特別企画
「スコープドッグ3mm穴問題」って何だろう? 30年以上主力機が変わらないという特異なロボットアニメ「ボトムズ」と、現代のプラモデルの流行
2023年12月27日 14:35
現在、「ボトムズ3mm穴問題」が、X(Twitter)のプラモデル関連で話題を集めている。きっかけはBANDAI SPIRITSが2024年5月に発売する「HG バーグラリードッグ」の"カスタマイズ用外装パーツ"である。
カスタマイズ用外装パーツには"3mm穴"があいている。この穴は「3mm穴ジョイント」という現代のプラモデルのカスタマイズギミックに対応したもので、この外装パーツを使うことで手軽なカスタマイズができる。しかしこの仕様に対し、Xでは賛否が大きく分かれ大議論となっている。なぜそんなに議論になるのか? 3mm穴ジョイントとは何なのか、スコープドッグとはどんなロボットなのか、考えていきたい。
3mm穴ジョイントがもたらすカスタマイズ性とプレイバリュー
「ボトムズ3mm穴問題」はX上で現在も続いている"3mm穴ジョイントの是非"が大きなテーマとなっている議論である。きっかけは「HG バーグラリードッグ」に3mm穴ジョイントのついたカスタマイズパーツがついたことでの意見だったが、スコープドッグへの想いや、プラモデルメーカーへの苦言、現代のプラモデル製品についての意見など、様々な主題に広がり、ユーザー達が様々なプラモデルへの理想をぶつけており、それに対するツッコミが混じり大論争となっている。
「3mm穴はオリジナルのデザインを壊してしまう」、「昨今の流行に安易に乗っかっているだけでは?」、「このパーツはあくまで選択肢であって選ばなきゃいい」などなど、スコープドッグのデザインや、3mm穴ジョイントの流行の是非など、意見が意見を呼んでいるのだ。
そもそもなぜカスタマイズパーツに"3mm穴"があいているのか? それは現在のプラモの流行のカスタマイズ要素なのだ。この3mm穴ジョイントを使うことで、装甲や武器の付け替え、さらには手足の交換など、多彩なカスタマイズが可能なのである。3mm穴はBANDAI SPIRITSのガンプラの「ガンダムビルドシリーズ」や、カスタマイズ目的の「ビルダーズパーツ」、そしてコトブキヤの「フレームアームズ」、「ヘキサギア」などで採用している。
元々はコトブキヤの「フレームアームズ」がスタートと言えるだろう。オリジナル世界とメカで展開する「フレームアームズ」は、3mm穴ジョイントで各商品の共有要素を増やすことで「ミキシング」を可能にし、手軽にオリジナルメカを作ることを可能にした。ブロック玩具のように各種武装を付け替えたり、装甲を組み換えたり、さらには手足すら変えることも可能なのだ。モデラーは塗装で質感も統一するかもしれないが、ライトユーザーはまるでおもちゃ箱を引っかき回したような、色々な部品をくっつけてオリジナルメカを気軽に作ることが可能となった。
コトブキヤはこの3mm穴ジョイントを武器とした。「フレームアームズ・ガール」、「ヘキサギア」、さらにファンタジー美少女プラモデルシリーズ「アルカナディア」にすら3mm穴ジョイントは盛り込まれていて、商品を集めるほどユーザーの作品の幅を拡げるようにしたのだ。手軽にできるカスタマイズプラモデルは今や大きな潮流と言える。
BANDAI SPIRITSもまた「30 MINUTES MISSIONS」という、メカのデザインそのものに3mm穴ジョイントを盛り込み、カスタマイズ性をウリにするプラモデルシリーズを展開している。さらに美少女プラモ「30 MINUTES SISTERS」も展開、ガンプラの改造をテーマにした「ガンダムビルドシリーズ」の商品や「ビルダーズパーツ」には3mm穴ジョイントを活用することで気軽な改造が可能となっている。
3mm穴ジョイントの良さは極めて改造が簡単なことだ。パーツをぐいっとはめ込むだけ。飽きたら外して付け替えれば良いし、気まぐれの改造も可能。完成品アクションフィギュアやブロック玩具そのままの気軽な付け替えができるのだ。
一方、モデラー視点からいえば、デザインで大きな穴が開いているのはやはり異様に見える。装甲にそんな大きな穴が開いているのか? ハードポイントのデザインとしてはあまりに安易なのではないか? プラモデルを完成品として飾るためには、体の各部に穴が開いているのは違うのではないか?
