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小田急電鉄「ロマンスカーミュージアム」を先行公開、私鉄最大級のジオラマも

4月19日開業、4月1日12時より来館予約受付開始

【開業日】

4月19日

【料金】

大人(中学生以上): 900円(税込)

子ども(小学生) : 400円(税込)

幼児(3歳以上) : 100円(税込)

 小田急電鉄は3月26日、海老名駅(神奈川県海老名市)の隣接地に完成した「ロマンスカーミュージアム」のメディア向け発表会「ロマンスカーミュージアム竣工お披露目会」を開催した。

 ロマンスカーは、小田急電鉄が運行する特急列車。観光地へ向かう特急列車という意味合いが強く、「走る喫茶室」として車内販売も充実している。このロマンスカーの歴史を実感できるのが、博物館であるロマンスカーミュージアム。「子どもも大人も楽しめる鉄道ミュージアム」をコンセプトに、これまでのロマンスカーの歴史を振り返るだけでなく、様々なアトラクションも用意されている。

 小田急電鉄としては初めての屋内常設車両展示施設となる。海老名駅に隣接しており、改札口からは徒歩1分。橋上駅舎からペデストリアンデッキで連絡しており、雨に濡れずに入館できる。

 小田急電鉄は甲州街道の宿場町だった内藤新宿と、東海道でもっとも栄えた小田原宿を結ぶ電気鉄道路線として、1927(昭和2)年に新宿~小田原間を一挙に開業した。その2年後には江ノ島線を開業し、東京近郊の通勤通学輸送と、小田原経由箱根方面、江の島方面の観光客輸送を2つの柱としてきた。

左から3000形(SE)、3100形(NSE)、7000形(LSE)。車両はすべて屋内展示。悪天候時も安心して見学できる
海老名駅改札口からペデストリアンデッキで直結。木製のロマンスカー先頭車が目印

 観光客輸送では1949(昭和24)年から「ロマンスカー」の愛称で特急電車を運行しており、鉄道ファンのみならず、旅行者や沿線の子どもたちにも大人気となっている。とくに1957年に登場した3000形「SE(Super Express)」は日本初の軽量高性能電車として、当時の最新技術が投入された。実用化された技術のいくつかは新幹線車両に引き継がれた。後継車の3100形「NSE(New Super Express)」は運転室を2階に上げ、その下に展望席を作った。この意匠は最新の70000形「GSE(Graceful Super Express)に継承されている。

 小田急電鉄は3000形を始めとする歴代特急車両を現役引退後も保存していた。これらは毎年秋に海老名車両基地と周辺で開催される「小田急ファミリーフェスタ」で公開された。しかし、これ以外の時期は車両基地で保管されており、年に1度しか観られない。小田急ファンからは保存車両を常設展示してほしいという要望が高まっていた。

 小田急電鉄としても代々木上原~登戸間の複々線化の完成によって現役車両の増備が必要となり、車両基地の容量が不足した。稼働しない車両を車両基地に置くより、別の場所に移設して車両基地を空けたい。ロマンスカーミュージアムは小田急電鉄とロマンスカーファンの利点が一致した施設とも言える。施設の設置については10年前の2011年から検討を開始した。企画とデザイン監修、運営はUDS株式会社が担う。UDSは小田急グループで2009年に設立され、まちづくり、ホテル・レストラン事業を展開している。

 「竣工お披露目会」でロマンスカーミュージアム館長 高橋孝夫氏は、「運転士として展示されているロマンスカーすべてに乗務経験がある。今後は企画に力を入れ、地域のみなさんと連携し、お客様にワクワクしていただけるよう運営したい」とコメントした。

売店風だけど、来館記念のフォトスポットを想定している
小田急電鉄株式会社 執行役員 CSR・広報部長 山口淳氏。「発展していく海老名と連携し、街のシンボルとして賑わいを創出したい」とコメント
UDS ロマンスカーミュージアム館長 高橋孝夫氏は「運転士として展示されているロマンスカーすべてに乗務経験がある」という

