インタビュー
SMP [SHOKUGAN MODELING PROJECT]開発者インタビュー
食玩「スーパーミニプラ」が世界へ向けてブランドを刷新。その経緯や今後のラインナップについて聞いた
2021年9月15日 00:00
- 【SMP[SHOKUGAN MODELING PROJECT] クラッシュギア BATTLE1】
- 12月 発売予定
- 価格:2,420円(税込)全2種
- 【SMP ALTERNATIVE DESTINY 『トップをねらえ!』 ガンバスター】
- 10月 発売予定
- 価格:8,250円(税込)
- 【SMP [SHOKUGAN MODELING PROJECT] 太陽の勇者ファイバード】
- 9月 発売予定
- 価格:1,980円(税込)全3種
バンダイの食玩ブランド「スーパーミニプラ」が今年「SMP [SHOKUGAN MODELING PROJECT]」(以下、「SMP」)へと生まれ変わった。特撮やアニメに登場するメカをプラモデル化し、ハイターゲット向けの食玩として、同社キャンディ事業部が展開するシリーズで、一般的なプラモデルとはひと味違ったラインナップが人気を博している。
7月19日発売の「SMP[SHOKUGAN MODELING PROJECT]タイムボカンシリーズ 逆転イッパツマン 逆転王」と「SMP[SHOKUGAN MODELING PROJECT]タイムボカンシリーズ 逆転イッパツマン トッキュウザウルスセット」を皮切りに、ブランドは既に始動していて、アニメ放映から20周年を迎える「クラッシュギア」などの新アイテムや、「SMP ALTERNATIVE DESTINY」なるスピンオフシリーズが展開されることも発表済みだ。
今回、このSMPブランド立ち上げの経緯や将来への展望、そして今後のラインナップなどについて、商品開発に携わるキャンディ事業部のスタッフにオンラインでインタビューを敢行。開発ブログでもおなじみの、開発者ネームY氏・JIN氏・M氏・K氏に話を聞いた。
食玩を代表するブランドとして、国内外へのリリースを見越して企画開発
――まずは今回、5年続いた「スーパーミニプラ」のブランドを「SMP」へと刷新した経緯からお聞かせください。
Y氏:SMPというブランド名は、スーパーミニプラの名前をもじっているのと同時に「SHOKUGAN MODELING PROJECT」の略で、“食玩造形プロジェクト”のような意味を持っているんですが、スーパーミニプラのいいところを継承しつつ、“食玩”という大きなくくりで、その中での造形物を抱えるブランドと改め直し、これまで以上にいろんな方向性を探っていくシリーズにしていきたいという願いを込めているんです。
その経緯としては、商品を世界展開していきたいということと、スピンオフブランドを立ち上げたいという目的がありました。世界展開については、これまでキャンディ事業部はお菓子を扱う事業部ということで、商品は国内流通のものが多かったんですが、スーパーミニプラなど一部の商品は海外でも発売していたんです。近年その展開が少しずつ大きくなってきたこともあり、世界のお客様に改めて“食玩”という日本の文化を広く知ってもらいたいということで、“SHOKUGAN”の名前をブランド名に込めたんです。一方スピンオフに関しては、その世界展開に併せてさらに幅の広いユーザーの獲得を見据えたスピンオフ商品の発売を立ち上げ時より計画したもので、「超造形」に特化した「SMP ALTERNATIVE DESTINY」として開発を進めています。
――これまで海外ではどのような形で販売されていたんでしょうか。
Y氏:国内のパッケージなどはそのままに、海外向けの注意表記を追加して販売していました。それとアジア諸国ですと、プレミアムバンダイで販売する経路などもありました。
――このSMPの立ち上げ後、スーパーミニプラやその前身であるミニプラのブランドはどうなるのでしょう。
