レビュー

「MODEROID AV-98イングラム&ブルドッグセット」レビュー

グッスマが提案する、作りやすくてよく動く、パトレイバーキットの新しい形

「MODEROID AV-98イングラム&ブルドッグセット」

開発・発売元:グッドスマイルカンパニー

発売日:1月

価格:5,300円(税込)

サイズ:イングラム約135mm、ブルドッグ約100mm(全高)

 グッドスマイルカンパニーのモデルシリーズ「MODEROID(モデロイド)」にて、「機動警察パトレイバー」に登場するレイバーがラインナップされ、その第1弾となる、「MODEROID AV-98イングラム」、「MODEROID AV-98イングラム&ブルドッグセット」、「MODEROID ブルドッグセット」の3種類が1月21日に出荷、発売となった。

 「機動警察パトレイバー」の発表から30年以上が経過し、これまでも主役機・イングラムだけでなく様々な登場メカが、プラモデルやガレージキットなどで多数発売されてきたが、このMODEROID版はその中で最も新しいプロダクトとなる。

 パトレイバーファンとプラモデルファン両者の期待が高まるこの新製品「MODEROID AV-98イングラム&ブルドッグセット」をレビューしていきたい。令和に蘇るパトレイバー「AV-98イングラム」と、作業用レイバー「ブルドッグ」の2体セットの組み立て手順やその完成度を紹介していきたい。

「機動警察パトレイバー」TVアニメ版1話より登場した2機のレイバーをセットに

 「機動警察パトレイバー」は、5人のクリエイターを中心とする「ヘッドギア」によるコミックやアニメーション、小説などで展開されたメディアミックスプロジェクトである。アニメ(OVA)及びコミック発表当初の1988年は昭和最後の年であり、人が乗って動く作業用の巨大ロボットが生活圏に浸透した10年後の近未来を描いた物語は画期的で、多くのファンの心を鷲掴みにした。

 そんな作中で描かれた未来が、現在では“レトロフューチャー”という見方もされてしまうのは筆者として驚きを隠せないが、2018年のプロジェクト30周年を機に、イベントの開催やREBOOT版の公開、公式ファンサイトの設立、映画のリバイバル上映なども行なわれ、その魅力は現代まで伝えられている。

 “レイバー、それは産業用に開発されたロボットの総称である。建設、土木の分野に広く普及したが、レイバーによる犯罪も急増。警視庁は特科車両二課パトロールレイバー中隊を新設してこれに対抗した。通称、パトレイバーの誕生である”……ファンにはおなじみのアニメのオープニングナレーションでも紹介されている通り、20世紀末に一般社会にも浸透した作業用ロボット「レイバー」をテーマとしたのが同作であり、その存在は作品の大きな魅力となっている。

【パッケージ】
「MODEROID AV-98イングラム&ブルドッグセット」パッケージ。イラストは天神英貴氏の手によるもの
MODEROIDシリーズの引き出し式パッケージを採用。2機分のパーツが入っているのでスケールの割に大きめだ
説明書はイングラムとブルドッグで、それぞれ別のものが用意されている

 この「MODEROID AV-98イングラム&ブルドッグセット」は、そんな作中のレイバーを代表する2機種をプラモデル化し、セットにして発売したものだ。主役機であるパトレイバー「AV-98 イングラム」は単体でも発売され、汎用レイバー「ブルドッグ」は同じ機体を2機セットにした「ブルドッグセット」がグッスマオンラインにて受注販売された。ともにアニメ版1話から登場している作品を代表する機体であり、実は主人公の泉野明はTVアニメ版で両方の機体に搭乗している。

昭和最後の名機を、令和の造形・設計技術によって1/60スケールでプラモデル化

 まずは主役となる「AV-98 イングラム」から見ていきたい。AV-98イングラムは、多発するレイバー犯罪に対応するために、篠原重工の八王子工場にて開発された2足歩行型レイバーである。密閉型コクピットの採用によりヒロイックな人間型のシルエットを実現し、パトカーを思わせる白と黒のカラーリングやパトランプ、旭日章を備え、見る者に与える心理的影響をも考慮して設計された、純警察用の機体だ。作中では特車二課第二小隊に3機が配備され、このキットではその1号機と2号機のどちらかを選んで組み立てられる仕様となっている。