歴代車両がズラリ特徴的な連接台車やスーパーシートも

 ロマンスカーミュージアムの目的は、ロマンスカー車両を通じて「小田急電鉄の歴史」を紹介しつつ、鉄道ファンや沿線の人々に「小田急電鉄の魅力を伝える」だ。小田急沿線の特徴を凝縮した大型ジオラマを設置したほか、鉄道ファンには車両展示や運転シミュレーター、子どもたちには鉄道車両をモチーフとした遊戯施設を用意した。エントランスに隣接したミュージアムカフェは入館者以外でも利用可能だ。鉄道ファンの子どもたち、大きなお友だちが館内を見学する間に、引率者がゆったりとくつろげる場所とも言える。

 建物の外観は「検車庫」をイメージし、機能的で素材感を生かしたデザインだ。検車庫は車両の検査や修繕を実施する施設で、海老名駅の車両基地に実物がある。駅と車両基地の間に違和感なく存在しているように見える。入口は2階にあり、目印は木製のロマンスカー先頭部のオブジェだ。改札口を出て西口方面に向かえばすぐにわかる。このオブジェは先頭部が記念写真向けのフォトスポット、建物内に続く車体部はカフェスタッフのスペースになっている。

 順路は1階に降りる形で、小田原線開業時の電車「モハ1形」に出迎えられる。奥には壁をスクリーンに見立てた「ヒストリーシアター」があり、歴代ロマンスカーを紹介するショートムービーが上映されている。ここから進むと広大な空間となり、ロマンスカーたちとご対面だ。

建物外観は研修庫のイメージ。確かに鉄道施設のように見える
小田急電鉄初代車両、モハ1形
モハ1形の車内。車内はほぼ木製だ。運転室と客室の仕切りがなく、路面電車の延長のような配置だ
モハ1形の後部付近はヒストリーシアター。歴代ロマンスカーをタップダンスのリズムで紹介する

 手前から7000形「LSE(Luxury Super Express)」、3100形「NSE」、3000形「SE」が並ぶ。7000形は先頭部のみ。奥には10000形「HiSE(Hi Super Express Hiはハイデッカー、ハイグレードなどのイメージ)」と20000形「RSE(Resort Super Express)」がある。

 10000形は先頭車1両だけだけれども、ロマンスカー伝統の連接台車を見学できる。連接台車方式とは、ふたつの車体の間に台車を置いて連結器を兼ねる。車体を連結器で繋ぐよりも高速安定性が高まるという利点がある。ただしメンテナンス時に編成を分離しにくく、車体もひとまわり小さくする必要がある。ロマンスカーは長らく連接台車を採用したけれども、現在はホームドアの位置が合わないなどの理由で採用されていない。

 20000形は初めて2階建て車両を連結した形式だ。松田からJR東海の御殿場線に乗り入れて、沼津や御殿場まで運行された。2階建て車両はスーパーシートという特別席で、これはJRのグリーン車に相当する。車内には小田急車両としては珍しいグリーンマークもある。

【ロマンスカーギャラリー】
1階のロマンスカーギャラリー。ふだんは照明を落とし落ち着いた雰囲気。ヘッドライトの明るさを感じ取れる。光源はLEDに変更されているけれども、シールドビームの雰囲気を再現している
3100形と3000形は3両編成で、プラットホーム状の通路を通れば反対側の先頭部も観られる。同じ形式でも差異があり、3000形は時期によった先頭車のデザインが異なり、3100形は愛称表示が看板から字幕に変わっている
10000形は小田急線では引退したけれども、一部は長野電鉄に譲渡されて活躍中だ
連接台車の仕組み。1つの台車が2つの車体を支える仕組み
20000形。先頭車とダブルデッカー(2階建て)車両を展示。ダブルデッカーを除いた編成は富士急行に譲渡され、フジサン特急として活躍中だ
ダブルデッカー車両の内部。手前が車内販売準備用のサービスコーナー。奥の通路が2階席に通じている。グリーン車のマークがある
20000形のそばにある「ロマンスカーアカデミア」は小田急電鉄とロマンスカーの歴史資料を展示するほか、講演やワークショップ会場も想定する。これは複々線化工事で地下トンネルを掘ったシールドマシンの模型
下北沢駅の2層構造を紹介する模型

