インタビュー

「ARTIST SUPPORT ITEM ハンドモデル/R」インタビュー。加々美高浩氏×白髭 創氏による理想の形と動きを追求した"手"のフィギュア

【ARTIST SUPPORT ITEM ハンドモデル/R -GRAY- / -WHITE-】

Makuakeでのお届け:2023年8月末予定

一般販売:2024年3月頃発売予定

価格:各13,200円(税込)

※Makuakeでの応援購入(予約)は10,000円から。期間は2023年2月26日まで

※一般販売の予約は2023年9月頃

 コトブキヤは12月2日、アクションフィギュア「ARTIST SUPPORT ITEM ハンドモデル/R」を発表し、応援購入サービス「Makuake」にて応援購入(予約)を開始した。同サイト内で購入すると、予価13,200円(税込)が10,000円(税込)となる他、関連書籍や開発陣のトークショーのチケットなどの追加リターンのあるプロジェクトも用意される。

 アクションフィギュア「ARTIST SUPPORT ITEM ハンドモデル/R」は、アニメーターの加々美高浩氏と、コトブキヤの原型師の白髭 創氏によるコラボレーションプロジェクトで、その内容はまさかの1/1スケール「人間の手のアクションフィギュア」である。

「ARTIST SUPPORT ITEM ハンドモデル/R」は、アニメーターの加々美高浩氏と、コトブキヤの原型師の白髭 創氏によるコラボレーションプロジェクトによる1/1スケール「人間の手のアクションフィギュア」

 加々美氏は、TVアニメ「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ」などのアニメーションを手がけている。「ARTIST SUPPORT ITEM ハンドモデル/R」は加々美氏が提案する「理想の手」を、原型師の白髭氏が立体造形として極限まで突き詰め、最も美しいフォルムと実物の手と同じ複雑な可動を実現した究極のハンドモデルが完成した。

【【ARTIST SUPPORT ITEM】ハンドモデル/R -GRAY-『手品編』|コトブキヤ】
【【ARTIST SUPPORT ITEM】ハンドモデル/R -GRAY-『ペン回し編』|コトブキヤ】

 Twitterでの発表後には瞬く間に拡散され、Makuakeでの目標金額はプロジェクト開始からわずか数分で達成するほど大きな話題となった。現在も引き続き応援購入を受付中のこのハンドモデルの企画担当者にインタビューを敢行。その開発秘話を聞いてみた。

「ARTIST SUPPORT ITEM ハンドモデル/R」企画担当、コトブキヤ企画本部 紀平亜貴子氏

加々美高浩氏の書籍をもとに、手の描くための理想となる可動ハンドモデルをコトブキヤが具現化

――まず最初に「人の手のアクションフィギュア」という、非常に斬新な企画が立ち上がった経緯からお聞かせください。

紀平氏:企画のなれそめはアニメーターの加々美さんからのご提案でした。元々弊社ではTVアニメ「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ(以下、遊戯王)」などのシリーズの造形を今回の原型担当者でもある白髭がメインに手がけていまして、それとは別に加々美さんがかつて所属されていたアニメーション会社に私の知り合いがいて、弊社が「遊戯王」の商品を発売していたことをきっかけに、加々美さんを紹介いただいたんです。

 加々美さんはそのときに「手の描き方」という書籍を出されていて、それがご自身が想像する以上に売れたそうなんです。加々美さんの本が売れた理由って、手ってやっぱり描くのが難しいというクリエーターさんの中で通ずる根本的な課題があるからなのかなと。それを少しでも手伝えるかなという想いがあり、「この本の内容をフィギュアにしたら面白いのではないか」というコンセプトと共に弊社にご提案いただき、企画を進めることとなったんです。

「加々美高浩が全力で教える『手』の描き方」。手はキャラクターの表現において表情が出る重要な要素だが苦手とする人は多い。加々美の著作はイラストレーターや漫画家を目指す人達に大いに受けた

