特別企画
【ちょい組み】タミヤのプラモデル「1/12 カワサキ Ninja H2R」を組んでみた
1つ1つの部品に必然性がある、実車への強いリスペクトが生まれるプラモデル
2021年1月20日 00:00
今回から“ちょい組み”という新しいコーナーを始めたい。プラモデル、ブロック、パズル……ホビーでは様々な“組み立てる”ものがある。それなりの技術を要求するものもあったり、手間のかかるものも少なくなく「気にはなるけど挑戦する踏ん切りがつかない」という気になる商品、というのが皆さんにもあるのではないだろうか? “ちょい組み”はそういう今一歩踏み出せない皆さんを応援する企画だ。
筆者にとって、タミヤのプラモデル「1/12 カワサキ Ninja」シリーズはまさに“踏み出せない”商品だった。黒をベースとしたシックなカラーリング、「仮面ライダー」に出てきそうなメカニカルでヒーロー然としたシルエット、何よりプラモデルのメカ描写に心惹かれた。筆者はバイクに関しては知識がないが、このプラモデルは一度作ってみたい、と思っていたのだ。
しかし自身の模型技術がネックとなり躊躇っていた。特に“塗装”はほとんどやったことがないため、このプラモデルをきちんと組み上げる自信がなかったのだ。今回、“ちょい組み”というカテゴリを立ち上げ、無塗装でも良い、難しくて上手く完成させられなくても良いから、とにかくプラモデルを楽しんでみよう。商品の魅力に触れてみようと思い、とにかく組んでみた。“ちょい組み”はレビューのように気負わず、ライターの「挑戦してみたい」という想いを実現する企画だ。
今回挑戦したのは「1/12 カワサキ Ninja H2R」。このプラモデルの最大の魅力は、「まるで本物のバイクを組み立てているような感覚になれること」だ。エンジンを作り、フレームにはめ込み、タイヤを接続していく。ブレーキやクラッチを操作するためのケーブルを接続する。1つ1つの部品に必然性がある。結果とても面白い体験ができた。
“ちょい組み”は今回を皮切りに様々なプロダクトに挑戦していきたい。プラモデルに限らず、工作キット、パズル、ブロック玩具、模型など、ホビーメディアとして様々な楽しさを提案していきたいと考えているのでどうぞお楽しみに。
リアルなディテール、多彩なマテリアル感。組んでいて発見と実感が生まれる
「1/12 カワサキ Ninja H2R」は、3枚の大きなランナーと、メッキを施したランナー、これにクリアパーツやネジ、ビニールパイプなどがある。ネジなどは非常に小さいが、パーツ数そのものはあまり多くない。大きなランナーが3枚とメッキパーツのランナーが1枚のみ。たとえば、ガンプラのHGシリーズはランナーは5枚以上、MGは10枚以上にもなる。もちろん、パーツの細かさも異なるので単純に比較はできないが、「1/12 カワサキ Ninja H2R」の完成写真のメカがぎっしり詰まった印象に比べ、キットのパーツ数は思ったより少ないと感じた。
しかし実際に組み立てていくと、複雑な形をしたパーツを組み上げていくため、パーツの向きや取り付け位置などで最初は勝手がわからず少し苦戦した。そして何と言ってもこのプラモデルは“接着剤”を使う。接着剤を使うプラモデル自体筆者は久しぶりだった。さらに購入した接着剤が初めて使う「流し込みタイプ」だったのが一層戸惑う結果となった。
今回筆者は意識をせずこの流し込みタイプの接着剤を購入してしまったが、通常の粘度のある接着剤と違い流し込みタイプはさらさらの液状で、使い方が異なる。通常のよう接着面に接着剤を塗って部品を貼り合わせても、接着剤がすぐ乾いてしまい貼り付けられないのだ。
流し込みタイプはその名の通りキャップについている刷毛で液を流し込んで接着する。部品をあらかじめ組み合わせておき、その合わせ目に液を流し込むとぴったりとくっつく。コツを掴むとかなり使いやすくなった。接続面もキレイで、タミヤの精密なプラモデルにとても合っていると感じた。場所によっては通常の粘度の高い接着剤の方が使いやすいところもあり、2つ持っていると組みやすいのが実感できた。
