インタビュー

「ゲートシオンマーク3 リッタージェット・破烈の人形」原型師・Syujyu氏インタビュー

GTM造形は、MHとは別のセンスが要求される!

「ゲートシオンマーク3 リッタージェット・破烈の人形」

開発・発売元:アワートレジャー

発売:2022年2月

価格:
79,200円(スペシャル版)
69,300円(通常版)
ジャンル:レジンキャストキット

サイズ:1/100スケール

原型師:Syujyu

 アワートレジャーはレジンキャストキット「ゲートシオンマーク3 リッタージェット・破烈の人形」を2022年2月に発売する。価格は通常版が69,300円(税込)。デザインの異なる複数の頭部を同梱したスペシャル版が79,200円(税込)。本商品の受注は、12月25日まで。予約した人だけが購入できる受注販売となる。以下リンクから受注を受け付けている。

・ゲートシオンマーク3 リッタージェット・破烈の人形 スペシャル版

・ゲートシオンマーク3 リッタージェット・破烈の人形 通常版

 本商品のモチーフは永野護氏の「ファイブスター物語(以下、「F.S.S.」)」に登場するGTM(ゴティックメード)と呼ばれるロボットの1つである。細見のシルエット、大きな手足の末端部、肘と膝の大きな関節など、従来の人型のロボットデザインとはバランスが異なる、非常に印象的な姿をしている。

 これまでこのGTMはあまり立体物の商品は発売されていなかった。しかし、近年ガレージキットなどでGTMの立体化商品が出始めた。その中でファンの人気の高い「ゲートシオンマーク3 リッタージェット・破烈の人形」が出たというのは「F.S.S.」ファンとしてはとても興味深い。

 今回、本商品の原型師・Syujyu氏へのメールインタビューをすることができた。「ゲートシオンマーク3 リッタージェット・破烈の人形」で、Syujyu氏がこだわり、想いを込めたところはどこだろうか? インタビューと共に、モチーフの概要や商品の魅力的なポイントも紹介していきたい。

【ゲートシオンマーク3 リッタージェット・破烈の人形】
永野護氏の「F.S.S.」に登場するロボット・GTMの1つ「ゲートシオンマーク3 リッタージェット・破烈の人形」。アワートレジャーがレジンキャストキットとして立体化した。写真は完成見本として組み立てられ塗装されているが、キットはユーザーが組み立て、塗装する必要がある

MHからGTMへ、大変化を遂げたロボットデザインを立体物で確認できる楽しさ

 レジンキャストキット「ゲートシオンマーク3 リッタージェット・破烈の人形」の注目点の1つは“GTMの立体物”というところだ。「F.S.S.」を知らない人のためにまずここから触れていきたい。「F.S.S.」はKADOKAWA発行の「月刊ニュータイプ」1986年4月号から連載が始まったコミックである。何度か休載を挟みながら、35年以上も物語は紡がれ続けている。

 「F.S.S.」は4つの恒星で構成されている「ジョーカー太陽星団」を舞台に、かつて絶頂を極めた科学文明が衰退していく世界の中での、いくつかの歴史の断片を描く物語だ。超科学文明の絶頂期から数千年後、遺伝子操作によって生まれた超人間の遺伝子は劣性遺伝子として世界に拡散、約20万分の1の確率で生まれる“騎士”という人々は、常人を遙かに超えた身体能力を発揮することができた。

 騎士は時速180kmでの疾走、30m以上のジャンプ、手足を振るだけで衝撃波を生じさせる。常人が撃つレーザー銃すら見切ってかわすことができる。彼らは“星団法”で厳しく管理され、国家の大きな戦力となっている。彼らだけが扱うことができるのが全高18mを超える巨大人型兵器「GTM」である。GTMはその巨体で騎士の力を再現することができ、すさまじい戦闘力を誇る。国家の紛争などはGTMの戦いで行なわれる。騎士とGTMこそが国の力となるのである。

【ファイブスター物語】
騎士とファティマ、GTMの物語。現在16巻までが刊行されている

 GTMは他の兵器を全く寄せ付けない。レーザーもミサイルもかわし、常人ではその動いている姿すら目で捉えられない。最大稼動ではテレポートすら可能なのだ。この究極兵器を最大限に活用するためにはファティマという人造人間の補佐が必要となる。ファティマの多くは華奢な少女の姿をしているが、騎士に準じる力を持ち、極大化された演算能力で騎士と共にGTMに乗り込み、戦いサポートする。「F.S.S.」の物語は様々な騎士と、GTM、そしてファティマ達によって描かれていく。

