特別企画

"敵の血潮で濡れた肩"、赤い肩のスコープドッグの前で語り合う楽しさ

集まる機会を与えてくれる実物大モニュメントと、期間限定イベント

【ATM-09-ST スコープドッグの実物大モニュメント】

会場:いなぎペアパーク

期間:8月1日~10月31日まで

 JR稲城長沼駅の近く、稲城ペアパークにある「ATM-09-ST スコープドッグの実物大モニュメント」が、8月1日より10月31日まで"レッドショルダー仕様"になっている。今回筆者は、この撮影と共にライター仲間である友人と会い話をしてきた。

 モニュメントのモチーフとなっているのは「装甲騎兵ボトムズ」の主役メカ「スコープドッグ」。稲城市はメカデザイナーの大河原邦男氏が現在も住んでいる"地元"として、「メカニックデザイナー大河原邦男プロジェクト」を発足、「ATM-09-ST スコープドッグの実物大モニュメント」もその一環となる。このモニュメントは2020年3月15日に設置され、「ボトムズ」ファンの"聖地"となった。

 しかしちょうど"コロナ禍"による外出への自粛が重なり、まだ行けてない人も多いのではないだろうか。筆者はモニュメント完成直後、このを機会に友人達と集まってみようとFacebookで友人に声を掛けた。手を挙げてくれる人もいたのだが、時期の問題で結局中止にした。その後取材もかねて訪れた様子は、「ウドの苦いコーヒーレポート」としてまとめた。

 今回、"スコープドッグの肩が赤くなる"という期間限定のイベントに合わせ、再び友人に声を掛けた。現地に集まってくれたのは、弊誌でもおなじみの鉄道ライター・杉山淳一氏と、GAME Watchなどでも活躍するライターの池紀彦氏。今回3人で集まり、様々な話もできた。「赤い肩のスコープドッグ」の写真と共に、改めてこのモニュメントの魅力を語ろう。

今回、ライターの杉山淳一氏(左)と、池紀彦氏が一緒に来てくれた。2人とスコープドッグを撮影し、たっぷり濃い話をした

ファンにはたまらない、「赤い肩のスコープドッグ」

 まず最初に、改めてスコープドッグから少し語りたい。スコープドッグは主役メカであると同時に、主人公キリコ・キュービィーの所属していたギルガメス軍の主力機体だ。「機動戦士ガンダム」のザクをイメージすれば近いだろうか。大量生産の量産機であり、ある意味大量にやられるシーンもある"ザコメカ"でもある。

 アニメの一話では、キリコは部隊の1人として小惑星を襲撃するが、敵も塗装が異なるスコープドッグであり、味方の基地を襲うという理不尽な任務にキリコは混乱する。視聴者も驚きの一話だった。なにしろ、味方はキリコと同じ緑のスコープドッグであり、しかもパイロットスーツは目をゴーグルで隠しているため、画面に映っている人物がキリコか、味方の兵士かわからなくなることも多々あったのだ。

スコープドッグの肩が赤く塗られている。このロボットが何かもわからない人も多いだろう。しかし、このロボットの肩が赤いのは、ファンには特別な魅力なのだ

 この演出は、キリコが「どこにでもいる兵士の1人」であることを強調している。主人公が派手な専用機に乗って活躍する他のアニメと全く違うものを作ろうとしているという制作側の強い思いが出ている。その後もスコープドッグは「どこにでもある最もありふれた機体」であることが強調されていく。キリコはスクラップ屋で捨ててあるスコープドッグの部品を拾い上げ修理し組み立てたりもするのだ。スコープドッグは敵としても登場するし、競技用のカスタムタイプなども登場する。

 さて、今回稲城市観光協会が限定で実施する「赤い肩の塗装」だが、これはアニメ作中に語られる「レッドショルダー」と呼ばれる特殊部隊に所属するスコープドッグに施された塗装で、右肩を血のような暗い赤色で染めている。レッドショルダーの正式名称は「ギルガメス宇宙軍第10師団メルキア方面軍第24戦略機甲歩兵団特殊任務班X-1」。精鋭を集めたギルガメス軍最強と言われた部隊だが、同時に"残虐さ"でもその名を銀河にとどろかせている。

