インタビュー

史上最高の昆虫フィギュアついに完成! 「REVO GEO オオスズメバチ」インタビュー

脚の細さ、腹部の塗装、顔の凶悪さ……これこそが海洋堂のネイチャーフィギュア

【REVO GEO オオスズメバチ】

8月28日発売予定

価格:8,800円(税込)

 海洋堂より、8月28日に発売される予定の「REVO GEO オオスズメバチ」。「ついに自然が動き出す」をコンセプトに、同社の代名詞とも言える生物系フィギュアにリボルテックの機能を持たせた可動生物フィギュアシリーズ「REVO GEO」の第3弾となる作品だ。

 リリースに先駆けて、本作の開発メンバーのひとりである小澤正氏にインタビューを実施した。普段はガチャやタケヤシリーズ、キャラクタークラシックスのウルトラマンシリーズ開発を行なっているという小澤氏。この「REVO GEO」では企画を担当しており、どちらかというと裏方的な役割だという。

 海洋堂は動物や昆虫、恐竜などのハイクオリティなフィギュアを作り出し、高い評価を得ているメーカーだ。チョコエッグのフィギュアで驚くべき完成度とリアルな造形でファンを多く獲得し、動物フィギュアは海洋堂のフィギュアの大きな特色となっている。その特色こそ、造形作家の松村しのぶ氏が海洋堂にいるからである。

 松村しのぶ氏こそ、海洋堂の生物フィギュアに特別な価値を与えてくれる。「REVO GEO オオスズメバチ」でもその"松村イズム"は活きているという。そしてそのこだわりを活かすために開発側がいかに関節やギミックに注力しているか聞くことができた。ある意味「海洋堂」の一面を取材できたインタビューだと思う。ぜひ読んで欲しい。

「REVO GEO オオスズメバチ」開発メンバーの小澤正氏

【REVO GEO オオスズメバチ SNS公開ショート動画】

新ジョイントの開発に2年の歳月を掛けた「REVO GEO オオスズメバチ」

 この「REVO GEO オオスズメバチ」は、他のシリーズ作品と合わせて2年ほど前から「ワンフェス」などのイベントで展示が行なわれていたということもあり、すでにその存在を知っている人も多いことだろう。実は、そこで飾られていたものは開発中の光造形プリンターから打ち出したままの状態で、可動も仕込まれていないものだった。当初リリースは2019年秋とアナウンスされていたのだが、発売がさらに1年延びた原因が、実はこの可動部分の課題を解決するためだったのだ。

 小澤氏は、「最初に発売されたダイオウサソリやアカテガニは、脚は動きませんでした。動かすこともできたのですが、従来までのジョイントでは保持することができなかったんです。そのため、今回のオオスズメバチでは脚が動かせるようにジョイントを一新しています」と、当時を振り返る。

 単に脚を動かすだけならば、単純にジョイントを仕込むだけですむ話しだ。だが、それではユーザーが動かしたときに、ふにゃふにゃした感じになり気持ち悪く感じてしまう。また、今後のシリーズのためにも、どうしても高透明なジョイントにする必要があった。結果的に10数回もテイクを繰り返し、約2年の歳月を掛けて完成したのが「GEOジョイント」である。

 この「GEOジョイント」は、高透明でありながら脚を動かすとギュ、ギュっと音がするほどのグリップ感がある。通常、こうしたものを開発するときは構造を変えるものだが、材質が本来持っている摩擦力を利用することで調整が行なわれている。その組み合わせを探るのに、多くの時間が掛かったのだ。今回の「REVO GEO オオスズメバチ」は、"透明度"に関しては必要とされていないが、この要素は今後に活用されていくという。

特に脚の細さと可動に苦労があったという

 第1弾の「ダイオウサソリ」と第2弾の「アカテガニ」をリリースしたときに、ユーザーの声から上がってくる声がおもちゃとして遊ぶ人と鑑賞用として購入する人の両極端にわかれた。前者の意見も取り入れようということで、今回の「REVO GEO オオスズメバチ」では脚を動かせるようにしている。

