レビュー

タミヤ「16式機動戦闘車C5(ウインチ装置付)」レビュー

少数配備のウインチ装置付も再現できる最新改修型のプラモデル

【1/35 陸上自衛隊 16式機動戦闘車C5 (ウインチ装置付)】

7月8日発売

価格:5,720円(税込)

全長:約248mm

全幅:約85mm

付属品:マスクシール、デカール、乗員フィギュア、実車解説文&カラー塗装図

 タミヤが7月8日に発売する「1/35 陸上自衛隊 16式機動戦闘車C5 (ウインチ装置付)、以下、16式C5(ウインチ装置付)」はタミヤの造形技術の粋を集めた商品だ。新規金型により新たに追加された緻密なモールドとパーツ、こだわりの造形により16式C5最新調達仕様が見事に再現されている。

【パッケージ】

 このキットは「16式(ひとろくしき)機動戦闘車、以下16式」の最新調達仕様であるC5をプラモデル化したものだ。5月に開催された「第61回 静岡ホビーショー」のタミヤブースでも展示され、同会場で展示されていた実物の16式と共に話題になった。筆者も実際にタミヤブースで「16式C5(ウインチ装置付)」のプラモデルを目にしたが、細かいモールドの造形や、細部へのこだわりに驚かされた。今回は販売に先駆けてこのキットを組むことができたので、実際に組みながら内容を紹介したい。

第61回 静岡ホビーショーのタミヤブース
実物展示されていた16式機動戦闘車

トラブルに対応できるウインチ装備式の16式機動戦闘車

 「16式C5(ウインチ装置付)」のプラモデルを紹介する前に、まずは16式機動戦闘車について触れておきたい。16式は2016年から陸上自衛隊で調達が開始された装輪装甲車だ。日本では戦車をはじめとした大型車両の移動が容易ではないため、それを補うために採用された。名前は正式採用された2016年の下二桁からきている。

 16式は主兵装に74式戦車の弾薬が転用可能な国産の105㎜砲を装備している。また、8輪の大径タイヤにより、最高速度は100㎞/h以上という高い機動性を持っている。

 既に量産開始から7年が経過している車輌だが、隊員達のフィードバックを元に今も進化を続けている。今回プラモデルのモチーフとなったのは、2020年度から改修製造が行われた最新のC5と、その部隊に少数配備された「ウインチ装置付」の2つから選択できる。

 装輪装甲車は装軌(キャタピラ)式の車両に較べ、舗装道路や平坦な地形では迅速に動け、小回りもきくが、雪道、泥道、凹凸のある地形では行動が制限される上、場合によっては地形にはまり、走行不可能な状況になってしまう。ウィンチ装置は走行ができなくなった車両を迅速に引き上げ、走行可能状態に復帰させる。部隊の中にウインチ装置付の車両が配備されることで、より素早い部隊展開が可能となるのだ。

 「1/35 陸上自衛隊 16式機動戦闘車C5 (ウインチ装置付)」のキット内容を確認してみよう。ランナーはA~Fの6枚。ランナーの枚数は多くないが緻密に再現された細かなパーツが多いため、取り扱いには注意が必要だ。ポリパーツは大小の2種類、砲塔バスケット用のエッチングパーツ、デカール、クリアパーツと主砲用のマスクシール、組み立て説明書と車体解説書、そして組み立てワンポイントアドバイスをまとめたものが同封されている。

【組み立て説明書】
説明書には組み立てに必要な道具や塗装する際に必要な色がわかりやすく書いてある
【16式の解説書と色見本】
プラモデルに付属するこの手の資料が大好物な筆者はこれを見るだけでも楽しめてしまう
【Aランナー】
ダンパー、ホイール、アップライトなど主に足回りのパーツ
【Bランナー】
車体パーツ
【Cランナー】
サスペンションと車体用のディテールパーツ
【Dランナー】
砲塔周りのパーツ
【Eランナー】
車体ライトや覗き窓などのクリアパーツ。他に大小のポリキャップとゴムタイヤが付属している
【Fランナー】
車体のディテールパーツ。細かなパーツが大量にあるため、パーツを壊さないように気をつけて作業しなくてはいけないが、すごい情報量だ
【その他付属品】
デカール、マスクシール、そしてエッチングパーツとワイヤー表現用の糸。マスクシールは印刷されている線に沿って自分で切り出して使用する