【イングラムのパーツ】
A、Bパーツ。イングラムの頭部、胸部、脚部アーマーなど
C、D(×2)パーツ。手、各部アーマーなど
E、F(×2)パーツ。肩アーマー、関節部など
Gパーツ。関節部、ライアットガンなど
H、Iパーツ。胸部、脚部、リボルバーカノン、関節部など(写真ではランナーの上下が逆になってしまっている)
J(×2)パーツ。未塗装と塗装済みの両方を用意。自分で塗りたい人は前者を使う
水転写デカール。TVアニメ版、劇場版、REBOOT版の3種をデカールで作り分けができる

 スケールは1/60に統一。アニメ版放映当時に発売されたバンダイのプラモデルと同スケールというのが懐かしいが、別会社の製品といえど30年の模型設計技術の差は歴然で、プロポーションや可動はもちろん、パーツの色分け分割、作りやすさなども考慮されている。

 ランナーはイングラムだけで13枚あるが、それぞれは小さめでパーツ数はそれほど多くはない。MODEROIDシリーズの特徴である塗装済みパーツは、頭部カメラのバイザーとパトランプ、旭日章のみであった。先日行なわれたオンライン展示会「THE合体展」で関係者にコメントを求めたところ、このパトレイバーシリーズは、どちらかというと多少心得のあるホビーユーザー向けの仕様で、組み立てや塗装などもある程度考慮し、塗装済みパーツの数は最低限に抑えているとのこと。クリアパーツに限っては、塗装していないスペアが付属するのもそこを意識したものかもしれない。

【上半身の組み立て1】
まずは頭部から。カメラはクリアパーツで、内部メカはモールドで表現している
1号機頭部。頭頂部、左右のアンテナなど5パーツで構成
こちらは組み立て中の2号機頭部。組み立て順が違うだけで構造はほとんど同じ
2機分の頭部が完成。左から2号機、1号機のものだ
肩アーマーは2つのパーツを内蔵して組み立て。アーマー側の受け軸が細いのでゆっくりまっすぐ押し込む
完成した肩アーマー。内部構造は1号機、2号機とも同じだ
右腕の組み立て。可動式のヒジ関節を二の腕に組み込む
内側のパーツでフタをして、先端の黒いパーツを差し込む
左腕は受けパーツにシールドをはめ込むことで、固定用ボルトがシールドの穴から露出する
肩の内部パーツ。円形のジョイントをパーツでサンドイッチしている
上腕部のアーマーを挟み込んで両腕が完成

 ホビーユーザー向けとはいっても、組み立て自体に特別難しいところはないように感じられた。頭部は1号機、2号機ともに5パーツの設計ながら、合わせ目も目立たず、ディテールもカンペキだ。1号機頭部左右の特徴的な意匠であるボルトディティールもバッチリ再現されている。肩は可動を重視した設計で、アーマーの独立可動と引き出し式関節を備えている。

 パトレイバーの立体化時、ちょっとした注目ポイントとなるのが、設定では布製の関節カバーの仕様だ。前述の1/60キットや、ある程度大きさのあるアクションフィギュアなどでは、設定と同様に関節の上に布や樹脂などでカバーをかける仕様が採用されていたが、このキットではオーソドックスにプラパーツで再現している。成形色は紫がかったグレーになっているが、好みで塗装してみてもいいだろう。

【上半身の組み立て2】
胸部の組み立て。首のパーツに、シリンダーのパーツを組み付ける
胸部内部のジョイント。引き出し式のジョイントは前後、上下にスイングする
旭日章は塗装済みパーツ。パトレイバーのトレードマークだ
内部ジョイントに首と旭日章をはめ込んだ胸部アーマーを取り付ける
胸部アーマーの上側と下側、アンテナなどを取り付けて胸部の完成

 キットは接着剤を使わなくても組み立てられるが、関節など一部の可動部に接着を推奨する部分があり、説明書にその旨が表記されている。完成後に可動させることを前提とするなら、推奨部分は全て接着することを勧める。