広大なジオラマは「光の演出」が芸術的

 2階フロアの半分はジオラマに割り当てられた。面積は約190平方メートル、レールの総延長は509m。小田急本線、江ノ島線はHOゲージで、歴代ロマンスカー10車種、通勤電車5車種が走る。全体的は「J」の字のような配置で、短辺の右端に新宿駅と高層ビル群、奥に下北沢駅、多摩川を渡ると長辺側に入り、海老名駅、相模大野駅、小田原駅、箱根湯本駅と続く。左端は箱根湯本エリアで、箱根登山鉄道、芦ノ湖、関所跡、ロープウェイなどの観光名所が揃う。箱根登山鉄道は小田原駅付近にHOゲージの車両が置いてあるけれども、スイッチバック走行部分はNゲージで作られており、遠近感と箱根山の険しさを再現している。

 建物数は860棟で、そのうち160棟は実在する建物を置いている。ほとんどの建物に照明装置が組み込まれており、夜の情景はまぶしいくらいの夜景になる。人形は7,200体を配置。このうち箱根駅伝や新宿界隈の犬の散歩など、情景として意味を持たせている人形のほかは、透明アクリル板のカラフルな切り抜きが置かれていた。クルマは300台を配置しているとのこと。

 ジオラマの演出は、約36分間の「小田急沿線の1日」と、その間に約9分間の「時間と距離のロマンス」が繰り返される。「小田急沿線の1日」は列車の走りや各所の見どころを楽しめる。「時間と距離のロマンス」はショータイムだ。プロジェクションマッピングと背面スクリーンを駆使し、ロマンスカーの走行を追うように街が光り輝く。こちらは少し離れた階段状のデッキスペースがオススメ。全体を俯瞰したほうが楽しい。

 江ノ電とロマンスカー70000形は周回線路になっており、3分100円で運転体験ができる。

【ジオラマ】
ジオラマ全景。左手前が箱根湯本駅、右奥が新宿駅。都心に近づくほど建物が増えて高層化している
夜の景色。建物は照明が組み込まれたほか、蛍光塗料とブラックライトで光らせている。かなり明るい夜景になっている。左側の壁の長さはJR東海の「リニア・鉄道館」のジオラマとほぼ同じ。回り込みがあるぶん、こちらの方が幅広い。ただし奥行きはこちらの方が狭い
新宿駅。独特の2層構造が再現されている
思い出横丁から新宿西口方面を見る。犬の散歩をする人形が動く
相模大野駅を発車する70000形「GSE」、到着する通勤電車「8000形」
海老名駅の商業施設群「ビナウォーク」
海老名駅にはもちろんロマンスカーミュージアムがある。ステーションテラスに見学者が立っていた
小田原駅。新幹線の駅と周回線路がある。内周は新幹線電車、外周はなぜか70000形が走る。この70000形は体験運転できる
江の島、鎌倉エリアには江ノ電が走る。体験運転可能だ。江の島水族館でイルカが飛ぶギミックもある。コネタ探しも楽しそうだ
箱根湯本駅。道路では駅伝を開催中で、人形と白バイが走る

【ロマンスカーミュージアム ジオラマ箱根駅伝とロマンスカー】

運転シミュレーターは7000形の実物運転席

 鉄道博物館の定番施設「運転シミュレーター」は1台。7000形「LSE」の廃車体から運転席部分を再利用した。天井が低く狭苦しい印象だけれど、これはこども用ではなく実物を忠実に再現しているからだ。座席は座椅子のようで、運転士は足を前方に投げ出す姿勢になる。展望席の上の運転室はこんなに狭い。

 運転できる区間は「秦野→本厚木」、「本厚木→町田」、「成城学園前→新宿」で、難易度は初級と上級を選択可能。「成城学園前→新宿」のみ入門コースがあり、難易度は三段階となる。参加費は1回500円で抽選制となっている。

 ちなみに運転シミュレーターのそばにはSEの中間車両の座席がならぶ。解体したときに取り置いてリフォームしたとのこと。順番待ちや休憩が楽しくなる。

【運転シミュレーター】
運転シミュレーターは3区間を体験できる
7000形の運転席部品を使っている
制作はさいたま市の鉄道博物館や実際の鉄道訓練用シミュレーターを手がける「音楽館」が担当している
順番待ちや休憩用に使える3000形の座席

