特別企画

ポケカは投機の対象にあらず! ポケカの高騰問題と本当の魅力について考える

 株式会社ポケモンの「ポケモンカードゲーム」(以下ポケカ)は、本格的トレーディングカードゲーム(以下、TCG)として日本で最初に登場した製品であり、26年以上の歴史を誇る。しかし、そのポケカがここ数年、以前とは違った角度から注目が集まっているのだ。それがカードの高騰および転売だ。

 NHKが2023年2月23日に放送した「クローズアップ現代」でもトレカ(主にポケカ)の急騰について取り上げられていたが、番組ではトレカの高騰ばかりにフォーカスが当たっており、TCGユーザーのひとりとして、純粋にポケカをゲームとして楽しんでいる人への配慮が欠けているように感じられた。そこで、現在のポケカを取り巻く環境について、筆者なりに考えていきたい。

【クローズアップ現代 札束飛び交う秋葉原 !? “トレカ”熱狂の正体】

まず知っておきたい「いまポケカで何が起こっているのか」

 まず、ポケカの現状をおさらいしておきたい。ポケカは、ポケモンが発売しているTCGであり、現在のパックの希望小売価格は、通常の拡張パックが1パック(5枚入り)180円、強化拡張パックが1パック(6枚入)260円、ハイクラスパックが1パック(11枚入り)550円である(特殊なパックは他の値段のものもある)。

 この値段だけを見るとごく普通のTCGだが、こうしたパックから、シングル価格(TCGショップでカードを1枚ずつバラで購入するときの価格)で1枚数万円にもなるカードがまれに出てくる。さらに、希少な昔のカードでは、シングル価格が1枚数十万円から数百万円になるものもある。過去の高額カードは、年々値段が上がっていく傾向にある。さらに、新弾を求める人が増えて品薄になり、プレミア価格がつくようになってきたため、株などと同じように、投機目的でポケカのカードを購入したり、買った新弾を少し寝かせて、他人により高い値段で転売したりする人が増えてくるという、他のTCGではあまり見られない現象が起きているのだ。

 ポケカが高騰したり、品薄になっていたりする事情を理解するには、まず、TCG特有の「パラレル」や「絵違い」といった概念を知る必要がある。TCGプレイヤーなら当たり前の知識だが、そうでなければ知らない人も多いだろう。

 TCGには、同じ名称と効果を持つカードながら、絵や加工が違う複数のバージョンのカードが存在することが多い。それらを一般に「パラレル」や「絵違い」などと呼ぶ。例えば、ポケカの拡張パック「バイオレットex」には、「ミライドンex」というポケモンのカードが収録されているのだが、「ミライドンex」には、絵柄や色、枠などの加工が異なるカードが4種類も存在する。ポケカではカードの左下に数字や英字が書かれているが、その末尾の英字がレアリティを表している。ポケカはレアリティの種類が非常に多いことも特徴で、通常レアリティだけでも「UR」、「HR」、「SR」、「RRR」、「RR」、「R」、「UC」、「C」(なお、「HR」は「スカーレット&バイオレット」からは廃止)の8種類があり、さらに特殊レアリティやミラーカードが存在する。特殊レアリティは、「SAR」、「AR」、「CSR」、「CHR」、「S」、「SSR」、「A」、「K」、「TR」があるが、全ての特殊レアリティが同じ拡張パックから出るわけではなく、拡張パックによって排出可能性があるレアリティは異なる。

「ミライドンex」のバリエーション。左から「RR」、「SR」、「UR」、「SAR」(撮影協力:晴れる屋2)

 「ミライドンex」の場合、「SAR」、「UR」、「SR」、「RR」の4種類のレアリティのカードが存在する。絵柄も何種類かあるが、カード名やカードに書かれている能力は全て一緒であり、レアリティの違いはプレイには影響しない。カードの出やすさは、この4種類でかなり異なり、「バイオレットex」の場合、SARは5箱に1枚、URは10箱に1枚、SRは1.3箱に1枚、RRは1箱に4~5枚の割合で封入されている(1箱は30パック)。