 この「F.S.S.」だが、2013年に大きな変化を迎えている。2013年以前はGTMはMH(モーターヘッド)と呼ばれる全く別なデザインのロボットであり、設定などや名前も大きく変わった。本作の根幹をなす巨大人型兵器のデザインが一新されたことで、世界そのものが変わったような変更がなされたのだ。

 永野氏は物語の最初に“年表”を発表している。ジョーカー太陽星団の“星団暦”と呼ばれる数千年の歴史を中心に、超科学を誇った“AD世紀”やその他の世界をも描いた年表は「F.S.S.」の物語の根幹をなしている。コミックとして描かれるの年表上の一行にも満たない事柄なのだが、過去や未来がフラッシュバックとして挿入される。読者は年表をバックボーンとして進行する“今”の物語を楽しむ。「F.S.S.」はこの物語やキャラクター達は全く変わらず、GTMや武器体系、ファティマの姿などデザインや設定をガラリと変えたのである。

 今回取り上げる「ゲートシオンマーク3 リッタージェット・破烈の人形」も2013年以前の姿を並べることで、その変化がよくわかるだろう。2013年以前までこの騎体は全く違うデザインのMHだった。参考としてボークスのプラモデル「IMS 1/100 S.S.I.クバルカン ザ・バング」の画像を紹介したい。「クバルカン法国」の旗騎であり、星団3大MHと呼ばれる1つである。騎士の甲冑を思わせるシルエットで、非常に人気の高い騎体だ。「破烈の人形」という名前は以前からこの騎体につけられている通称である。

【IMS 1/100 S.S.I.クバルカン ザ・バング】
MHとしての「破烈の人形」をモチーフとした、ボークスのプラモデル「IMS 1/100 S.S.I.クバルカン ザ・バング」。価格は8,800円(税込)。GTMとデザインが全く異なることがわかる

 2013年以降この騎体はGTM「ゲートシオンマーク3 リッタージェット・破烈の人形」となる。クバルカン法国の旗騎であり、搭乗者やファティマなど物語的役割は全く変わらず、デザインが大きく変わった。比較をしてみるとMHは甲冑を着た人間のようなシルエットとなっていると感じる。

 一方のGTMはやはり“人型”としてかなり異様だ。手足の末端が大きく、背骨部分は折れそうなほどに細い。そして膝と肘の巨大な間接機構が目につく。この関節構造は「ツインスイング関節」と名付けられたGTMの大きな特徴で、設定上は電磁エネルギーでスライドする。この関節はねじれ方向にもスイング可能だという。

【ゲートシオンマーク3 リッタージェット・破烈の人形】
ハイヒール状の足、頭部から延びるクジャクの羽のような放熱板など共通する意匠もあるが、そのシルエット・デザインは全く別物だ

 筆者は山下埠頭の「動く実物大ガンダム」がまだ構想中だったころ、技術監修として参加していた早稲田大学理工学院教授の橋本周司氏が「もし18mのガンダムが人間と同じような動きをした場合、1.8mの人間の1,000倍の重さを持った腕を動かすことになり、さらに働く慣性モーメントは10の5乗の力が必要になる」と語っていたのが強く記憶に残っている。人間のような動きを18mのガンダムがした場合、動くだけで腕の先は音速を超えかねないという話も聞いた。

 筆者は個人的にGTMの異形の体型、大きなスライドする関節構造や、ハイヒール型の足などのデザインの根幹は、「巨大なサイズの人型兵器が、高速で動くために考えられたデザイン」ではないかと思っている。剣を振ることでソニックブームを起こし、常人には目視できない速さで動く巨大ロボットは、どのような関節構造を持ち、どのような身体バランスが求められるか? 様々な“巨大ロボット”を描いてきた永野氏がたどり着いた“新しいロボット像”がGTMなのではないだろうか。

【GTMとしてのデザイン】
GTMの関節は「ツインスイング関節」と呼ばれる半円状のパーツが重ねられた独特の形状となっている。特に肘や膝の関節は大きい。設定状はこのパーツは電磁エネルギーでなめらかにスライド、さらにねじることもできる。地上で音速を超えて動き、剣を振るGTMの動きから導き出された関節機構なのではないだろうか
上半身や、すねから下のパーツのボリュームに比べ、腰や背骨はとても細い
頭部はかなりボリュームがある

