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「トイガンでは実弾は発射できない」 安倍元首相銃撃事件でクローズアップされた自作銃とトイガンの違い

 去る7月8日、安倍晋三元首相が奈良市で銃撃され、死亡するという大変痛ましい事件が起きた。使用されたのは自作銃で、どのような製法による銃なのかは今後の捜査を待つ必要があるが、“自作の銃”が使われたことで「トイガン業界に更なる規制があるのではないか?」という不安がトイガンファンの間に少なからずある。しかし、その不安は杞憂である。今回の事件とトイガンは全く関係ないからだ。

 トイガンは銃という武器の模型である。見た目が本物の銃にそっくりであるため、このような事件が起きると、「自作銃はトイガンを改造したもの」という誤解が生じやすい。しかし、トイガン業界の歴史は、その誤解を払拭してきた歴史といっても過言ではないほど、実銃と明確な差別化がはかられている。本稿では世間の誤解を払拭するため、モデルガン、エアソフトガンの安全対策について紹介しておきたい。

規制を守り、銃の魅力を追求し進化し続けるトイガン

 トイガンファンならご存じの通り、トイガンは過去に何度も規制を受けている。1971年、1977年の銃刀法改正でモデルガンの材質や構造が規定され、金属製のモデルガンは金色、もしくは白色のみと決まり、銃外装の材質や内部の構造も細かく規定された。さらに2006年にはエアソフトガンの弾速が規制された。

【実銃との違いを強調する】
マルシン工業の金属製モデルガン「LUGER P-08」。現在の金属製モデルガンは一目で実銃と違うことがわかるように、金色か白色で塗装されていなければならない
タナカのモデルガン「M29 6.5インチ “ダーティハリーモデル”」。赤丸をつけた銃口にインサート(仕切り)がある。モデルガンはこの仕切りをつけることが義務づけられている

 今年警視庁ホームページでは「所持できないエアーソフトガンとは?」というページが追加された。ここに載っているのは実際に過去に販売されたが、"実弾が使用できる可能性がある"という判定を受け販売禁止、回収が決められたものである。知らずに持っている人への注意喚起という意味合いが強いが、トイガンはそれだけ厳しく注視されており、だからこそメーカーは細心の注意を払って製品を作っている。

警視庁の注意喚起のページ。もちろんこれらの商品は現在販売されていないし、所持も法律違反である。見つけた場合はすぐに警察に届けよう

 現在は、規制を守ったトイガンのみが市場に流通しており、ユーザーは安心して購入、遊ぶことができる。サバイバルゲームでは、スタート時に弾速を測定することで安全で間口の広いが運営されることとなり、スポーツとしてより多くのユーザー人口を獲得することとなった。現在のトイガンは、安全に楽しめる遊戯銃であり、各社が向上した技術で様々な製品を販売している。

 ここからはモデルガン、エアソフトガンそれぞれにおいて実銃との違いを解説していく。

 「モデルガン」はその名からも分かるとおり、弾の発射機構のない、外観を実銃に近づけた“銃の模型”である。カートリッジにキャップ火薬を詰めることでまるで実銃を撃つかのような音と煙を楽しめる。弾は発射できないように、銃口にインサート(仕切り)が設置されてるほか、材質も実銃とは全く異なる。実銃は鉄など強度のある金属で作られているが、トイガンはプラスチック、もしくは亜鉛ダイキャストといった合金など、強度的に実弾の発射の衝撃に耐えられない素材しか使用できない。

 面白いのは金属製のモデルガンの規制が入った後に、トイガン向けに「ヘビイウェイト樹脂」という、金属粉を練り込んだ材質が開発されたこと。金属粉のおかげで通常の樹脂より重くなり、これにより実銃に近い重量感が味わえる。

 しかし、繰り返すが、あくまで“金属粉を練り込んだ樹脂”なので、強度的には実銃とは比べものにならないほど弱いままだ。金型への負担も大きいため大量生産には向かない。実銃とは距離をおきつつ、実銃の重量感を楽しめるアイテムなのだ。

 ちなみにヘビイウェイト樹脂はヤスリで研磨することで金属部分を多く露出させ、薬液を使うことで実銃のさび止めなどに使われる「ブルーイング」という加工も可能で、モデルガンやガスガンに使用されている。

【モデルガン】
タナカのモデルガン「GLOCK 17 3rd HW “Evolution2改”」。カートリッジに火薬を詰めることで射撃したときの雰囲気を味わえるモデルガン。ヘビイウェイト樹脂を使用しているのでずしりと重い。実弾のようなカートリッジだが、インサートがある上、材質自体も実弾の発射はできない

 「エアソフトガン」は、様々な方法で空気を圧縮しその力で弾を飛ばすトイガンである。“弾が出る”というところがモデルガンとの最大の違いだ。こちらは2006年の銃刀法の改正により初速の制限がしっかりと規定された。ちなみに「エアソフトガン」という呼称は、猟銃などで使用される殺傷能力のある「空気銃(エアガン)」との差別化のためである。

 エアソフトガンはバネの力でピストンを動かし空気を圧縮する「エアーコッキングガン」、ガスをボンベに充填しガス圧で弾を飛ばす「ガスガン」、バッテリー駆動でモーターを動かし弾を発射する「電動ガン」など様々な種類がある。こちらはそれぞれ弾を出す機構があるため、実銃とは内部機構が大きく異なる。モデルガンと同様に材質も実弾の発射に耐えられるような強度のあるものは使用できない。

 さらにエアソフトガンでは、銃を発射したときにスライドを動かす「ブローバック」や、分解・メンテナンスを行なう「テイクダウン」なども再現し、“銃の模型”という魅力を最大限に追求しているが、そのギミックの実現のために本体スペースの大半を割いている。

 たとえば、ガスガンはガスボンベが必要で、さらにガスを噴出させる機構のために、実銃の実弾を入れるスペースを丸々割いている。ある意味で、実銃より構造が複雑な部分あるが、いずれにしてもエアソフトガンには実弾が入らない構造になっていることは理解できるだろう。

【エアソフトガン】
東京マルイのガスブローバックガン「V10 ウルトラコンパクト ブラック」。マガジンのボンベによるガスを噴出させて弾の発射とブローバックを行う。モデルガン同様内部も実銃の雰囲気を追求しているが、発射機構が大きく異なる上、材質的にも実弾の衝撃に耐えられない。実弾を入れるにもそもそも全く入らない

 今回の犯罪で使用された銃は、現時点での報道を見る限り、鉄パイプに弾と火薬を詰め、電気式の発火で火薬を爆発させ弾を発射させるという、16世紀の火縄銃のような極めて原始的なもので、トイガンとはかけ離れた「弾を発射するための機械」である。

 本題から外れるため詳述は避けるが、東京マルイをはじめとした多くのトイガンメーカーは各協会で更なる自主規制を規定し、安全性において常に考え、啓蒙も行なっているということも触れておきたい。

 法律による規制に加えて、メーカー自身と協会の自主規制で幾重にも安全を考慮して制作されるトイガンは、「実弾発射能力」の上では全く適さない代物だ。もし"火薬で弾を発射したい"などという危険な考えを持つ人がいるとしたら、トイガンを改造するのは全く実用的ではない。だからこそ今回の犯人は鉄パイプを使ったのであろう。

 もし知識のない人から「今回の事件とトイガンは関係があるのではないか?」といった誤解をされたときは、「トイガンと今回の事件は全く関係がない」ということをきちんと主張したいところだ。トイガンは“文化としての銃”の魅力や存在の意味、歴史などを考えるツールであり、的当てやサバイバルゲームが楽しめる楽しい玩具なのだ。