レビュー
「HI-METAL R スコープドッグ レッドショルダーカスタム」レビュー
前傾姿勢や"ガワラ曲げ"など、デザインを越えたアクションを実現!
2024年4月3日 00:00
- 【HI-METAL R スコープドッグ レッドショルダーカスタム】
- 開発・発売元:BANDAI SPIRITS
- 発売日:3月23日
- 価格:24,200円
- 全高:約165mm
- 素材:ABS、PVC、ダイキャスト
「HI-METAL R スコープドッグ レッドショルダーカスタム(以下、HI-METAL R スコープドッグ)」は非常に楽しみにしていたフィギュアだった。モチーフはアニメ「装甲騎兵ボトムズ」の主役機「スコープドッグ」。1983年のアニメ放映開始以来、スコープドッグは立体物のモチーフとして人気が高く、これまでもフィギュアやプラモデルなどが発売され、筆者も購入している。しかしBANDAI SPIRITSでの「完成品フィギュア」としては発売されていなかった。
BANDAI SPIRITSのHI-METAL Rというブランドは、アニメの設定を活かしながら現代の進化したアクションフィギュアの技術と、要所に金属パーツを使うことで堅牢性を確保、これまでは立体物では実現が難しかったアニメのアクションを実現しようという挑戦を行っているブランドである。発売前、フィギュアイベント・魂ネイション2023では企画担当者の熱い話も聞け、期待は最高潮に高まっていた。
「HI-METAL R スコープドッグ」はその期待に応える商品だった。ディテール、アクション、遊びとしての拡張性、「ボトムズ」ファンに応える商品である。本稿では写真と共に「HI-METAL R スコープドッグ」のギミックや魅力を紹介していきたい。
なお、今回は別稿として「スコープドッグ」そして総称であるAT(アーマードトルーパー)のデザインの魅力を紹介した記事も同時掲載しているので、併せて楽しんで欲しい。
使い捨ての量産機が主役機という異色作「装甲騎兵ボトムズ」
最初に「装甲騎兵ボトムズ」という作品と、スコープドッグ、そしてレッドショルダーカスタムに触れておこう。「装甲騎兵ボトムズ」は、「戦争によって兵士として育ち、人間性を失った青年が様々なものを取り戻していく物語」だ。
ギルガメスとバララントという星間国家がアストラギウス銀河を2分する戦争を始めてから100年、主人公キリコ・キュービィーは兵士として1つの秘密作戦に参加する。それは味方であるはずの小惑星リドの施設を遅うという謎めいた作戦だった。キリコはそこで偶然驚くべきものを発見する。それはカプセルの中で青い液体に浮かぶ美女だった。美女は目を開け、はっきりとキリコを見る。それがすべての始まりだった。
部隊が探していたのがそのカプセルだった。彼等はキリコ1人を置き去りにリドを去る。キリコは駆けつけた味方のギルガメス軍に捕まり激しい拷問を受ける。しかしキリコは何も知らない。キリコは一瞬の隙を突き脱走、その日に星間戦争が終わったことを知る。半年後、戦後の混乱にごった返す都市ウドで、キリコは謎の美女と再会するのだ。AT同士が見世物として戦う「バトリング」会場で……。
キリコは戦うことしか知らない19歳の青年だ。しかし彼を利用しようと接近してきた悪徳商人のゴウトと、その仲間のバニラ、ココナと危機を乗り切るうちに友情が芽生え、しっかりした絆を築いていく。キリコは謎の美女を追うことで秘密結社の存在を知る。秘密結社の戦いの中で、謎の美女に自分でもわからない衝動で彼女に「フィアナ」という名前を与え、そして愛を知る。キリコはウド、クメン王国、惑星サンサと舞台を変えながら、やがて大きな謎と直面することとなる……。
スコープドッグは本作品の主役機であるが、この世界で最もありふれた量産機だ。戦後直後である「ボトムズ」の世界では、スクラップ工場にもたくさんの部品があり、キリコはゴウトの工場でスクラップから動く1機を組み立てたりする。観客の前でAT同士で戦い賭け試合をするバトリングでのATもスコープドッグのカスタマイズ、軍がスコープドッグを大量投入する場面もある。劇中キリコも躊躇なく乗り捨てる。従来のヒーローとして固定された主人公機ではなく、「使い捨ての兵器」としての描写が非常に斬新だった。
