インタビュー
山下しゅんや氏とコトブキヤが生み出すBISHOUJOシリーズの進化に迫る!
企画者の想いを込めた「MY LITTLE PONY」、山下氏のセンス爆発「初音ミク」
2021年11月15日 00:00
マーベルコミックスのキャラクターや、DCコミックスのキャラクターを、イラストレーターの山下しゅんや氏が描き起こしフィギュアとして製品化する「BISHOUJOシリーズ」。2019年で10周年を迎えた長いシリーズだが、現在でも積極的に新作が出ている。
前回、フィギュア「ヴァンパイア美少女 モリガン」企画者しょーぐん氏インタビューにおいて、企画担当者であるしょーぐん氏の商品の思い入れや、造形の面白さなど、1つの商品にフォーカスし掘り下げたが、今回はBISHOUJOシリーズそのものを取り上げていきたい。
今回取り上げるのはしょーぐん氏がアメリカに行くことで衝撃を受け、自身のファッション知識なども企画に込め商品化を実現させた「MY LITTLE PONY美少女」シリーズと、山下氏のセンスを他の作品以上に前面に押し出した「BISHOUJO ReMIXシリーズ 初音ミク」の2つを大きなテーマとし、BISHOUJOシリーズの歴史にも触れることで、シリーズ全体の魅力を紹介したい。
山下しゅんや氏だからこその、日米ユーザーに魅力が伝わる、リアルとかわいらしさのバランス
BISHOUJOシリーズはイラストレーターである山下しゅんや氏が様々なモチーフをその独特なセンスで"美少女イラスト化"し、そのイラストを元にフィギュア化を行なうというコトブキヤのフィギュアブランドである。BISHOUJOシリーズは2019年で10周年、2024年で15周年を迎える、コトブキヤでもかなり長い歴史を持つシリーズだ。
コトブキヤと山下氏の関わりはシリーズ以前の山下氏オリジナルイラストフィギュアのPVC商品からの繋がりとのことだ。2009年、最初に生まれたBISHOUJOシリーズは「MARVEL美少女 ブラック ウィドウ」。最初から北米市場をターゲットにした企画で、「マーベルコミックスのキャラクターを日本人クリエイターである山下しゅんや氏のテイストでフィギュア化してみよう」と言うのが出発点だったという。フィギュア製作メーカーとして日本国内で知名度を上げてきたコトブキヤのさらなる一歩というわけだ。
こうしてBISHOUJOシリーズは、「北米市場でコトブキヤならではのフィギュアを」という戦略で生まれた。当時、まだ日本のメーカーがマーベルコミックスのキャラクターを商品化するという動きもまだなかったということでも注目を集めた。その流れに続けてDCコミックスのキャラクターを美少女化した第1弾は「DC COMICS美少女 バットガール」。2010年の登場になる。これによりBISHOUJOシリーズは大きく評価され長く続くブランドになる地盤を固めることとなった。
「山下しゅんやさんのイラストは、アメコミのリアル志向と、日本の2次元美少女の雰囲気どちらも持っていると思うんです。私はこの企画が生まれた頃は入社前ですが、もし最初の商品の担当が山下さんではなかったら、BISHOUJOシリーズは続かなかったのではないか、とも思いました。リアルだけれどもかわいらしい、この山下さんのバランスあってこそだと、思っています」としょーぐん氏は語った。
当時のBISHOUJOシリーズの企画担当と山下氏が重視したのはモチーフとなるキャラクターの個性。時に山下氏側からかわいらしさ全開のバランスでのイラストに対して、「このキャラクターのイメージはこうではないか」と修正を重ねることもあったという。もちろん版元からの修正もあるが、企画者と山下氏も「キャラクター重視」の姿勢を明確にしていた。この方向性は現在でもしっかり受け継がれている。
服装や髪型、ポーズで描くキャラクターの濃厚な個性、「MY LITTLE PONY美少女」
現在BISHOUJOシリーズをメインで企画しているしょーぐん氏がコトブキヤに入社したのは2012年。このBISHOUJOシリーズを前担当者から引き継ぎ、新しい流れを盛り込んでいくことになる。しょーぐん氏は入社して最初の仕事としてBISHOUJOシリーズを担当していくが、これまでで特に思い入れの深い仕事として、「MY LITTLE PONY美少女」シリーズを挙げた。今回のインタビューではここを特に掘り下げたい。
しょーぐん氏が"アメリカのコミック・ホビー文化"に直に触れるためにサンディエゴの「コミコン」に参加したのは2013年。その時に「MY LITTLE PONY」が北米ユーザーの心をしっかりとつかみ、大きな人気を得ていることを知った。
