インタビュー

金属パーツを使ってスーパー戦隊のDXロボを大人向けに! 「DX METAL APPEND ゼンカイオージュラガオーン」企画担当者、寺野彰氏インタビュー

【機界戦隊ゼンカイジャー DX METAL APPEND ゼンカイオージュラガオーン】

2022年2月発売予定

価格:16,500円(税込)

受注期間:10月25日より予約スタート

 バンダイは、「DX METAL APPEND ゼンカイオージュラガオーン」を2022年2月に発売する。価格は16,500円(税込)。本商品はプレミアムバンダイ専売ではなく、店頭で販売される一般販売で、10月25日より予約受付開始となる。

 本商品は3月6日に発売された「全界合体 DXゼンカイオー ジュラガオーンセット」を大幅に仕様変更した大人向けアイテムである。大きな特徴としては「金属パーツの使用」、「プロポーションを劇中に近づける」というものがあるが、そういった方向性はどのような考えから行なわれたのか、本商品の開発に携わったバンダイの寺野彰氏に、新ブランドに込めた気持ちと商品開発に至る経緯を語ってもらった。

 私(五十嵐)はライターとして過去に「超合金魂」、「DX超合金魂」などの解説書やムックを作成し、解説者としてBANDAI SPIRITSの配信番組や、イベントなどにも出演している。寺野氏は一昨年までBANDAI SPIRITSコレクターズ事業部で様々な企画を担当してきた人物であり、一緒に仕事をすることも多かった。

 そんな寺野氏が昨年、2020年の4月からバンダイ トイディビジョン ブランドデザイン部に異動し、"スーパー戦隊シリーズ"のロボット玩具や、なりきり玩具の商品企画の担当となったという。かくゆう私はスーパー戦隊シリーズの主力商品たるDXロボに関する専門書「スーパー戦隊TOY HISTORY 40 1975-2016」を編集したこともあり、おそらく日本でもかなり詳しい方に入るだろう。

【スーパー戦隊TOY HISTORY 40 1975-2016】
スーパー戦隊トイの40年の歴史をまとめた「スーパー戦隊TOY HISTORY 40 1975-2016」。私はこのほかにも様々な超合金関連の本を手がけた

 それゆえ、寺野氏が今回、"大人に向けた"スーパー戦隊のDXロボを作るという話を聞き、大変興味をもった次第である。これまで、子供向けの玩具を作っていた人物が大人向けの玩具を作ることはいくつか仄聞したが、その逆は初めてだからだ。かような一味違う経緯から生まれる「DX METAL APPEND ゼンカイオージュラガオーン」は果たして、どのような商品なのであろうか。まずは一読を請いたい。

バンダイ トイディビジョン ブランドデザイン部の寺野彰氏

"スーパー戦隊"自身をモチーフにした新しいヒーロー像を提示する「ゼンカイジャー」と「ゼンカイオー」

 まず、今回発売される「ゼンカイオージュラガオーン」とはどんなロボットなのだろうか? このロボットは『機界戦隊ゼンカイジャー』に登場する巨大ロボットだ。「機界戦隊ゼンカイジャー」はこれまでのスーパー戦隊の「5人のヒーローが怪人と戦い、巨大ロボットに搭乗し巨大化した怪人と戦う」というフォーマットを崩し、1人のヒーローと4体のロボットが戦うという新しいヒーロー像を提示している。

 『機界戦隊ゼンカイジャー』は人間と機械生命体・キカイノイドが共存する世界。ゼンカイジャーは人間である五色田介人が変身するゼンカイザーの他、機械生命体であるジュラン、ガオーン、マジーヌ、ブルーンが変身することで5人の戦士が結成するゼンカイジャーとなる。

 ゼンカイオージュラガオーンは、メンバーのゼンカイジュランと、ゼンカイガオーンが巨大化し、変形合体することで誕生するロボットだ。今回紹介する「DX METAL APPEND ゼンカイオージュラガオーン」の元となる「全界合体 DXゼンカイオー ジュラガオーンセット」は、それぞれの変身した姿ゼンカイジュランと、ゼンカイガオーンを再現するとともに、"機界変形"によるジュランティラノとガオーンライオンへの変形も可能となっている。

 そしてゼンカイジュランには音声ユニットが内蔵されており、ジュランティラノへの変形時や、ゼンカイオージュラガオーンに合体した時も音声が鳴る。そしてゼンカイオージュラガオーンは劇中同様組み替えギミックも搭載。別売りの「全界合体 DXゼンカイオー ブルマジーンセット」と連動させることで、「ゼンカイオー ジュラマジーン」や、「ゼンカイオー ブルガオーン」に組み替え合体させることができ、音声ギミックも楽しめるのだ。