 ちなみに同社には“ガチの昆虫勢”がいるそうだが、いわゆるそうしたガチ勢は脚が動かない方がいいという。理由は、そのほうががっちりして飾ることができるからだ。そうしたガチ勢の意見も意識して、脚の部分に関しては可動ジョイントとは別に無可動の4mmジョイントが6個付属している。

この脚に関しては、「GEOジョイント」などの可動部分以外にもこだわりがある。スズメバチの脚には尖っている部分があるが、これをABS樹脂で作るとケガや折れ、破損の元になる。そこで、やむを得ずPVC(ポリ塩化ビニル)が採用されている。当然のことながら、PVCでは日の当たる場所に置いておくとふにゃふにゃな状態になってしまうため、それを軽減するためにショートサイズのGEOアームも新たに開発して長く保持できるようにしている。

 スズメバチといえば、飛行形態も重要なポーズのひとつだ。この姿勢を実現するには、従来のアームでは細くて曲がってしまう。そこで、こちらも新たに作り直しているのだ。この「GEOジョイント」や台座は、今後発売される「ギラファノコギリクワガタ」でも採用される予定だ。

 そして、この「GEOジョイント」に時間を掛けた理由は今後の展開を見据えてのものだと小澤氏は語った。昆虫の自然な関節を表現する、細く透明度のある関節。これができたからこそ、この後の昆虫フィギュアの表現が可能となる。「REVO GEO オオスズメバチ」によって得られた技術的マイルストンは、今後の昆虫フィギュアへの大きな一歩なのだ。このスズメバチが完成することで、さらなる発展へと繋がるのである。

 どうしてここまで海洋堂は生物の描写にこだわるのか? それは海洋堂の代表的な造形作家の1人である松村しのぶ氏の存在がある。松村しのぶ氏は元々はイラストレーターであったが、海洋堂に自ら恐竜フィギュアの原型を持ち込み造形作家となる。1990年代に恐竜フィギュア、さらにチョコエッグの中にリアルな生物フィギュアを入れることで食玩ブーム、そして生物フィギュアの大きな流れを作った。

 その深い生物学への知識と思い入れを活かした造形は海洋堂の生物フィギュアを牽引し続けている。その生物への視点を怪獣や、エヴァンゲリオン初号機と言ったモチーフにも活かし、ファンを獲得している。彼がいるからこそ海洋堂の生物フィギュアは他社では真似できない躍動感、生き物としての魅力があるのだ。

こちらがパッケージに含まれているもの。GEOアーム(ショート)と4mmジョイント(無可動)も6個付属している

メカニカルなギミックで毒針も出し入れ可能に

 リアルさにこだわった「REVO GEO オオスズメバチ」だが、最大の武器である毒針は腹部の先端を一度展開してから出すという、メカニカルでおもちゃ的な仕組みが採用されている。この部分に関して小澤氏は、「最初は付け替えにするか悩みましたが、それではかえって興ざめしてしまいます。そのときに、こんなシステムがあるよと聞いて採用することにしました」と語る。

 この腹部の先端部分には、磁石が2枚ずつ仕込まれているのだがこれは造形総指揮の松村しのぶ氏の監修によるもの。針を出すギミックを遊んでいるうちにポロッとめくれてしまうところを松村氏から指摘され、磁石が採用されている。また、腹部の1節目と2節目に関しては、可動するとふにゃふにゃな状態になってしまうため、あえて動かないようにしている。しかし、3節目以降は可動するようになっており、あの独特な攻撃ポーズも再現できるようになっているのだ。

恐ろしい針を突き出す姿。スズメバチを象徴するポーズだ

 造形に関しては、見た目的にもすごさを感じるのが翅の部分だ。スズメバチの翅は、折りたたまれているときは三枚重ねになっている。だが、開いたときはトンボとは異なり翅は繋がったままの状態になっている。それを再現するために、開いたときはしっかりロックされるようになっているのだ。

