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「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の「第3村ミニチュアセット」内覧会レポート

“ケンケン”が語る「第3村ミニチュアセット」で自分だけのアングルを探す楽しさ

開催期間:4月10日~9月8日

入場料:大人2,700円(税込)

中高生1,900円(税込)
幼児・小学生1,500円(税込)
会場:東京都江東区有明1丁目3ー33 有明物流センター

 SMALL WORLDSは、東京都江東区の有明物流センターにて展開する「SMALL WORLDS TOKYO」において、現在公開中の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」制作時に使用した「第3村ミニチュアセット」(場面設定・画面構成検証用)の実物を4月10日より展示開始する。公開期間は4月10日から9月8日まで、入場料は大人2,700円(税込)。

 弊誌では概要を記事にしているが、本稿では内覧会の内容を詳しく取り上げていきたい。なお、このセットそのものが映画の前半の舞台なだけに、記事の内容も前半部分の様々な事柄をネタバレしている。「ネタバレがいやだ」という人は注意して欲しい。

映画を見た人には特に様々な発見がある内覧会だった

秘密裏に進められ、庵野監督のこだわりで多くの修正が入った「第3村ミニチュアセット」

 撮影に使用された「第3村ミニチュアセット」制作の経緯について、カラー 文化事業担当学芸員の三好寛氏と、ライセンス活用などを担当するグラウンドワークス 代表取締役の神村靖宏氏より解説が行なわれた。

 まずは現在公開中の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」について、神村氏からは「公開から1か月、興行収入も一昨日で70億円と、新劇場版シリーズの中で最高を達成するなど、皆様のご愛顧のおかげ。若い人からの感想も多く、今回が初見ですが感動しました、など映像クオリティが高いため、幅広い層の皆様に楽しんでもらえている」とした。三好氏は「シリーズ完結編ということで、様々な感想を頂けて感無量です」と感想を語った。

 第3村については、神村氏から「そういうシーンがあること自体を秘密にする必要があり、映画の宣伝なども、こうした内容を隠したまま宣伝する必要があった。2017年から3年、沈黙を続けるのが大変だった」と秘密裏に進める苦労を語った。

カラー 文化事業担当学芸員の三好寛氏

 実際に映像を見ると驚きの連続だったとし「新劇場版はSFチックに話が進められてきたが、ここにきてアヤナミレイ(仮称)がまさか農村で田植えをするとは」と神村氏が語ると、三好氏も「普通の人々の生活を描く日常シーンが、劇中でまさかこんなに長い時間続くとは、ジブリのような名作劇場のような場面が続いて皆さんも驚かれたと思います」と驚きを語った。

 続けて「このような日常の舞台をを描くうえで必要になるのは舞台の実在感、いわばリアリティ。これらを描くにはどうすれば、という方法論を色々模索した結果、ある日ミニチュアセットの制作を思いついた」と三好氏が当時を振り返ると、神村氏も「映画を見た人たちがデジャブ(既視感)を描くような日常風景を描くため、村の位置関係や、ここに人が立つとどのような構図になるか、といった絵を丁寧に積み上げてきた」と自信をのぞかせる。

グラウンドワークス 代表取締役の神村靖宏氏

 「第3村ミニチュアセット」について話が及ぶと、三好氏から「アニメーション制作において、ここまで精密なミニチュアセットを組むというのは聞いたことがない。ロケハンならハイジは実際にスイスにロケハンに行き、写真をたくさん撮ってくるなどよく行なわれる。ところが村を丸ごとミニチュアで制作するというのは特撮では当たり前だが、アニメではありえない。これは特撮愛のある、ミニチュアの力を信じた庵野秀明ならでは。ありきたりな構図に満足せず、色々な場所にカメラを置いて様々な角度から構図を考えるなど、とにかく異常なまでに構図にこだわる庵野監督だからこそのスタイルだ」と絶賛の声があがった。

 ミニチュアのメリットとして神村氏は「人が頭の中で組み立てられる構図には限界がある。実際のミニチュアの中にカメラを置くことで、色んな角度から見ることができるので、新たな発見がたくさんある」とした。

 特撮愛だけでなく電車愛もあるとして、今回、第3村の車両基地として端に描かれている駅のミニチュアについてもコメント。「この駅は実際に静岡県にある、天竜二俣駅をモデルの1つとしている。この駅以外にも色んな要素が入っているが、リアリティを高めるために、この駅を徹底的に取材した。庵野監督のイメージに合うような場所を探すために、スタッフが全国各地を駆け巡ったと聞いている。大変な苦労だったと思う」という。

