特別企画
「ボトムズ40周年」にアイテム続々登場、今こそスコープドッグの革新性を語りたい!
コクピット描写、地上滑走、約4mのロボットに込められた様々な仕掛け
2024年4月3日 00:00
- 【HI-METAL R スコープドッグ レッドショルダーカスタム】
- 開発・発売元:BANDAI SPIRITS
- 発売日:3月23日
- 価格:24,200円
- 全高:約165mm
- 素材:ABS、PVC、ダイキャスト
BANDAI SPIRITSが3月23日に発売した「HI-METAL R スコープドッグ レッドショルダーカスタム」は、TVアニメ「装甲騎兵ボトムズ」の主役機「スコープドッグ」をモチーフとしたフィギュアだ。可動やギミックなど、まさにスコープドッグフィギュアの決定版と言える商品である。
今年は「装甲騎兵ボトムズ」40周年。BANDAI SPIRITSのプラモデル「HG スコープドッグ」や、ウェーブのプラモデル「スコープドッグ」、マックスファクトリーのプラモデル「ストライクドッグ」、さらにはthree zeroの可動フィギュア「ロボ道 ラビドリードッグ」など関連商品が多数発売され、「ボトムズ」ファンにとって夢のような状況になっている。
「HI-METAL R スコープドッグ レッドショルダーカスタム」の商品の魅力は別稿で詳細に紹介している。商品詳細はそちらを見ていただいて、本稿ではこの機会に改めて"玩具"という側面から、スコープドッグのデザインやギミックを考察したいと思う。スコープドッグ、そしてAT(アーマードトルーパー)は、全高18mのモビルスーツ「ガンダム」とはまた違った、遊んで楽しい要素が盛りだくさんのデザインなのである。
もう1つ、可動フィギュアである「HI-METAL R スコープドッグ レッドショルダーカスタム」と「ロボ道 ラビドリードッグ」を比較して、「フィギュア化の解釈」という視点からもATの面白さを考えたい。現在のフィギュア文化があるからこそ、より一層"解像度"の高いATフィギュアが楽しめるのだ。
全高約4m、フィギュアと絡められる大きさのロボット
スコープドッグの設定全高は3.804m、1階建ての家の屋根よりもう1m大きいくらいの、アニメのロボットの中ではかなり小さいデザインである。東京都稲城市の稲城長沼駅前には「実物大スコープドッグ立像」があり、そのリアルな大きさを実感することができる。
一方初代の「RX-78-2 ガンダム」は全高18mだ。その巨大さはまさに圧倒的で、大きな電信柱の16mよりさらに大きい。現在はお台場のユニコーンガンダムを始め、いくつかのガンダムの実物大立像が存在しており、その究極として横浜に「動く実物大ガンダム」があった。実際にガンダムが存在していたらどのように見え、どう感じるか、現代の我々はそれが実感できるのだ。
そしてこれらのロボットを"玩具"としてたのしみたい、という場合は、ガンダムもスコープドッグも13~20cm程度の手頃なサイズで商品化する必要がある。特に「ボトムズ」が生まれた1980年代前半は玩具会社が番組のスポンサーであり、「ガンプラブーム」で新しい波が押し寄せている時期だった。ガンダムとは異なるアプローチの商品(玩具)が求められている時代だったのである。
「ボトムズ」のメインスポンサーはタカラ(現:タカラトミー)。前番組である「太陽の牙ダグラム」のプラモデルと、可動フィギュア「デュアルモデル」のヒットで、次の企画にはかなり制作側の意見が反映されたという。「ボトムズ」のメカデザイナーである大河原邦男氏はいくつかのインタビューで「ボトムズ」を「自分が玩具会社に企画を提案できた思い出深い作品」として挙げているが、スコープドッグからは「新しいロボット像を」という意欲と共に、「新しい玩具を」という想いも濃密に感じ取ることができる。
その第1がこの約4mのロボットという"大きさ"である。搭乗者など人物と絡めた場面を立体物で作りやすいのだ。遊びやすいサイズの商品にした場合、ガンダムだとどうしても人物は豆粒のようなサイズになってしまうが、ボトムズでは手足や頭などしっかりと判別できるフィギュアと遊べる。これはモビルスーツではできない遊び方だ。