今回商品化された「レッドショルダーカスタム」は、実は正式名称ではない。レッドショルダーとは軍の特殊作戦部隊「ギルガメス宇宙軍第10師団メルキア方面軍第24戦略機甲歩兵団特殊任務班X-1」に付けられたあだ名だ。彼等は敵のみならず味方からも恐れられる戦闘を行うことでその名を銀河にとどろかした。他の部隊が全滅するような損害からも生還する彼等は、「生き残るためには味方の血もすする」として、「吸血部隊」とまで呼ばれた。彼等は部隊マークとしてスコープドッグの右肩を赤い血の色で染めた。そのためにレッドショルダーといわれたのだ。
今回のモチーフとなった「レッドショルダーカスタム」は、キリコがウドの街を牛耳る治安警察と戦うためにバトリング会場の装備を盗みスコープドッグに搭載したもの。過剰と言える武装であり、背中に火器管制システムを搭載しているものの並のパイロットでは扱えない。仲間のバニラが戦いの景気づけとしてレッドショルダーの悪名にあやかり、左肩を赤く塗るが、キリコは「赤はもっと暗い血の色で、マークは右肩だ」と訂正する。そう、キリコは元レッドショルダー隊員だったのだ。
マークは間違っていたが治安警察には効果は絶大で、その武装と赤い肩に恐れおののく。治安警察との激しい戦いで機体は動かなくなってしまうが、キリコは仲間達が用意していた予備のスコープドッグに乗り換え、街の中心に迫る。……そう、「レッドショルダーカスタム」は、わずか1話で使い捨てられてしまうのだ。その後本編には登場しない。
しかし、やはりこのフル武装のスコープドッグはとても魅力的だ。そしてこの武装は前日譚、後日譚などを描くOVAで様々なアレンジを加えられて登場する。ロボットにゴテゴテと武器を付けるのはやはりロマンだ。「HI-METAL R スコープドッグ」ではノーマル状態から、パーツ差し替えでレッドショルダーカスタムにすることが可能だ。それでは商品のディテールに迫っていこう。
設定を越えた可動により、アニメの激しいアクションも可能!
最初に本商品ならではのポイントを紹介したい。「HI-METAL R スコープドッグ」を語る上で外せないのが「可動」である。スコープドッグはずんぐりむっくりなデザインで、特に胴体はそのままコクピットなので、最新ガンプラやロボットフィギュアのように胸を反らしたり、前屈するようなポーズは難しい。
フィギュアでは胴体の付け根にちょうつがいのような関節を追加。これを活用することで胸を反らせたり、前傾姿勢が可能なのだ。この技術はBANDAI SPIRITSの「魔神英雄伝ワタル」のフィギュアでデザイン上できない魔神(マシン)の頭が上を見たり、顎を引いたりできる機構を発展させたものだと思う。「ワタル」の時も感心させられたが、その機構をスコープドッグの腰に使うという発想が面白い。
もう1つが肘関節。上腕に軸を追加し、デザインとは違う角度での肘の曲げを可能にしている。これはファンの間で「ガワラ曲げ」と呼ばれるもので、メカデザイナー・大河原邦男氏の設定画では関節として設定されている場所とは違うところで肘が曲がる独特の達絵が多いのだ。プラモデルを改造し、この独特の関節を表現する作品もある。「HI-METAL R スコープドッグ」では、商品でこの「ガワラ曲げ」が再現できるのが楽しい。
アニメではアクションシーンや戦闘シーンなどでパースを効かせたり、パーツを変形させ、キャラクターに勢いを持たせる演出を行う。「ボトムズ」でもスコープドッグは時にはローラーダッシュ時に極端な前傾姿勢をとったり、体を捻ったりとデザインの制約を超えた描写が成された。「HI-METAL R スコープドッグ」では腰や肘の独自関節、足の付け根の軸可動や、肩の自由度の高い関節で勢いのあるポーズ付けが可能なのである。
BANDAI SPIRITSは「HI-METAL R ダグラム」で、非常に印象深い「朽ちたダグラム」のポーズを無改造で取らせることを実現している。モデラー達がプラモデルを分解し、パーツを配置して取らせていたポーズを差し替えなしの関節処理で実現しているのだ。「HI-METAL R スコープドッグ」もオリジナル関節で、遊びの幅を大きく拡げている。立体物の制約を超える関節設計は、ホビーメーカーだからこそできる挑戦と言えるだろう。