ウインチ装置付と標準仕様から選べる2種類のマーキングとパーツ

 このキットには2種類のマーキングデカールとそれぞれウインチ装置付きと標準車用のパーツが用意されている。そのため、駒門駐屯地機甲教導連隊第4中隊所属の16式機動戦闘車C5 (ウインチ装置付)か朝霞駐屯地第1偵察戦闘大隊戦闘中隊所属の16式機動戦闘車C5(標準車)のどちらかを選択して組み立てることができる。

左:標準仕様用車体パーツ。右:ウインチ装置付車体パーツ。右のパーツにはウインチ装置のメンテナンスハッチが追加されている
2種類のマーキング

4つのサスペンションと連動するアームで再現された車体の足回り

 それでは実際にキットを組み立てていこう。まずは車体を組み立てるところから始まる。「1/35 陸上自衛隊 16式機動戦闘車C5 (ウインチ装置付)」の車体部分は大型の上下パーツと前後左右のフロント、リヤ、サイドパネルに分かれている。これら大型のパーツに細かいパーツを取り付けた後、組み合わせることで16式の車体部分ができあがる。各パーツには取り付け穴やガイドが施されているので、ピンセットや接着剤を用いることで初心者でも問題なく取り付けることができるように工夫がなされている。

【車体の上部パーツ】
パーツ表面は細部までしっかり造形されている。フロントパネルとリヤパネルのライト部分にはクリアパーツが使用されており、塗装時用のマスクシールが付属している
【車体リヤパネル】
ライト部分のクリアパーツは裏からはめ込む。接着してしまうため、画像のパーツには先に塗装を施した

車体上部の次は足回りの組み立てとなる。足回りは4つのサスペンションを個別に組み上げた後、車体に取り付けていく。サスペンションに組み付けた前4輪のアップライトは全て可動するようになっており、アームを接続することでタイヤが連動して動くようになっている。

【サスペンション】
左:リヤ4輪のサスペンションとアップライト。右:フロント4輪のサスペンションとアップライト。フロントのアップライトは可動するが、リヤのものは固定されている
【車体を構成するパーツ】

異なる角度で連動する前輪で実車同様のステアリング機構を再現

 「1/35 陸上自衛隊 16式機動戦闘車C5 (ウインチ装置付)」を組んでいて一番驚かされたのがこの足回りだ。このキット、用意されたランナーの半分が足回りのパーツとなっている。そのおかげで駆動部は細かく再現されており、ホイールやアップライトなど多くのパーツが稼働するつくりとなっている。

 こんなに小さなパーツなのにフロントの4輪が前と後ろで異なる角度で連動して動くという実車同様のステアリング機構が再現されている。サスペンションも細かく造られており、普通にキットを置いた状態では隠れてしまうのがもったいなく感じてしまうほどだ。隠れる箇所にも妥協せず、拘って造るところにタミヤの熱意と凄さを感じる。

【タミヤ「16式機動戦闘車C5(ウインチ装置付)」、連動して動く足回り】
フロントの4輪は実車同様に1軸と2軸が異なる角度で連動して可動する

新規金型によるC5の新たな特徴が盛り込まれた砲塔

 車体の次は砲塔の組み立てとなる。16式C5の砲塔にはエアコンの追加により変更された砲塔バスケットや、上部全体に追加された滑り止めなど、初期調達仕様のC1から大きく変更された箇所が多数存在している。これらを実際に組みながら確認していけるのが実に楽しい。

 砲塔も車体同様に上下のパーツに分かれており、そこにサイドパネルとリヤパネルをはめ込む形になっている。最初は車長のハッチ基部に取り付けられているのぞき窓部分になるクリアパーツをはめ込んでいく。その後はハッチのパーツや、砲塔各部の部品を取り付けていく。

