インタビュー

マルゼン、エアコキショットガン「CA870 TAC-10」開発者インタビュー

現代的な拡張性と、軽さ、使いやすさ。サバゲーにぴったりの新製品

【CA870 TAC-10】
開発・販売元:マルゼン
3月18日発売
価格:17,380円
全長:約592mm
重量: 約1,290g
使用弾:6mmBB弾
装弾数:20発(マガジン単体)

 マルゼンが3月18日に発売したエアースポーツガン「CA870 TAC-10」は、ガスやバッテリーといったパワーソースを使わず、銃身の下についているフォアグリップを動かす“ポンプアクション”で空気を圧縮し、その力でBB弾を撃ち出す「エアーコッキング」方式のエアースポーツガンである。形状はショットガンだが、発射する弾は1発。高い命中精度のため、ライフルのような狙撃も可能だ。

 「CA870 TAC-10」はその形状と取り回しのしやすさに大きな特徴がある。エアースポーツガンは実銃を意識して鉄でできた銃を手に持ったような“重さ”を再現する商品も多いが、「CA870 TAC-10」は1,290gと軽く、フォアグリップの操作も軽快だ。短い銃身に加え銃床も切り詰められており、全長は約592mmとショットガンとしては非常に短い。軽く取り回しのしやすいこの銃でサバイバルゲームでのフィールドを駆け回るようなイメージだ。

 今回、マルゼン本社にて本商品の開発者であるマルゼン技術開発部の田原勇一氏に話を聞くことができた。さらに常務取締役の鈴木宏一氏に本商品の方向性や、マルゼンのエアースポーツガンの製作意図なども聞けた。本商品の魅力を紹介していこう。

今回話を聞いたマルゼン技術開発部の田原勇一氏(右)と、常務取締役の鈴木宏一氏

ホームディフェンスにも活用される最新カスタムショットガンを再現

 「CA870 TAC-10」は、実銃再現ではなく、モチーフはあるものの、デザインはマルゼンオリジナルとなる。エアーコッキングショットガン「CA870」シリーズの最新作という立ち位置だ。モチーフは「レミントン 870 TAC-14」。

 M870は1960年代に生まれた狩猟用や警察用にも使用されるショットガンだが、レミントン 870 TAC-14はタクティカルなフォアグリップ、肩付けの銃床ではなく「ラプターグリップ」を採用し取り回しやすさを追求し、家庭用の防犯「ホームセキュリティ」向けに開発されている。狩猟や警察用途ではなく、家の周辺での危険に対処するための銃というわけだ。

マルゼンの「CA870 TAC-10」。ホームセキュリティー向けに開発された「レミントン 870 TAC-14」がモチーフ。様々な装備が装着可能な「M-LOK」対応のスロットを持つ、現代的なデザインのショットガンだ
こちらは公式画像。 CA870はクラシカルなショットガンだが、M-LOKとグリップでモダンな印象に変わっている

 マルゼンでは「CA870」として、M870の様々なバージョンを再現している。銃身とグリップを切り詰めた「CA870 ソードオフ」を皮切りに、フルサイズの「CA870 ストック」、タクティカルグリップを採用した「CA870 ブルドッグ」などクラシカルな雰囲気も魅力の商品が多かった中、「CA870 TAC-10」は最先端と言える“現代風”の外見を持つ。

 マルゼンの「CA870 TAC-10」は、実銃の14インチの銃身から、10インチにアウターバレル(実銃の銃身にあたる)を短縮、「TAC-10」という名称となった。実銃のショットガンだと銃身を切り詰めることで散弾がより幅広く広がる。10インチの外見は近接での攻撃力をより強化したイメージになる。

 実銃は両手で抱え込むように構える「腰だめ」での射撃を意識したグリップになっているが、「CA870 TAC-10」はライフルのように構えることも考えグリップを調整しており、狙撃姿勢での射撃も意識している。アウターバレル先端にビーズサイトをつけることで狙撃をしやすくしている。ビーズサイトは両面テープで着脱が可能だが、常用する場合は接着することもできる。

【ビーズサイト】
製品にはビーズサイトが付属しており、両面テープで装着が可能。常用する場合は接着することもできる

 「CA870 TAC-10」での注目ポイントは「M-LOK(エムロック)」を採用したフォアグリップ。M-LOKはモジュラーロックの略で、Magpul社が開発した規格。スロットにM-LOK規格の様々な装備を装着でき、多彩な機能を持たせることができる。暗いところでのライトや、レーザーポインターをつけて命中のためのガイドにすることも可能だ。M-LOKは特殊部隊など現代装備のトレンドと言える。タクティカルな外見と実用的なM-LOKは「CA870 TAC-10」にシャープなカッコ良さをもたらしている。

