インタビュー

「METAL BUILD Hi-νガンダム」企画者インタビュー

ファンネルを放出した後の姿、出渕氏のイラストへのリスペクトなど新しい挑戦

【METAL BUILD Hi-νガンダム】

7月発売予定

価格:35,200円(税込)

全高:約205mm

材質:ABS、PVC、ダイキャスト製

セット内容:
本体・各種武器・交換手首
プロペラントタンク左右
フィン・ファンネル×6
ジョイント2種
台座&支柱一式
フィン・ファンネル用ジョイント&支柱一式

 「METAL BUILD Hi-νガンダム」の発売が7月に決定し、見本の写真など具体的な情報が明らかになった。2月8日には予約が開始され、大きな人気を集めている。

 「Hi-νガンダム」は、「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」の小説版に登場した機体。小説は2種類あり、「機動戦士ガンダム逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン」では映画とは異なる視点で描かれている。この小説での出渕裕氏が映画とはデザインの異なる「νガンダム」のイラストを巻頭に描いており、この機体がその後「νガンダムの発展形であるHi-νガンダム」だという設定がなされた。

 ゲームなどでも活躍したHi-νガンダムは、多くのファンを獲得、様々な商品が登場した。そして「METAL BUILD」の10周年の際の発表商品として、「METAL BUILD Hi-νガンダム」が発表されたのである。

 本商品の見所はどこか? 開発するにあたりスタッフはどのような想いを込めたのか? 今回、本商品の企画担当者である西澤氏に話を聞いた。西澤氏は以前「RG Zガンダム」でインタビューをしたことがある。西澤氏は過去にガンプラなど、プラモデルの商品企画にも携わってきた経歴を持つ。プラモデルから完成品フィギュアを扱うことでの今後の意気込みなども質問してみた。

【METAL BUILD Hi-νガンダム】
「METAL BUILD Hi-νガンダム」はMETAL BUILD10周年を記念した商品。人気の高いHi-νガンダムのモチーフに、様々なギミックや作り手の想いを込めた商品となっている

装甲のスライドギミックで、さらに密度が増すディテール表現

 「METAL BUILD Hi-νガンダム」は、「METAL BUILD 10周年」にあたり企画された。「Hi-νガンダム」は「METAL ROBOT魂 <SIDE MS> Hi-νガンダム」でも非常に人気を集めた。認知度、人気度がとても高い機体である。そのHi-νガンダムを大きなサイズであるMETAL BUILDで完成品フィギュアとして再現するとすればどうなるか、そういったところが企画の出発点だったという。

 「METAL BUILD Hi-νガンダム」のデザインはこれまでの「METAL BUILDガンダム SEED/SEED Destiny」シリーズなどを手がけるKoma氏がデザインを行なっている。その際に「駐機形態時の変形ギミック」など、キーとなる要素も考えられており、「METAL BUILDとしてのデザイン」、「ギミックを活かすための機構」、「ダイキャストパーツの使用箇所」などなど基本的なラインが組み上げられていった。

本商品の企画担当者であるBANDAI SPIRITSコレクターズ事業部の西澤氏

 企画、設計、生産まで含めると約2年を費やすMETAL BUILDシリーズ、前任担当の須崎氏の企画意図を聞き、アムロの機体としてのフォルムイメージ、細部のディテールアップ、設定付けされたアレンジコンセプト、飾り様など、宇宙世紀として意識できる形に仕上げていったとのこと。

 「METAL BUILD」で、アニメ「機動戦士ガンダム」の世界から地続きの世界である「宇宙世紀のMS」は、すでに「METAL BUILD ガンダムF91」や「METAL BUILD クロスボーンガンダム」で商品化されている。こういった商品との関連性なども考えられながらのデザインとなったとのことだ。こういった様々な要素から、「10周年」という節目に当たり、特に人気の高いHi-νガンダムが選ばれた、というのが大きいと西澤氏は語った。

 西澤氏は「ガンプラ企画に関わりながら、その他キャラクターや、新素材による商品企画など、さまざまな事に携わっていたとのこと。今回、「超合金」などのプラモデルではないダイキャストなど複合的な素材を使った商品作りに興味があり、これまでとは違った商品にチャレンジできるというのが楽しみだったとのこと。