そしてプラモデルを組み立てていくことで、この「1/12 カワサキ Ninja H2R」は実車を恐ろしい程まで細かい精度で表現している、ということが実感できた。1つ1つの部品がどうしてここに配置されているのか、どういう働きをしているのかが作ることでわかるのだ。
エンジンはピストンが4つ並んだ「並列4気筒」。この排気がマフラーに繋がる。マフラーは4つのピストンから伸び、1つに統合される。そのエンジンにガソリンと空気を供給するのが「エアチャンバー」。エアチャンバーの下に空気を圧縮するカタツムリの殻のような形の過給器があり、この機関には前方からのエアダクトから直接空気が送り込まれる。エンジンを冷やすための水の放熱を行なう「ウォーターポンプ」と「ラジエター」……。
エンジンの仕組みなどはすべて聞きかじった知識だけだが、それを目の前で「形」として提示され、自分の手でプラモデルを組むことで確認できるというのはとても面白い経験だった。ガソリンや水、排気がどう動き、エンジンを駆動させているかがしっかりわかるのだ。円盤を挟みこむ形で動きを止める「ディスクブレーキ」、エンジンを制御するスロットルや、クラッチ、これらを動作させるための機械とハンドルはケーブルで接続されており、きちんとプラモデルでその経路をたどることができる。
ロボットなどの架空のメカプラモでもエンジンや、関節を動かすためのアクチュエーターなどが設定されている商品があるが、やはり“実車”を再現するこのプラモデルが生み出すリアリティは全く違う。1つ1つの機械の役割が想像できるのである。筆者が組んでいるのはあくまでプラモデルだが、本当に実際のバイクの構造を学べる。この実感こそが最大の魅力だと感じた。
プラモデルにおけるタミヤの技術の高さもやはり組んでみて驚かされるところが多い。まず部品の接続だ。今回のプラモデルのように接着剤を使わずに部品を組み立てられる「スナップフィット」の場合は、モチーフとなるデザインに加え、接続するためのピンと受ける穴をしっかり造形する必要となる。特に大きな部品を固定するためにはその穴は大きくなる。結果として繊細な部品を再現するのに接続用の機構はデザインに干渉してしまう。
一方で「1/12 カワサキ Ninja H2R」はそういった部品の接続のためのピンや凹みは最小限だ。部品自体が余り固定されないため組み立ての難易度は少し高いが、元のデザインへの干渉が少ない。このため小さな部品もリアルに造形できていると感じた。接着剤を前提としているからこその設計が、モチーフ元を精密に再現できている。
成型色を活かしたパーツ分けも効果的だ。内部パーツを黒とシルバー、外装パーツを光沢のある黒の成型色で表現していることで、塗装なしでも組み上げた時しっかり色分けや質感の違いが確認できる。ネジやビニールパイプの効果的な使い方も作っていて感心した部分だ。ブレーキやクラッチなど電子制御を行なうためのケーブルを接続したり、エンジンを本体のフレームに組み込む際はネジを使ったりと、こちらも実車組み立てを思わせるリアルな感触があって楽しい。
ここに水転写デカールを使用することで一層完成度が増すが、今回は挑戦しなかった。デカールはお湯で台紙から剥がしてプラモデルに貼り付けるのだが、できるだけ余白がなくカッターで切り取り、しわがないように貼り付けなくてはいけないので、尻込みしてしまった。
そのためこのバイクの大きなアクセントである緑のラインや、メーター表示などがプラモデルに盛り込むことができなかったが、それでも完成したモデルはかなり満足するものになった。何より各部をチェックして、その細かさ、高い再現度を楽しめるのが良い。実車を目の前にしているかのようなワクワク感も感じられる。
「1/12 カワサキ Ninja H2R」を組み立てることでキットとしての面白さ、プラモデルを作ることの楽しさを実感できたと思う。塗装技術があれば、もっと練習を積んで模型技術を上げればさらにクオリティを高いものが作れるだろう。そういう憧れもあるが、そういった技術がなくても楽しめるプラモデルである、ということを今回確認できたと思う。無塗装でもここまでの完成度が体験できるというのは大きな魅力だ。皆さんも挑戦してみてはいかがだろうか。