 このフォアグリップのデザインは本商品の大きなこだわりポイントだ。Magpul社からM-LOKのライセンスを正式に取得し、図面データの提供を受ているので、M-LOKに正式対応している。握る感触や、M-LOKの配置、取り付けられるオプションなどは実銃の雰囲気を追求していると田原氏は語った。

 このほかにも「CA870 TAC-10」はこれまでの「CA870」で使われていた様々な装備を使用可能だ。レシーバーにマウントレールをつけてさらに装備を取り付けることももちろんできる。ダットサイトや、遊び方によってはスコープさえもつけることができる。こういった装備をつけると前述のビーズサイトは不要となる。ビーズサイトを着脱可能な形式にしたのも、より幅広い遊び方を考えての設計とのことだ。

【フォアグリップ】
「CA870 TAC-10」に現代的な雰囲気を与えるフォアグリップ。Magpul社のフォアグリップを参考に製作されている

 もう1つ「CA870 TAC-10」で特徴的なのが本商品と共に開発されたマガジンだ。実銃のショットガンでは銃身の下のマガジンチューブにショットシェルを装填し、さらにデタッチャブルマガジン仕様にすることでより多くの装弾ができる。マルゼンの「CA870」ではトリガーガードの前の挿入口から飛び出すようなボックス型マガジンが販売されていたが、「CA870 TAC-10」は銃本体に埋め込まれ、外見的には出っ張りがない小さなショートマガジンが新規開発された。

 このショートマガジンは銃の外見をすっきりさせ、しかも装弾数は20発と、サバイバルゲームの1ラウンドならば必要数と言えるBB弾を収納できる。田原氏がこのマガジンでこだわったのは「マガジンチェンジのしやすさ」。マガジン上部のつまみに指を引っかけ軽く引くとバネの反動でスムーズにマガジンが外れる。マガジンを複数持っていれば素早くマガジンチェンジができ、このアクションも楽しめるというわけだ。

 ちなみにこの小さなマガジンは実銃では大きなショットシェルはさほど入らない。ほとんど挿入口を塞ぐだけのような役割だ。それは「ホームセキュリティ」や狩猟などでそこまで弾数を必要としない用途向けだろう。しかしサバゲーでは銃の引っかかる場所が減って外見がスマートになり、20発という実用的な弾数と、マガジンチェンジという楽しいアクションができる魅力的なパーツとなっている。このマガジンはファンの要望で実現したと田原氏は語ったが、実用性重視と考えれば強く納得できる設計だ。

 ショートマガジンは黒だけでなく、銀色も同時販売だ。レミントン 870 TAC-14は銃身などが銀色の銃(TAC-14 マリンマグナム)もあり、銀のマガジンがピタリと合う。あえて色違いのマガジンを用意しておけば、弾が入っているマガジンがわかりやすいなど、ユーザーが自由な使い方をしてほしいとのこと。

【マガジン】
BB弾が20発入るマガジン。銃本体にすっぽり入り、出っ張りがない。しっかり装着されるが、ダミーキャリアーを押すだけで簡単に外すことができる
【マルゼン、「CA870 TAC-10」の軽快なポンプアクションと、マガジンの着脱】

 鈴木氏はYouTuberのマック堺氏がタレントの所ジョージ氏の世田谷ベースでトイガンの雑談をする「マック堺 トイガン 雑談」のレギュラーといえる人物なのだが、実はこの番組でのやりとりが「CA870 TAC-10」のショートマガジン開発のきっかけの1つだったという。

 「弊社の『CA870』シリーズは軽くて扱いやすく、まっすぐしっかり飛ぶ精度と実用的な装弾数でお客様からの評価が高いシリーズなんです。ところが海外メーカーで似た商品が出て、マガジンも同じものが使える。そのメーカーがショートマガジンを作っていて、所さんが弊社の「CA870」でそれを使ってたんです。悔しくてね(笑)。そこでその似た商品とは、見た目、金額、使い勝手、すべてに勝るマガジンを開発しよう! となったんです(笑)」と鈴木氏は語った。「マック堺 トイガン 雑談」を見ているファンにとってニヤリとさせられるエピソードだ。

