インタビュー

「作品アイテムをいつでも買える環境を」、不正対策も含めた魂ネイションズの新施策

「エルガイム」、「ダンバイン」からスタート。主役機がいつでも買える時代に

 BANDAI SPIRITSコレクターズ事業部は、直営店である「TAMASHII NATIONS STORE」及び、「TAMASHII SPOT」にて、1月に「HI-METAL R エルガイム」を、2月に「ROBOT魂 <SIDE AB> ダンバイン」の再販を開始した。

 これらは通常の再販ではなく、東京・秋葉原と大阪・梅田の直営店、池袋の「サンライズワールドTOKYO」で販売、プレミアムバンダイでの直営店での販売となる。これまで品切れ状態だった「HI-METAL R エルガイム」と「ROBOT魂 ダンバイン」を定価で購入できる環境となった。この販売計画は「サンライズ スピリッツ」というプロジェクトの始動を意味することとなる。

 「サンライズ スピリッツ」は、「サンライズ作品のメイン機体のアイテムを安定して提供する」という、現在のユーザーのニーズや、メーカーの販売形式を考えた上で、どのようなビジネス、そして「ロボット文化」を盛り上げていくかを模索するチャレンジとなっている。今回、BANDAI SPIRITS コレクターズ事業部の木村氏に意義と未来を聞くことができた。

 現在、ハイクオリティなロボットフィギュアやプラモデルは“争奪戦”といっても過言ではない状況がある。人気の高いフィギュアやプラモデルは予約解禁と同時に売り切れたり、発売日には抽選販売や整理券の形をとる事が多い。しかも一度購入時期を逃すとそのアイテムの入手は極端に難しくなる。こういった問題をどう解決するのか? 「サンライズ スピリッツ」は「メインアイテムの安定供給」と共に、「欲しいユーザーに商品がキチンと届けられているのか」という疑問にも対応しようというプロジェクトなのだ。

企画者であるBANDAI SPIRITSコレクターズ事業部 木村氏

1980年代のロボットフィギュアがいつでも買える環境を!

 企画の出発点は商品開発や商品企画に留まらず、売り場での配置や、安定した販売計画といった「発売から年月が経過したアイテムの入手が難しくなっている」という現状をどのように解決できるか、という問いかけだ。セカンドマーケットでの価格や、模造品の問題等、ユーザーが気づいたときには入手手段が限られたものになってしまう。

 「私もフィギュアやプラモデルを購入するユーザーであり、現状の問題点も意識しています。ユーザーからの入手できなかったアイテムの再販を希望する声も大きい。しかし会社として再販は優先順位があってすべてのお客様の要望に応えきれない。また、再販してもどこで売っているかを明示しきれない。こういう現状に対して何が出来るかを考えていました。」と木村氏は語る。

企画者であるBANDAI SPIRITSコレクターズ事業部 木村氏

 販売店でも再販商品を店頭に並べるところで問題はある。再販商品は初回商品と同じ数にならないことも多いので、単発アイテムはどうしても店頭で目立たなくなりがちだ。こういった様々な状況に対応するには「直営店」ではないか。現在の販売形態の中でお客様がしっかり商品を手に出来る環境作り、というのが複数ある「サンライズ スピリッツ」というプロジェクトのスタート理由の一つである。

 プロジェクトを立ち上げた理由は幾つもある。その1つが「主役機の商品をいつでも変える状況にしたい」というもの。

 「マンガに例えると、長く続いてるシリーズだけど1巻が売っていない。何かの機会でシリーズに興味を持ったけど1巻が無かったからそのまま読む機会を逃してしまう。『ROBOT魂ダンバイン』シリーズは様々なオーラバトラーを商品化していますが、主役であるダンバインは売り切れてしまっている。これは“マンガの1巻がない”と同じ状況ではないかと思っています」木村氏は主役機体のアイテムの必要性をこう語る。

 マンガやゲームなどと比べるとフィギュアの再販は難しい。手、脚、顔、様々なパーツほとんどの商品はそのキャラクター独自のもので、金型などで大きなコストがかかる。彩色、組立の工程なども新商品と全く変わらない。しかも新商品の販売計画に合わせ厳密に工場のスケジュールは決まっているので、「人気が高いからすぐ再販だ」といってもすぐに再生産に取り掛かることはできないのだ。更に昨今では予約段階だけで判断できるような状況でもない。