【砲塔上部パーツ】
滑り止めの加工が砲塔上部全体に施されている
【クリアパーツ】
塗装する場合は取り付ける前にクリアパーツにマスクシールを貼る必要がある。かなり細かい作業だ
【砲手用サイト】
【車長用サイト】
車長用ハッチののぞき窓同様に車長と砲手用のサイト部分にもクリアパーツが使用されている
【車長用ハッチ】
砲塔のハッチは小さなパーツながらちゃんと可動するつくりになっている

 砲塔にはスモークディスチャージャーやハッチの可動部分など、細かい部品が多い。また砲塔上部に取り付けるアングルと呼ばれる(柵)やエアコンのフレームパーツなどは破損しやすいので注意が必要だ。

【パーツの取り付け】
スモークディスチャージャーは一つずつ基礎パーツに接着したあと、砲塔のサイドパネルに組み付ける
パーツを落としたり、飛ばしてしまわないように細心の注意で取り扱う必要がある
小さなパーツが多いのでピンセットで作業するのがオススメ

 砲塔の次は主砲だ。主砲の基部にはポリキャップが使用されており、上下に可動するようになっている。キット付属の砲身でも十分かっこいいのだが、別売りの「1/35 陸上自衛隊 16式機動戦闘車 メタル砲身」を使用することで、多孔式マズルブレーキが精巧に再現された実車さながらの主砲にディテールアップすることができる。

52口径105mmライフル砲
1/35 陸上自衛隊 16式機動戦闘車 メタル砲身 1,760円

 砲塔の組み立てで最後にくるのが砲塔バスケットとエアコンユニットだ。砲塔バスケットには専用のエッチングパーツが付属しており、パンチングメタル部分をリアルに再現できるようになっている。エッチングパーツの取り付けには瞬間接着剤を使用する。
バスケットが完成したら砲塔後部に取り付けることで砲塔の完成となる。

砲塔バスケット部分には3つのエッチングパーツを使用する
【砲塔を構成するパーツ】
【完成した砲塔】
バスケット内の箱状の物がエアコンユニット、外側に設置されている長方形の物がクリーニングロッドケース

迷彩塗装でさらに魅力を引き出す

 細部まで再現されたディテールのおかげで、素組みでも十分カッコいいのだが、スケールモデルならではの魅力を最大限に引き出すために今回は簡単な塗装も行う。色見本をもとに16式の迷彩塗装を再現してみる。

今回使用した道具はこの6つ。
・タミヤスプレー TS-70 OD色(陸上自衛隊)
・タミヤスプレー TS-90 茶色(陸上自衛隊)
・タミヤスプレー TS-91 濃緑色(陸上自衛隊)
・Mr.スーパークリアー つや消し
・マスキングテープ
・練り消しゴム

左から、「Mr.スーパークリアー つや消し」、「タミヤスプレー TS-70 OD色(陸上自衛隊)」、「タミヤスプレー TS-90 茶色(陸上自衛隊)」、「タミヤスプレー TS-91 濃緑色(陸上自衛隊)」。

 今回のキットは表面の滑り止め表現など、細かいディテールが多いため塗膜が厚くなるともったいないと感じたのでサーフェイサーは使用しないことにした。

まずは簡単な足回りから塗装開始。パーツを全て取り付けた状態では全体を塗装するのが難しいので、サスペンションは取り外して塗装を行った。色見本の指定通り、車体下部はTS-70 OD色(陸上自衛隊)で塗装。

塗装前
塗装後

 車体下部と足回り以外は迷彩柄にするので、まずは全てTS-90 茶色(陸上自衛隊)で塗装する。塗料が乾いたら練り消しゴムで迷彩の境界線を作り、そこを基準にマスキングテープで塗装したくない箇所を覆っていく。迷彩柄の歪曲部分のボカシ効果と、マスキングを簡単にするために今回は練り消しゴムを使用している。

