インタビュー
妖精フィギュア「AZURA」デザイナーインタビュー
素材感や演出の試作を重ねて生まれる"癒やしの雰囲気"
2024年8月17日 00:00
POP MART JAPANは7月19日~8月4日までの期間限定で、渋谷 PARCO 5FにPOP MARTのキャラクター「AZURA(アズラ)」にフォーカスした「AZURA」POP UP SHOPをオープンした。このショップでは「AZURA」の様々なキャラクターグッズを購入できた。ちなみに、ショップは現時点で終了しているが、今回取り上げる商品はPOP MART JAPANのオンラインショップで購入できる。
POP MARTは中国のホビーメーカー。「AZURA」は3頭身くらいの可愛らしい女の子のキャラクター。ちょっと寂しげな、悲しそうな表情を浮かべており、片目には涙を浮かべている。これは「持った人の悲しい気持ちをAZURAが吸い取って癒やしてくれる」というデザイナーの想いが込められているという。会場では非常に人気を集めており、初日から売り上げも好調だった。
今回、このショップオープンに合わせ、「AZURA」を手がけたデザイナーのTWO CLOUDS(トゥー・クラウズ)氏が来日した。本稿では彼女自身や、「AZURA」に込めた想いを聞いた。POP MART JAPANはこのショップを皮切りに本格的に日本市場にコミットしていくという。今回はTWO CLOUDS氏自身に、手がけた「AZURA」のキャラクター設定や、フィギュアデザインへのこだわりを通して、POP MARTブランド全体に通じる理念も紹介していきたい。
「AZURA」は持ち主の悲しみを吸い取り、癒やしを与えてくれる妖精
――まずはTWO CLOUDSさんご自身の自己紹介をお願いします。
TWO CLOUDS氏:私はPOP MARTに所属しているデザイナーで、キャラクターのデザインを担当しています。この仕事をしてもう10年になります。「AZURA」のような可愛らしいキャラクターが多いですが、かわいらしさだけを追求するのではなく、風流的な雰囲気を盛り込んだり、ファンタジー要素を採り入れるなど様々な試みもしています。
――今回、「AZURA」の期間限定ショップをオープンしましたが、「AZURA」はどんなキャラクターですか?
TWO CLOUDS氏:「AZURA」は優しくてかわいらしい"妖精ちゃん"というのが基本ラインです。様々な姿のAZURAがいますが、共通しているのは左目に一滴の涙を浮かべていること。この涙はAZURAを見る様々な人のなかにある"悲しみ"に触れ、それを消し去る、という意味を持たせています。目に涙を浮かべたAZURAを見たり、触れることで、その人の中の悲しみが、AZURAを通して消えていく、というイメージです。
――なかなか面白いストーリーですが、TWO CLOUDSさんはキャラクターをデザインする際、こういった意味をいつも考えてデザインするのですか?
TWO CLOUDS氏:AZURAは「悲しみを吸い取るキャラクターにしたい」というメインテーマを設定してから生み出しました。私はそういったテーマを設定してキャラクターをデザインしています。「優しさで満たされてほしい」、「心が癒やされるキャラクターになってほしい」、こういった意味合いを設定し、そのテーマをきちんと感じさせるキャラクターにするのが目標です。
――「AZURA」は日本でも人気を得て、POP UP SHOPがオープンするようになりました。お店の感想を教えてください。
TWO CLOUDS氏:日本でAZURAが受け入れられ、POP UP SHOPまでオープンできたことは本当に感謝しています。お店を訪れたり商品を選んでいた皆さんの姿や、SNS等で寄せられた感想は、私の今後のクリエイティブデザインの大きな資産になってくれると思います。日本での展開は今回のPOP UP SHOPに限らず今後できればとも思っています。
ちなみに渋谷という街は私にとって2回目で、若い人の多い活力のある街という印象です。そんな街に出展できたことは光栄に思っています。
――では、POP UP SHOPで販売されていた商品でオススメはありますか?
TWO CLOUDS氏:「AZURA A Dream About Stars」です。これはPOP UP SHOPで先行販売された商品で、全高100mmほどのミニフィギュアです。このフィギュアのデザインを考えていた時、星空に関する夢からインスピレーションを得たことを覚えています。そのため、このフィギュアには独特な神秘感とおとぎ話のような雰囲気が込められています。
ブラインドボックス形式での販売で、12種類のデザインと1つのシークレットがあります。価格は1つ1,650円です。……それ以外も、売っているものは全部オススメです。今回のPOP UP SHOPでは私がデザインしたすべての作品が展示されています。どれも心を込めてデザインしたものですので、皆さんが気に入ってくださるものが見つかることを願っています。
――「AZURA A Dream About Stars」はシークレットも入れると13種のキャラクターがいるわけですが、その中でも特にお気に入りがあれば。
TWO CLOUDS氏:もちろん全部好きなんですが、「Starry Beach」というキャラクターです。全体的に涼しげなイメージでまとめることができたところが気に入っています。透明感のある、爽やかな雰囲気が出せました。
周囲を舞っているのは海鳥です。「Starry Beach」ではさらに"風"の表現にもこだわっています。AZURAのなびく髪や、後ろのリボン、スカートの広がりなど、色々なところで風の演出を入れています。この表現がうまくできたのは工場の技術です。私がイメージした質感、雰囲気を見事に素材と造型で表現してくれました。
――製作工程としては、TWO CLOUDSさんがイラストを作成し、それを元に工場で立体化するという形ですか?