 もちろん、SARやURなども1種類ではないので、「ミライドンex」以外のSARやURが出る可能性もある。そう考えると、SARやURはかなり多くのパックを剥かないと出てこないことが理解できると思う。ここで例としてあげた「ミライドンex」の2023年3月上旬時点のシングル価格は、SARが26,000~28,000円前後、URが6,000~7,000円前後、SRが2,400円前後、RRが600円前後である。ショップのシングル買い取り価格は概ね、販売価格の6~7割程度なので、「バイオレットex」を1箱買ってもしSARの「ミライドンex」が出れば、1箱5,400円として計算すると、ショップに売れば1万5,000円程度儲かることになる。実際は、前述したとおり、SARは5箱に1枚程度しか出ないので、そう甘くはないが、そうしたワンチャンを期待して、箱を買ってパックを剥く人も増えているのだ。いわば宝くじ感覚だ。ただ、プレイするだけなら、一番安いRRを使えばいいのだ。

「ミライドンex」のSARは、1枚26,000~28,000円程度で売られている

ポケカが高騰を始めたのは6年前

 では、なぜポケカがこのように高騰し、品薄になっているのだろうか。今回は、秋葉原のポケカ専門店「晴れる屋2」の渡辺翔店長にいくつか質問をしてみた。

 こうしたポケカの高騰が始まったのはいつ頃で、その理由は何なのだろうか。渡辺氏によると、今のような高騰が始まったのは約6年前だという。それ以前は、ポケカのプレイヤー以外がポケカを買うことはほとんどなく、TCGショップの店頭にポケカのパックを置いていてもなかなかなくらなかったくらいの状況だったが、ここ5、6年でその状況は一変した。

 ポケカが爆発的な人気を得た理由は複合的なものだ。2016年7月6日に「ポケモン GO」がリリースされ、2016年11月18日に「ポケットモンスター サン」と「ポケットモンスター ムーン」が発売されたことで、ポケモンに関心を持つ層が広がり、ポケカプレイヤーも増えた。さらに2018年7月に550円でポケカを始めることができる「GXスタートデッキ」が発売され、ほぼ同時期に大人気YouTuberのはじめ社長が「ポケカに最近はまりすぎている」とコメントしたことや、広瀬すずがポケカのCMにでるようになったことで、プレイヤー人口が一気に数倍に増えた。

 ポケカは、3年ごとにサブタイトルが変わり、使えるカードが入れ替わるが、ポケカが爆発的にブレイクしたのが、「サン&ムーン」の2年目の2018年である。その時にポケカが品薄になり、なかなか買えなくなった。そこでポケモンは生産体制を増強し、品薄状況も改善された。

取材に協力していただいた晴れる屋2の渡辺翔店長

コロナ禍によりプレイヤーからコレクターに需要がシフト

 しかし、「サン&ムーン」の次の世代の「ソード&シールド」が始まったタイミングで、コロナが広がった。それまではポケカをプレイするユーザーが増えて、パックの売れ行きも向上していた。プレイヤーが自分のデッキの切り札を絵違いのカードにするために、買っていたのだが、コロナ禍によってポケカを対戦できる場所がなくなり、ポケモンが好きだった人が、好きなポケモンのカードを持っておきたい、集めたいというコレクション目的の人が出始めた。それが2020年、「ソード&シールド」の1年目で、それが1年くらい続いた。当時はポケカだけでなく、「マジック:ザ・ギャザリング」や「遊戯王」も観賞用、コレクション用としての需要が増加し、こちらも希少なカードを中心に価格が高騰していった。

 その段階で、TCGに対する世の中の需要が“プレイヤー”から“コレクター”に移り変わった。さらにそこから1年経過して、2021年の9月頃に、そろそろ外で対戦しても大丈夫だろうという空気感になった。ここまでの経過をまとめると、まずプレイヤー需要の増加が1回あり、その後コレクター需要が増加して、プレイヤーとコレクター両方がいる状態が、2021年9月からずっと1年半くらい続いている。それだけポケカを買う人が増えると、その増えた人の中に、高くてもこれぐらいの金額なら買ってもいいという人が、0.1%でも存在すれば、その人達がこの金額で高額カードを購入したという履歴が残る。それなら、僕もこの値段で出してみようと、そしてそれがまた売れると、それが値段として正しいものになる。そうして高額カードの値段が上がっていったのだ。

