レビュー
ウェーブ、「ダイビングビートル[PS版]」レビュー
スワンピークラッグ、降着機構、組んだ後もたっぷり遊べるプラモデル
2023年1月31日 00:00
- 【ダイビングビートル[PS版]】
- 1月18日再販(初版は2019年)
- 価格:5,720円
- スケール:1/35
- 全高:約14cm
アニメ「装甲騎兵ボトムズ」に登場するAT(アーマードトルーパー)には独特の魅力がある。四肢には人工筋肉と言えるマッスルシリンダーが配置されエンジンなどの内燃機関ではなく、マッスルシリンダー内に流れるポリマーリンゲル液を循環させて駆動する。このため胴体内部はまるまるコクピットとなっている。
その全高は4mほど、巨大ロボットカテゴリーではあるが、実在感を感じさせる"小ささ"がいいのだ。このため過去には鉄鋼アーティストの倉田光吾郎氏による立像が製造されたり、稲城長岡駅に実物大スコープドッグが建てられてたりしている。
「ボトムズ」関連の商品は人気が高く、様々なメーカーから販売されているが、多くが絶版となっている。その中でウェーブのプラモデルは、現在でも新商品や再販が行われている。筆者も以前から興味を持っており、一度チャレンジしたかった。今回、「ダイビングビートル[PS版]」が再販されたので、こちらをレビューしていく。
PSはプロ スペックの略。ST(スタンダード)版と異なり、コクピット内部も再現しているのが特徴だ。コクピットに座っているキャラクターが「カン・ユー大尉」なのも楽しいところ。彼の魅力も紹介したい。
湿地・水中戦用AT、パイロットフィギュアは悪名高いカン・ユー大尉
最初にダイビングビートルという機体の設定を紹介したい。「装甲騎兵ボトムズ」は1クールごとに舞台を変える。第1クールは戦後直後の猥雑とした都市・ウドだったが、第2クールではベトナムを思わせる熱帯のジャングル・クメンとなった。ダイビングビートルは主人公キリコが所属することになる傭兵部隊アッセンブルEX-10の主力機である。
キリコはここではスコープドッグの湿地戦用改造機「マーシィドッグ」に乗るため、主役機として目立つようになった。ウド編は敵もスコープドッグのバリエーションだったり、物語冒頭では味方は同型機だったためキリコがどの機体に乗っているかもわからなかった。汎用機を乗る1兵士、というのが制作側が狙った演出だったが、クメン編では明確にキリコが乗る機体が差別化されるようになったわけだ。
ダイビングビートルは湿地・水中戦用の機体として設計されており、高い機密性を持ち酸素ボンベを搭載しているため、浸水することなく最大2時間の水中行動が可能。脚部の装甲板のように見える「スワンピークラッグ」は湿地帯で接地面積を増やすことで泥濘に沈み込まないようにする"かんじき"である。スコープドッグより大きなヘビー級のATであり、新しく性能も高い。ちなみにマーシィドッグは潜水機能がなく、渡河作戦など水辺の戦いでは浮き輪のようなエアバージを展開し、水上に上半身を浮かして戦うことしかできない。
プラモデルでコクピットに座っているキャラクターはカン・ユー大尉。実働部隊のリーダーであり、キリコの所属するスペシャルチームの部隊長を務める男だが、劇中では「非常に嫌な悪役」である。自分の考えに固執し、部下の進言も聞かず、結果として大きな損害や、作戦の失敗を招いてしまう。それなのに悪運だけは強く、大局も見ずにキリコの足を引っ張り続ける。彼を演じる広瀬正志さんは「ガンダム」では堂々とした軍人のランバ・ラルを演じたが、カン・ユーは権柄づくで小心者の小悪党ぶりを強調した。"イヤな奴"として多くの人の印象に残っている。
ただ見方を変えると慎重すぎる性格と、旺盛な上昇志向を持ちながら無能な彼は、上司であるゴン・ヌー将軍の使いやすい駒なのだ。クメン政府すら出し抜きメルキア軍に取り入ろうとする野望を持ったゴン・ヌー将軍と、愚直に作戦を進め、脅威を感じさせない程度に無能なカン・ユーは良いコンビと言える。
