこと。

くるりと円を描くダッカス独特のデザイン。鬼瓦や勾玉をモチーフとしているという
武器であるガットブロウにも注目

 話を聞いているだけで商品への期待は高まるが、「1/100 ダッカス」はここからさらにブラッシュアップをする。今後ランナーパーツなども公開しユーザーへの期待を高めていくという。

 本商品を期待するユーザーへのメッセージとして企画者は「これまではガレージキットでなければできない表現をプラモデルで実現するという所に、我々もようやく到達できました。そしてツインスイングがどう動くか、デザインを崩さずにどうプラモデルで実現できたか、ぜひ会場で見て欲しいです。会場では3つの試作品がポーズを取っていますが、商品の可動でとれるポーズとなっています。商品のポテンシャルを感じて欲しいです。こう動くんだ、ここまで動くんだ。ということを確認ください」と語りかけた。

 話を聞くことでさらに「1/100 ダッカス」への期待が高まった。永野氏が考える巨大ロボットのデザインを確認でき、そして劇中の印象的な黒騎士の立体物を手にできる。発売まではもう少しかかるとのことだが、ぜひ「ボークス F.S.S.シリーズ展 in 秋葉原ホビー天国2 2023夏」の会場を訪れ、試作品を目にして欲しい。

会場での出展は商品のポテンシャルを提示している。ぜひ会場で確認し、関節の動きや可動範囲も確認して欲しい