Y氏:今後新商品はSMPの名前を冠して発売していき、スーパーミニプラ名義での新商品の発売は行いません。ただし、過去にスーパーミニプラ名義で発売した商品を再販する計画もあって、そのときはパッケージなども当初のままにする予定で、単純にブランド自体がなくなるというわけではないですね。
一方のミニプラは、1980年代から続いているシリーズでして、こちらは現在も最新のスーパー戦隊などのアイテムを出していますので、ファーストタッチ的な、広いユーザーに向けたブランドとして継続していきます。
――SMPは対象年齢は15歳以上に設定されていますが、ラインナップを見るとかなり広い世代に向けているように思えるのですが、ユーザー層などは意識されているのでしょうか。
Y氏:ハイターゲット向けの商品ですので、15歳以上という年齢は設けていますが、具体的な層は設定はしていないんです。例えば私が担当の「太陽の勇者ファイバード」は1990年代の作品で、Kが担当の「逆転王」は1980年代の作品で、M担当の「電童」は2000年に入ってからの作品といったように、それぞれがやりたいものを商品化していることもあり、その結果として幅広い世代にアピールできていますね。アンケートを取ってみると、30歳代前半を中心に、20歳代から50歳代まで凄く幅広いんですよね。
担当者の熱意が、他とはひと味違ったラインナップに直結。もちろんユーザーの声も反映
――SMPシリーズのラインナップはどのようにして決めているのでしょうか。
JIN氏:担当の熱意が現在のラインナップに直結しているというのが、正直なところだったりします。例えばスーパーミニプラで「ロックマンX」の「ライドアーマー」を突然出したことがあって、これは担当がその作品がとにかく好きで、キャンディ事業部に所属していたことでチャンスがあって出すことができたんですよね。熱意と結びついたことで生まれた商品は、ラインナップの中でもひと味違ったものなのではないかと、個人的には思っています。
――結構ピンポイントで商品化されているものがあって、それがプラモデルとはまた違った魅力がありますよね。
Y氏:まさに今JINが話した通りで、我々はキャンディ事業部の中でも独立愚連隊的な存在で、担当者の熱意も重要視しているので、タイトルは限定していないんです。Mなどは今期からメンバーに加わったんですが、既に企画書を量産していて、まだオープンにはできないんですがかなりの熱意のもとに商品化の準備を進めていまして、これからさらに面白い展開が広がっていくのではないでしょうか。
――ユーザーからの要望を参考にするようなことはあるのでしょうか。
Y氏:はい、もちろんです。ファンの方はご存じと思うのですが、スーパーミニプラの初年度より定期的に商品化アンケートを取っていまして、その結果は商品化の参考にさせていただいています。また開発スタッフは自らSNSのエゴサーチをして、自身が企画した商品を掘り下げて、「これが欲しい」という声をリサーチをして、それを参考にすることもあります。「お客様の声あってこそのSMPシリーズである」というスタンスだということはブランドが新しくなっても変わることはなく、今後もユーザーと共に成長していくブランドであり続けたいです。
――一般的なプラモデルと比べると、凄く自由度が高く柔軟な動きに見受けられます。
JIN氏:そこは我々の仕事が「食玩」であることが大きな意味を持っていると思いました。もともとミニプラは、1980年代のカプセルトイや食玩から派生したブランドなんですが、その頃から食玩全般は世にあるヒットキャラクターを常に貪欲に扱ってきました。食玩というマス向けの広い流通を持っていることで、いろんな版元様から許諾をいただけて、なおかつ低価格でいいものを作れる技術を持っているという、キャンディ事業部の色みたいなものが、スーパーミニプラやSMPにも出ていると思うんです。戦隊ロボから、「ザブングル」、「ガオガイガー」、「ライドアーマー」、「ゲッターロボ」みたいな広がりに「食玩らしさ、食玩ならでは」みたいなものを感じているユーザーさんは多いのではないでしょうか。