「MY LITTLE PONY」は北米の玩具メーカーハズブロが展開している玩具シリーズ。1982年から現代まで続く人気シリーズで、その名の通り"ポニー(小馬)"をモチーフとしたキャラクター玩具でアニメ化も行なわれている。アニメ子供向け作品として非常にメジャーな存在で、そのキャラクター性や、ストーリー性、メッセージ性の高さから大人のファンも多く獲得していた。
「MY LITTLE PONY美少女」はそのポニーの姿をしたキャラクター達を美少女フィギュア化しようという企画である。オリジナルであるハズブロ側でも「MY LITTLE PONY」のキャラクター達を人間の姿で描いた「Equestria Girls」を展開しているが、しょーぐん氏と山下氏はそこからさらに美少女フィギュアとしての、「MY LITTLE PONY美少女」をフィギュアにしようとキャラクター像を練っていった。
しょーぐん氏は5年以上この企画を温め、検討していたという。「MY LITTLE PONY美少女」がスタートしたのは2019年、BISHOUJOシリーズでハズブロと仕事をするのは初めてであり、しょーぐん氏は山下氏とキャラクターを生み出していったこれまでのノウハウと、新しいチャレンジを込めて、この、「MY LITTLE PONY美少女」に挑戦したという。
モチーフとなる「MY LITTLE PONY」の6人のキャラクターはそれぞれはっきりとしたキャラクター性が盛り込まれている。特に第1弾である「MY LITTLE PONY美少女 ピンキーパイ」の開発には時間がかかった。
山下氏のイラストによって"リアル感"を与えられ、美少女フィギュアとなるキャラクター達。彼女たちが着る衣装はファンタジーよりにするのではなく、現実にあるものに近くしたいという想いがあった。ピンキーパイの衣装は編み上げのブーツに、フリルがたくさんついたスカート、シャツの胸元にはカップケーキという、活発でかわいらしいファッション。ポーズも相まって元気いっぱいだ。
ピンキーパイの衣装に関しては、しょーぐん氏の知見が活かされている。デザインの根底部分にはしょーぐん氏が学生時代に影響を受けた「デコラティブファッション」のテイストを加え、「日本のファッション要素」も加えているという。
最初にしょーぐん氏とハズブロの担当者で「MY LITTLE PONY美少女」シリーズの方向性 を決めていった。まず大まかなイメージを決めてから、山下氏のイラストに、という手順を踏んだという。
「日本で独特の進化を遂げた"原宿系ファッション"のテイストを加えることでコトブキヤという日本のフィギュアメーカーならではの要素が出せると思いました」としょーぐん氏は語った。
しょーぐん氏が提案したコンセプトイラストに対して、版元側の担当者から「このポニーはこのポーズの方がキャラクター性をよく出せる」といったアドバイスも入ったという。版元側の担当者の思い入れもこういったやりとりで強く感じたという。
方向性を決めた後は、さらに山下氏とのすりあわせにも時間をかけたという。山下氏が最初に描き上げたイラストは今よりずっと大人びた、山下氏らしいセクシーな雰囲気も持っていた。しょーぐん氏はアニメの「MY LITTLE PONY」のイメージを活かした、子供っぽさを求めた。アニメの「MY LITTLE PONY」のイメージを活かして、等身を低くかわいらしくすることで、少し幼くなるように調整をしたという。
こうしてしょーぐん氏の持つイメージをベースに、ハズブロの担当者の意見を活かし、山下氏がイラストを描き起こした上でフィギュア化される「MY LITTLE PONY美少女」の体勢がしっかりと決まった。
「MY LITTLE PONY美少女」はオリジナルであるポニーの姿をしたフィギュアとして立体化し、台座に配置する。まるでポニーが女の子に”変身”したような、独特の雰囲気を持つフィギュアとなっている。
ポニーのフィギュアはたてがみと目に特徴があるが、「まつげをきちんと立体で作っている」というのはフィギュアとして強調したいところだとしょーぐん氏は語った。ポニーたちの魅力である長い睫毛を塗装ではなく、きちんと造形で表現しているのはどうしても立体で実現したかった部分だという。
この"ポニーの雰囲気"も積極的にフィギュアに盛り込まれている。ポニーの大きな特徴は"たてがみ"だ。ポニー姿のピンキーパイはボリュームたっぷりの髪型をしているのだが、人間姿のフィギュアの方も大きく髪の毛を盛り上げている。ポニーの姿はたてがみや雰囲気に特徴があるが、BISHOUJO姿でもしっかりとその特徴を活かしているのが楽しい。
