特別企画
F1プラスチックモデル設計の第一人者・木谷真人氏が、24年の時を経て手がける「1/20 ロータス33」とは何か?
2021年6月28日 00:00
- 【1/20 ロータス33】
- 今夏発売予定
- 価格:5,500円(税込/予価)
ここから筆者が取り上げるストーリーは、プラスチックモデルの歴史を語る上では絶対に欠かせない人物と、その彼が取り込むひとつのプロジェクトについてだ。
その人物とは、かつてタミヤに在籍し、1/20スケールや1/12スケールのプラスチックモデル製F1マシンの設計&プロデュース等を幅広く手掛け、いま現在は、有限会社エムエムピー(商品ブランド名は“エブロ”)の代表として多数のカーモデルやバイクモデルを設計&プロデュースしている重要なキーパーソン、木谷真人氏。
筆者とは、「オートモデルの設計者&プロデューサーである木谷氏を長年に亘ってリスペクトし続けてきたオートモデルのエディター&ライター」という関係にて、かれこれ35年ほど師弟関係的なお付き合いをさせていただいている仲である。
ちなみに、去る5月13日と14日に静岡ツインメッセで開催された「第59回静岡ホビーショー」にて、エブロは「1/20 Team Lotus Type33 1965 Formula One Champion COVENTRY CLIMAX FWMV(ロータス33)」の今夏リリースを発表した。
これは1965年シーズンのF1を戦ったクラシック系F1モデルであり、木谷氏ならではのクラシック系F1愛に満ち溢れた1台なのだが、ただしこのモデルの本当のすごさは、その熱きバックストーリー内に存在しているのだ。
……そう、あえて意図的に大口を叩くのであれば、「木谷氏の真実を自分以上に解っているエディター&ライターはおそらくいないはず」という自負の下に、以下のテキストを綴らせていただきたく思う。
エブロから1/20 ロータス33の製品化がアナウンスされたその意味
さて。というわけで繰り返しになるが、第59回静岡ホビーショーにて、近年は積極的に1/20 F1マシンのプラスチックモデルを製品化しているエブロから、「1/20 ロータス33」の今夏リリースが発表された(価格は5,500円(税込)を予定)。
同キットは「エブロならでは」という内容を有したこだわりの逸品で、徹底的なまでの実車取材に基づき、“1965年型ロータス33”のベース車両となった“1963年型ロータス25”との差異を厳密に再現。サイド出しに変更されたエキゾーストマニフォールドや、コベントリークライマックスFWMVエンジンの短くなったエアファンネルなど、マニアでなければ気付かないようなポイントをことごとく精密な……いや、見ようによっては精密すぎるパーツにて立体化している。
また、俗に“葉巻型”と称される楕円形の断面形状を有するボディスタイルも、「実車以上に実車らしく造形されている」のが特徴だ。
つまり、一見すると「単なるヒストリック系F1モデル」でしかないのだが、実車写真と照らし合わせつつ細部を眺めていくと、そこに込められた設計者の熱き想いとデザインセンスがほとばしる内容となっており、実車のロータス33のファンからすれば、非の打ちどころがまったく存在しない製品化になったと言えるだろう。その特徴を写真から見ていこう。
そんな「ロータス33」の設計とプロデュースを手掛けたのが、前述したエブロの代表者である木谷真人氏だ。そのオートモデル全般にかける情熱はあまりにも圧倒的で、迂闊に近寄ると火傷するほどの熱量の高さを誇る「オートモデル設計者の第一人者」と称するに相応しい人物と言える。
というのも──木谷氏がエムエムピー(エブロ)を立ち上げたのは1998年だが、1968年~1997年まではタミヤに在籍。当初は金型設計部に配属されていたものの、その後、当初より希望していた設計部へ転属されることになり、1976年11月発売の「1/12 ビッグスケールシリーズ No.18 ポルシェターボRSR(934レーシング)」における一部パーツの設計を担当したのを皮切りに、その後、数々の傑作カーモデルや傑作バイクモデルの設計を手掛け続けていくこととなった。
とくに、「1/20 グランプリコレクションシリーズ」は企画の立ち上げから従事し、シリーズNo.1の「タイレルP34 シックスホイーラー」(1977年4月発売)からNo.44の「ロータス25 コベントリークライマックス」(1997年9月発売)まで、全製品の設計&ディレクションに関与。その結果、「タミヤ製1/20 F1モデル生みの親にして育ての親」たる存在として、当時からF1のプラスチックモデルファンには広くその名が知れ渡っていた存在であった。
なお、「1/20 グランプリコレクションシリーズ No.43のホンダF-1 RA272」(1996年12月発売)と、前述したシリーズNo.44の「ロータス25 コベントリークライマックス」は、「その当時のF1シリーズをリアルタイムで戦っていた現行最新型のF1モデル」ではなく、いわゆる「ヒストリック系F1モデル」と呼ばれる過去の名車たる存在である。
実は、いま現在では、ヒストリック系F1モデルがプラスチックモデル化されるのはごくごく自然な事象……というか、2010年代以降はその立場が完全に逆転してしまい、「現行最新型F1モデルよりもヒストリック系F1モデルのほうが多数製品化されている」という状況にある。
しかし「ロータス25」が商品化された1996年や1997年という時点では「ヒストリック系F1モデルの製品化は絶対に無理(製品化しても売れるわけがない!)」と誰もが見なしており、そこへ到達するためへの敷居は限りなく高かった。
そんな時代に「ホンダRA272」と「ロータス25」がタミヤから製品化されたのは、木谷氏が当時からヒストリック系F1マシンに対し抱いていた熱い愛情の結晶であったと見ることができるだろう。
「ロータス33」は、なぜ「タミヤ製『1/20 ロータス25』とのコラボレーション製品」となったか?