 現在、「HI-METAL R エルガイム」が東京・秋葉原の「TAMASHII NATIONS STORE TOKYO」と大阪・梅田の「TAMASHII SPOT OSAKA」、そして東京・池袋の「サンライズワールドTOKYO」で販売されており、プレミアムバンダイを通じての通信販売も可能。2月22日には「ROBOT魂 <SIDE AB> ダンバイン」が加わる。3月にはここからさらにラインナップが拡充される。まずは1980年代のサンライズ・ロボットアニメの主役機を展開していく予定だ。

「HI-METAL R エルガイム」、「ROBOT魂 <SIDE AB> ダンバイン」の再販が「サンライズ スピリッツ」のスタートとなる
第2弾も企画が進行している

 魂ネイションズは、香港・台湾・ニューヨーク等世界にもオフィシャルショップがあり、これらの店舗でも「サンライズ スピリッツ」というカテゴリーで同一の商品を販売していく。理想は世界でこれらの商品を入手できる環境を整えていきたいとのこと。

 昨今、秋葉原に行くとこれまで以上に外国人旅行客が増えている。日本の"アニメ文化"に興味があり、キャラクターグッズを購入するのも彼等の来日目的の1つだ。しかし例えば「マジンガーZのフィギュア」や「ドラゴンボールのフィギュア」といった海外でも人気の高い作品の基礎となるが、「主役の商品」が安定供給されているとは言いがたい。「日本ならば自分が好きなアニメの商品に出会えるはず」と秋葉原に来てみても、お目当てのキャラクター商品は中古ショップでプレミアム価格で取引される場合が多い。

 「TAMASHII NATIONS STORE TOKYO」では、「聖闘士星矢」の主役の5人のフィギュアや「マジンガーZ」の超合金など店舗オリジナルの商品を拡充することで"定番"を求めるユーザーのニーズに対応しようとしている。現在では入手が難しい「METAL BUILD ストライクガンダム」や「METAL BUILD エヴァンゲリオン初号機」も店舗用バージョンとして販売、現在でも店頭在庫がある。これまでは難しかった、「このお店ならば、望んだフィギュアがいつでも置いてある」という状況を実現しつつある。

 「サンライズ スピリッツ」のポイントの1つが"再販"であること。⼯その上で「サンライズの80年代のロボット」という規格を⽴ち上げることで、「HI-METAL R」や「ROBOT魂」など異なるフォーマットでもひとくくりで売り場をコーナー化できるという売り場側の都合も考えることができる。オフィシャルショップのTAMASHII NATIONS STOREがやりたいことに対して、⽊村⽒は⾃⾝の企画商品を中⼼に、応えるプロジェクトを作り上げた、というのが現状となる。

 「『サンライズ スピリッツ』に関しては"場"の要望も大きかったです。お店に"定番"となる商品が欲しい。ロボットアニメ作品が好きな⼈にとってその作品を代表するキーアイテムがいつ⾏っても購入できる、そういう環境を作りたいんだ。そういう要望が私以外の所からも出ており、そこに応えた。うまくはまった企画と言えます」と木村氏は答えた。

 ホビーアイテムを扱う業者にとって「売り場の確保」は重要な問題だ。「ガンダム」は大きなカテゴリーとしてお店の売り場面積を常に占有できるラインナップと、商品数、そしてそれを必要とするユーザーの数を確保している。しかしその他の「HI-METAL R」や「ROBOT魂」など、単発や数体の立体化で一端シリーズが止まる商品に関しては、広い売り場を確保しづらい。この時、「サンライズ スピリッツ」という大きな"枠"があれば、異なる番組を扱った、フォーマットの異なる商品でも売り場面積をきちんと準備ができる。定番アイテムをどう置くか、という疑問にもしっかり答える企画なのだ。

 「店舗で置くだけでなく、通信販売もしっかりやってお客様に商品を届けよう」というのは、「サンライズ スピリッツ」の企画の最初から決めていたことだ。このため店舗に置く場合も、通信販売向けの内箱を傷つけない段ボールでのパッケージとなっている。プレミアムバンダイでおなじみの、段ボール地むき出しのパッケージだが、店頭で置くことを考えてスタイリッシュなデザインを加えられている。

「サンライズ スピリッツ」は、秋葉原と梅田の直営店、そして池袋の「サンライズワールド」で購入できる。プレミアムバンダイを通して通信販売も可能
東アジアとニューヨークの直営店でも販売を行っていく

