インタビュー

「けもプラ」企画者・金田辰也氏インタビュー

ケモ度設定、もふもふとした太ももが大きく開く関節などチャレンジ盛りだくさん

【けもプラ】
2025年発売予定
価格:未定

 アオシマが静岡ホビーショーで本格的に展開をアピールした「けもプラ」は非常にユニークな"美少女プラモデル"である。

 「けもプラ」はその名の通り"ケモノ"、いわゆる獣人の要素を盛り込んでいる。頭の上に耳が生え、鼻先が前に突き出し、尻尾が生え、全身が毛に覆われる動物の特徴を持った姿を持つキャラクターを様々なポーズがとれる組み立て式アクションフィギュアとしたのだ。

 美少女プラモデルは、コトブキヤの「メガミデバイス」、「フレームアームズガールズ」、BANDAI SPIRITSの「30 MINUTES SISTERS」をはじめ、海外メーカーも参入し今や大きな市場となっている。その中で"ケモノ"の要素を盛り込むアオシマの「けもプラ」は美少女プラモデルに新風を吹き込むだろう。

 このユニークなチャレンジを行ったのが、「けもプラ」の企画開発者であるアオシマの金田辰也氏。彼は「マクロス」の「バルキリー」と美少女を組み合わせたプラモデル「V.F.G.」を実現させ、次のチャレンジとして「けもプラ」を立ち上げた。今回、会場で「けもプラ」のコンセプトや目指す方向性の話を聞いた。

「けもプラ」の企画開発者であるアオシマの金田辰也氏

ユーザーの選択肢を広げる「けもプラ」の可能性

――"ケモノ"という新しい視点を美少女プラモデルにもたらす「けもプラ」ですが、"高ケモ"、"中ケモ"、"低ケモ"という、"ケモ度"の概念を持ち込むというのは、今回衝撃でした。この"ケモ度"を設定した上で、「カオマニー」と「ニホンオオカミ」の2つのモチーフでシリーズがスタートする、ということでしょうか?

金田氏:「けもプラ」では"ケモ度"という分類を設定し、より獣っぽい"高ケモ"、中間の"中ケモ"、人間にケモノ耳や尻尾が生えただけのような"低ケモ"の3段階があります。このうち、高ケモと中ケモは選んで作れるようにし、低ケモはパーツセットとして別商品になります。

 第一弾としては「カオマニー」と「ニホンオオカミ」を展開予定です。2025年発売予定、価格未定です。

「けもプラ ニホンオオカミ」こちらは"高ケモ"タイプだ
「けもプラ カオマニー」、カオマニーは白く体毛の短めなネコ。こちらは高ケモ
「けもプラ カオマニー」こちらは中ケモ。「けもプラ」は、高ケモと中ケモがコンパーチブルで販売される
「けもプラ カオマニー」の低ケモ。低ケモもはパーツセットとして販売。写真の姿にするには別売りの「高&中ケモ」の商品が必要。本来、低ケモも服を着てないが、今回は展示用に衣装作家に服を作ってもらったという

――そもそも「けもプラ」とはどのようなものか、生み出されたきっかけや、コンセプトをお願いします。

金田氏:「美少女プラモデル」というジャンルは今や各社が様々な商品を作っていますが、レッドオーシャン化しつつあると感じていました。その中で「没個性にならないもの」として今までにないものを考えて、「けもプラ」を企画しました。"ケモノ"のかわいらしさを考えたときに、「かわいい」だけでなく、「かっこいい」というのもあると思ったんです。

 「美少女プラモデル」はかわいいという方向に特化している印象がある。そこにケモノ的なプロポーションやポージングを取り入れる。また顔の部分も"獣人"というジャンルはあるので、かっこいい、という要素も盛り込めるのではないかと考えたのです。ケモノの要素を取り入れることで幅の広い表現が可能ではないかと。

 色々な生き物に、それぞれ違うかわいらしさと、かっこよさがある。犬、猫も種類で違う。ちなみに僕の推しは「アザラシ」です。人魚のような姿で、ぜひ立体化したいですね。ケモノをモチーフにすることで幅広く発展できるのではないかと考えています。

――今回第1弾として「ニホンオオカミ」と「カオマニー」が発表されました。

金田氏:今回、まずシリーズのベースとなるキットととして「犬系」、「猫系」にしました。獣人モチーフは犬と猫ががやはり圧倒的に人気なんですよ。犬と猫は手足の形も近しい形状でケモノの感じが出せる。耳や尻尾で特徴を出せばモチーフがきちんとわかりやすいと判断しました。ここを皮切りに色々なケモノに挑戦できればと考えています。

――「けもプラ」としてはやはり"高ケモ"をどのような表現にするかが一番難しいかと思いました。どのくらいの毛並みにするのか、人からどこまで外すのか、このバランスを提示した上で、人に近づけていくのかなと。

金田氏:プラモデルなのでランナーにパーツが配置されていくのですが、金型の"ヌケ"を考えると毛並みの表現に制約があります。しかも可動モデルなので、可動関節を考えた設計や部位構成になるので、毛並みをどう表現するかは悩ましかったです。必要最低限の毛並み表現でどこまでケモノの雰囲気を表現できるかにチャレンジしています。