長いストレートヘアと眼鏡、抱えた分厚い本が目を惹く「トワイライトスパークル」は他のキャラクターと比べて地味な姿をしているが、実は彼女が「MY LITTLE PONY」のアニメ作品「マイリトルポニー~トモダチは魔法~」での主人公だ。彼女はこの世界の首都で魔法を学ぶ女の子(ポニー)だが、師であるプリンセスセレスティアに「友達を作るように」と田舎町のポニービルに向かうことになる。トワイライトスパークルは友達など関心がなく、魔法のことしか興味がなかったが、個性的な友達との出会いの中、本当に大切なものを見つけていく……。というストーリーなのだ。
トワイライトスパークルは真面目な女の子。ファッションは地味なワンピースにスカートと「真面目キャラ」をそのまま表現したような姿だ。だからこそ髪の差し色と、スカートのマークが引き立つ。抱えた本は物語の鍵を握るキーアイテムである。他のキャラクターと並べると地味に見えるトワイライトスパークルだが、それを武器にしようというところが面白いアプローチだ。
「フラッターシャイ」はかわいらしくそして内気な女の子。フリルのある服装も長い前髪からのぞく表情も彼女の正確を物語っているが、やはり見事なのは"内気"を印象づけるポーズだろう。「アップルジャック」はカウボーイハットにブーツという記号的なアイテムだけでなく、生地の頑丈そうなチェックのシャツと、ジーンズ地のスカートが、いかにもカントリーファッションという感じだ。
「レインボーダッシュ」は褐色の肌の女の子。パイロットゴーグルと、フライト ジャケットをベースにしたコーディネートで、「飛行隊」に憧れを持つペガサスを再現している。このファッションもリアリティを追求している。そして「ラリティ」は主要キャラクターの中で一番オシャレや美しさに興味がある。入念にセットした髪に、ハイライト塗装を入れる事で、丁寧にケアされた輝く髪を表現している。
そしてただきれいなのではなく、ちょっと背伸びをしている感じもあるのが面白い。「マイリトルポニー~トモダチは魔法~」はそれぞれのポニーたちが「自分らしさ」を大事にし、またお互いの個性をまた尊重しあうように成長していく姿が大きなテーマであるとしょーぐん氏は語る。そういった物語のテーマや、各キャラクターの個性を「MY LITTLE PONY美少女」でも大事にしているとのことだ。
「MY LITTLE PONY美少女」は好評を博し、主要の6人の女の子に加え、彼女たちを見守る「プリンセスセレスティア」、そして一時は敵対する存在になってしまった「プリンセスルナ」、さらにから登場した「サンセットシマー」も商品化を実現している。
追加キャラクターの中でしょーぐん氏が印象深いのは「プリンセスルナ」。彼女は夜の世界を治める女王だったが、孤独な夜の世界に耐えきれず、"闇落ち"してしまう。姉のプリンセスセレスティアと共に、他の「MY LITTLE PONY美少女」のカジュアルな装いとは異なる、ドレスをまとった幻想的な方向性でフィギュア化している。これはこれまでのポニー達と違い、ふたりが「プリンセス」であることからだという。
プリンセスルナは悪の道に落ちてしまったが、トワイライト達の活躍でやさしい心を取り戻したキャラクター。フィギュアは冷たいまなざしとすらりと立っているポーズで”プリンセス”らしさを盛り込むためにゴスロリ的なアプローチを行なった。
こだわりはコルセット部分。プリンセスルナは長い間封印されていたキャラクターであり、それを象徴するために、体を強く締め付けるコルセットを着けている。特徴的な髪のふわふわ感やボリュームをドレスに落とし込んだという。しょーぐん氏の原作やキャラクターに対する強い思いと、作品への理解が「MY LITTLE PONY美少女」には込められている。
「『MY LITTLE PONY美少女』は各キャラクターの個性を特に大事にしたシリーズです。「キャラクターらしさ」を大事にフィギュアでの再現方法を模索しています。また、そのコンテンツが低年齢層向けだけに、これまでの『BISHOUJOシリーズ』とはちょっと違う雰囲気の作品になったと思います。『BISHOUJOシリーズ』は、フィギュアをきっかけに原作に興味を持って欲しいという想いも込めています。『MY LITTLE PONY』にもぜひ興味を持って欲しい、そう思って製作しました」としょーぐん氏は語った。
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※一部写真はフラッシュを当てているため、実際のフィギュアと色味が異なります