スコープドッグは"立体映え"するモチーフだ。「HI-METAL R スコープドッグ」はその魅力も十分再現している。コクピットハッチを開けると現れるパイロット。この精密なメカ描写、そして薄い装甲に覆われただけでぎっちりと胴体に埋まっている乗員の姿は、「鉄の棺桶」という言葉をストレートに連想させる。実際銃弾が装甲を貫通し時にはパイロットのすぐそばに着弾したり、さらには装甲ごとパイロットが銃弾に貫かれる描写もある。
ATは閉所恐怖症の人が叫び出すような密度の高い劣悪な環境で、高速移動し、巨大な銃を撃ち合う兵器だ。そしてATの中でスコープドッグは特にパイロットの命が軽い機体である。コクピットには機密性はなく、宇宙空間ではこのオレンジ色の耐圧服がパイロットの命綱だ。水中に潜ることもできず、水の中に入れば浸水してしまう。スコープドッグは番組タイトルでもある「ボトムズ(最低野郎)」という呼び名にふさわしい安全性の低い危険な兵器なのだ。
「HI-METAL R スコープドッグ」ではみっしりしたコクピットをきちんと再現、パイロットフィギュアは可動し、劇中と同じように操縦桿を倒してパイロットフィギュアをセットできる。また、コクピットハッチだけでなく、カメラのバイザー、腹のメンテナンスハッチも開いて内部をのぞき込める。高級ミニカーのようにハッチ内部のメカ描写が楽しめるのだ。
そのほか、前腕を火薬の力でスライドさせて攻撃する「アームパンチ」、足裏のホイールで高速滑走する「ローラーダッシュ」、足の側面にある杭を打ち付けてそこを支点に高速旋回する「ターンピック」など、スコープドッグならではの特徴を余すことなく再現している。ローラダッシュ機構の車輪「グライディングホイール」は指で回転させることができるのも嬉しい。
そして「降着機構」である。コクピットを下げ、搭乗しやすくできる降着機構はAT共通の機構だ。劇中ではショックアブーソーバーに使われるなど印象的な演出もなされた。スネ部分が独立して曲がる大胆で複雑な設計の機構だが、「HI-METAL R スコープドッグ」は完成品フィギュアであるため、しっかり作られており、スムーズに動作する。
そして主武装である「GAT-22 ヘビィマシンガン」は、弾倉の交換が可能。当時のアニメロボットが持つ銃としては異例と言える大きさだが、現実のアサルトライフル、特にアメリカ軍のM16にシルエットが似ているのがミリタリーっぽさを感じさせる。商品では組み換えることでショートバレルの「GAT-22C ヘビィマシンガン改」にすることもできる。有効射程と命中精度を重視した通常型と、CQB(近接戦闘)を意識したカスタマイズであるショートバレルでシチュエーションが変わるのが楽しい。
もう1つ、パイロットフィギュアへのこだわりも紹介しておきたい。パイロットフィギュアは登場姿勢がとれるように関節が仕込まれており、頭部を差し替えキリコの素顔にすることも可能。こだわりのユーザーのために顔が無彩色のものも用意されており、塗装で自分なりのキリコも追求できる。武器としては劇中でも印象深い「アーマーマグナム」が用意されていて、握り手を交換することで、銃を構えられる。
パイロットはもちろんキリコなのだが、ヘルメットをかぶせることで「一般兵」としても通用するところが「ボトムズ」の面白さだ。キリコの耐圧服もヘルメットもギルガメス軍AT乗りの一般装備であり、ヘルメットをかぶってスコープドッグに乗れば一見誰がキリコなのかわからなくなる。キリコは"1人の元兵士"であるというところは「ボトムズ」のテーマであり、ボトムズ商品の面白さでもある。そしてスコープドッグは"やられメカ"でもある。一般兵がやられる姿をイメージしたポーズ付けも楽しい。
そんなスコープドッグがフル武装で一騎当千のワンマンアーミーの姿となる。次ページでは武装を取り付けた「レッドショルダーカスタム」に組み換えていこう。
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