――コトブキヤからではなく、加々美さんからの企画だったんですね。

紀平氏:そうなんです。確か2019年の9月ぐらいに連絡をいただいて、私も加々美さんから直接話を伺って面白そうだと思って早速原型師は誰が適任かを考えたときに、過去にフィギュアで、「遊戯王」の商品を手がけていて、しかも本人が“手フェチ”だという(笑)白髭が適任ではないかと考えたんです。白髭自身もデッサンなどに使う既存のハンドモデルには満足していなくて、「こんなのがあったらいいな」みたいなイメージが頭の中にあったらしく、加々美さんからのご提案を伝えたら「欲しかったのはそれ!」と即答で、そのような流れで担当することが決まりました。

Makuakeの公式画像より。加々美氏と白髭氏のこだわりが詰まった設定書。左がハンドモデルのためのラフ、右が加々美氏の書籍より抜粋されたもの

――「アーティストサポートアイテム(ARTIST SUPPORT ITEM)」という名称も、手を描くためのフィギュアというところから来ているんでしょうか。

紀平氏:はい、加々美さんの書籍のコンセプトに則った、絵を描くための実用性を高めた意味合いをその名前に込めています。単なるアクションフィギュアとして発売しても埋もれてしまって、アニメーターさんや絵描きさんに届かない可能性がありますので、弊社のモデラーさんをサポートする「M.S.G モデリングサポートグッズ」シリーズにあやかって、アーティストさんをサポートするアイテムとして「アーティストサポートアイテム」という名前を付けたんです。とはいえ、造形担当の白髭はエンタメ性の高いフィギュアを作るのが仕事ですから、実用性にとどまらない、触って楽しむ魅力も兼ね備えた商品として企画を進めました。

――加々美さんの提案とはいえ、「手のアクションフィギュア」という企画を社内で通すのは簡単ではないように思えるのですが、そこはいかがでした?

紀平氏:確かに動き出すまでの道のりは険しかったです。最初のプレゼンでは加々美さんの書籍しか見せられるものがなく、ニュアンスも今一つ伝わらなかったので、白髭に相談して3Dプリンターでプレゼン用のプロトタイプを作ってみたんです。

――その段階から、ある程度の形にはなっていたんですか。

紀平氏:形といっても、この試作品よりもだいぶ小さくて、可動箇所も完全ではなく8割ほどの完成度のものでした。とはいえ、商品の売りになるであろう指の関節はある程度まで動かせるようにして、こんなふうに動かして楽しめるハンドモデルだということをアピールしたところ、社内の反応がよくなって、企画を動かせることになったんです。特に社内のアクションフィギュアが好きな人間にはグッとくる内容だったようですね。

Makuakeの公式画像より。これら企画検討用の試作品で、右端が一番最初に作られたものだそう

――企画が動くこととなって、加々美さんとのやりとりはどのようにされたのでしょう。

紀平氏:加々美さんご自身はアニメーターが本職ですので、基本的には白髭が構築していく造形を逐一監修していただきました。造形の構想は白髭の頭の中にあって、形から関節などを少しずつ組み上げていって、それを加々美さんに見ていただいて修正していくという流れですね。最終的には3Dプリンターで出力したものが11回、テストショットを作るのに金型を5回直しました。

――そんなに!?

紀平氏:普通ではありえない回数ですね。3Dプリンターでの出力も普段は多くて4~5回ですし……。6回目ぐらいのときに、「これはめちゃめちゃいいぞ!」と思って見せたんですが、そこからさらに5回ぐらい直しましたからね(笑)。

【コトブキヤ「ARTIST SUPPORT ITEM ハンドモデル/R」可動デモンストレーション】
色々な形に動かしてもらった。「ARTIST SUPPORT ITEM ハンドモデル/R」が破綻なく人間の指の形を表現できるのがわかるだろう

手の複雑な動きを可能な限り表現するとともに、手として破綻しない動きの工夫も

――手のフィギュアを作る上でこだわられた点はどこでしょうか。

紀平氏:手って、私達が想像する以上に複雑な動きをするんです。例えば人差し指から小指までの4本の指を揃えて手のひら側に曲げるとき、指の第3関節のある付け根ではなく、手のひらの上の部分から曲がりますよね。実物の手をフィギュアで再現するのであれば、そうした可動も想定した関節を作らなくてはなりませんが、ただ動くだけではなく、加々美さんが提案する理想のシルエットも成立させないといけないので、そのバランスはかなり突き詰めましたね。