 製作期間は約半年とのことで、1/450を作成したのが2017年春のこと。そこから半年かけて今回の1/45ミニチュアを作成し、完成したのが2017年秋。あくまでも構図の参考用なので、あえてディティールを作りこむことなく、簡素に仕上げた。そこから製作スタッフがカメラでミニチュア内を撮りまくったそうだ。

 ミニチュアの制作については、「『シン・ゴジラ』でも色々なミニチュアを制作した特撮ミニチュア制作の腕利き職人、田さんこと田島さんが今回も頑張って作ってくれました。田島さんありがとうございます」とし制作者について語った。

 現場での苦労について聞かれると、神村氏は「庵野監督は『ありがとう。OKこれで』と言いながらも少ししてから『けどもうちょっと直して』、『ありがとう、でももうちょっと直して』となかなか妥協を許さない」と監督の制作スタイルを披露。すかさず三好氏が「エヴァは繰り返しの物語ですから。とにかく納得がいくまでやるんです」と語った。

様々なアングルから写真撮影が行なえる。明日以降の展示でも自由に撮影が可能だが、展示では30㎝ほど手前に柵が用意されるという

正にリアル“ケンケン”! 岩永さんが第3村ミニチュアセットについて熱く語る!

 ここでスペシャルゲストとして、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」含むエヴァンゲリオンシリーズにおいて、主人公、碇シンジの同級生、相田ケンスケの声優を務めた岩永哲哉さんも登壇メンバーに加わった。

相田ケンスケ役の岩永哲哉さんは劇中でケンスケが着ていた衣装で登場

 岩永さんは、実際に「シン・エヴァンゲリオン劇場版」で着用していた衣服と同じ物を着て、ビデオカメラを持って登場。これらの衣服について、正にケンケンそのまま! と指摘されると、まずは衣装についての説明から始まった。「このグリーンのセーターとビデオカメラについては、実際に『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の参考資料として使われたものをそのままお借りして着用している。それ以外の物はアウトドアが趣味なので、全て私物でそろえて、“ケンケン”としてここにいます。シンクロ率無限大です」と語った。

 先日の舞台挨拶でも第3村ミニチュアセットについて語っていた件が話題にのぼると、ケンスケ風に「すごい……すごすぎる! これが第3村のミニチュアか……」と熱い演技を交えたセリフ口調でミニチュアセットを目にした喜びを語った。続けて「本当に広いですね! もはやミニチュアではないほどです。サイズを聞いて計算してみたら、自分が住んでいるマンションの部屋よりも広い。これは補完計画の前にうちの引っ越し計画を実現しないと」と笑った。また、実際にケンスケが住んでいる家については「感無量ですね! ここでみんな命を繋いでいたんだな、と考えるとすごく嬉しい」と率直な感想を述べた。

 ケンスケとして「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の見逃せないポイントを聞かれると「ケンスケは今回28歳の大人として描いて頂き、重要な役割を担っており、いい仕事をしている。そんなケンスケの成長や優しさ、友達への思いやりなどを見てほしい。ある意味、今回ある意味で一番重要な場所として大切に描かれている、第3村の素晴らしさも見てほしいポイント」と本作の見どころを語った。

 岩永さんにとってケンスケという役について聞かれると「テレビシリーズの頃から機転が利いて繊細でノリがよく、でもさみしさも持ち合わせてるなど、自身とシンクロする要素も多かったが、大人になったケンスケも今の自分にちょっと似ている部分があるなど、分身のような存在」とした。

ケンスケの家は「アスカとシンジが滞在するケンスケの家」として、第3村の中心部とは別建てで用意されていた
重機類などは市販のミニカーを使っているという
そしてここにはスモールワールズで制作されたケンスケがいた

 ここで今回の衣装について再度触れ「本当にあまりにハマっているし、僕自身もミリタリーファッションが好きでアウトドアが趣味というのもあり、このまま着て帰ってしまいたい。服装でもシンクロ率が上がっている」と楽しそうに語った。

 その後、三好氏から「第3村ミニチュアセット」について率直な感想を聞かれた岩永さんは「ミニチュアといえば子供の頃は、どんぐりを使ったどんぐりハウスなどを眺めながら、家具をここに置いて、など空想するのが好きだったので、第3村ミニチュアセットは、自分がこの街の中で暮らしているんだ、などイメージが広げられるので素晴らしかった。ありがとうございます」と感謝の言葉を述べた。