【ロマンスカーミュージアム 運転シミュレーター】
本物の運転士さんによるデモ走行

お子様の鉄道英才教育にピッタリな遊具も

 ジオラマの出口に続くエリアは「キッズロマンスカーパーク」は、鉄道車両をモチーフとした遊具コーナーだ。中央のキッズジオラマでは、工作室の車両で組み立てたペーパークラフト車両線路に置くと走る。食堂車風の車両内には、木製のおにぎりや玉子焼き、ソーセージ、野菜などの食材が並び、ロマンスカー弁当箱に詰めて駅弁を作れる。立体的なアスレチックやボールプール、滑り台、ミニボルダリングなど、お楽しみ要素が盛りだくさんだ。

【キッズロマンスカーパーク】
キッズジオラマ。奥の工作室で車体を作り、ジオラマの白い部分に置くと走る
先頭車展望席やその上の運転席で遊べる
立体的なミニアスレチック。内覧と言うことで撮影させていただいたけれど、ここで遊べる子は12歳まで
本物の「ロマンスカー弁当」の箱を使っておままごと。玉子焼きがおいしそう(笑)

入館しなくても利用できるミュージアムカフェ

 最後に訪れる場所が小田急のオフィシャルグッズショップ「TRAINS」だ。ロマンスカーグッズや鉄道むすめシリーズなどの定番商品のほか、ミュージアム限定商品、開業記念品も多数。腕時計やペンなど、大人もさりげなく身につけたい逸品もある。

 ミュージアムショップに隣接してミュージアムカフェ「ROMANCECAR MUSEUM CLUBHOUSE」がある。多彩なホットドッグを中心に据え、スイーツ、クラフトビール、コーヒー、ココア、ミルクなどを提供する。注目は「クールケーキと日東紅茶のセット」だ。かつてロマンスカーの車内で提供したメニューを再現したとのこと。そうそう、ロマンカーと言えば日東紅茶だった。

ミュージアムカフェはペデストリアンデッキ側にあり、入場無料。入館しなくても気軽に利用できる。木製のロマンスカー先頭車は目立つから、待ち合わせ場所にもピッタリだ。線路が見える側にテーブル席もある。なお、テイクアウトメニューは館内に持ち込み可能とのこと。

【ミュージアムカフェ】
「ROMANCECAR MUSEUM CLUBHOUSE」は気軽に立ち寄れるカウンターテーブル席と……
トレインビューでゆったり座れるソファ席がある
復刻版車販メニュー「クールケーキと日東紅茶のセット」(700円)
クリームの上に食用インクで描くロマンスカー「飲める車両図鑑」(700円)

開業からしばらくは要予約 4月1日から受付開始

 このほかの施設として、屋上にはステーションテラスがあり、海老名駅構内を見渡せる。ロマンスカーの通過時刻、停車時刻を示す時刻表が設置されている。海老名車両基地から出庫するロマンスカーが1本だけあって、レアな走行シーンを眺められそうだ。屋上フロアにはオリジナルプリントシール機と喫煙コナーがある。館内にはトイレ2カ所、飲料自販機1台、オリジナルカプセルトイ販売機などもある。

 ロマンスカーミュージアムの入館料は中学生以上900円。小学生400円。3歳以上100円。3歳未満は無料。営業時間は10:00~18:00で、最終入館は17:30まで。休館日は第2第4火曜日。どちらも季節や祝日に併せる形で変動する場合もあるので、入館するにあたり公式サイトを確認しよう。なお、COVID-19感染予防処置として、当面の間は事前予約が必要だ。予約は4月1日12:00から受付開始。1カ月先まで指定できる。

 全体的な感想として、老若男女、あらゆる世代がロマンスカーをたっぷり楽しめる「カジュアルな空間」という印象だ。電車の紹介文などもあっさりしている。コアな鉄道ファンにとっては、もうすこし資料的な写真や映像、機器類の展示物がほしいところ。たとえば連接台車とボギー台車の違い、双方のメリットなど、小田急しかできない技術解説などもほしかった。館長の挨拶にあったように、企画展などの展開に期待したい。

【ステーションテラス】
海老名駅を一望できるステーションテラス
ロマンスカーの通過時刻がわかる時刻表
VSEがやってきた
オリジナルデザインで楽しめるフォトフレームマシン
テラスから隔離された場所に喫煙コーナーを用意
こちらは運転シミュレーターの隣にあるスクリーン。スクリーンのそばで手を動かすと街や線路が現われる
ジオラマのプロジェクションマッピング「時間と距離のロマンス」は幻想的