――凄くよく動く一方で、指が逆に曲がったりなどの、人間として無理な動きができないようにもしているんですね。

紀平氏:そこは人の手ですからね。不自然な形にならないように、可動範囲に意図的にロックをかけるなどの設計をしているので、適当に動かしてもあまり違和感のないポーズになるんです。私もアクションフィギュアを動かすのが凄い苦手で、どう動かしても格好いいポーズが付けられないんですが、このハンドモデルは適当に動かしているだけでもなんとなくかっこいい形になるんですよ。

指先の角度に注目。実物の手と同様にわずかに爪側に反る可動範囲を確保している

――触らせていただいてわかったんですが、アクションフィギュアのようにポーズを決めて飾るだけでなく、フィジェットトイ(ハンドスピナーなど繰り返し単調な動きをさせて遊ぶ玩具)のように、仕事の合間などの手持ちぶさたのときに常に触ってみたくなる魅力がありました(笑)。

紀平氏:それは嬉しい感想ですね。ずっと触っていたくなるのは間違いなくて、しかもどう動かしても形が決まるので飽きないんですよ。

――この形に至るまでに、設計において苦労された点はありますか?

紀平氏:白髭の話では、手首の球関節が特に苦労したそうです。手首は前後左右の傾ける動きをさせつつ開店しないように制限を掛ける必要があるので、正しく動かすための設計にちょっと煮詰まってしまって、弊社のプラモデル部隊に「こんな可動をさせたいんだけど、どう作ったらいい?」って相談したことで現在の形にたどり着くことができたそうなんです。ある意味プラモデル部隊がいたから完成することができたと言えますよね。

 あとこれは苦労というより工夫なんですが、手のひらの内側のスライド関節は見てほしいところですね。このスライド部分は最初はなかったんですが、親指の付け根をもう一段階開かせたいというときに、「スライドさせよう」と閃いたそうなんです。そういった閃きで生まれたポイントは結構たくさんあって、実物を手にしていただいたときに見ていただきたいところです。

矢印の部分が扇形に10mmほどスライドして開く。その他にも手首の球関節など、可動に対するアイデアが多数詰まっている

――細かいところを見てみると、他の造形では見たことがない関節とかありますよね。ちなみに可動箇所っていくつぐらいあるんですか?

紀平氏:全部で20カ所になります。

――多いようでそれほどでもないんですね。動きもカッチリしていて、ぐらぐらするところもない印象です。

紀平氏:はい、軽いものなら持てるぐらいの保持力は確保しています。ただ素材的に滑ってしまうこともあるので、何かを持たせるにはちょっと工夫が必要かもしれません。

――工夫をすれば、ディスプレイ用にも使えそうですね。

紀平氏:ディスプレイにしたいというご提案はSNSでも聞かれましたね。ちょうどいいサイズの手袋を被せれば関節が見えなくなるので、よりリアルに飾れると思います。

――購入された方のディスプレイや遊び方の提案をSNSで募集したら面白そうですね。

紀平氏:それはいいかもしれませんね! Makuakeで先行してご購入いただいた方に、「私はこんなふうに使っています」みたいなユニークな使い方をご提案いただくイメージですよね。一般発売に向けてちょっと検討してみます。

楽しみ方、遊び方は意外にもたくさんありそうだ

アーティストサポートのコンセプトに則った販売の後、評判次第でバリエーション展開も!?

――販売の手段としてMakuakeを選んだのはなぜなんでしょう。

紀平氏:弊社の場合、ホビー流通での販売がメインなんですが、それではこの対象層のクリエイターの方にには行き届かないかもしれないという懸念があって、いろいろと模索している中で見つけたのがMakuakeさんだったんです。

 今回の場合は資金を集めるのではなく、どちらかというと新規流通を開拓するきっかけとしてご協力いただきました。同様のサービスもいくつか検討したんですが、Makuakeさんの「世にあるいいものをちゃんと売るための“応援購入”」というコンセプトが、このプロジェクトとして一番しっくりと当てはまったのが最大の理由ですね。

――発表後の反応には驚きました。数分で目標額に到達したとか……。

紀平氏:おかげさまで、開始から4分で目標金額達成となりました。1週間前から弊社と加々美さんのTwitterなどで告知はしていて、それを皆さんに拡散していただいたおかげですね。

――発表後のユーザーの反応はいかがでしたか?