 神村氏からは、「Q:」にてケンスケたちの出番がなかった事について聞かれると、「14年経って、世界がすごい状態になっていたので、多くのファンの方からも死亡説が流れていたので、とにかくどこかで生きていてほしいと願っていた。そうしたら、なんと今回、空白の14年間、ニアサーをサバイバルオタクの知識で生き延びて乗り越えてくれた。とにかく生きていてくれていて、本当にありがとうというそれが1番です」とした。

 逆に岩永さんから2人に対する質問の話になると「こういう巨大なミニチュアセットはどこから手をつけるものなのでしょうか?はじめの一歩はどこですか? 」と想定外のユニークな質問が飛び出した。これには「事前に1/450の全体図のミニチュアを先ずは制作し、それである程度イメージが固まったところで、1/45のミニチュア制作に入るのですが、実際にどこから手をつけたかは……今度聞いておきます」と答えが出てこない三好氏の姿も見られた。

1/450の第3村ミニチュア。これで先に大まかな村のデザインを考えてから、今回のミニチュアセットの制作を開始したという

 もう1つ、職業病についての話題になると、岩永さんは声優らしく「言葉の発音や語尾の出し方などが気になる」としたが、神村氏は「街中で見かけるEVANGELIONの文字のVとAの隙間を詰めなければダメなのだが、それを守ってないデザインの違和感がすごく気になる」とし、ここで「監督に鍛えられましたからレイアウトにはうるさいんです」とこぼす。すると岩永さんも「監督の終わらないダメ出し……でも、それで鍛えられて大きくなりました」と監督の話題で盛り上がった。

 職業病ではないが、とした上で三好氏は、株式会社カラーの立場と同時に庵野監督が2017年に立ち上げた「アニメ特撮アーカイブ機構」の立場もあるため、この「第3村ミニチュアセット」をどこに保管するかというミッションで大いに悩まされたという。ところが、そこでスモールワールズ代表取締役、近藤正拡氏から、使ってないスペースがあるから是非使ってくださいと申し出を受けたことで、まだオープン前で準備中だった「SMALL WORLD TOKYO」の倉庫に機密と書かれているが、中身が何かは何も告げられずに、約3年間、こっそり保管させてもらっていたのだという。

 最後に3人から一言ずつ挨拶として、三好氏からは「庵野監督は今後も、可能性を追求していくので、舞台裏では今回のような苦労があったんだと思ってもらえたらうれしい」とした。また、神村氏は「映画館で見られるのは今だけなので、美しい映像のためだけでも構わないので是非劇場に来てほしい」とした。岩永さんは「庵野監督と同じように自分たちで自分たちだけの構図を発見するのはとても面白いです。なので是非会場に来てやってみてほしいです。そして自分たちだけのアングルを楽しんだら、是非再度劇場にも足を運んでほしい」と締めくくった。

自身でも庵野監督と同じように色んなアングルを探して「第3村ミニチュアセット」で楽しんだという岩永氏

映画を見た人にこそ楽しんで欲しい細部へのこだわり

 内覧会終了後も、展示された「第3村ミニチュアセット」を回りながら、神村氏と三好氏は説明を続けてくれた。その中で、配給に並ぶ人々の白いフィギュアがあったため、これはミニチュアセットに含まれるものか、スモールワールズによる制作か尋ねると三好氏は「鉄道や線路など木製の物以外は日本仕様のOゲージやミニカーなどの市販品も多用している」という。また、これら模型はあくまでもレイアウトのアイディアを出すのための物なので、実際の映像と比較すると、物の表面の描き方や、ディティールなどは実際の作画時にはかなり調整が施されているとのことだ。

いきなり造形の雰囲気の違う人の行列。これは配給に並ぶ人の列を再現するために、市販のフィギュアを使ったとのこと

 神村氏は「例えば、実際の映像では、屋根の上にソーラーパネルを載せたりしていますが、ミニチュアには特にこうした物は載せていない。この辺は実際に映像を作成する段階で出たアイディアが採用されていますので、ミニチュアはあくまでもレイアウトのための参考資料でしかないのです」とした。

実際の劇中のビジュアルを写真展示している
確かに民家の屋根にソーラーパネルらしきものは存在しない。ちなみに山の素材は特撮ミニチュアの伝統「発泡スチロール」なのが、むき出しの部分を見るとわかるようになっているのもリアルだ

 なお、実際の会場では、セットに直接触れないようにするため、30㎝ほど間隔を開ける形で柵が設けられるとしている。また、今回の内覧会において、キャラクターたちのフィギュアが一部しか置かれていない事について株式会社スモールワールズの代表取締役、近藤正拡氏に聞いてみると、現在スモールワールズのスタッフたちが鋭意制作中で、明日の開催時には予定していたキャラクターたちは全て所定の位置に置かれるとしている。