そして人物とロボットが濃密にからむ場所が「コクピット」である。スコープドッグの大きさは商品での詳細なコクピット描写を可能にする。実際の商品でもシートの形状、操縦桿、足のペダルなどアニメの設定を細かく再現しており、フィギュアを座らせることでコクピットに座る人物の姿を描写し、まるで自分がパイロットとなってコクピットに座っているかのような感覚までも想像できる。
これは「ダグラム」のプラモデルでのコクピット描写を推し進めたコンセプトだろうと思う。当時発売されたダグラムのプラモデルは1/72スケールと1/48スケールがあり、特に1/48は主人公クリンが登場する頭部のコクピットの描写は詳細な上、透明なキャノピーで外からもそれを確認できたのだ。
このスコープドッグの設定には模型である「ミリタリープラモデル」の影響が大きかったのではないかと筆者は思っている。1/35スケールの戦車のプラモデルは乗員だけでなく、歩兵やバイクに乗った偵察兵など人物と絡めた商品展開が行われている。人物とメカがからむことで、リアルな戦場風景の描写が可能だ。また、コクピット描写は自走砲など外装を外した戦車はもちろん、1/48などの大きな戦闘機のプラモデルのコクピットで特に楽しい部分である。玩具としてこれらの要素を採り入れ、進化した遊びを提示したかったのではないか。
スコープドッグのデザインでこの大きさならではの面白い工夫の1つが1つが、右膝のバーと、腰装甲の穴である。「立っているスコープドッグにどう乗り込むか」という問いに大河原氏が応えた要素だ。スコープドッグが実在していたら求められる機構をデザインで実現しているのが楽しい。この要素はその後のATのデザインでも共有されていく。
さらにスコープドッグは「可動ハッチ」が多い所も玩具としての楽しい要素だ。パイロットの足があるところと、頭部のバイザーが開く。頭部のバイザーはカメラが使えなくなったときなどに跳ね上げたりと劇中でも活用されたが、アイデアの源流は高級ミニカーのドアやボンネットが開くギミックではないか。
付け加えれば1982年に刊行されたガンプラの改造を紹介したホビージャパンのムック「HOW TO BUILD GUNDAM 2」の、メンテナンスハッチをフルオープンにしたガンダムの作例の影響も感じられる。なお、このハッチオープンのアイディアは後のTVアニメ「蒼き流星SPTレイズナー」で非常に印象的な活用のされ方がされる。
このほかカメラの可動も「スコープドッグ」の大きな特徴で、玩具として楽しいところである。カメラの基部が回転しレンズが交換でき様々な視界で周囲を見ることができるというのはメカニック的な説得力がある。このギミックはアニメのOPの冒頭に採り入れられ、ファンの心に強く刻み込まれている。カメラは基部がレールに沿って左右に可動するのも楽しい。一昔前のカメラや顕微鏡を思わせるギミックで、メカニカルな感触が楽しいところだ。
ほかにもスコープドッグには「アームパンチ」など設定と玩具ギミックが濃密に関係している要素がある。次章でこれらに触れていきたいと思う。
アームパンチ、降着ポーズ、ターンピック……遊び心を刺激する様々なギミック
スコープドッグには約4mの大きさという、パイロットフィギュアと絡めた遊びの提案のほかにも、アニメロボットとして様々なアクションギミックが盛り込まれている。ロボットの劇中の活躍を想像して商品を動かす、"ブンドド"の楽しい機体なのだ。
まずは「アームパンチ」だ。スコープドッグは接近戦用武器として前腕部を火薬の力でスライドさせ強力な打撃を行うアームパンチという機構がある。これはオートマチック拳銃の弾丸を発射した反動で排莢を行う「ブローバック」からヒントを得たものだろう。
実際オートマチック拳銃は扱いに慣れていないと激しく後退するスライドで顔面を打ってしまったり、初期のオートマチックでは素材が反動に耐えきれず銃からスライドが外れケガをしてしまう事件も起きている。エアガンなどでスライドの激しい動きを見ている人にはアームパンチの怖さがわかるのではないだろうか。余談だが「ジョジョ」に出てくる、関節を外して拳の射程を伸ばす(痛みは波紋で和らげる)「ズームパンチ」の元ネタもこのアームパンチではないかなと思っている。
