レビュー

海洋堂「六波羅蜜寺公認 空也上人立像」レビュー

日本史で学んだあの「空也上人」の立像を手のひらサイズで精密に再現

【六波羅蜜寺公認 空也上人立像】

開発元:海洋堂/Studio-蓮

販売元:朝日新聞社(特別展「空也上人と六波羅蜜寺」主催)

発売日:3月1日発売

価格:9,800円(税込)

ジャンル:塗装済み完成品フィギュア

サイズ:全高約13cm

※特別展「空也上人と六波羅蜜寺」会場限定販売

 仏像「空也上人立像」をご存じだろうか。平安時代の中期、平安京に疫病が流行した際に市中を歩き、「南無阿弥陀仏」と唱えれば極楽往生が叶うとする、阿弥陀信仰を広めた僧侶「空也上人」が念仏を唱えて歩く姿を写実的に捉えて作られた、鎌倉自体の仏像である。日本の肖像彫刻の中でも屈指の知名度を誇り、口から6体の小さな仏像が出ている印象的な姿は、日本史の教科書などで目にしたことがある人もいるだろう。

【特別展「空也上人と六波羅蜜寺」30秒CM】

 この仏像が海洋堂の企画開発によって、全高約13cmのポリストーン製フィギュアとなって、東京国立博物館で5月8日まで開催中の特別展「空也上人と六波羅蜜寺」のオフィシャルグッズとして発売された。これまでも興福寺の「阿修羅像」や東大寺の「月光菩薩像」、東寺の「帝釈天騎象像」、法隆寺の「百済観音」など、展覧会で展示された仏像のフィギュアを手がけ定評を得ている海洋堂が、知名度と人気共に高い「空也上人像」を開発するとあって、仏像ファンとフィギュアファンの両方から大きな注目を集めた。

海洋堂公式サイトより引用。「空也上人立像」が約13cmのポリストーン製フィギュアになった

 実は筆者も、優れた造形として空也上人立像の一ファンのであり、この像を拝見するために京都の六波羅蜜寺を訪れた経験もある。東京での公開は50年ぶりの公開となった「空也上人と六波羅蜜寺」にも初日に足を運び、もちろんフィギュアも購入した。展覧会が行われているこの機に、公式フィギュア「六波羅蜜寺公認 空也上人立像」のレビューを本稿にてお届けしたいと思う。

「空也上人と六波羅蜜寺」会場となった東京国立博物館。展示会場内は撮影禁止なので、その入口にて撮影したもの

海洋堂の造形プロデュースにより、口から出ている小さな6体の阿弥陀如来像まで精密に再現

 空也上人立像は普段、京都市東山区の六波羅蜜寺に安置される重要文化財だ。鎌倉時代の著名な仏師運慶の四男、康勝(こうしょう)が作り上げたとされる。全高は117cmと、比較的小さめの仏像だ。胸に鉦鼓(しょうこ)を提げ、右手にはそれを叩く撞木(しょうぼく)を持ち、左手で鹿の角をあしらった鹿杖(かせづえ)をつき、腰をかがめて歩く遊行(ゆぎょう)像である。空也上人の没後約250年後に作られたとされるが、その造形は実に写実的なものだ。

 最も特徴的なのは開いた口から出ている6体の小さな仏像である。これは空也上人が唱えた「南無阿弥陀仏」の6文字が阿弥陀如来の姿へと変化する様子を表したもので、前衛的である一方、見えない音を具現化するという、現代の造形でも見られる擬音や擬人化にも通じるものがある。他の仏像には見られない表現こそ、筆者がこの像に惹かれた理由である。

「六波羅蜜寺公認 空也上人立像」パッケージ。表にはフィギュアの写真を採用している
裏には実物の空也上人立像と六波羅蜜寺の写真が入っている

 本題となるフィギュアは、海洋堂が原型製作及び造形総指揮を担当。デジタル技術と造形作家の技術を融合し、これまでのポリストーン製仏像フィギュアの限界に挑んだ内容といえるかもしれない。前述の通り、他の仏像ではあまり見られない表現が多数あり、それを約13cmのサイズまで縮小して造形し、なおかつ商品として量産しているから驚きである。

 パッケージを開けて中身を取り出してみると、今回の展覧会でこの像が六波羅蜜寺から会場まで運搬された様子を見るような厳重な梱包がされていることがわかる。口元の像や撞木など非常に細い部分があるので、取り出すときもちょっと慎重になる。本体ではなく、台座を持って取り出すのが確実かもしれない。