 実際に筆者が確認したところだと、内覧会の途中からでもキャラクターは次々と追加されており、当初誰もいなかった「ケンスケの家」にはいつのまにか車両とケンスケが立っていたし、ネルフ第2支部N109棟跡「北の湖の廃墟」には最初の頃は誰もいなかったが、途中から主人公の碇シンジが劇中同様に座り込むフィギュアが置かれ、現在はその後ろにアヤナミレイが立っていたり、下部にペンペンが追加されているようなので、どこに誰がいるかについては、明日以降の会場で確認してみてほしい。

シンジ設置前の「北の湖の廃墟」。確かにシンジの姿は見えない
!?
気が付くと、主人公の碇シンジが体育座りでそこにいた
「北の湖の廃墟(ネルフ第2支部N109棟跡)」も独立して作られている
スモールワールズの代表取締役、近藤正拡氏。「SMALL WORLDS TOKYOでは、『エヴァンゲリオン 格納庫』と『エヴァンゲリオン 第3新東京市』の2種類のエヴァに関連したミニチュアセットを展示している。これら展示内のミニチュアは実際に動く物なので、是非実際に体験して遊んでみてほしい」と語った

 今回の取材で印象的だったのは取材する記者たちの多くが、気が付くと明らかに記事では使わなそうな映像や写真を嬉しそうに撮影している場面が多く見られたことだ。新劇場版のシリーズの中でも異彩を放つシーンの1つが「第3村」でのエピソードなのは間違いないが、このシーンに対するみんなの熱い想いが伝わってくるようだ。「シン・エヴァンゲリオン劇場版」を見た人がこのミニチュアセットを見ると、確かに劇場で見た不思議な興奮が甦ってくるのだ。

 しかも実際に撮影までできるとなれば、エヴァンゲリオン検証班の人たちも見ないわけにはいかないだろう。ちなみに、検証ネタの1つである“駅”については、ネットで語られていた検証は見事に外れていた。「天竜二俣駅」をモデルにした、第3村の端にある駅には“階段”が存在しないのである。このように新たな発見のために、足を運んでみるのも楽しそうだ。

「第3村ミニチュアセットは」かなりサイズが大きいので、各所に映画でのシーンの画像が設置され、どの場所かがわかるようになっている
支援物資の輸送艦についてもミニチュアが用意されていたが、船は残念ながら再現されていない
自分なりのアングルをあれこれ模索して撮影するのが楽しい
ぱっと見でわかりにくい建造物については、ラベルで説明が貼られている
他の車両は木製の物が多い中、機関車にはOゲージの物が置かれている。なお線路についても市販のOゲージ、とのこと。ちなみに「1/45のOゲージは、日本の鉄道模型の規格だ
会場に置かれた巨大な人間サイズのエヴァ初号機の「ヒューマンスケールフィギュア」は購入が可能だ。20体限定でお値段は税別340万円!

今回の内覧会のMCを務めた野呂陽菜さんはエヴァインフォ公式レポーターを務めており、一連の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」関連のイベントMCとして各所で活躍している。彼女自身もエヴァンゲリオンの大ファンと語っており、今回もMCとしての仕事を終えた後は、「公私混同ですいません」と言いながら、私物のスマートフォンで「第3村ミニチュアセット」を色んな角度から撮影して楽しんでいた。

私物のスマートフォンで「第3村ミニチュアセット」を色んな角度から撮影して楽しんでいた野呂陽菜さん

 なお、「SMALL WORLDS TOKYO」では今回の「第3村ミニチュアセット」のような期間限定展示の他、『エヴァンゲリオン 格納庫』や『エヴァンゲリオン 第3新東京市』などを1/80スケールで再現したエヴァンゲリオン関連エリアや、『美少女戦士セーラームーン』エリア、『関西国際空港』エリア、『宇宙センター』エリアなど、多くの展示物が用意されている。さらにスモールワールズドの“住民権”も用意されており、第3新東京市や格納庫などのエリア展示物内に自分をモデルにした1/80フィギュアを住まわせる事も可能だ。

弊誌編集の勝田哲也氏が住民権付きフィギュアプログラムで今でも第3新東京市の片隅で暮らしているのを発見! 1/80とは思えないディティールで本物と比べても遜色のない出来栄えだ
住民権付きフィギュアプログラムでは持ち帰り用のフィギュアも作成が可能だ