 ふさふさの毛で覆われている感じを出すというより、シルエットで毛並みを感じさせる方向です。成型色による色と、造形のワンポイントでケモノらしいシルエットを目指しました。「けもプラ」は"獣人"のイラストから大きな影響を受けていますが、イラストを見ても思ったんですが、獣人は体型は人間に近いんですが、やはり色による印象が大きいんです。人間にちかい手足でも色でケモノっぽい感じになると思います。

 「けもプラ」では毛の表現をあえてシンプルにすることで、プラモデルとしての設計、パーツ分割から、組み立てたときの見え方、可動まで無理のない範囲で表現できるようになりました。

【2つのタイプ】
高ケモと中ケモはセットになっている。足や腕を変えることで"ケモ度"の変更が可能
低ケモはパーツセットという形での販売。部品の一部だけ、"高&中ケモ"のパーツを使う

――ケモノというのはそれこそ体型が全く人間から違うものもあり、体が毛に覆われるなど千差万別だと思いますが、「けもプラ」のバランスはどのように設定していったのでしょうか?

金田氏:獣人をテーマにしたイラストは昔からたくさんあって、色々な方のイラストの影響が大きかったです。そもそも、獣人は立体物というのはあまりなくて、色々な人のイラストで盛り上がっているジャンルという所もあると思います。今回の造形は手探りの部分が大きかったです。イラストで獣人に興味を持った人に対して、届けられる立体物として「けもプラ」に期待している方も多いと思います。

 「けもプラ」は単体で遊んでいただくことはもちろん、ミキシングすることでも可能性が大きく広がります。パーツはミキシングのしやすさも考えた設計にしています。ミキシングをしたときに他のパーツと差が大きすぎてちぐはぐな感じになるより、なじむ方向性を考えました。

 「美少女プラモデル」って、商品それぞれを完成させるという遊び方以外に、色々なパーツをくっつけて、最終的には"自分の推しを作る"というものだと思うんです。「けもプラ」はその選択肢の1つになってほしい。パーツを選ぶ選択肢を広げたい。今回展示でコトブキヤさんの「メガミデバイス」をお借りして作例を展示しています。ミキシングには一部加工が必要な場合がありますが、ミキシングの楽しさも会場で見せています。

 色々なパーツを組み合わせることでオンリーワンの自分の"推し"を作ってほしい。今までは女の子だったところに、ケモノ、獣人というカスタマイズを可能にする、というのが「けもプラ」のコンセプトです。

【ミキシングの提案】
コトブキヤの「メガミデバイス」との組み合わせ。他の美少女プラモデルと組み合わせることが開発段階から考えられている

――高ケモ、中ケモはまさに選択肢を増やすという意味で非常にユニークなパーツになると思いますが、あえて人間に近い低ケモも同時展開するというところが、「けもプラ」の面白さの1つだと思います。人間に近いバージョンも用意したのはどうしてでしょうか?

金田氏:皆さんの"好き"には色々な深さがあると思います。獣人といっても、全身獣毛に覆われた高ケモだけでなく、ケモ耳と尻尾がついているくらいの女の子が好き、という人も多い。ユーザーの選択肢を広げたいということと、低ケモタイプって、世の中に出ている獣人キャラクターで一番多い形だと思うんです。いきなり高ケモはハードルが高いかなと、低ケモは"入門用"でもあるかなと。

 後は普通の女の子の体型をしているけど、尻尾がつけられるというのが大きな特徴です。ここにジョイントがあるので、カスタムの幅を広げる素体といえます。低ケモはできるだけオーソドックスな女の子体型の素体を目指しました。弊社の「V.F.G.」を元にシンプルに設計しています。

 そして「ドール服」の活用を視野に入れています。美少女プラモデルにドールの衣装を着せて遊ぶ、というのはドールメーカーさん、そして衣装を自作するユーザーさんも増えてきてジャンルとしてかなり確立してきたと思います。「けもプラ」の展示でも今回、衣装を着せた作例を展示しています。プラモデルとしてのドール素材、という遊び方も視野に入れています。

――今回作例として出展した衣装はできがいいですね。

金田氏:こちらは個人で衣装を製作している作家さんに協力してもらった手作りのものです。さらにドールメーカーのアゾンさんのメイド服も出展しました。ワンダーフェスティバルなどでは手作りのドール服を販売するディーラーさんもいますが、「美少女プラモデル」向けの衣装は今後増えてくると予想してますし、素体を特定すればよりタイトに作れるので、「けもプラ」がその素体になってくれればと思います。

 「けもプラ」発売後には商品を素体としたサードパーティー、個人ディーラーさんのパーツや衣装製作の要望があれば、これに応えられるような法整備も含めたルール作りも考えています。作り手側のニーズにも応えられる展開を考えています。「オリジナルパーツの製作・販売」もルール作りをしていきたいです。