次は「ローラーダッシュ」と「ターンピック」である。スコープドッグをはじめとしたATの多くには足裏にグライディングホイールというローラーが仕込まれていて、これを回転させることでローラースケートのように滑走ができる。加えて足横にあるターンピックと呼ばれる杭を地面に突き刺すことでこれを支点に強引に旋回ができる。
スコープドッグのローラーダッシュの速度は時速41km。不安定な2足歩行での高速移動中に、ターンピックを突き刺して本当に旋回が可能かというと、かなり恐ろしい気がするが、劇中では印象的に使われていた。当初の設定ではローラーダッシュは、市街地の舗装された路面や平地での直進と旋回を予定していたようだが、劇中ではスラロームしたり、湿地や砂漠で移動できる機能を持つ機構が登場したりとどんどん進化していった。ターンピックの旋回を連続して敵の弾をさけ旋回しつつ接近するという、超人的な機動でパイロットの技量を演出する場面も見られた。
ローラーダッシュ機構は後のアニメロボットにも採り入れられるが、スコープドッグを象徴する機動としてタカラトミーは「ガガンガン スコープドッグモデル」という商品を発売している。地上を滑走して光線銃で打ち合うという対戦型ロボット玩具「ガガンガン」がベースとなっており、商品はボディをスコープドッグに換えたものだが、スコープドッグのローラーダッシュそのままでとても面白い。過去記事の動画でその動きを確認して欲しい。
そして「降着機構」だ。スコープドッグの足が逆に曲がり、コクピットである胴体が地面に近づくこの機構は、まるでスコープドッグが"変形"しているような趣がある。この降着機構もAT共通のギミックとして他の機体にも設定されている。
この降着機構は実際にパイロットが乗り降りするシーン以外にも面白い演出が作品中で行われた。高所から着陸するとき、この降着機構を使って落下の衝撃を吸収するショックアブソーバーとして使われた。さらに降着機構のまま移動し、宇宙船の格納庫を移動したり、ジェット推進で宇宙を移動する「ドッグキャリアー」はこの降着ポーズで使用する。降着ポーズはATの見せ方を膨らましてくれるギミックだ。
もう1つスコープドッグの主武装である「GAT-22 ヘビィマシンガン」にも注目したいところ。「ガンダム」のビーム・ライフルは本体と比較して、現実の拳銃よりは大きいが、ライフルよりは小さいという独特のバランスを持った武器だった。現実の拳銃サイズは小さすぎるため、見栄え良く、かつアニメーションで表現しやすいサイズとしてあの大きさとデザインになったかもしれない。
その上でヘビィマシンガンは、アサルトライフルの大きさである。前方につきだした銃身のカバーや銃上部のキャリングハンドルなどから、アメリカ軍制式採用のアサルトライフル「M16」を想起させられる。M16は銃身の下にオプションでグレネードランチャーを付けられるが、ヘビィマシンガンは銃身の上の筒がグレネードランチャーになっている。このロボットに比べて大きいマシンガンがミリタリーぽさを増してくれるのだ。
しかもこのヘビィマシンガンは、銃身を交換し"ショートバレル"にできる。さらにストックも取りはずすとまるでサブマシンガンのような外見になり取り回しがしやすくなる。スコープドッグの切り詰めたヘビィマシンガンは「GAT-22Cヘビーマシンガン改」の型式が与えられ、湿地戦仕様のスコープドッグ「マーシィドッグ」の主武装として登場した。
密林での取り回しを考えた改造だと思うが、エアガン(もちろん現実の銃器も)の人気のカスタマイズであるCQBR(近接戦闘)仕様っぽくて楽しい。ちなみに「HI-METAL R スコープドッグ レッドショルダーカスタム」はパーツ差し替えでショートバレルのヘビーマシンガン改にすることが可能だ。現在よりミリタリーの情報が少ない1980年代前半、「ボトムズ」制作スタッフにはかなりのガンマニアがいたのではないか? と想像させられる。
4mという大きさの可能性、様々なアイディアが採り入れられ、ミリタリー色とアニメのケレン味が盛り込まれたスコープドッグ、そしてATという存在は改めて魅力的な存在だ。次ページではthree zeroの「ロボ道 ラビドリードッグ」を取り上げ、ボトムズフィギュアのフィギュア化の面白さを考えたい。
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