紀平氏:加々美さんが監修されているということで、「遊戯王」のファンの方が結構注目されていて、写真を見て一目で加々美さんが手がけていることわかったという話がありました。私自身もそこまでの反応があるとは思っていなくて、わかる方にはわかる美しい手で、フォルムもちゃんと追求されているということを改めて実感したんです。

――カードを持たせたいですよね(笑)。

紀平氏:一応、プロモ用の写真には、カードを持たせたものも用意しているんです(笑)。

コトブキヤ公式サイトより。カードを持たせるのはマストな遊び方かも!?

――ちなみにこれは男性と女性のどちらの手のイメージなんですか?

紀平氏:特に性別は設けていなくて、「中性的な最も美しい手」と位置付けています。男女どちらかにしてしまうと、もう一方も欲しいという声も出てしまいますから、そのどちらの需要にも応えられる中間的な位置づけに落ち着きました。

――発売後のバリエーションとしても考えられそうですね。

紀平氏:可能性としてはありますよね。絵描きさんでも自分の性別とは違うものが欲しいというご要望も多くて、あとは子供の手とか。面白いところでは、足が欲しいという方もいらっしゃいました。

――確かに足のモデルはあまり見たことがありませんね。

紀平氏:自分の足はなかなか見づらいですからね。撮影するのも難しいですし。ただ足ですとちょっと実用的過ぎて、アクションフィギュアとしてのエンタメ性が乏しいので、ユーザーも限られてしまうんですよね。

――バリエーションのお話が出ましたが、カラーをグレーとホワイトの2色に選んだ理由はあるんでしょうか。

紀平氏:アーティストサポートアイテムというコンセプトがありますので、絵を描くために使いやすい2色を選びました。グレーは影になったところも見やすく、背景が白でも黒でも引き立つカラーで、ホワイトは影とのコントラストがはっきりと出て、ディスプレイするのも向いたカラーなんですよね。

 バリエーションの候補には黒や肌色もあって、サンプルも作ったんですが、黒は影が見にくいということもあって、アーティストサポートの意義がちょっと薄れてしまうので外したんです。一方肌色は、形がリアルな分、あまりにも生々しすぎる印象になってしまったので(笑)一旦保留にしました。

――そちらも一般発売後のバリエーションとして期待したいですね(笑)。あとはクリアカラーとかコラボモデルなどもできそうな気もします。

紀平氏:クリアカラーはフィギュアとしては確かにいいかもしれませんね。あとはキャラクターや実在する人物の手の形を模したものとか……。アイデアは色々出てくると思うので、今後の検討材料としたいです。

――例えばこのハンドモデルをプラモデルで発売したりする予定はないんですか?

紀平氏:プラモデルにしたい願望は私の頭にもあって、隣のプラモデルの部署にさりげなくアピールしています(笑)。塗装とか改造とか、モデルとしての可能性がより広がりますからね。ただその一方で、プラモデルですとどうしてもユーザーが限定されてしまって、アーティストサポートというコンセプトからずれてしまいますので、それもあくまで今回の商品の発売後に検討することかもしれませんね。

――最後に、購入いただいた方や興味を持っていただいている方にメッセージをお願いします。

紀平氏:ご購入いただいた方には感謝しかなく、改めてお礼を言わせてください。本当にありがとうございました。開始時のスタートダッシュは本当に凄くて、私も本気で泣いてしてしまったぐらい嬉しかったです。お手元に届くまでもう少し時間をいただきますが、実物を手に取っていただければさらに感動していただけると思いますので、楽しみに待っていてください。

 またこの発表で興味を持っていただけた方には、自信を持っていいものだとアピールしたいですね。弊社の立川と秋葉原、大阪日本橋の直営店では実物も展示していますので、もし機会があればご覧いただいて、購入をご検討をいただければと思います。それともう一つ、Makuakeのリワードとして加々美さんと白髭のトークショーのチケットを用意していまして、これもかなり楽しい内容になると思います。今回お話したことよりもさらに深い開発秘話が出てくることは間違いなく、特別な企画もご用意する予定ですので、併せてご検討ください。

――わかりました。ありがとうございました。