3mm穴はプラモデルをどうしてもおもちゃっぽくしてしまう。塗装して、表面処理して、ポーズを付けて飾る、プラモデル的な楽しみ方ではなく、ガチャガチャ付け替え、グリグリ動かして遊ぶ、玩具的な楽しみ方と相性が良いギミックと言えるだろう。モデラーの交流の場では「3mm穴をどう埋めるか?」という議題が上がることがあるし、個人で「3mm穴埋めパーツ」を販売している人もいる。
ファンと制作側が変わることを許さなかったスコープドッグ
そして、「HG バーグラリードッグ」である。バーグラリードッグはOVA「装甲騎兵ボトムズ赫奕(かくやく)たる異端」に登場するスコープドッグのバリエーションで、スコープドッグに様々な追加装備を施している。スコープドッグは元々様々な追加装備が用意されたカスタマイズ性の高い機体で、宇宙戦や降下作戦用の装備があったり、ミサイルポッドやガトリングなどを体に装備できる。湿地戦用のカスタマイズは「マーシィドッグ」という別名がついたりする。ユーザーオリジナルのカスタマイズもしてみたくなる機体だ。
BANDAI SPIRITSは「HG バーグラリードッグ」の"カスタマイズ用外装パーツ"として体の各部に3mm穴がついた交換用パーツを用意したのだ。この体に穴がついたスコープドッグを見て、賛否両論が今Xを賑わせているのである。
過激に3mm穴ジョイントを否定する人達へ「そんな指摘をしてどうするの?」というツッコミ側の意見はわかる。プラモデルにはちゃんと穴のついていないパーツもあり、オリジナルのスコープドッグにも組み立てられるのだ。現代のユーザーなら、気軽にスコープドッグに色んな部品を付けて遊びたいんじゃない? という意見ももっともだと思う。
しかし一方で、「この3mm穴のデザインは許せん」という意見もありだと思う。スコープドッグは4mのロボットである。そのメカにこの穴はでかすぎる、という感覚はいわれれば共感できる部分があるのではないだろうか。そもそもプラモデルでおもちゃ的要素がいるのか? みたいな意見も、思っている人は多いのかもしれない。武器を機体に付けるといえば、溶接した処理や、操作用のコントローラはどうするのかとか、こだわりたい人には、3mm穴のカスタマイズというギミックすら否定したいのかもしれない。
また、「スコープドッグ」という存在そのものが異様な設定のロボットである、ということも付け加えておきたい。「赫奕たる異端」はTVアニメ「装甲騎兵ボトムズ」の最終回から30年後の世界である。しかしそれでもスコープドッグが現役なのだ。次世代主力機などが存在せず、メルキア軍はスコープドッグを使い続けているのだ。
例えば日本もジェット戦闘機のF-15を配備してから30年あまり使い続けているがアニメでは主力機の交代で時代の変化を印象づける作品も多い。、「機動戦士ガンダム」でも7年後の「機動戦士Zガンダム」ではジオンのザクは姿を消し、連邦の主力機はジムIIになっているし、技術が掛け合わされたハイザックも生まれている。ジェガンは30年使われたという設定だが、30年後のジェガンは時代遅れ扱いなのだ。ガンダム作品だけでなく、「機動警察パトレイバー」、「マクロスシリーズ」などなど、主力機は時代と共に変わっていく。
アニメ作品では主力機を変えることで時代の変化を演出する方法が一般的だ。にもかかわらず、「30年間スコープドッグなのがボトムズです」というのが「ボトムズ」の制作陣とファンなのだ。3mm穴ジョイントの議論を見ていると、ジョイント拒否派の中に「スコープドッグのデザインを崩すのが許せん」というような頑固なボトムズファンの意見も見えるような気がする。もちろん価値観は人それぞれで、正義や正解も人によって違う。それが可視化できるのがXの面白いところであり、時として炎上に繋がってしまう部分でもあるだろう
しかし、議論している題材が「プラモデル」であるところが一番の注目ポイントだ。自分の正しさは、作品で示せば良いのだ。プラモデルはそれが可能なホビーである。ぜひ「自分の正しいボトムズ/スコープドッグ」を形にして欲しい。
2023年はもちろん、2024年もBANDAI SPIRITSやウェーブ、マックスファクトリーなど、ボトムズ関連のプラモデルは続々発売される。この議論がボトムズプラモデルの未来に繋がっていくに違いない。1/24の「スタンディングトータスMk-I」Iや「ファッティー」が商品化されるような、明るい未来をぜひ期待したい。
(C)サンライズ