中はスポンジの緩衝材で厳重に梱包されている。下に見える台座を持って優しく取り出そう

 手に取ってみると、ポリストーン製フィギュアならではの重量感とひんやりした手触りを感じられる。素材はポリストーンの他、合金とPUを使っているそうだ。何よりありがたいのは、箱から出した瞬間からその姿を全方向から眺められるということ。これまでの六波羅蜜寺での展示では、その背面を拝むことはできなかったのだが、フィギュアならどの方向からでも眺めることができる。曲がった腰や衣の裾などは、普段見ることができず、また全体を引いた目線から見られるのも貴重だ。会場で拝見した実物を思い出すという意味でも、会場で買うオフィシャルグッズとしての価値も高い。

空也上人立像フィギュア。実物と見まがうほどの完成度を誇る
フィギュア背面。安置されている六波羅蜜寺では、この後ろ姿は見られなかった
横から見ると、わずかに腰を曲げ、左足を踏み出していることがわかる

 当然造形にもかなり力が入っていて、最初に目が行く口元の像は、それぞれ約3mm程度の大きさながらちゃんと凹凸があり、小さな仏像だということが辛うじてわかるようになっている。薄目を開けた表情や念仏を唱えるのど仏、土を踏む足の腱、深めに履いたわらじはみ出した足の指など、このスケールながら細部まで再現されている。ちなみに空也上人が着ている衣は、自らが可愛がっていた鹿が殺されてしまい、その皮を衣にしたという説があり、その裾の部分には独自の表現が見られる。

 そして鹿杖(この杖の角も、前述の鹿のものだとか)、鉦鼓、撞木などの小物のディテールもこのスケールのギリギリの線まで造形されていて、手に持って眺めるのが嬉しくなる。ただしそれぞれはかなり繊細なので、うっかり落としてしまったり、不注意で衝撃を与えたりしないように注意しよう。

写真などで見るバストアップのアングル。南無阿弥陀仏を唱える様子を表している
口から出た6体の阿弥陀如来像。ちゃんと仏像の形をしているのがわかる
頬骨やのど仏も立体的に表現。実物は薄目を開け、水晶の玉眼がはめ込まれているが、そこまでは再現されていない
衣の首の後ろには、フードのようなものが見える
衣は鹿の皮をなめして羽織っているという逸話があり、裾にはそれを表現する独特のシワがある
すり切れたわらじを深めに履いて地面を踏みしめている。筋張った腱も再現されている
再現度の高い各所のディテール。仏像としてもフィギュアとしても、優れた造形美が光る

 鎌倉時代から残る仏像であり、実物は色がほとんど残っておらず、フィギュアもそれに準じて彩色されている。黒に近いグレーをベースに、わずかに残る銅色の部分は塗装にてフォロー。実物の写真と見比べると違いもあるが、サイズや造形の性質上、そこまで正確な塗装は必要ないであろう。もちろん鉦鼓など実物に色がついている部分はちゃんと塗装されていて、全体のちょっとしたアクセントになっている。

長き時代を経て残るわずかな色合いを塗装にて表現
鉦鼓やそれを結ぶ紐の色は再現されている
台座の裏にはビロードのシートに「六波羅蜜寺公認」の表記と海洋堂のロゴをプリント

 これまで展覧会などで発売された海洋堂のポリストーン製仏像フィギュアの中でも、群を抜いて細かなディテールを誇るアイテムとなったこの空也上人立像。現代のフィギュアの中に紛れ込ませてディスプレイするのも楽しいかもしれない。

白い背景に置くと味わいがグッと変わる。屋外で撮影するのも面白そうだ
展覧会で販売されている御朱印を背景に置いてみた

 なんとこの商品、1回の入場につき1個販売の限定商品ながら、展覧会の開催から約15日で初回販売分の1,400個が売り切れとなってしまったそうで、その人気の高さが伺えることとなった。フィギュアの販売情報は「空也上人と六波羅蜜寺」の公式Twitter(@kuya_rokuhara)にて明らかにされていて、4月中旬頃に2次販売分の900個が再入荷するとのことだ。今から手に入れたいと思った人は、公式Twitterの情報を頼りに、会場に足を運んでみるといいかもしれない。

【参考文献】

「空也上人と六波羅蜜寺」図録