Y氏:キャンディ事業部は、JINが話したように、いろんなキャラクターをできるだけ早く商品化していく瞬発力が強みだと思っていて、そこがラインナップの幅に繋がっている気がします。
――食玩ということで、現在の価格設定についてはどのように決めているんでしょうか。
Y氏:毎回そこは凄く悩むところで、食玩としてお客様が手に取りやすい価格帯ということは第一に考えていますが、基準としては、ガンプラ等の低価格なプラモデルと完成品フィギュアの中間を意識しています。いろんなキャラクターがたくさん出てきて、比較的買いやすい価格帯というのが、常々考えているところですね。
M氏:スーパーミニプラとしては5年の歳月を経て、価値観もある程度固まってきていて、現情勢で材料費などが高騰している中、ユーザーの皆様が納得できる値段におさめられるかが勝負になってくると思いますので、他メーカー様の商品とも棲み分けながら決めていきたいですね。
JIN氏:フォーマットが変幻自在なのも食玩のいいところで、100円200円で買える手軽なものから、プレミアムバンダイで受注される数万円のものまで、お客様が納得できて手に取ってもらえる価格設定は常に考えているところですね。
――商品のアソート(組み合わせ)についても伺いたいのですが、合体ロボットなどをひとまとめのセットとせず、あえて1台ずつバラで販売する方向性を残しているのはなぜなんでしょう。
Y氏:そこはミニプラシリーズからの流れで、現在も展開しているスーパー戦隊シリーズなどは機体ごとの販売形態を踏襲していて、スーパーミニプラやSMPでもそれを展開しています。単体でも組み立てることで満足度が得られるという点も食玩のいいところだと思っていて、さらにセットで買った方も“1日1箱”みたいなペースで組むといった楽しみ方をしている声もあるんです。SMPではその方向を継承しつつ、例えば「ガオキング」のように、メカは5体だけど3種類とか、「トッキュウザウルス」のように付加価値を付けてセットにするという方向性も提示させていただきました。
K氏:「トッキュウザウルス」と「逆転王」は私が担当したんですが、こういう販売形態に対してお客様の反応を見ていきたいということもあって、ある意味チャレンジをした商品なんです。逆転王だけでいいという方と、踏み込んでトッキュウザウルスとして合体変形を楽しみたい方に向けた提案としての商品形態で、奇しくもSMPブランドの立ち上げのタイミングに上手くはまったんですよね。今後もこうした新しい販売形態へのチャレンジは、今後もやっていきたいと考えています。
――先ほど少し話しに出ましたが、商品の再販のプランはどのように想定しているのでしょうか。
Y氏:「ガオガイガー」のシリーズは一度再販したことがありますが、それ以降の商品の再販はなかなかできていないというのが現状です。市場では新製品の発売後から1~2カ月で完売して、それ以降に欲しいと思ったお客様に届いていない状況となっているので、このブランド刷新の機会に考えていきますのでご期待いただければと思います。
SMPの文字から取った、「“S”cene(シーン再現)」、「“M”otion(可動)」、「“P”roportion(造形)」を徹底追求
――商品の模型としての企画や設計についてお伺いしたいのですが、一つのプロダクトが発売されるまで、どのような流れで作られているのでしょうか。
Y氏:一般的な食玩と基本的には同じ流れで、開発メンバーが要望を出したり、アンケートなどを参考にしたりして選定したものを、事業部内のプレゼンを経てGOサインが出たところで、改めて版元様に許諾をいただき、そこから設計に入ります。原型製作と量産化に向けたパーツ分割、金型製作などを行い、全体で10カ月から1年程度で商品化となります。
――プラモデルとして設計するときに、どのようなことにこだわっていますか?