 本商品と方向性の近い、「大きなサイズのνガンダム完成品フィギュア」としては「METAL STRUCTURE 解体匠機 νガンダム」がある。「解体匠機 νガンダム」は、サイズが大きいだけに、逆にその面積を埋めるだけの緻密なディテールが求められる商品でりその中で「νガンダムが実在していたらどのようなメカが詰まっているか」を意識し、各所のメンテナンスハッチが開き、内部の機会が露出する、といったイメージが込められていた。それは内部機構の表現にとどまらず、外装のパネルラインやセンサーなども描きこまれその情報の密度で見た者を圧倒するようなボリュームを実現していた。

 「METAL BUILD Hi-νガンダム」もやはりディテール表現、情報の緻密さ、サイズからくるフォルムに注力した商品となった。「METAL BUILDは完成品フィギュアです。商品をお客様が見た瞬間にその出来に目が惹かれ、情報量に驚いてもらう、感心してもらう、そう言うインパクトを狙った商品にもなります。デザインや塗装、質感が、見ただけで伝わるということは意識しています」と西澤氏は語った。

【ダイキャストの質感】
肘やフィンファンエルのアームの基部など、意図的にダイキャストの部品を使用しており、独特の質感を持っている

 「METAL BUILD Hi-νガンダム」において、その"ディテール"を強くアピールする要素が「装甲のスライドギミック」だ。装甲が動き中のフレームが露出するというのは「ユニコーンガンダム」がサイコフレームを露出させるという変身(変形)を行なっているが、「METAL BUILD Hi-νガンダム」では"放熱"という内部機構に対する解釈で装甲の可動ギミックを取り入れている。

 装甲の可動部分はフロントスカート、ふくらはぎの側面、、肩アーマーなどダクトのある部分が動き、放熱効率を上げるようなイメージを持たせている。戦闘中で熱が上昇したときに解放するような雰囲気もある。装甲をずらすことで内部のメカ的なディテールも現われ、さらにフォルムの体型変化で見応えが増す。フォルムだけにはとどまらず、どのような機能を持たせているかの細かい設定は想像の域を超えていく事もあると思うと、西澤氏は語った。

【装甲のスライドギミック】
フロントスカート、ふくらはぎの側面、、肩アーマーなど、各所がスライド、装甲に隠されたディテールが現われる

ファンネルを外したときに現われるスラスターなど、「METAL BUILD Hi-νガンダム」ならではのギミック

 また、"大きさ"というのも「METAL BUILD Hi-νガンダム」のセールスポイント。本商品の全高は約205mm。先日発売された「METAL BUILD ジャスティスガンダム」が全高約180mmと、Hi-νガンダムの方がはっきりと大きい。METAL BUILDはスケール表記を提示する商品ではないので、厳密な縮尺などは公開していないが、従来のMETAL BUILD商品より大きなものとなるという。

 フォルムそのものが大きく、しかも背中にフィンファンネルを6基装備するのでそのボリュームはさらにアップしている。フィンファンネルは接続の基部がフレキシブルに動くので、羽を広げたように、シルエットをさらに大きく見せる演出も可能だ。

 このフィンファンネルの基部は「METAL BUILD Hi-νガンダム」ならではの新解釈が盛り込まれている。1つ1つの基部を引き出して、独立して可動させることが可能。さらに「フィンファンネルを外した後」にも独自の考察と設定を加えている。

【大きく広がるフィンファンネル】
フィンファンネルを接続している基部は、引き出すことで可動範囲がアップする
フィンファンネルは攻撃形態でディスプレイさせることも可能

 ファンネルを接続していたアーム部分は折りたたむことができ、そこから大型のスラスターが現われる。バックパック中央のテールスタビライザーも跳ね上げ、先端を折り曲げることができ、バックパックそのものがファンネルを接続していた時とははっきり形を変えることができる。ファンネルを外した後に、「高機動モード」ともいえる姿に変えることができるのだ。