秋葉原のポケカ専門店「晴れる屋2」。ポケカの人気が高まったことを受け、2021年7月7日にオープンした

ポケカのプレイヤー人口は今が一番多くなっている

 こうした経緯を経て、ポケカが今の状況になっているわけだが、コレクターが増えただけでなく、プレイヤーも確実に増えている。2023年2月25日と2月26日に、愛知県で「チャンピオンズリーグ2023」という大規模大会が開催された。チャンピオンズリーグ2023の定員は2日間の合計で4,350人で、参加希望者が定員を超えると抽選になるが、今年はTwitterで「抽選で落ちて参加できなかった」という書き込みが数多く見られた。しかし、2世代前の「サン&ムーン」の時代にはそうしたことはなかったと渡辺氏は説明してくれた。

2023年2月25日と26日に開催された「チャンピオンズリーグ2023 愛知」の会場内の様子
「チャンピオンズリーグ2023 愛知」の注目卓の様子は生配信された

 現在、ポケカのプレイヤー人口は史上最高に増えているのだ。もちろん、チャンピオンズリーグに参加しようとするプレイヤーはかなり競技に振ったプレイヤーであり、カジュアルに友達や家族と遊んでいるプレイヤーはさらに多い。ポケカプレイヤーの数は、今がピークというのではなく、今なお伸びており、新たに「スカーレット&バイオレット」がスタートしたことで、初めての人が参入しやすいタイミングだと渡辺氏は説明した。「今が一番カードプールが少ないタイミングなので、昔のカードを集めなくて済むんです」

 渡辺氏は、テレビや雑誌などの報道で、ポケカの高騰ばかりがフォーカスされた結果、ポケカで遊ぶには何万円ものお金がかかると誤解する人が増えたことを懸念している。「実はポケカは他のTCGと比べても、遊ぶのにお金がかからないTCGなんです。TCGとしてのポケカに興味があって、やる相手がいるのなら、一番始めやすいTCGだといえます。それもユーザーが増えている理由の一つだと思います。なぜ始めやすいかというと、レアリティの高い『パラレルカード』目当てで、多くのパックが剥かれるため、プレイ用のカードが多く出回るので安く買えるんですよ。一番強いと思われるカードでも数百円、せいぜい1,000円もあれば買えるのですが、他のTCGだとそうはいかないです。また、ポケカは1年に1度、直近の1年で活躍したカードを再録した特別なパックが出るんですよ。去年の12月にハイクラスパック『VSTARユニバース』が出ましたが、それがそのパックで、このパックに強いカードが再録されることで、それまで1,000円していたカードが100円になったりする。だから、ちょっと手が出なかった人も1年待てば、とても安い金額でゲームが始められるんです」

「晴れる屋2」の店内。このようにシングルカードがショーケースに入れられ販売されている

ポケカの魅力は最初からルールの8割が分かっていること

 渡辺氏によると、ポケカの魅力の一つは、ゲームを遊ぶ前から8割はルールが分かっていることだという。「日本人なら、ポケモンはかわいい謎の生き物で、ポケモンって、ポケモン同士が技を使って相手にダメージを与えるゲームなんだってことを知らない人ってあまりいないと思います。アニメでもずっと戦ってますし、ゲームでも何かと戦いますので。ではそれをどうやってカードで再現しているのかという2割を教えれば、プレイできると思ってるんです。ポケモンは世界観をみんなが知っているので、遊び始めるまでのハードルが低いんです」

 また、子どもの頃ゲームボーイなどのポケモンで遊んだ世代が、昔を懐かしく思って、好きなポケモンのカードを集めてコレクションするという楽しみ方もある。TCGはもともとそうしたコレクション要素が多分にあり、他のTCGでもコレクションを主目的とするユーザーは少なからず存在する。

ポケカはゲームのポケモンバトルをベースにしているため、基本的に1体ずつしかバトル場に登場しないので子どもにも分かりやすい

確実に入手する方法はない? 今後もこの状況が続くのか?