Y氏:これはまさに、SMPの頭文字を取った「“S”cene(シーン再現)」、「“M”otion(可動)」、「“P”roportion(造形)」を徹底追求するというシリーズのキャッチフレーズがありまして、設計においてこだわっているのはその3つなんです。合体ロボットが見せる“変形合体シーンの再現”、初期ミニプラ時代から培ってきた“可動”、そして劇中と同様の姿を再現した“造形”の3点は、SMPブランドとしても常に追求していきたいところです。実はこのキャッチフレーズって、お客さんにどう新しいブランドをどう言語化して伝えるかと悩んでいたときにJINが出してきたアイデアで、それを聞いた僕の中に電撃が走るほどの衝撃でしたね(笑)。
――本当にSMPの名前にぴったりマッチしたフレーズでしたね。また最近のシリーズを見ると、パーツによる色分けもかなり力を入れて作っている印象がありますね。
Y氏:5年前のスーパーミニプラスタート当初の「ザブングル」シリーズは、成形色とシールによる再現で始まりましたが、ある時期から、シールが貼れない凹凸のあるパーツなどは、最初から彩色を施して対応するようになりました。お客さんのストレスとなってしまうところはできる限り取り除きながら、劇中に近い姿を再現できる商品仕様は心がけています。
――作りやすさというところも含め、スーパーミニプラの発売から5年を書けて培ったノウハウが反映されているということですね。
Y氏:手応えは確かにありますね。例えば設計を手がけているデザイナーの方も、パーツの色分けや彩色を前提とした指示などを積極的に入れてくれていて、それによりパーツの仕様を決めやすくなるんです。開発者全員の経験値はどんどん蓄積されていて、SMPシリーズからはさらにそれが反映されていくのではないかと思っています。
――設計において、可動や変形に懲りすぎてしまうと、作りづらかったり、価格に影響があったりもするかと思うのですが、SMPはそのバランスをどこに置いているのでしょうか。
Y氏:そのバランス感覚は、このSMPシリーズを企画するうえで特に重要だと考えていまして、例えば「青の騎士 ベルゼルガ物語」で発売した機体は、降着ポーズを取るときにパーツの差し替えで対応しているんですが、あのサイズ感で降着ポーズを差し替えなしのギミックで実現すると、細かすぎて組み立てづらくなってしまうんです。もともとあのシリーズは複数買っていただいて、並べて楽しむことを目的に考えていたので、組みやすいほうがいいだろうということで、あえてパーツ差し替えの判断をしました。
その一方で、スーパー戦隊シリーズのロボットのような、合体変形のギミックを楽しむことを目的とした商品の場合、「青の騎士 ベルゼルガ物語」のように差し替えを入れてしまうと、商品の本質を外してしまうことになりますから、そこはギミック優先で設計するようにしています。各キャラクターごとにポイントとなるバランスをちょっとずつ変えていくことで、お客様が満足できる商品仕様に落とし込んでいますね。
――ちなみに設計や仕様を決めるときなどに、御社のホビー事業部や他社が発売している商品を意識することはあったりするんですか?
Y氏:直近のホビー事業部の商品などは、常に新しいことをやっているという印象が強くて、例えば「エントリーグレード」のガンダムなどは、あらゆるところに新しい工夫が入っていて、本当に組みやすい設計だと思いました。説明書もとにかく丁寧に作られていて、そういったところはSMPシリーズにもフィードバックできればと常日頃から考えているところです。
K氏:私は幼少の頃からプライベートでもガンプラユーザーでして、逆に作りながら「こうすればもっといいのにな」と思ったことを商品に反映したいと考えていましたね。最近ですと「トライダーG7」や「逆転王」などでアンダーゲートを積極的に採用していて、そのあたりに影響があります。組み立てたときに前面になるパーツの他に、ランナーから切り出すときにニッパーの刃を入れにくいパーツなどにアンダーゲートを採用して、できるだけストレスなく組めるような設計にしたんです。そのあたりは、ガンプラユーザーとして反映させたフィードバックだと思います。
Y氏:過去のキットで出ていなかったものを商品化するというのも、ある意味フィードバック的な思いなのかもしれません。「レイズナー」の死鬼隊の機体などは当時発売されなかったので、その間を埋めるようなラインナップですからね。実はあのシリーズは、当時のキットに近いサイズにしているんですよ。
――キットの主な素材にABSを採用しているのは、やはり可動や変形などを意識した仕様なのでしょうか。
Y氏:はい、それはあります。スーパー戦隊のロボットなどは、やはり当時のデラックス玩具の合体や変形の遊びを追体験することを目的としていますので、基本はABS素材を採用しています。ただ先ほどの「レイズナー」シリーズなどは外装にPSを採用して、塗装も楽しんでいただけるような仕様の商品もあります。これもまたキャラクターごとの遊び方を想定した素材の選定を今後もしていくことになると思います。
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