 この姿は、元々はファンネルをメンテナンスするために取り外した「駐機モード」がイメージの出発点になっているとのこと。基部のテールスタビライザーや、ファンネルアームの変形をスラスターの露出と解釈するか、メンテナンス用、アームを小さく折りたたむための機構ととるかの解釈もユーザーに委ねているとのことだ。「このアームを折りたためる機構はこれまで世の中に出ているHi-νガンダムにはないものだと思っています。このギミックは本商品のポイントの1つです」と西澤氏は語った。

 個人的にはファンネルを使い切った後のアームはいわばデッドウェイトになるし、身軽になったHi-νガンダムが隠された力を発揮するという感じで、高機動モードという解釈は楽しいと感じた。

【駐機姿勢】
「METAL BUILD Hi-νガンダム」の大きな特徴である駐機姿勢。「ファンネルアームの折りたたみ」、「プロペラントタンクの分割」といったオリジナルギミックが詰まっている

 西澤氏の個人的に気に入っているギミックが、「プロペラントタンクの分割」。Hi-νガンダムはバックパックにプロペランとタンクを搭載しているが、「METAL BUILD Hi-νガンダム」ではこのタンクを2つに分割でき、しかも分割したところにもバーニアが設置されている。

 まるで多段ロケットのようにタンクを切り離すことができるイメージだ。戦闘時間を考慮して短めのタンクで出撃するなど、イメージによるカスタマイズの幅も広がるギミックだ。こちらも駐機姿勢の時、腰をかがめてもプロペランとタンクが邪魔しないようにする、というのがアイディアの出発点だったという。

 もちろん、機能的側面からすればエネルギーは半分しか持たない形状ではあるが、多段ロケットのような発想をもってアレンジされたことがすごい事であり、さらに分離したところから現われるバーニアのディテールも西澤氏は面白く感じているとのこと。

【オリジナルギミック】
ファンネルアームが折りたたまれアームの上部が跳ね上がる。この跳ね上がった部分がスラスターか、それとも内部メンテナンス用の機構かは厳密に設定していない
Koma氏がデザインした多段ロケットのようなギミック。商品できちんと再現された

 もう1つ、前述の装甲可動ギミックの際、肩のアーマーは端を動かすと連動し上部分が持ち上がるようになっている。この連動ギミックは玩具的楽しさを持ったギミックであり、これまで装甲に隠されていたところから現れるメカディテールは大型アイテムならではの緻密さで楽しい部分だと西澤氏は語った。

 そして「塗装」、さらに「出渕裕氏のイラストへのリスペクト」である。「METAL BUILD Hi-νガンダム」は、小説「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン」と、最初期に設定された紫の機体カラー、独特のカラーパターンのシールドを採用している。出渕氏のイメージによるHi-νガンダムを色濃くしようと、これまでも宇宙世紀としての「塗装、マーキング」に関わっていたデコマスラボの広瀬裕之氏と話しあった事が塗装の大きな方向性となっているという。

 カラーリングに加え、グラデーションを随所に配置、小説のイラストや初期の出渕氏のHi-νガンダムの色使いを参考にし、リスペクトしている。ビームライフルに懸架用のスリングベルトがついているのもイラストリスペクトとのこと。このスリングベルトは軟質素材(PVC)で作られており、遊びの幅を広げている。

 今回、商品の宣伝素材として「METAL BUILD Hi-νガンダム」を撮影したとき、小説の構図をイメージしたカットも撮影している。こちらも強くこだわったポイントだという。

【出渕裕氏のイラストへのリスペクト】
ファンネルの塗装のグラデーションはイラストの質感を意識している
独特の塗装パターンのシールド
出渕氏のイラストの雰囲気を再現。写真を加工したイメージも
銃の懸架用のスリングベルト

ダイキャストを使った完成品フィギュアだから突きつめられる可能性

 「METAL BUILD Hi-νガンダム」は手足も大きく、フィンファンネルを3基ずつ保持しなくてはならないので、各関節の負荷は大きなものとなる。関節はダイキャストを使い、強度を持たせることでポージングを可能にしている。

 METAL BUILDの場合、ダイキャストパーツは細かいディテールを入れにくい部分もあり、まず強度が必要な部分や、演出としてダイキャストを私用したい部分を設定し、それらのパーツをの設計を作り上げた上で、デザインを整えていく。「ダイキャストありきのデザイン」というところでのプロダクトは新鮮だったとのこと。