TWO CLOUDS氏:私は図面としてキャラクターのデザインをし、それを元に3DCGモデルの部署でCGによるフィギュア原型モデルを作成します。これを元に工場でフィギュアが製作されます。
3DCGモデルの時点で、色味や、使用する素材なども提案するのですが、たとえば3Dプリンターで試作品を打ち出すと、「ここはクリアパーツより、塗装した方が良いぞ」といったように実際にフィギュアにすることで印象が変わったり、3DCGモデルとはイメージが異なる場合があります。
光造型での試作品で調整、そこからさらに量産用の試作モデルでも調整を重ねます。1つのモデルに関して、工場と私たちのやりとりは数回に及びます。細かい修正を何回も行うことで私たちのこだわりを活かしたフィギュアをお届けできるのです。
このやりとりで予想していたものとは全く違った商品になる場合もありますし、経験が次回作へのアイディアになります。3DCGからフィギュアにするというのは色々なことが学べます。
――今後の商品として、実現させたいアイディアなど、構想があれば教えてください。
TWO CLOUDS氏:これまでAZURAは主にブラインドボックス形式での商品を展開していますが、別ジャンルにも挑戦したいです。日用品のキャラクターグッズ展開なども面白いんじゃないかと思います。
AZURAをもっと日常を共に過ごすキャラクターにしたいと思っています。ノートにAZURAのキャラクターが描かれていれば、よりユーザーさんの生活に寄り添える。AZURAに囲まれた日常、色々な商品を通じてAZURAで癒やされて欲しい。そういう方向性も実現できたらな、と思います。
"売り方"というところではPOP UP SHOPに留まらず、街でのイベント、大きな売り場会場を設定しての販売イベントなども挑戦したいです。
――たとえばAZURAのクッションやカーペット、テーブルなど家具一式がAZURAに! みたいなイメージでしょうか。
TWO CLOUDS氏:それはかなり理想に近いですね(笑)。ただ、もちろんフィギュアにはこれからもこだわりますよ。フィギュアは"AZURAの本来の姿"だと思って私はデザインしています。AZURAは目には見えないけど、人の涙を集めて悲しみを癒やす妖精として私たちの世界に実在しています。私はその姿を実体化したい、AZURAはこんな姿をしているんだ、という想いを込めて、キャラクターを生み出しています。
――TWO CLOUDSさんはAZURAのような可愛らしいキャラクターを得意となさっていますが、例えば全く作風が違うようなキャラクターに挑戦したい、といった想いはありますか?
TWO CLOUDS氏:そうですね、今AZURAとはちょっと違った雰囲気の商品も構想中です。まだまだ具体的なお話をする段階ではないので楽しみにしていただきたいです。かわいらしさ、というのは色んな可能性があると思うんです。"AZURAの核心的な魅力"としての表現はこのフィギュアですが、今後、またベクトルを変えたかわいらしさをどう表現するか、色々な方向を検討しています。
――日本の好きなクリエイターや、影響を受けた作品などはありますか?
TWO CLOUDS氏:さくらももこさんの「ちびまる子ちゃん」が好きです。もう1つは日本のIPではないですが、日本で製作されたミッフィーのグッズが大好きです。質が良くかわいらしくて集めています。もちろん小さい頃から日本のアニメーションは見てきたので好きな作品はたくさんあります。
――最後にユーザーへのメッセージを。
TWO CLOUDS氏:日本のユーザーさんたちに感謝しています。AZURAを購入し、家に持ち帰ったとき、その心に喜びが生まれれば嬉しいな、と思います。AZURAの穏やかな雰囲気にぜひ触れてください。生活にはストレスを感じることも多いと思いますが、AZURAで癒やしを得てくれればなと思っています。本当にAZURAを好きになってくれてありがとうと思います。
「商品となったときの質感にこだわりがある」というTWO CLOUDS氏の言葉は面白かった。現在販売されている美少女フィギュアはイラストレーターの絵が別に存在し、その作品をいかにフィギュア化するか、という工夫に力が込められるのだが、「AZURA」に関してはTWO CLOUDS氏はデザインとしてのコンセプトを提示した上で、3DCG班や工場と話し合い、素材や造型の演出を詰めるという。
もちろん美少女フィギュアに限らず、多くのフィギュアはフィギュア化ならではの質感や造型があるのだが、「AZURA」の場合は質感など、商品となってデザインが完結するのだ。ここまでデザイナーが商品に深く関われるというのは面白い。今後にも注目していきたい。
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