 ポケカの新弾の需給バランスは、前述したとおり数年前いったん改善されたものの、再び品薄になり、あらかじめ予約者を募り抽選販売をするところや小学生限定枠を設けるところも増えてきている。ポケカ人気を印象づけるために、メーカーが生産量を絞っているのではないかと疑っている人もいるようだが、実際はそんなことはなく、メーカーも工場フル稼働で生産量を増やしている。

 株式会社ポケモンのWebサイト内に「数字でみるポケモン」というコンテンツがあるが、それによると2021年度時点でのポケカの累計製造枚数は432億枚以上とされている。2020年度の累計製造枚数は341億枚以上であり、2021年度の1年間で91億枚も生産したことになる。明らかに生産数が大きく増えていることがわかる。2022年度はさらに生産数を増やしていると予想される。つまり、メーカーは需給バランスを改善しようと必死で生産を続けているのだ。

 メーカーがポケカを精一杯増産していても、需要がそれを上回っているというのが現状だ。ポケカの新弾を確実に入手する方法はないのだろうか? 渡辺氏は残念ながらそんな方法はないという。「ポケカはみんな欲しいという気持ちが高まりすぎて、1人何箱あってもいいという感じです。だから予約という形をとっても、すぐにその情報が広がって予約分が完売してしまう。1店舗に来る量って配分が決まっていて、要求しただけ入るわけではありません」。ユーザーができることは、ポケモンセンターやWonderGooなど、抽選販売を行っている店舗に片っ端から申し込むくらいであろう。

【ポケカ拡張パック「トリプレットビート」】
ポケカ拡張パック「トリプレットビート」の予約販売の様子。店内には長い長い行列ができる
店舗では未開封転売を避ける工夫も行われているが、人気自体が高い状況

 こうした状況は今後もしばらく続くのだろうか? 新弾の未開封箱にプレミア価格がつくというのは、やはり異常な状況ではないのだろうか。この筆者の疑問について、渡辺氏は、次のように答えた。「売ることを目的とする人がメインになって、売りたい人のほうが多くなると、当然価格は下がりますが、ポケカはゲームをプレイしたい人、コレクションとして1枚でいいからカッコイイカードを持っておきたい人がいます。それで、ごく一部に大量に集めて、マネーゲームを楽しんでいる人がいるわけです。で、そのプレイヤーの人もレアリティの高いカードが欲しくないわけじゃないんですよ。だから、そこに需要が存在している限り、変な下がり方はしないと思います。もちろん、下がる可能性はあると思います。例えば、100が60や70になる可能性はあると思いますが、暴落するとしたらカードの換金先が潰れたときですね。要するにカードショップが一斉に買い取りをしなくなるとか、フリマアプリでの売買が禁止されたりとか。そうなると、売買を目的にしている人は手を引く可能性がありますが、コレクションとして欲しい人は、ここまでユーザーが増えた人気コンテンツなので、下がりきることはないと思います」

高額買い取り中のカード。買い取り価格が数万円のものもある

 TCGは、対戦相手が必要なアナログゲームであり、プレイヤーが増えるに越したことはない。しかし、プレイヤーだけが増えすぎると、定員オーバーで大会に出られないとか、カードが手に入らないという状態になるが、コレクション需要とプレイ需要が両方あれば、それが両輪となってうまく走り続けることができる。今のポケカは、そうした状況なのだ。コレクター需要が高まったためプレイ用のカードが流れやすくなり、価格が下がっている。他のTCGでは、よく使われる環境カードが1枚6,000円するといったことは珍しくないが、ポケカなら数百円、高くても1,000円で済む。渡辺氏も最後に次のように語っていた。「ポケカは2,000円の構築済みデッキに、50円や100円で売られているカードを20枚くらいいい感じに入れるだけで、ほどほどにゲームはできるんです。という事実を、カードが高騰しているという話だけきいて、誤解されている現状はとても寂しいですね」

 これまでTCGをプレイしたことがない人にも、ルールがシンプルなポケカはおすすめだ。この記事を読んでポケカに興味をもったのなら、ポケカをはじめてみてはいかがだろうか。