TS-90 茶色(陸上自衛隊)で塗装したパーツ
各パーツの塗装したくない箇所にマスキングを施す

 マスキングが完了したらTS-91 濃緑色(陸上自衛隊)で塗装。塗料が手に付かない程度まで乾いたらマスキングを剥がしてから完璧に乾燥させる。

TS-91 濃緑色(陸上自衛隊)で塗装したパーツ
マスキングテープを剥がす。失敗なくちゃんと迷彩柄になっていて一安心

 塗料が完全に乾いたら、Mr.スーパークリアー つや消しを表面保護のため塗布する。再び乾いたら、最後にパーツを全て組み上げて完成だ。

車体のパーツを取り付けていく。マスクシールのおかげでクリアパーツが塗装からしっかり守られている
最後に砲塔を車体に取り付けて完成

 塗装は手間もかかり大変ではあるが、難しい作業ではない。塗装することでプラモデルの見栄えが見違えるほど変わるので、是非ともチャレンジしてみてほしい。

1/35 陸上自衛隊 16式機動戦闘車C5 (ウインチ装置付)の見処

 完成した「16式機動戦闘車C5(ウインチ装置付)」を眺めてみるとその完成度の高さが伺える。大型パーツはどれも綺麗にハマっており、砲塔をはじめ、多くのパーツで結合部の合わせ目が隠れる工夫がなされている。

 細かな装備も全てC5仕様に変更されており、キットと解説書でC1からの進化を学ぶことができる。今回のキット16式C5では、2018年に販売された初年度調達仕様の16式C1から以下の箇所に変更が加えられている。

砲塔バスケットの大型化に加え、エアコンとクリーニングロッドケースを新たに設置
砲塔上部にアングル(柵)を増設
塗装によって画像ではわかりにくくなってしまったが、砲と車体上部の全体に滑り止めの追加設置がある
アンテナ損傷防止用ガードの追加
アングル増設に伴い、上方に移動されたGPSアンテナマスト
12.7mm重機関銃M2の薬きょう受けの形状も変化している
16式C5から登場したウインチ装置。ウインチ装置にはプーリーとなるローラーパーツがいくつも使われており、触れると動かすことができる
ウインチ装置付の車体上面にはメンテナンスハッチが設けられており、スコップなどの装備品はそこに設置されている

 「1/35 陸上自衛隊 16式機動戦闘車C5 (ウインチ装置付)」には車長、装填手の半身像、そして車外で警戒にあたる乗員の全身像が含まれている。車長、装填手のフィギュアは16式の砲塔上部にあるハッチを開くことで設置することができる。

【フィギュア】
ハッチは可動式で砲塔内部の乗員設置用のパーツに車長、装填手フィギュアを乗せることができる
キットには車長、装填手と乗員の3つの人形が付属している

最新の16式機動戦闘車C5で学べる16式の歴史と模型作りの楽しさ

【様々な角度から撮影】

 「1/35 陸上自衛隊 16式機動戦闘車C5 (ウインチ装置付)」は細かいところまでしっかりと再現された素晴らしいプラモデルだ。このキットは表面のモールドはもちろん、小物の一つ一つまでもが細かく再現されている。小さいパーツや、折れやすいパーツが多いため、パーツの切り出しからヤスリがけまで、長時間神経を研ぎ澄ます必要はあるが、取り組むごとに情報量が増えていくため、完成後の達成感は別格だ。

 スケールモデルは接着剤やピンバイスなど専用の道具が必要となるため、プラモ初心者には難易度が高く感じてしまうかもしれない。だが、このプラモデルはパーツを合わせるための穴や凹凸の設置方法、説明書や付属品によるアドバイスなど、初心者でも安心して組めるように様々な工夫がされている。リアルさと組みやすさの両方を追求したタミヤの設計のおかげで、筆者も楽しく組むことができた。タミヤのプラモデルの楽しさを体験できる商品となっているので、この機会に是非とも手に取ってみてほしい。