【全界合体 DXゼンカイオー ジュラガオーンセット】
こちらがオリジナルの「全界合体 DXゼンカイオー ジュラガオーンセット」。ゼンカイジュランと、ゼンカイガオーンが劇中同様変形合体する。音声ギミックが雰囲気を盛り上げる

 東映の「スーパー戦隊シリーズ」は、1975年放送の『秘密戦隊ゴレンジャー』よりスタートし、第3作『バトルフィーバーJ』(1979)から今日まで休まず続いてきた。海外向けにローカライズされた『パワーレンジャー』の放送により、日本のみならず世界中でも認知されている人気コンテンツである。

その主役ロボット玩具はメイン商品として、作品と共に長きに渡り展開されてきた。それらは子供が初めて触れるロボット玩具となる場合が多く、変形合体玩具の入門書としての役割も担ってきた。それゆえ構造はいたってシンプルで、劇中の合体を再現しつつ手足などの可動は最小限に抑えられており、大人向けアクションフィギュアとは異なるベクトルで作られている。

 そして現在放送中のシリーズ第45作『全界戦隊ゼンカイジャー』からも、主役ロボット玩具の「全界合体 DXゼンカイオー ジュラガオーンセット」が発売。こちらも従来同様に純然たる子供向け玩具として開発された商品だが、これを大人用にリニューアルしたのが今回ご紹介する「DX METAL APPEND ゼンカイオー」だ。

 本商品を企画したのはベースとなった「DXゼンカイオー」の開発担当でもあるバンダイ トイディビジョン ブランドデザイン部の寺野彰氏で、かつてBANDAI SPIRITS コレクターズ事業部で「超合金魂」、「METAL BUILD」など大人向けロボットフィギュアの企画に携わっていた人物である。今回寺野氏に、「DX METAL APPEND ゼンカイオージュラガオーン」の商品コンセプトや発売経緯、そして大人用と子供用の双方を手がけた氏ならではのテーマについて尋ねてみた。

「DX METAL APPEND」では、大人向けフィギュアとはまったく別次元の設計に驚いて欲しい

――「DX METAL APPEND ゼンカイオージュラガオーン」はどのような経緯で生まれたのでしょうか?

寺野氏: 当初は「DX超合金」のブランド名も考えていたのですが、僕自身がコレクターズで「超合金」を担当していたおり、このブランド名の魅力は玩具としての伝統、だと感じていました。今回は、より若い年齢層により伝わりやすいよう素材を強調する「METAL」と、付け加えるという意味の「APPEND」を合わせてブランド名にしました。「METAL」はかつて自分が関わった「METAL BUILD」や「METAL ROBOT魂」でも使った言葉ですし、その頃の経験から「DX ゼンカイオージュラガオーン」を金属に変えたら良くなる箇所の確信もありました。

【DX METAL APPEND ゼンカイオージュラガオーン】
DX METAL APPEND ゼンカイオージュラガオーンの全身。脚部にアペンドパーツが装着され、プロポーションが映像に近づけられている。また、シルバーメッキによって全体的に高級感が強調された。元々の商品に入っていた音声ギミックはそのまま内蔵されている

――「DX METAL APPEND ゼンカイオージュラガオーン」のアピールポイントをお願いします。

寺野氏: まず、頭部を映像に登場するゼンカイオージュラガオーンの造形に寄せた新造パーツに変えて、さらに収納できるクリアランスの限界までサイズを大きくしました。また、脚部に新規のアペンドパーツを被せられるようにして、スタイルも映像に近づけました。

 元のDXゼンカイオージュラガオーンではシルバーの部分が成型色だったのですが、「DX METAL APPEND」ではその大部分にメッキをかけています。また、ゼンカイオーの前腕、ゼンカイジュランの前足、ジュランソードの刀身、ガオーンクローの爪など元々プラスチックだったパーツをダイキャストに置き換えました。また、赤や黄の箇所も映像を参考に塗装箇所を増やしています。単色だったゼンカイジュランとゼンカイガオーンの額マークに金の塗装を加えたり、頭部ツノの黒い部分などがそうですね。