 このショートマガジンは田原氏にとっても特に思い入れの強いパーツだという。銃本体にすっぽり収まるからこそ、いかに取り外しがしやすい設計にするか、社内でも協議が重ねられた。20発という装弾数を実現しながら、装着しても出っ張らない、銃本体のシルエットが崩れない設計は、こだわったポイント。交換しやすいだけでなく、きちんと操作しなければ簡単には外れない。実用性重視のデザインと使い勝手を両立したマガジンだ。

【拡張性】
下は「CA870」シリーズに様々なカスタムパーツをつけたもの。ベースは同じだが全く雰囲気が異なる
本体にかぶせるように銃上部にマウントベースを取り付けられる
ライトも多用される装備の1つ

機能性重視、“玩具的”なハードルの低さも強く意識した商品

 また、「CA870」シリーズは抑えられた価格も大きな特徴だ。「CA870 TAC-10」はメーカー希望小売価格17,380円。シリーズ第一弾の「CA870 ソードオフ」は12,980円である。ガスガンや電動ガンと比べ、機構がシンプルなのも価格を抑えられる所ではあるが、“お手頃価格”で本格的な実用性能を持ち、“切り詰めたショットガン”というのは、キャラクター性としても楽しい。

製品への思いを語る田原氏

 田原氏は特にシリーズ第一弾の「CA870 ソードオフ」は“性能最重視”で、必要な要素だけに集約し価格を抑えた商品だと語る。黒い銃本体に、木を模したフォアグリップとリアグリップが取り付けられているが、成形色そのままの無塗装、実銃再現ではあるが刻印などもほとんどなく見た目もシンプルだ。しかし「ポンプアクション」と呼ばれる射撃するためのアクションもしっかり楽しめ、命中精度も高い。エアーコッキングガンとしての必要な機能を集約しており、低価格も相まって今でも人気が高い。

シリーズ第一弾の「CA870 ソードオフ」、価格は12,980円。何度も再販される人気商品だ

 鈴木氏は、「他メーカーさんは“実銃再現”に注力しており、細かいデザイン再現や、実銃同様の機能を持たせるなどに力を入れています。リアルだけど、価格は上がってしまう。弊社でもワルサーシリーズはワルサー社の正式ライセンス製品で、ほかにも実銃再現にこだわった製品もあるのですが、『CA870』シリーズはあえて、”玩具の方向性“を強くした製品といえます。安価で遊びやすい、玩具的な方向の製品も大事にしたいと考えています」と語った。

「CA870」シリーズは排莢口はダミーだ。刻印などがないのは実銃同様だが、コストを抑えられるポイントでもある
銃本体はグラスファイバーを加えたABSで強度と軽さを両立している

 言われてみると納得感がある。ショットガンは実銃の場合は銃身や銃床を切り詰めても重さは数kgあるし、ショットシェルが大きいため、弾数も限られる。また、本来のショットガンは反動が大きく、銃床を切り詰めれば非常に使いにくくなるが、エアコッキングガンは反動がないので銃をコンパクトに、使いやすさも追求できるなし、連射も可能だ。「CA870 TAC-10」は重さは1kgちょっとで持っていてもフィールドを駆け回れるし、小さなマガジンで20発の弾が撃てるいわば“サバゲーでの機能を重視した商品”であり、実銃再現とはベクトルが異なる商品と言える。このはっきりしたコンセプトが人気を得ているのだ。

 マルゼンでは実際のショットシェルの形状を再現したBB弾カートリッジ「ライブシェル」を採用した「M870」や「M1100」という商品も展開している。そちらでは実銃同様に1つ1つライブシェルを銃に込めることもでき、ポンプアクションをすることで次弾の装填と共に空になったライブシェルの排莢も行うことができる。しかしこういった機構の再現はコストがかかる上、排莢したカートリッジの回収の手間などもある。CA870 では排莢口もダミーであり、機構もエアーコッキングシステムによるシンプルなもので、価格を抑えている。「サバイバルゲームにおける実用性重視で価格が抑えめ」というのが、「CA870」シリーズの大きな魅力だ。

 さらに「CA870」はモチーフのM870同様、銃身が長いバージョンや、グリップの異なる商品もある。ダットサイトやスコープを取り付け狙撃用ライフルのような使い方もできるのだ。エアースポーツガンならではの多彩な遊び方ができるシリーズなのだという。

 「CA870 TAC-10」はアウターバレルやフレームはグラスファイバーを入れることで強度を増し、軽さを追求したABSで作られ、金属部品も効果的に使用している。グリップの末端にはランヤードリンクでスリングなどをつけやすくなっている。