 「インターネット通販が⼀般化していく中、ビジネスは難しい面が出てきました。回転率の悪い商品はすぐ値段が下げられるだけでなく、回転率の高い、人気の高い商品はメーカー希望小売価格に値段が上乗せされて取引されてしまう。この現状の中、価格戦争に巻き込まれない⽅向で商品を提供できないか、どんな商品で、どういった販売形態ならばお客様に届けられるか、その"入口"を作りたい、それは大事なことなんじゃないか。そういう想いも込めています」と木村氏は語った。

 そして木村氏の視野にはコアなフィギュアファンだけではなく、これまでフィギュアを⼿に取っていない、⼀般層にも向けられる。「TAMASHII NATIONS STOREやサンライズワールドに、ちょっとした興味で入って下さった方に、フィギュア文化や、過去の膨⼤なアニメ作品など、改めてこの世界の奥深さ、商品展開の多彩さに驚かれると思うんです。その時に作品を象徴する主役ロボットのフィギュアを手にして欲しい。そう思っています」。

 これらの活動は次なるBANDAI SPIRITSの商品化計画に繋がっていく。次章では"未来"を聞いていきたい。

「HI-METAL R エルガイム Mk-II」の実現など、未来への展望

 「サンライズ スピリッツ」の始動は、これまでのシリーズのさらなる拡充を可能とする。今回のインタビューの大きな目玉の1つが「HI-METAL R エルガイム Mk-II」の試作品である。「HI-METAL R エルガイム Mk-II」の商品化の正式な発表はまだ先ではあるが、現在商品化を目指し企画を詰めているとのこと。

 「『エルガイム』と『エルガイム Mk-II』を並べて飾りたい。誰もが思う事だし、劇中でも連動しています。以前購入された方だけでなく、『エルガイム Mk-II』が出るなら揃えられる環境が出来た事が企画を後押ししています」と木村氏は語った

【HI-METAL R エルガイム Mk-II】
今回、「HI-METAL R エルガイム Mk-II」の試作品を見ることができた
数年前の試作品から仕様を見直し、作り直されている
正式な商品発表が楽しみだ

 「サンライズ スピリッツ」が実現した現在、「HI-METAL R エルガイム Mk-II」の商品化の可能性は多いに⾼まった。今後「サンライズ スピリッツ」の反響が⼤きければ、今回のような新しい商品化への弾みがつくだろう。「HI-METAL R スコープドッグ」も今後展開があるかもしれない。大いに期待したいところだ。

 さらに「サンライズ スピリッツ」では昨年の11月に開催されたTAMASHII NATON 2023では「HI-METAL R ウォーカーギャリア」、「HI-METAL R ダグラム」の再販予告を行っている。こちらもメーカーとしての正式発表はまだではあるが、実現すべく計画は進んでいる。イベントではさらなる商品展開もアピールしており、10年以上前に販売された商品も視野に入れて、主役機のカテゴリーで商品開発を行っていくとのこと。

 「ユーザーの皆様の要望に応えられるようにラインナップの充実が今の目標です。ペースはそこまで早くないですが、応援よろしくお願いいたします」。最後に木村氏はファンへ向けてこう語りかけた。

【HI-METAL R エルガイム】
1月に「サンライズ スピリッツ」で再販された「HI-METAL R エルガイム」
店舗でもダンボールのパッケージで販売
「サンライズ スピリッツ」が始動したことで、木村氏は様々な計画を練っているという

 昨今では、配信により過去の名作アニメを見ることができる。XなどのSNSでは過去の作品を語る人も多いし、従来とはエンターテイメント文化そのものが変化している。この流れは国内にとどまらず、世界中の人達の中で日本のアニメ文化や、エンターテイメント全体が新しい盛り上がりを見せている。

 その時に、「名作アニメのフィギュアが欲しい」となるのは必然だ。しかし生産が複雑でコストがかかるフィギュアはメーカー自身も売り上げが正確に予想できないところがあり、簡単にユーザーの要望に応えられない。多様化、複雑化していくユーザーのニーズにどう応えるか? 「サンライズ スピリッツ」は企画、販路、不正購入対策、新規ユーザー、海外販売など様々なレイヤーのニーズに応えるべくスタートした企画である。メーカーの新しい挑戦を応援していきたい。