実を言うと、第59回静岡ホビーショーにてエブロから製品化が発表化された「1/20 ロータス33」は、24年前に木谷氏自らが設計を手掛けたタミヤ製「1/20 グランプリコレクションシリーズ No.44 ロータス25 コベントリークライマックス」とのコラボレーション製品なのである。
タミヤから「ロータス25」の一部パーツを供給してもらう形式を取り、「ロータス25」と形状の異なる「ロータス33」専用パーツをエブロが新規設計開発。それらをひとつのパッケージ内に収めたキット構成を取るため、製品自体もエブロとタミヤの両方の名が記されたダブルネーム商品となる。
では、なぜそのような複雑な構造を経ての製品化となったのか?
それを知るためには、まずは実車のロータス25とロータス33のことを必要最小限でも知っておく必要があるだろう。
ロータス25はそれまでのF1マシンで用いられていた鋼管スペースフレームに代わり、アルミボディを箱型に成型したモノコック構造シャシーを初採用した画期的なフォーミュラカーだ(このモノコック構造は形成素材こそ異なれど現行最新型F1マシンでも採用されているため、ロータス25は「現代F1マシンの礎」と言うことができる)。1963年のF1シリーズでは、名手ジム・クラークのドライブにより10戦中7勝を記録。ドライバーズチャンピオンとコンストラクターズチャンピオンの2冠をロータスにもたらした、名車中の名車である。
対してロータス33はそのロータス25をベースにした改良発展型マシンとして、1.5リッター時代最終シーズンの1965年に投入されたマシンだ(ちなみにホンダがF1で初勝利を記録した、RA272と同じシーズンを戦ったマシンということになる)。エースドライバーのジム・クラークは10戦中6勝を記録し、この年もロータスはドライバーズチャンピオンとコンストラクターズチャンピオンの二冠を獲得。ヒストリック系F1マシンを愛する人にとってのロータス33は、ロータス25と同等に重要な意味を占める1台だと言えるはずだ。
なお、タミヤ時代に1963年型ロータス25を設計した木谷氏からすれば、その改良発展型たる1965年型ロータス33も設計し製品化したい……という想いがタミヤ在籍時に存在していたことは想像に難くない。
その証拠に、木谷氏がまだタミヤに在籍していた1997年9月=「1/20 ロータス25」のリリース時に、模型雑誌の編集者として木谷氏の担当編集的な立場にあった自分は、タミヤ製ロータス25の取材で木谷氏から非常に興味深い話を伝え聞くことになる。
「……実はこの『ロータス25』、一般的な人にはもしかしたら気付けないような、少々特別な設計を盛り込んで仕上げたんですよ。このキットのパーツを部分的に流用すれば、1965年型のロータス33に進化させることができるんです。まあ、それがいつの日になるかはわかりませんが、必ずロータス33へと進化させることを最初からイメージして設計しましたからね」
その時の木谷氏からすれば、件のタミヤ製「1/20 ロータス25」をロータス33へ進化させリリースするという保証はどこにも存在していなかった。それでも同氏は、タミヤ社内の誰に相談するでもなく、ロータス25をロータス33へと進化させリリースする未来予想図を描いていたというわけだ。
考えようによってはある種のエゴイズムかもしれないが、これこそが名オートモデル設計者としての“木谷イズム”と言うこともできるはずだ。
そしてタミヤ製「1/20 ロータス25」のリリースから24年の時を経て、エブロとタミヤのコラボレーションというかたちにて、かつて木谷氏が思い描いた「1/20 ロータス25 → ロータス33進化発展計画」がついに実行へ移されることとなった。
繰り返しになるが、一見すると「単なるヒストリック系F1モデル」でしかないエブロ×タミヤのダブルネーム製品たる「1/20 ロータス33」には、このような「24年という長大な年月を経た、あまりにも濃厚すぎるドラマが内包されていた」のである。
なお、第59回静岡ホビーショーのエブロブースには新製品たる1/20 ロータス33の完成見本と、タミヤから借用したタミヤ製1/20 ロータス25の完成見本が併せて展示されていたものの、ここまで記してきたような濃厚すぎるバックストーリーは、パネル展示などの活字表示による手段を用いて一切発表されていなかった。
その結果、「……なぜエブロブースにタミヤ製『1/20 ロータス25』の完成見本が?」という感じで、タミヤ製「1/20 ロータス25」の存在を訝しげに見ていた人のほうが多かったようにすら感じるのだ。
このバックストーリーの詳細は“後編”で掘り下げていきたい。続く後編では、タミヤ×エブロのコラボレーションにおける真実と、“木谷真人”がどのような“情念”を「ロータス33」に込めたか、より一層深いところまで踏み込んで行こうと思う。