 生物学的にもしっかりと再現されている部分が多く、たとえば今回のオオスズメバチは雌だが、雄と雌では節の数が異なる。口の中もしっかりと再現しており、口元を動かしても破綻しない。もちろん、触覚も動かすことが可能だ。目はクリアパーツが採用されているが、こちらはなんと2重構造になっているというこだわりっぷりである。

小澤氏曰く、「ダークヒーローのような顔」。目はクリアパーツで造形されており、非常にカッコイイ。開発もかなり力を込めていたことがわかる

 ギミックや造形に加えて、高価なフィギュアだけに、塗装もかなり細かい。成形色は一切使われておらず、全塗装で仕上げられている。胸部の黒い部分は、一見するとわかりにくいがメタリックで塗装されている。腹部も黒と黄色で綺麗に塗り分けされているが、マスク型がしっかりしているため大量生産に入っても大丈夫なようにクォリティが担保されているそうだ。ちなみに、すでにSNSなどで動画や静止画が出回っているが、例えば翅は透明度が上がるなど製品版ではさらなるクォリティアップが図られる予定だ。

 しかし、ここまでやってしまうと問題となるのがコストだ。金型も相当使っているということもあり、社内では1万円超えてしまうと言われていた。実はこの「REVO GEO」シリーズは、他社メーカーが聞くと驚くレベルで生産数が少ないという。再販もしないつもりで、ここで是非購入してもらいたい。この機会を逃して欲しくない。という気持ちでスタートしている。幸いなことに8,800円(税込)という値段に抑えることができたのだが、その価格以上の価値が製品に込められているのだ。

各部をチェックするほど、その作り込みに驚かされる

“ハチ”にこだわり値段も発売日も決定!?

 海洋堂のオンラインストアでは、単品だけではなくオンライン限定パックとしてセット販売も行なわれている。中でも小澤氏も驚いたというのが、16体セットの商品だ。広報の白川氏によると、これはたくさん買ってもらいたいという気持ちが表れたものだという。

 単純に段ボールひと箱分に入るのが16個ということもあるのだが、実は8の倍数にも掛けられている。また、企画当初は消費税が8パーセントだったが、発売が伸びたことで10パーセントになり価格も8,800円になった。さらに、スズメバチの活動時期は本来秋だが、わかりやすくしようということで発売が8月になっている。

 ちなみにオンライン限定パックに関しては、実際に昆虫学者にスズメバチがまとまる理由を聞いており、2体セットは「創世期」、8体セットは「発達期」、16体セットは「成熟期」というように、巣作りの段階に合わせてセットの名前が付けられている。16体セットの価格は128,000円(税別)とそれなりに高価だが、7月26日の23時59分まで最大24パーセントのポイント還元が行なわれており、30,720円分のポイントがもらえる。

2体セットの「創世期」に加え、こだわりの8体の「発達期」、16体の「成熟期」セット。ハチ(8)の倍数でこだわったセット売りだ

 すでに公開されているものもあるが、「REVO GEO」シリーズでは今後も様々な生物のフィギュア化が予定されている。また、次回作は「タガメ」に決定しているが、こちらにはおまけとして大きなヤゴが付属する。

 当初は水中のベースにこだわろうとしていたところ、タガメが捕らえるヤゴに注力していく決まったそうだ。それも「ギンヤンマのヤゴで行こう」と、だんだん話しが大きくなっていく。本物のヤゴは、アゴが折りたたまれて飛び出して獲物を捕らえるのだが、そちらも再現しようとしたところ、さすがに社内で「オマケだからやりすぎだ」という意見が飛び出した。

 もちろんおまけにこれだけこだわるからこそ、「タガメ」もものすごい。Twitterで公開された原型は、ヤゴをしっかり捕らえる大きくて太い前脚、ヤゴに口を突き刺す獰猛そうな顔、背中の複雑な造形など、非常に見応えがある。「タガメ」に関してはすでに原型はできており、現在は塗装に関して監修が入っている最中だ。いずれにしても、こちらもかなりの完成度となりそうである。