 GTMは立体化商品は少なかった。しかしボークスの「イージーアッセンブル・スーパークオリティモデル. GTM カイゼリン」を皮切りに徐々に製品が登場しはじめた。コミックやイラスト、設定画だけでなく、“立体物”で永野氏のGTMを楽しむことができる。

 ツインスイング関節とはどのようなものなのか、2本1組の背骨と脊椎からなるフレームとは? 装甲はどのように配置されているのか? そういったデザインの魅力を様々な角度から楽しみ、考察することができる。ファンが待ち望んだ商品の1つがこのアワートレジャーのレジンキャストキット「ゲートシオンマーク3 リッタージェット・破烈の人形」なのである。

ルーン騎士が駆る星団最強、扱いの難しさも随一なGTM「破烈の人形」

 インタビューに入るまでにもう少しだけ、キャラクターとしての「ゲートシオンマーク3 リッタージェット・破烈の人形」を掘り下げたい。この騎体はクバルカン法国のルーン騎士団の騎士・ミューズ・バン・レイバックが搭乗する。ファティマは静。

【マーク】
本騎体を示すマークは操り人形が踊っているようなデザインになっている

 ミューズは次期法王を見込まれるルーン騎士団最強クラスの人物であり、クバルカン法国の旗騎である破烈の人形を与えられるが、性格として生真面目すぎて融通が利かない面もあり、法王から惑星ボォスのカステポー地方で修行の旅に出されていた。

 この旅でミューズは様々な友人を得、“星の意思”ともいえる超常的な存在の1つサンダードラゴンと出会う。これらのエピソードは「F.S.S.」の単行本3~5巻のエピソード「第3話トラフィックス1」で描かれる。そしてこのエピソードのクライマックスとして破烈の人形が登場するのだ。

 さらに単行本15巻の「第6話 時の詩女Act.4スプラウト・ソング~ショウメ争奪戦~黒の招待状」で、破烈の人形は再登場を果たす。このとき破烈の人形は、この時代の最強クラスの騎士・デコース・ワイズメルが駆るGTM「ダッカス・ザ・ブラックナイト」と戦いを繰り広げるのである。

騎体を正面から見ると、背中のアームに支えられたブースターが翼のように見える
破烈の人形は可変フレームとモーフィング装甲によって、まるで戦闘機のような飛行形態に変形することもできる。飛行形態では腰の後ろの装甲板は主翼のように展開する。このほか、破烈の人形は戦闘時でも状況に合わせて装甲を変形させるという。こういった制御はファティマの静が行なっている

 破烈の人形の大きな特徴は「モーフィング装甲」で、装甲を変形させ大きく姿を変えることができ、可変ツインスイングフレームとで戦闘機のような飛行形態になることもできる(ちなみにGTMは人型のままでも飛行可能)。飛行時には空が破裂したような爆音を響かせ、これが破烈の人形の名前の由来の1つとなっている。

 主武装のディストーション・ブレード・ブロウ(D・B・B)は、有り余るエネルギーを刀身に乗せ、発生するプラズマで装甲を電磁崩壊させる。しかしチャージに0.3秒、刀身にエネルギーを乗せられる時間は1秒。それ以上は刀身が溶け、本体もオーバーフローで止まってしまう。強力だがリスクも大きい諸刃の剣だ。星団でも最強といわれるGTMであるが、発熱、過剰出力など欠点だらけであり、扱いの難しさでも星団随一である。

【D・B・B】
破烈の人形の剣は騎体の膨大なエネルギーを刀身に乗せ、発生するプラズマで敵の装甲を電磁崩壊させる。しかし扱いが難しく、本体がオーバーフローで止まりかねないまさに“諸刃の剣”だ。商品ではクリアパーツの刀身で雰囲気を再現している

 「ゲートシオンマーク3 リッタージェット・破烈の人形」は後頭部が長く伸びた頭部形状や、両腕のV字型の装甲、クジャクの羽のように伸びるチェーン状の放熱板、背中から翼のように配置された副腕が支えるブースターなどチェックするほどに楽しいデザインとなっている。いよいよ次項は原型師・Syujyu氏のこだわりポイントを聞いていきたい。