頭部のクローズアップ。頭部は完全新造型で合体変形に支障がないギリギリのサイズまで大型化している

――従来の商品と比べ、造形と塗装の厚みがかなり加わっているということですね。

寺野氏: 元々のDXゼンカイオージュラガオーンのコンセプトは合体シークエンスに合わせた音を楽しむという、スーパーヒーローのなりきりアイテムに近いものでした。そこに大人の目から見ても納得できる造形と塗装、そして重量感のあるダイキャストパーツを加えることで、これまでと異なる層に興味を持ってもらえるのではないか、と考えたんです。いわゆる戦隊ロボは、大人のユーザーが普段触っているフィギュアとはまったく別次元で設計されていますから、「DX METAL APPEND」は、むしろ新鮮な驚きを感じていただけるのではないかと思っています。

俯瞰からのショット。両腕のシルバーパーツはダイキャスト製。頭部を囲む牙はシルバーメッキに変更。胸のエンブレムの両端やゼンカイジュランの右腕のベルトも塗装が追加された

――大人向け玩具と男児向け玩具との具体的な違いは何でしょう?

寺野氏: 根本的に違います。男児向けトイは「安全に遊べる機構ありき」なので、機能のデザインがあって、そこから外観が載ることが多いです。一方、大人向けトイは最初に外観があって、それに収まる関節や機構を考えていきます。ですから子供向けは「機構から設計が始まる」、大人向けは「外観から設計が始まる」ことが多く真逆なんです。そんな中で、自分が担当した「超合金 超合体」シリーズ(※1)のような機構が先行する商品もありました。実際、戦隊ロボみたいなものだったかもしれません(笑)。あれを作ったことで機構を外観に落とし込むことを多少経験できました。

 また戦隊ロボは企画がリアルタイムで動くことが大きな特徴ですね。開発スケジュールがしっかり決まっている。その一方ではキャラクターを版権元様とゼロから生み出す必要があります。先ほど「超合金 超合体」シリーズと似ているとは言いましたが、こちらはモチーフとなるドラえもんやトイストーリーが決まっています。でも『ゼンカイジャー』の企画当初はジュランたちもゼンカイオーもいなくて、東映様と「どんな戦隊にしましょうか?」と相談するところから始まるわけですからね。

――寺野さんは大人向けの商品を扱うコレクターズ事業部で、「超合金ハローキティ」や「超合金 トイ・ストーリー 超合体 ウッディロボ・シェリフスター」などユニークな商品も手がけてきましたね。

寺野氏: コレクターズ時代もストレートなハイエンドトイを主に担当しながら、それとは違うトイを作ることも好きだったんですよ。「超合金魂」や「METAL BUILD」を担当しつつ、「超合金ハローキティ」、「超合金ぐるぐるドラえもん」などを担当していました。

――「超合金ハローキティ」、「超合金ぐるぐるドラえもん」は子供も楽しめるアイテムであり、他の大人向け商品に見られる高級感よりも、「遊び」を重視したアイテムでした。

寺野氏: 「超合金」のブレンド名でありながら気楽に遊べる商品を作りたかったんです。他にも「PROPLICAタケコプター」や「PROPLICAドラゴンレーダー」も手がけていました。これらはあまりハイコストではないなりきり玩具を作りたいという思いで企画したんですよ。そこで時期を見てブランドデザイン部へ異動させていただきました。

【超合金ハローキティ】
かわいらしいハローキティをロボットにデザイン。ずしりとした重さ、ロケットパンチなど超合金の要素を積極的に盛り込んでいる

【PROPLICAタケコプター】
劇中の実物大の大きさを感じさせる全幅約200mm。単4電池一個でプロペラが回転する

――そういった子供向け玩具への視点も持ちながら、最初に大人向け商品を開発するコレクターズ事業部を志望したのは何故でしょう?

寺野氏: 「自分が欲しくなるものを作りたかった」という部分が大きいですね(笑)。そして10年間、ハイエンド商品に関わらせていただきました。実は異動前に子供が生まれたんです。そしたら今度は子供を喜ばせるものを作りたくなったんですよ。親としてもそうですが、子供の反応を間近で見ながら商品開発が出来る良い機会でもありますからね。ブランドデザイン部の中でもスーパー戦隊はなりきり玩具とロボットの両方を作っているチームなので、これまでの経験を活かしながらやりがいがあります。

――コレクターズ時代は「こんなキャラクターがいるから、こんな商品にしよう」という形で企画が決まっていたと思います。しかし戦隊ロボのDXロボは1からキャラクター設定と商品企画を始めるので、やり方が真逆になったといえます。驚かれたのではありませんか?