それにカン・ユーは実践力はそれなりにある。戦闘力を重視した特別部隊を編成する場合は、自分の腰巾着を使わず油断のならない腕ききを選択する。そしてどんな窮地にも生き残り、キリコの足を引っ張るしぶとさは、強い戦士である証明でもある。こういう味のあるキャラクター造型が人気を博し、他のキャラクターを押しのけ、「ダイビングビートルのパイロットフィギュア」として、カン・ユーが選ばれたのではないか。クメン編において、強い印象を残すキャラクターであることは間違いない。では、プラモデルを組み立てていこう。
成型色による色分けと組みやすさ重視の設計、劇中の雰囲気もしっかり再現
ウェーブは「ボトムズ」のプラモデルに関して、アニメ放映時に販売されていたタカラ(現タカラトミー)のプラモデルの金型を引き継ぎ、自社のプラモデルとして展開していた。しかし現在販売されているウェーブの商品は、当時のタカラ版をそのまま使用しているのではなく、大幅に改良され現代のプラモデルとして高いクオリティを持っている。
筆者はタカラ版の「ダイビングビートル」は買わなかったが、「ベルゼルガWP」、「マーシィドッグ」といった他の商品を組み立てた記憶がある。本商品は「間接にポリキャップを使用」、「ベルゼルガと一部部品を共用」といった当時のプラモデルの仕様を受け継いでいるが、全くの別物であるのが確認できた。当時の商品は接着剤が必須だったものが、本商品は接着剤を使わなくても組み立てられるインジェクションキットとなっているし、部品の設計そのものも洗練され、とても組みやすい最新のプラモデルとなっている。
いよいよ組み立てていこう。まずは顔、そして頭部となるコクピットハッチだ。「ボトムズ」のATはロボットとしての顔がなく、レンズがはめ込まれたセンサーのみなのが特徴。ダイビングビートルの場合は、レンズを回転して倍率が変えられる顕微鏡のような形状となっている。基部はポリキャップが使われているため、回転させカメラを切り替えることが可能だ。
ダイビングビートルのカメラは細かく設定されていないが、スコープドッグの場合は、標準ズーム、赤いものが精密照準、もう1つが広角と設定されている。劇中レンズを切り替えて周りを見るシーンや、赤いレンズを発光させ相手に信号を送ったシーンなどもあった。ダイビングビートルの場合は1つだけ赤いレンズがあるが、他2つは同じようなデザインだ。本キットの場合、シールが用意されており、貼り付けることで3つのレンズに色が付けられる。今回は無塗装、黒い塗料を薄めて塗りつけ拭き取るという「ウォッシング」という手法でスミ入れを行い、ディテールを際立たせている。
胴体であるコクピットを組み立てていく。「ダイビングビートル[PS版]」はコクピット内部もきちんと再現されていて、カン・ユーのフィギュアを座らせることができる。本キットのスケールは1/35であり、カン・ユーのデザインがきちんと再現されている。ダイビングビートルはH(ヘビー)級のATであり、M(ミッド)級のスコープドッグよりコクピットに余裕がある。カン・ユーが目に付けているゴーグルはケーブルを介してセンサーからの映像や機体情報などが映し出される。
「ダイビングビートル[PS版]」は色の異なるランナーによる、「多色成型」のキットで、塗装せずともパーツの成型色で色分けされており、塗装しなくても劇中の雰囲気に近く組み立てられる。コクピット内部のメカやパイロットシートは灰色の部品を使っているので、外部の青の装甲との違いで雰囲気はバッチリだ。パイロットフィギュアもスミ入れをすれば細かいモールドが際立ちカン・ユーならではのデザインがきちんと確認できる。無塗装派にも楽しいプラモデルとなっている。
腰の装甲板を付け、バックパックを取り付ければ胴体の完成。次ページでは手足を取り付け、完成させていきたい。
(C)サンライズ