 敵部隊はもちろん、一般人にさえも牙をむき、残虐非道な戦いを繰り広げた。惑星サンサを酸素ボンベがなければ地表を歩けないほどに荒廃させた激しい戦いがあったが、直接の引き金は両軍のミサイル攻撃だったものの、レッドショルダーは生き残った住人から激しく恨まれるような戦いをした。キリコはサンサの戦いには参加していないが、レッドショルダーとして幾多の戦場で戦っており、その記憶は彼の強烈なトラウマとして彼を苦しませ続ける。

 アニメ本編ではレッドショルダー時代のキリコは直接は描かれないが、序盤の「ウド編」でレッドショルダーは"最強の戦士"としての逸話が語られ、大群に単機で立ち向かおうとするキリコの機体に、仲間のバニラが景気づけにフル装備のスコープドッグの左肩を赤く塗るシーンがある。キリコは「レッドショルダーの赤はもっと暗い血の色、マークは右肩だ」と指摘することで、彼が元レッドショルダーであることが明らかになる。そして中盤の「サンサ編」で、キリコは自分がレッドショルダーであった過去に向き合わされることとなるのだ。

緑色の地味な塗装に、ずんぐりむっくりのスタイル。レンズがついただけの顔。ヒーロー性の薄い、無骨なロボットだが、大河原氏お気に入りのロボなのだ。4mという大きさが実感できるのが楽しい
「ボトムズの大きさなら実現できるかも、乗れるかも!」と夢見たファンも少なくなかったが、実はガンダム以上の先進科学(恒星間航行を実現し銀河中に人類が版図を広げている世界)で作られているロボットなのだ

 そんなわけで「赤い肩のスコープドッグ」は、本来は"忌むべき存在"なのだが、スコープドッグの一番有名なカラーバリエーションでもある。稲城市の実物大モニュメント肩が赤く塗られるのは、ファンにはたまらないサービスとも言える。レッドショルダーという言葉を知っているような「ボトムズ」ファンならば、これは見に行かねば、というところなのだ。

 今回、撮影中1時間弱モニュメント近くをぶらぶらしたが、ファンが入れ替わり立ち替わり来ては肩の赤いスコープドッグを見て撮影していた。1人か、2人くらいの少人数の人が多く、嬉しそうに撮影をしていた。

 その時の「会話」が実にいいのだ。「あえて間違った左肩を赤くした方が、作中表現じゃないの?」、「やっぱり装甲薄すぎない?」、「コクピット狭すぎるよね」、「汚し塗装がちゃんとしてるね」……。実にマニアックなのだ。独り言を言いながら写真を撮る人もいる。彼等の言葉に筆者はつい心の中で同意してしまった。

 「装甲騎兵ボトムズ」は、言ってしまえばやはりマイナーな作品だ。実は今回、池氏も杉山氏もアニメ本編をきちんと全部見ていないという。今回、肩が赤く塗られての初めての土曜日のお昼であったが、人影はまばらだった。お台場の「実物大ユニコーンガンダム」の平日の人混みよりずっと少ない。もちろん観光地であるお台場と、住宅地であるJR稲城長沼駅周辺というのもあるが、逆にこのくらいのまばらさが、「ボトムズ」らしいとも言える。

【撮影する人々】
わざわざ稲城市まで見に来る人達であるから、やはり濃い人達であるのがわかる。漏れ聞こえる会話が良いのだ。

 この実物大モニュメントは、もう1つ格別に面白いエピソードがあった。このスコープドッグのある広場で「盆踊り」が開かれたのだ。盆踊りは青少年育成東長沼地区委員会が主催したもので、年1回の開催。毎年小学校のグランドで開催していたが、コロナによる自粛もあり、今年は夜間照明のあるいなぎペアパークでの開催となったとのこと。

 このとき「ボトムズ」の主題歌「炎のさだめ」も演目に加わり、曲に合わせて人々が踊ったという。今回は稲城市観光協会の紹介の元、その踊りを撮影した方に許可をいただいたので、Tweetを転載したい。なんというか、ボトムズが盆踊りになるとは、スゴイ時代である。

 この「赤い肩のスコープドッグ」は、まだまだ語りたい。2ページ目では、もう少し筆者のボトムズへの想いや、期間限定のモニュメントを見に友人が集まる楽しさを語っていきたい。