【衣装をまとう】
衣装作家手作りの衣装
こちらはドールメーカー「アゾン」のメイド服。ドールの衣装もまとえる

――今回の出展で驚いたのは、高ケモ素体の"足の開いた姿"です。ここまで足を大きく開く関節構造だけでなく、足のシルエットとしても自然で、表現の幅を広げるチャレンジだと感じました。「けもプラ」のプラモデル、可動フィギュアとしての関節設計について、説明いただけますか。

金田氏:これは高ケモのみの仕様ですが、ケモノらしいむっちりした足のシルエットを崩さず、可動を実現するために考えた設計です。これまでのプラモデルや、アクションフィギュアでは太ももを大きく開こうとしたり、かなり深く腰を落とすような形に足を上げようとすると、腰部分とももが干渉してしまう。

 特に高ケモは太ももにボリュームがあり、このシルエットを保ったまま可動させたかった。そこで、腿と股間をつなぐ太ももを内側と外側の2つのパーツに分け、回転軸も仕込むことでシルエットを保ったまま、干渉を逃がすようにしました。内側のパーツを回すことで、足を大きく開いたり、太もも部分を体方向に深く曲げ、腰を落としたようなポーズを可能にしました。

 後ろ姿も力を入れたところです。これまでのももの設計だと、足を大きく開くとお尻のラインに隙間ができてしまう。ここに隙間を生じさせず、自然でボリュームのあるラインにするところも試行錯誤しました。動くこともできラインが美しくなったと思います。従来の商品だと足を開かせるとどうしてもお尻のラインが犠牲になりかねなかった。「けもプラ」は後ろのお尻のラインにもこだわりました。

【こだわりの足の形】
高ケモの股関節は足を大きく開き、深く腰を落とすことが可能
腿を内側と外側にパーツ分けすることで、ボリュームのある太もものラインを保ったまま、深く曲げることが可能に
お尻のラインの表現もこだわりポイント

――他にも設計で力を入れた部分はありますか?

金田氏:高ケモのみですが、「ドールアイ」と呼ばれる眼球移動システムを採用しています。顔の裏側から眼球を動かすことで目線の移動が可能です。眼球はデカールかタンポ印刷を考えています。昨今の美少女プラモデルや、ドールの流行を組み込んでいます。

――今回、「イヌ(ニホンオオカミ)」、「ネコ(カオマニー)」といわばスタンダードとなるタイプを提示しましたが、今後はどのように広がっていきますか?

金田氏:今回がベースとなり、どう広げていくか、という感じです。狐、ウサギ、私の一押しのアザラシなども部位パーツを替えていくことで展開できればなと考えています。

――以前金田さんと雑談をしたとき、マズル(鼻と口部分)がもっと長い、ダックスフンドのような人間と大きく離れたタイプも需要があるのではないかともおっしゃっていましたね。

金田氏:今回、「カオマニー」、「ニホンオオカミ」と明確にモチーフの名前を商品名にしたのは、モチーフとなる動物の種類をきちんとしようという思いからなんです。"ウサギ"と一言にいっても、「ロップイヤー」はぺたんと耳が伏せていてピンと立ったウサギの耳とはイメージが異なる。動物によって特徴があるので、単純に「マズルの長い顔」といった商品を用意するのではなく、モチーフをしっかり追う方向で考えています。

 また商品名を種別にするのは、ユーザーさんが自分で組み立て、ミキシングをした美少女プラモデルに、自分なりの名前をつけてほしいと思ったからです。ベースとなる「けもプラ」で種別の名前しかついていないのは、ユーザーさんに「自分だけのケモノ」を追求してほしいからです。

高ケモの目はドールアイ仕様で、目線の移動が可能だという
試作ははっきりと目線が変わっていた

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

金田氏:「けもプラ」、年内発売の予定で進行しています。来年もさらに盛り上げていきます。皆さんの熱い"ケモノ愛"に応えられるように精力的にやっていこうと思いますので、応援してください。次につなげるためにも、是非よろしくお願いします。


 獣人をテーマにした「けもプラ」という新シリーズの概念を聞いたとき、驚いた記憶がある。確かに動物の特徴を取り入れたキャラクターや、ファンタジー世界での"獣人"という概念はあったのだが、それを可動フィギュア化する、美少女プラモデルに組み込むというのはとてもユニークに感じた。今回、金田氏に話を聞くことで「けもプラ」の可能性がより明確になった。

 全身獣毛に覆われた姿から、耳や尻尾を生やしただけの女の子まで、「けもプラ」は"ケモノ"をテーマにしながら、実は広いジャンルに応える。ディープなようで幅広いニーズに応えているのが面白いし、広い展開を視野に入れているのがわかる。美少女プラモデルの表現、自分の理想とするキャラクターへ自由度を広げるこのアプローチは、多くの人に刺さるし、「けもプラ」をきっかけに新しい扉が開いた、という人も出てくるだろう。

 「けもプラ」を手に、遊んでみたい。特にミキシングでメカ風にしたり、ファンタジーRPGのキャラクター風に、鎧や衣装をまとった姿にしてみたいと感じた。発売が楽しみだ。