 実際にポンプアクションでコッキングを行い、空撃ちもしてみた。スムーズにフォアグリップをスライドさせることができ、トリガープルも軽い。「ポン」と軽めの音がするが、しっかりと弾が飛ぶであろうことが想像できる。

鈴木氏はマルゼンの製品における方向性の違いや、「CA870」の基本コンセプトなどを語った

 「CA870 TAC-10」は銃身も短いため接近戦専用にも感じるが、「CA870」シリーズはまっすぐ弾が飛ぶため、10m、20mの距離でも狙ったところに着弾ができ、中距離での銃撃戦でも活用するユーザーが多いとのこと。腰だめだけではなく、ライフルのように構え、敵を狙う戦いにもきちんと対応している。中距離での味方の支援にも使える銃だという。

 「サバイバルゲームでも使いやすく、走り回り、撃ちまくれるエアコキショットガン」という特性を持つ「CA870 TAC-10」だが、実銃の雰囲気、ミリタリー的要素を追求した部分ももちろんある。実銃と同じM-LOKを採用した「フォアグリップ」と、「ラプターグリップ」は思い入れが強いと田原氏は語った。

 「『ラプターグリップ』は曲面形状が多く、設計が大変でした。モチーフとなるレミントン 870 TAC-14のラプターグリップの実物の資料を収集し可能な限り原型の設計を行なっていったのですが、そこからさらに『CA870』向けに調整を加えています。腰だめでの構え方、ライフルのように狙い撃つときの構え方では握るときの手の角度や、力が入るところが変わります。どちらでもちゃんと握りやすいように『CA870』として使いやすいようにしています。特にグリップの丸みが手にしっくりくるホールド感をもたらしてくれています。このグリップの握った感触もこだわりポイントですね」と田原氏はコメントした。

【ラプターグリップ】
丸みを帯びた独特のデザインのラプターグリップ。実銃に寄せたデザインだけでなく、「CA870 TAC-10」としての使い勝手を考え細かい部分の調整を加えたこだわりの部分だ

 タクティカルなフォアグリップ、独特の形状でのユニークさと実用性を兼ね備えたラプターグリップはポンプアクションショットガンというクラシカルな機構を持つショットガンに独特の“現代性”をもたらしてくれる。「CA870 TAC-10」はサバイバルゲームでの実戦性を追求した商品と言えるが、その外見を眺めるだけでも楽しい。サバゲーで撃ちまくるだけでなく、飾って眺めても楽しんでほしいとのことだ。

 鈴木氏は「CA870 TAC-10」の“手軽さ”も強調した。機構がシンプルな分電動ガンやガスガンに比べ価格が手頃で雰囲気は本格的であり、ビギナーシューターさんにも触ってほしいし、M-LOKの装備品を持っているようなエアソフトガンファンには、様々な装備を取り付けるカスタムベースとしてもオススメだ。軽くコンパクトで、操作も簡単な「CA870 TAC-10」なサブウェポンとしても有用だ。

 最後に読者へのメッセージとして田原氏は「M-LOKに対応しており、新開発のマガジンがついた『CA870 TAC-10』は色々なところにこだわりを込めて開発しました。ぜひ手に取ってください」とコメントした。

 鈴木氏は「弊社でも人気の高い『CA870』シリーズの最新作です。使いやすさ、手頃な価格。初心者から上級者、シューティングゲームではメインだけでなくサブとしても使え、“万能型”のアイテムといえます。『一家に一挺』、お買い求めください」と語った。


 「CA870 TAC-10」は非常にコンセプトのはっきりした商品だと感じた。「現代的タクティカルショットガン」としての強いキャラクター性を持ち、軽く使いやすいサバイバルゲーム戦重視のバランス、価格を抑えながらも実用性も高いという人気の高さも納得できる性能を持つ銃である。

 マルゼンはワルサーの正式ライセンスによるエアースポーツガンの販売や、精密射撃競技向けのAPSエアースポーツガンなど硬派な商品を手がけるメーカーだが、一方で「CA870」シリーズは“玩具”として遊びやすさ、ハードルの低さを追求するという姿勢をはっきり持っているという今回の話はとても面白かった。ユーザーの様々な好みにどういった製品を出すか、というアプローチの違いは興味深い。今後も様々な製品を取材していきたい。

マルゼンは競技用エアースポーツガンでの競技「APSカップ」にも力を入れている