寺野氏: そうなんですよ。例えば、かつての「超合金魂ガオガイガー」の経験から言うと、既にある変形機構にあの格好良い変形バンクシーンをいかに再現するかが課題でした。逆に戦隊ロボはできた機構から合体シークエンスを落とし込むわけですからね。商品に辿り着くまでの方法が違うんですよ。「ガオガイガー」を作った当時は「これに携わったタカラ担当者の方は凄いなぁ」と感心したので、今回のゼンカイオーで同じ側に立てたのは嬉しかったです(笑)。

――大人向けと子供向けの双方を体験したことは今後の商品開発で何か活かせるのでしょうか?

寺野氏: 大いにあると思います。戦隊ロボって図面をもとに設計を進めることが多いんです。一方、コレクターズで作るフィギュアは、パース絵などの設定画稿から造形に進む流れがあります。またゼンリョクゼンカイオーのフェイスは、PLEX(※2)さんが絵のみならず顔の造形参考物を作ってくれたので、非常にかっこよいものに仕上がっています。新しいやり方を取り入れることで、さらに格好良いロボが作れるのではないかと考えています。

――最後にメッセージをお願いします。

寺野氏: 戦隊チームは知らないことが多かったので、学びながら楽しく仕事をさせていただいています。僕の子も『ゼンカイジャー』を見てくれているのですが、まだ小さいのに細かいキャラクター名称まで喋っているので嬉しくなります(笑)。『機界戦隊ゼンカイジャー』も後半戦なので、引き続きよろしくお願いいたします。

ゼンカイジュランとゼンカイガオーン。どちらも頭部のマークやツノに塗装が追加。胸のアニマルのアゴの下部分(ゼンカイオーの内股にあたる部分)や脚部はダイキャストに置き換えられている。また、手持ち武装のジュランソードとガオーンクローの刀身はダイキャストとなり、ジュランシールドには塗装が追加された

 1991年春に「天空合体DX超合金ジェットイカロス」を購入して以来、私はスーパー戦隊のDXロボを欠かさず購入してきた。今年はそこから30年目にあたる。だから、あくまでユーザーの立場ではあるが、戦隊ロボについて大抵の人よりも詳しいという自負はあった。

 そんな時、「超合金魂」の企画スタッフとしてお付き合いのあった寺野さんがバンダイ本社へ異動しスーパー戦隊シリーズの企画を担当すると聞き、私の頭に言葉にはできない直感が働く。

 それが具体的にアウトプットされたのが今年のDXロボでであった。恥ずかしい話だが、私は「全界合体DXゼンカイオー ジュラガオーンセット」の発売前にサンプルを触った時、取扱説明書なしで合体完了させることができなかった。寺野氏は30年選手の私をいきなり出し抜いてしまったのである。スーパー戦隊のDXロボは日本で最も売れているロボット玩具であり、逆を言えば一番売らなければならないロボット玩具でもある。さらに対象年齢など、色々な制限や壁がある中で生まれた『ゼンカイジャー』のDXロボシリーズには、「5カウントまでなら許される反則」的なときめきを感じた。

 そして、今回の主題である「DX METAL APPEND」である。かつて「コンプリートエディション」「戦隊職人」など、スーパー戦隊ロボのリメイクは何度か行われたが、「DX METAL APPEND」はそれらとは比にならないほど全体的に手が加えられている。要するに本気で大人向けをやろうとしているのだ。流通ルートを一般に定めたことも然りで、それまでDXロボに触れてきたことのない層へのアピールに主眼を置いていることがわかる。「DX METAL APPEND」はバンダイがこれからどのように戦隊ロボに携わっていくか、1つの指針を示すアイテムになるに違いない。

 ちなみに私は戦隊のDXロボを買い続けて30年。私は1個も駄作はないと確信している。しかし、挑戦の姿勢を常に持ち続けてほしいのも事実だ。「DX METAL APPEND」から始まる、新たな挑戦に私は期待したい。

注釈(※1)藤子・F・不二雄先生の漫画キャラを合体ロボにアレンジした「超合金 超合体SFロボット 藤子 F 不二雄キャラクターズ」や「超合金 トイ・ストーリー 超合体 ウッディロボ・シェリフスター」、「超合金 トイ・ストーリー 超合体 バズ・ザ・スペースレンジャー」などのアイテム。(「超合金 超合体キングロボ ミッキー&フレンズ」は別担当)

(※2)スーパー戦隊シリーズや仮面ライダーシリーズ、ウルトラマンシリーズに登場するインダストリアルデザインに携わるバンダイナムコグループのデザイン会社。