 「METAL BUILD Hi-νガンダム」は今後西澤氏が企画していく商品への大きな刺激となった。ダイキャストの使用に加え、「塗装済み」であるということもユーザーが完成させるプラモデルの設計・企画とは違う。プラモデルはきちんとユーザーの手で組み、完成させられるというのが商品設計では大事だが、完成品はユーザーが箱を開けたときにすでに商品は完成している。

【ダイキャストの強み】
関節や、装甲の隙間から合われる金属関節、他にも手に持ったときに触れるところに配置するなど、コレクターズ事業部にはダイキャストをどう使うかのノウハウがある
ファンネルやシールド、手足など各パーツは大きい。これらをしっかり支え、パーツを保持できるのもダイキャスト関節の強みだ

 「ダイキャストを使用した商品であることをアピールするための見せ方、商品としての質感、商品を手に持ったときダイキャストがちゃんとユーザーの手に触れ、重さと触感でダイキャストを感じられること。関節や可動の渋みや信頼感……。METAL BUILDはこういった"完成品を手にした満足感"を大事にしている商品である、ということを実感しました」と西澤氏は語った。

 ユーザーが「完成品」を手にする。それはユーザーが組み立て、手を入れることではじめて完成するプラモデルとは大きく違うところだ。西澤氏がこだわった点として、「マーキング」がある。METAL BUILDは緻密で豊富なマーキングもウリの1つだ。

 パイロットエンブレム、機体番号、部隊番号、注意書き……モチーフやシチュエーションでも大きく異なってくる。しかし商品として完成品を提示する場合は、こちらからユーザーに満足してもらうものを提示しなくてはならない。

 このポイントに関しては西澤氏は、これまで多くのMETAL BUILDをカラーコーディネーターとして手がけているデコマスラボの広瀬氏と話し合った。そのうえで、Hi-νガンダムに関しては、部隊や所属などを大きく表示するのではなく、注意表記といった実在の兵器に近いアプローチを考えたとのこと。「見せすぎず、物足りなさを感じない」というバランスを考えて設定した。ここは広瀨氏と2人でこだわりを強くしたところだという。

 「『METAL BUILD Hi-νガンダム』の実際製造に関わることで、細かいパーツ、細かい工程、塗装で作られていることを自分の仕事として実感しました。完成品だからこその商品としての仕上がり感、それがそのままユーザーの手元に届くということはコレクターズでしかできないプロダクトだなと。高いクオリティの完成品をユーザーがそのまま手にできるというのはすごいことだなと感じました」と西澤氏は語った。

 そのうえで本商品を手にしたユーザーに西澤氏は「出渕氏のイラストのポーズ」はぜひとって欲しいという。「イラストのポーズに限らず、商品紹介の写真はポーズや部品の位置を真似することで、各ギミックの可動のポテンシャルや、設計の意図がわかってもらえると思います。『この関節はこのポーズを可能にするためにこう動くのか』など、商品の魅力がより細かくわかると思います」と西澤氏は語った。

 もちろん西澤氏は、「METAL BUILD Hi-νガンダム」だけではなく幾つもの商品を並行して担当し、新商品を企画している。その中で現在取り組んでいる方向性として「ギミックと可動、キャラクターの特徴を生かすダイキャストの組み合わせ」という、完成品フィギュアならではの課題に挑戦しているという。「ダイキャストを使ったからこそのギミックやアレンジ、触感や見た目も含めたギミックの楽しさ、強度を活かした設計など、機構とデザインが伴った様々なものをキャラクターの特徴に組み合わせて考えていきたいと思います」とのことだ。

 ユーザーへのメッセージとして西澤氏は「発売は7月になるので、もし展示品などを見る機会があれば是非見てみてください。写真とはまた違った発見があると思います」と語った。

【マーキング】
「METAL BUILD Hi-νガンダム」のマーキングは比較的抑え気味と言える

 今回、「METAL BUILD10周年にあたり、Hi-νガンダムという魅力的なモチーフ、企画者として西澤氏のプロダクトといった観点で話を聞いた。本商品が実現したことで、今後の商品や、プロダクトにも大いに期待したいところだ。