 なお関節にポリキャップは使用しておらず、全てパーツのジョイントによってまかなっているため、はめ込むときに少し固いところがあり、細めの軸は耐久性が心配でシリコングリスなどを薄く塗ってみようとも思ったのだが、完成後に緩くなってしまう恐れもあったので、結局使わずに完成させている。当然そういったものを使わない前提で完成させられる設計なので、このあたりは組み立て時に自己責任で判断していただければと思う。

【下半身の組み立て1】
腰部の内部を組み立て。左右の足を接続する軸は上下にスライドする機構がある
ナンバープレートやウインカーのある腰回りのパーツを取り付ける
左足内部のフレーム。付け根の上下スイング、ロール、ヒザの前後スイング、足首軸の左右スイングが可能
太ももアーマーにある穴の開いた突起は、内側からはめ込む別パーツとなっている
フレームにアーマーのパーツを取り付けていく
左足の完成。足首の前方をカバーするアーマーは上下に可動する
右足はリボルバーカノンの収納機構があり、フレームの構造が若干異なる。開閉するアーマーの付け根は接着を推奨
右足の完成。これはリボルバーカノン収納部を開いているところ
足首の組み立て。かかととつま先は中心部を軸に可動する
足首の完成。パーツは全体的にエッジが立っていてシャープな印象を受ける
武器はライアットガンのみ組み立て式。ストックが可動する
武器はライアットガン、リボルバーカノン、スタンスティックが付属
交換用手首は4種類用意されている

 完成後のプロポーションは、腕や太ももなど部分的にやや細身の印象もあったが、直立させて眺めてみると、全体のバランスはかなりいいと個人的には思った。イングラムの体格は作品や個人の好みなどで印象が結構変わるものだが、多くのファンに好まれるプロポーションにまとまっているのではないだろうか。

 またパーツの合わせ目がほとんどわからないのもプラモデルとしての評価を高めている。色分けも問題ないが、作例のようにシールドが色分けされていないところだけは素組みでも目立つので、塗装するか、もしくは黒色のテープなどを貼ってみるのがよさそうだ。

【イングラムの完成】
イングラム1号機。塗装やデカール貼りをしない状態でここまでの完成度を誇る
マッシブ過ぎず、スリム過ぎず、多くのファンの好みに合うイングラムといえる。パトランプは塗装済みパーツだ
肩の穴ディティールは開口されており、内部がわずかに見え実物っぽい雰囲気がある。シールドは黒い部分を塗装しないと少し物足りなく感じる
アクションフィギュアのように前方に大きく引き出せる肩関節。ポージングの幅が広がる
リボルバーカノンを横向きに両手で構えるポーズも自在だ
スタンスティックを持つポーズ。武器ごとに持ち手が用意されている
リボルバーカノンの収納機構と差し替え式の伸縮アームにより、取り出すシーンも再現できる
ヒザ裏のパーツはヒザを深く曲げるために、2種が付属している。左が通常、右が短いものだ
ヒザ立ちも可能。ここまで曲げるときはヒザ裏のパーツは取り外したほうが無難

 完成させてみると、可動もかなり優秀で、特に引き出し式の肩関節のおかげで、武器を持ったポーズが決めやすく、リボルバーカノンを両手で構える、スタンスティックを持って見得を切るなど、イングラムらしいシーンを再現可能だ。前述の接着推奨ポイントを接着しておけば合成も上がり、アクションフィギュアのように動かすこともできるだろう。なお1号機と2号機は頭部と肩アーマーを交換するだけで換装できるようになっている。ただしナンバープレートはデカールなので、好きな方を選択して貼り付けていきたい。

【イングラム2号機】
1号機と2号機は比較的簡単に換装が可能。頭部と肩を外して付け替えるだけだ。パトランプは外しにくいので、予備パーツを塗装して組んでしまってもいい
イングラム2号機。頭部と肩の違いで、印象は結構変わる
2号機にはやはりライアットガンが似合う。ストックは可動する
ポーズを取るだけで太田の声が聞こえてくるようだ。「俺に銃を撃たせろ~!」