Twitterで公開された「REVO GEO タガメ」。ヤゴを捕らえる前脚の迫力が凄まじい

 王道の商品ばかりではなく、このあと3つぐらい先に発売される商品では、ユーザーではなく生物学者が「何で?」と驚くようなものが明後日の方向からやってくるという。これだけ聞いてもまったく想像すらできないが、今後の続報を楽しみに待ちたいところだ。

「REVO GEO」シリーズ。今後のラインナップも楽しみだ

松村イズムがフィギュアに魂を吹き込むのが海洋堂の強み

 なぜ海洋堂は、ここまで自然物を商品化することにこだわっているのだろうか? その問いに対して小澤氏は、「その質問は言わば定番といえるものです。海洋堂は、ネイチャーフィギュアの第一人者である松村しのぶが存在する以上は、生物とは切って離せないものです。誰よりも立体物としてリアルに作ることができますし、海洋堂らしさを残すにはやりつづけなければなりません」と断言する。

 昆虫ぐらいのサイズのものならば、3Dスキャナと3Dプリンタがあれば簡単に造形ができそうなイメージだ。実際に小澤氏も3Dスキャンした昆虫を見たことがあるそうだが、細くて強調したい部分がなくまったくおもしろくないものになっていたという。だが、松村氏はあえてデフォルメを効かせることでフィギュア的なアウトラインに仕上げることができるのだ。

信じられないくらい細かい松村氏のチェック。このこだわりが海洋堂のフィギュアに魅力を生んでいるのだ

 そのため小澤氏は、「今回のオオスズメバチ松村イズム、松村造形総指揮でないとあり得ない商品です。神が作ったものには勝てません。そこにいかに近づけるかというのは、人の手を入れて人の目に慣れたものにしないとだめなんです。それを松村さんができるのは、神がかっていますよね。これは、どれだけデジタルが進化しても他ではマネできない部分です」と、松村氏だからこそできる凄さを再確認していた。

 また小澤氏は本商品への「海洋堂の注力」も注目して欲しいと語った。「REVO GEO オオスズメバチ」は開発者の思い入れ、注力はもちろんだが、造形に対してのこだわり、塗装に対してのこだわり、彼らの思いをまとめ上げる小澤氏の活動、そしてユーザーからの注目に対して売り方の工夫、情報の出し方など、広報やデザイン、営業も一丸となって取り組んだ商品だという。だからこそ多くの人に手にして欲しいと、小澤氏は重ねて強調した。

 最後に小澤氏から、本製品の発売を楽しみにしているユーザーに向けてメッセージを語ってもらった。

 「アカテガニやサソリを買ってくれた人に特にいいたいのですが、今度は脚も動くので進化を見届けてほしいです。最初からREVO GEOシリーズを見てる人は、わかってくれていると思います。これからのシリーズにも期待してもらいたいので、見放さずに付いてきてほしいです。まずは、スズメバチを全力で楽しんで頂きたいです。僕たち以上に遊んでくれたら最高ですよね」。

自然の情景をイメージ。この実在感は生物をそのまま模写するのではなく、フィギュアとしてアレンジしているから生まれるという

ここのところ各社から自然物をテーマにしたガチャなど、様々な商品が出てきている。だが、今回の取材を通してあらためてパイオニアとしての海洋堂の凄さを垣間見ることができた。生物好きのメンバーが様々な意見を交わしながら、パーツひとつにもこだわって出来上がっているのである。

 昔とは違い、最近はフィギュアの楽しみ方も変わってきた。海洋堂としては、他社の製品とも組み合わせてどんどん写真を撮り、たくさんSNSに上げて欲しいそうだ。たしかに久々に写真映えしそうなアイテムで、ついついいろんな組み合わせを頭の中で浮かべたくなる。実物を手にしたら思わず吹き出してしまいそうなクォリティになっているそうなので、ぜひ皆さんも自信の手でこの魅力に触れてみてほしい。